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遭遇

ある程度ゆっくり進行していこうと思っています。

オリジナルは初なのでどうかよしなに

 昔、とても昔のことだ。

 突然、父か失踪し、母もその後、後を追うように病気で死んだ。

 幼かった自分に残されたのは祖父の代からある莫大な財産だった。

 親類もいなかった自分に手を差し伸べたのは祖父に世話になったという1人の老人だった。

 彼が自分と初対面したとき言った言葉を今でも忘れたことは無い。


「ついてこい、いいもん見せてやる」


 彼は探偵だった。

 いや、探偵というと他の探偵業の方々に失礼か

 彼はオカルト探偵だった。

 行く先々でオカルトに纏わる事件を解決したり、巻き込まれたり、自ら首を突っ込んだり、起こしたり、そんな破天荒な人物だった。

 たまに帰ってきては自分に話してくれる怪談や冒険譚は何よりの楽しみで

 そして話の終わりには頭を乱暴にワシャワシャと撫でながらこう言うのだ。


「お前も、強く生きろよ」


 寂しくは無かった、両親がいなくなっても、彼がいてくれたから

 そしていつも彼の事務所で自分は何かの本を読んでじっと彼の帰りを待つのだ。

 カタン、カタンと掛け時計が発する音を聞きながら、静かに待つのだ。

 思えばあの時代が自分が最も充実していた時だったのかもしれない。

 もう昔の、そう昔の話だ。


「ちょっと出かけてくる」


 そう言って出かけようとする彼を自分はいつものように送り出す時、いつもとは違ったことがあった。


「これはお前の爺さんからの預かり物でな、お前が大人になったら渡してくれと頼まれた。お前は頭がいい、多くの意味でだ。もう大丈夫だろう」


 そうして渡されたのは5インチ程の銀の鍵、後にこれの正体を突き止めるまで5年も掛かってしまった。

 そして、彼はニッと笑うといつものように頭をワシャワシャと乱暴に撫で、出て行った。

 彼が戻ってくることは無かった。

 そして、部屋にあった掛け時計もいつの間にか消えていた。

 自分が18歳のときの話である。

 今思えば、彼も自分と同じ、「触れてはならない神秘」に属する人間だったのだ。

 そしてきっと、自分がこれからどうなるか知っていたような節もあった。

 彼は不思議な人だったから

 

「いってらっしゃい」


 そう送り出した自分は何故笑っていたのかはまだわからない。

 彼はまだどこかで生きているのだろうか

 どこかで暢気に旅をしているのかもしれない。

 そう、今の自分のように



 彼の名はタイタス・クロウという。



‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡



「ん……ぅ……ぁ……」


 懐かしい夢を見た。

 覚醒しない頭でフラフラと目を覚ます。

 うっすらと開いた目に光が差込み、目を覆う。


「そんなところに……いる……します……聞いて…」


 どこからか声がする。

 しかし、聞いたことの無い声だ。

 そして、今までの出来事が一気に脳裏を駆け巡る。


「っっっ!!」


「うわぁっ!?」


 カバリと思い切り上半身を起き上げた。

 両手、両足を確認する。


「よし……生きてる」


 まずはそこから、気づいたら死んでいましたでは話にならない。

 空を眺めれば太陽と、他に見える3つの月。

 それはこの地が地球とは違う別世界だと確信を持てる証拠であった。


「私は天才だ!!」


 思わずそう叫んでしまう。

 前人未到の偉業を自分は成し遂げた。

 つい自身を自画自賛してしまっても問題はあるまい。


「あの……、すみませんが私の話を聞いてもらっても……?」


 そしてアルフレッドは自分が目を覚ますまで自分の隣にいた人物に声を再度掛けられるまで終ぞ気づくことは無かった。




「いや、お恥ずかしい」


「いえ、寝ぼけて妙なことを叫ぶことは良くあることです」


 彼の言葉は優しさに満ち溢れていた。

 アルフレッドに声を掛けた茶髪の青年である。

 荷馬車に揺られながらアルフレッドは恐縮しきりに、同時に興奮するという器用なことをしていた。

 見るもの全てが新しいというのはこういうものか、そう思う。

 空に浮かぶ地球の衛星のようなもの、そして荷馬車を引く動物もまたちょっと違っていた。


「マーウは珍しいですか?」


「いやぁ、ははは、遠くから来ているものでね、初めて見たよ」


「そうでしょう。西の大陸に多く住む動物ですから、東では二足の巨鳥に引かせてるとか、そちらの出身で?」


 興味の色を隠せず爛々と右目を輝かせるアルフレッドを見て、青年は笑顔でそう尋ねた。


「もっと遠くから、とても遠くから」


「そうですか」


 アルフレッドの言葉から何かを感じたのかそれ以上青年は何も聞かなかった。

 アルフレッドはなおもキョロキョロと辺りを見回している。

 1つはマーウと呼ばれた動物、見た目は馬だが普通の馬より一回り大きく、何より足が6本あった。

 正確には前足が2対で付いているといったところか、それでもこれに驚かずにはいられない。

 隣に佇む青年もよくよく見れば耳がほんの少し尖っている。


「はは……」


 これは、たまらないな。

 きっと夜は眠れまい。

 そして頭に浮かぶ疑問や考察の数々、例えば何故自分は青年とまともに話せているのか、などだ。

 材料が足りなさ過ぎて推察すらできない。

 その疑問は置いておくとしてもこの事実は僥倖、初の第一村人といえる者との遭遇、自分にとって情報の塊である彼から聞き出さなければ損である。

 そして、アルフレッドが青年に話しかけようとした時だった。


「そういえば、あんなところに寝ていると危ないですよ」


 切り出したのは青年だった。


「近くには森があります。例え森から多少離れたところでも魔物の縄張り内ですよ」


「ほぅ?」


 今、少し、いやかなり、アルフレッドの琴線に触れるものがあった。


「ここには、その……魔物とやらが?」


「ぇ……えぇ」


「そこのところを詳しく」


 ずずいと乗り出し、青年を押し倒さんばかりの勢いで迫るアルフレッドを青年は引き攣った笑みで答える。


「獣型の魔物です。私達一般人では遭遇すればまず死にます。明るいところを好みませんがだからといって絶対に遭遇しないわけではないので」


「なるほど、なるほど」


 うんうんと頷きながらアルフレッドは知識の片隅に入れておく。


「いや、助かった」


 つまり、飢えた獣の住処の少し前に餌を置いておいたということか

 どんな生き物かは知りたいが、一般人ではまず死ぬという以上、自分にとっても危険なことには変わりが無い。

 だがいつか必ず見に行くと心に誓うのだった。

 そして改めてアルフレッドは青年に礼を言った。

 その時だった。


「ヒヒィン!!?」


 荷馬車を引いたいたマーウが暴れたのだ。


「っ!」


「わっ!?」


 激しい揺れに咄嗟に荷馬車に捕まり、振り落とされないようにする。

 青年がマーウを治め、周りを見るとサッと血の気が引くように青くなった。


「ゥゥゥウウウウ!」


 そこには足の無い犬がいた。

 狼を一回り大きくしたような足の無い巨体、それが青年の言う魔物の姿だった。

 それが2体。

 地面を這うように、だが犬よりも早く、それはこちらに迫っていた。

 

「魔物……ね」



―――――――早々にピンチじゃないか



「あぁ、願ってもない話だ」



―――――――彼を囮にすれば逃げられるかもね?



「冗談」


 アルフレッドは立ち上がり、横目で青年を見た。

 護身用であろうナイフを両手に持ち、震えていた。


「は……早く逃げてください、ぼ、僕なら大丈夫です。いざとなればマーウに乗って逃げます。は、早く!」


 青年の言葉を聞き、ポカンとした顔になってからアルフレッドはニッと口を吊り上げて笑った。

 好青年の鏡のような奴だ。

 彼にはちょっとした恩がある。そして何より大事な情報源だ。


「青年」


 青年の背に声を掛ける。

 そして青年の肩を掴み、自分の後ろに無理やり押し出した。


「ぇっ」


「何、ある程度の荒事は慣れている。ここは年長者を立ててみてはくれないかね?」


 そう言って上着を脱ぎ、左腕に巻きつける。

 同時に腰に指したナイフを抜き、構えた。

 もう既に目の前には犬の化け物が2体、すぐそこに迫っている


「講義の時間だ」


 そう言うとアルフレッドは前に駆けた。

 まずは一匹、速攻で終わらせる。


「ガァァァッ!」


 這っていた犬は突然飛び上がり、大きな大口を開けてまさに頭から齧り付かんと襲い掛かる。

 常人ならばその姿を見ただけで体が強張り、為すがままに餌になっていることだろう。

 だがここでアルフレッドは行動に移れる。

 それは彼が考古学者であると同時に数多の冒険を繰り広げた冒険家であるからである。


「ふっ!」


 犬の大口にコートを巻いた左腕を突き入れる。


「ガフッ!?」


 どうあがいても噛まれるなら更に押し込んでしまえばいい。

 口に隙間なく異物を押し込まれれば顎の力などそう大したものではない。


「俺の一張羅だ。よく味わえ…よっ!」


 そして、間髪入れずにナイフを犬の脳天に叩き込む。

 それは豆腐に包丁を刺すようにスッと入り込んだ。


「ッ……! ッ……!」


 犬の魔物はビクンと痙攣をすると動かなくなった。

 まずは1匹、あと1匹だ。

 仲間が倒されたのにも関わらず、もう1匹も一心不乱にこちらに噛み付こうと迫っていた。

 グイと左腕を引いてもなかなか取れそうにない。

 咄嗟にアルフレッドは左足で蹴りを放つ。


「ちっ」


 受け止めるように犬の魔物は足に齧り付く。

 本来なら簡単に足を噛み砕かれているだろう。

 だがそうはならない。

 ギリギリと金属音が靴から聞こえた。


「鉄板張り巡らせた高級な安全靴だ。噛み砕けるなら噛み砕いてみろ」


 そう言いながらナイフを抜き放ち、再度脳天にナイフを突き立てようとして


 バキン。


 折れた。


「ぅぉっ!?」


 これにはアルフレッドも目を見開いた。

 年季の入ったものだったが早々折れるものではなかったはず、だが折れた。

 それより何よりこの状況が拙い。

 左腕が塞がり、左足が今噛み砕かれんといやな音を立てている。

 そうして対抗手段がないときた。


「オイオイオイオイオイ!?」


 ちょっと拙いなと次の手を考えた時。


「ガァっ!?」


 犬の魔物の噛み付く力が少し抜けた。

 そこには魔物のわき腹にナイフを刺す青年の姿があった。


「……ハッ」


 それにアルフレッドは笑うと体制を買え右腕を魔物の首に回し、ちょうど頭を脇に抱え込むようにロックした。

 そしてそのまま


「ラァッ!」


 地面に思い切り真後ろにダイブした。

 アルフレッド自身は魔物を背に覆いかぶさるように首を立てて

 バキバキと音が聞こえる。骨が砕ける音だ。

 そうしてようやく外れた左腕で脇腹に刺さるナイフを抜き、喉元を掻っ捌いた。


「……」


 沈黙。

 少々危なかったがこれで終わりだ。


「助かったよ、青年」


 せっかく見栄を張ったのに、これは少し格好悪いなとアルフレッドは思った。

 今思えば少し腕が震えていたか、だがこういう体験も悪くはない。


「ぁ……はい、えと、こちらこそ、助かりました」


 半ば放心中だった青年は曖昧に答えるとアルフレッドに介抱される形で荷馬車に戻り、岐路に着くのだった。

 それから青年が平常心を取り戻すと拝み倒す勢いで感謝されたのが余談だったのかもしれない。


「でも格好よかったですよ」


 そういって笑う青年。

 そして、少し恥ずかしそうにアルフレッドは頭を掻いて誤魔化すのだった。


「でもアルフレッドさんが僕より年上なんて、同じか少し年下かと思っていましたよ」


「……は?」


 今日で一番の驚愕をアルフレッドはした。

 その言葉にアルフレッドは咄嗟に顔に手を触れる。


「……は?」


 皺がない。

 手を見れば綺麗な色をしている。

 それはいかにも若返ったように

 もし鏡を見れば素っ頓狂な顔をした若返った自分が見えることだろう。

 青年は不思議そうにこちらを見つめている。


「……はは」


 口から漏れたのは笑い声だった。

 これは―――の恩情か、いや―――に心などという物は持ち合わせてはいまい。

 ならばこれは自分の望みだったか、それとも


「お前の仕業か」


 それに答える者は誰もいなかった。



‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡



 それからは青年、アンリの家に厄介になることになった。

 彼は母と二人暮らしで、亡くなった父の残したマーウを使って都市への荷運びや農業などで生計を立てていたのだそうだ。


「息子が……どうもありがとうございます」


 人付き合いがあまり無く、人から感謝されたことがほとんど無いアルフレッドはアンリの母に感謝され困っていた。

 見渡せばそこには木でできた家が立ち並ぶ村だ。

 貧しそうには見えず、まだある程度明るい中で他の村人は活気がある。

 なるほど、ここら一帯はなかなかに豊かなのかと判断し、同時にここを治める国についても詳しく知りたくなった。

 家に案内され、席に促されると黙って席に着く。

 対面にはアンリが座っていた。


「これですが……」


 そう言ってアンリは布に巻かれた何かを机の上に出す。

 それはアルフレッドで犬の魔物相手に使い、圧し折れたナイフだった。


「……?」


 それがどうしたのかと疑問に思いつつ、アルフレッドは黙ってアンリに先に促した。


「上等なマジックアイテムとお見受けします。命を助けてしまった手前、弁償するのが筋でしょう。ですが僕らはお世辞にも裕福ではありません。何か別の代償であれば……」


 それを黙ってアルフレッドは聞く。

 その中でアルフレッドの中では早速脳を回転させていた。

 あれが高価?何かの冗談だろう。ナイフの表面に小五芒星が描かれているものの実際あれはただの安物のナイフ……のはずだ。

 確かに近代西洋儀式魔術に乗っ取り、黄金の夜明け系儀式魔術の道具の1つとして聖別し、四大元素武器の中の1つである風の短剣としていた。

 だが果たしてそれが本当に効果を発揮していたかと言われればそれを行った本人であるアルフレッドにも首を傾げざる得ない。

 "窮極の門"を開ける儀式のためにできうる限りのことはしたい。その為に用意した自分で言うのもあれだが眉唾物の一品である。

 それを高価なものだと勘違いしている彼らに吹っかける気もあまりない。

 そして、決める。


「では、ちょっと話を聞かせてもらえるかな?」


 アルフレッドは満面の笑みでそう言った。

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