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死神と一緒  作者: 雲雀 あお
死神見習いと出会い
5/12


 お待たせしました。




 花井雪乃はないゆきのの目的。

 それを知るために追い掛けたはずが、さらに謎が深まるばかりだった。

 彼女から離れて、病院のロビーに戻った3人は、頭を突き合わせた。


「自分の体の所に来るってことは、状況が理解できていないわけではないんだよな?」


 ふとリクが、誰にともなく訊いた。それにカイが反応する。


「そうだろうな。でもそうすると、ますます彼女の目的が分からないな。元の体に戻ろうとしているようには見えないし」

「確かにそうだけど・・・、なんか面倒になってきたな」


 真剣に話していたはずが、リクがそんなことを言い始めた。

 その言葉に、直巳なおみは顔をしかめ、カイは首を傾げた。


「面倒になったって?」

「考えるのが、だ。どんな理由があろうと、元の体に戻すのは変わらないし、だったらさっさと戻した方が良いだろ?ということで、行くぞ」


 と言ってきびすを返すリクを、直巳が呼び止める。


「行くって、どこにだよ?」

「そんなの決まってるだろ?お前の体の所だよ」


 それ以上詳しいことは言わずに、歩き出す。残されたカイと直巳は顔を見合わせ、慌てて後を追った。



 雪乃は、病院の屋上に居た。

 落下防止のフェンスしに、街を見下ろしている。そんな雪乃にリクが近づく。そして、少し距離を開けて立ち止まった。

 カイと直巳は、リクより一歩下がった場所に立った。

 屋上には、雪乃の他に人は居ない。話をするには、ちょうど良い状態だった。


「おい」

「・・・・・」


 リクの声は聞こえているようだが、雪乃は振り返らなかった。ただ体を強張こわばらせて、立ち尽くすだけである。

 更に2度、3度と声を掛けるが、一向に反応を示さない。そんな態度に、リクが目に見えてイライラし始めた。


「おい、聞いてんのかよ!」

「・・リク、相手は女の子なんだから」

「・・・ちっ、分かってるって」


 カイに言われて、舌打ちしつつもなんとか怒りをしずめる。


「おい、花井雪乃。お前に話があるんだ」


 と、雪乃が振り返った。とても驚いた顔をしている。

 見た目は『直巳』なのだから、本名で呼ばれたことに驚いたのだ。そして、自分に呼びかけてきた者たちを見て、更に驚いた。

 雪乃のには、リクたちが半透明に見えた。明らかに実体のない彼らに、戸惑とまどいを隠せないようで、視線をせわしなく動かした。そして、半透明な直巳を見つけて、大きく目を見開いた。


「お前、『それ』が自分の体じゃないって知ってるだろ」

「・・・・」

「『それ』はこいつの体だ。返してやってほしい」

「・・・・」


 リクの言葉に何も返さなかったが、その顔は困った様な表情が浮かんでいる。

 それを見て、カイが口を開いた。


「もしかして、戻り方が分からないのかな?」


 雪乃は、一瞬顔をゆがめて、そして頷いた。


(?何だ?今一瞬・・・)


 直巳は、雪乃の表情の変化に引っかかりを覚えた。が、カイは気にせず話を続けた。リクも特に口を挟まない。


「じゃあ、戻れるように俺たちが手を貸すから、その体を彼に返してくれないかな?」


 カイの穏やかな問いに、雪乃はゆっくりと頷いた。その顔は元の体に戻れると言うのに、少しも晴れやかではなかった。むしろ沈んだ顔だったが、直巳がそれを追求する前に、リクとカイが動き出した。

 タイミングを失った直巳は、黙って彼らを見ていることしかできなかった。


 カイが、雪乃の手を取る。びくりと体を震わせた雪乃に微笑ほほえみかけて、目を閉じるように言う。


「さあ、早く体に帰らないとね。ほら、思い出して。君の体、君の帰る場所・・」


 ゆっくりと、何度も、カイは雪乃の意識を集中させるように声を掛ける。

 それに合わせて、雪乃の緊張もけていく。落ち着いた様子を見せたところで、リクが雪乃の背を軽く押した。

 するりと、直巳の体から何かが出てきた。

 それはすぐに集まり、少女の形を作った。


 雪乃である。霊体の雪乃は、ふらふらと歩いて屋上の扉へと進んでいく。目を見張っている直巳の横を通り過ぎ、出ていく。


「お、おい、良いのか?」

「大丈夫。自分の体に戻ろうとしてるだけだから」

「それより、お前も早く自分の体に戻れよ」


 言われて、直巳は力を失って座り込んでいる体を見る。少し戸惑ったが、意を決して自分の体に重なる直巳。


(・・・・あ、何だか、夢からめるときみたいだ)


 ぼんやりする頭で、そんなことを思った。次いで、腕を動かしてみる。それは、霊体の時には感じなかった重みがあった。

 直巳は、次々に体を動かして自分の体を堪能たんのうする。

 その様子をリクとカイは黙って見ていた。


「どうだ?元に戻れた感想は?」

「あ、ああ・・・。なんか、嬉しいっていうか、当たり前のことなのに、感動するっていうか・・」


 感じたことをどう伝えれば良いのかと、言葉を探しつつ顔を上げる。そこには、半透明の2人が居た。

 直巳は目をこすり、もう一度確認する。しかし、半透明な人間は消えていない。


「・・・本当に、俺ってお前たちが見えるんだな」

「知らなかったのかよ、自分のことなのに」

「知らなかった。てか、今まで見えてたことなんて・・・」


 「ない」と言おうとして、言葉が止まる。何かを思い出している直巳に、リクとカイが疑問の視線を投げる。しかし、直巳はすぐに首を振った。


「いや、なんでもない。・・・それより、花井雪乃は?」

「多分戻ったと思うけど、確認しに行こうか」


 カイの言葉に頷いて、歩き出す。久しぶりの体だからなのか、直巳の動きはぎこちない。そんな直巳を置いて、リクとカイは少し先を歩いていく。

 2人とも顔には笑みが浮かんでおり、問題が解決したことを喜んでいた。


「これで、何とか帳尻ちょうじりがあったんじゃないか?」

「そうかもね。まあ、原因を作ったのは俺たちなんだけどね」

不可抗力ふかこうりょくだろ。とにかく、これでようやく試験終了だぜ」


 笑顔の2人は、花井雪乃の病室へ入った。そして、その笑顔が怪訝けげんなものに変わる。

 遅れて追いついた直巳は、入口で立ち止まる2人に首を傾げた。


「どうしたんだよ?」

「・・・俺たちは呪われてんのか?いや、誰かの陰謀いんぼうか」

「落ち着け、リク。そんなことより、早く彼女を探さないと・・」


 後ろの直巳に気付いていないのか、2人は取り乱していた。

 様子のおかしい2人に悪い予感を感じた直巳は、2人を避けて病室に入った。


 個室のベッドには、いくつものくだが取り付けられた、雪乃の体が横たわっていた。見た目には何もおかしなものはない。

 包帯の巻かれた様子は、痛ましい光景だが、運が悪ければ直巳もそうなっていたのだ。2人があせるような光景ではないだろう。

 直巳が、どうしたのかと、もう一度訊こうと振り返った。しかし、そこに死神見習いたちはいなかった。

 慌てて病室から出ると、廊下を飛んでいく2人の姿を見つけた。追い掛けようにも、速すぎる。霊体ならともかく、体を取り戻した直巳ではとても追いつけないスピードである。


(一体、何なんだよ・・・?)


 置いて行かれた直巳は、呆然ぼうぜんと彼らがった方を見た。

 しばらくそうしていたが、帰ってくる気配がなく、今度は途方に暮れてしまった。いつまでも病室の前に居るわけにもいかず、かと言って何も分からぬまま帰ることもできない。そう思って直巳は、雪乃の病室で待つことにした。



 ベッドの脇に椅子を立て、座る。

 やることもない直巳は、眠る雪乃を見るともなしに見た。

 頭に巻かれた包帯や、鼻に通されたチューブ。布団に隠れた体にも包帯やギプスが付けれているのだろう。不自然にふくらんだ場所が何か所もある。


 黙っていると、彼女につながれた機械の作動音しか聞こえない。直巳は居心地の悪い思いをしながら、じっと待っていた。2人が帰ってくるのを。




*********


 それは、数分前。雪乃がまだ直巳の体で屋上に居た頃。


 花井雪乃の病室に、一人の少女が来ていた。その少女は、私立朱野あけの学園の制服を着ている。

 少女は、雪乃の病室に入り、彼女の顔を見つめる。その顔には、深い悔恨かいこんの表情が浮かんでいた。

 やがて少女は、サイドテーブルに置かれた花瓶かびんを持って部屋を出て行った。




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