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死神と一緒  作者: 雲雀 あお
死神見習いと出会い
4/12




 本日の授業が終わったことを示すチャイムが、鳴り響く。それと同時に、学校中から生徒たちのざわめきが聞こえ始める。やがて、校舎から生徒たちが出てきた。

 ある者は校庭のはしに建てられた部室棟へと向かい、ある者は校門へと帰路きろにつく。


 『直巳なおみ』は後者だった。帰宅する生徒にまじって、歩いていく。その後をリクと直巳は付いていく。

 相変わらず、顔をうつむけたまま静かに進んでいく。まるで、幽霊ゆうれいのようである。


「・・・あ~、つまんねぇ」


 変化のない様子に、リクがぼやいた。その隣では、直巳が真剣な顔をしているにも関わらず、である。欠伸あくびまでしている彼に、直巳は胡乱うろんな視線を向けた。


「おい、真剣にやれよ。俺の命がかかってんだぞ」

「それは分かってる。でも、このままじゃ何も解決しないじゃねぇか」


 リクの言い分通りではあったが、素直にうなずけない直巳は無言で視線を戻した。

 『直巳』は校門を出て行くところだった。

 誰とも話さず、誰とも目を合わさない生活。今日一日観察していて、直巳が感じたことだった。


(さみしく、ないのかな・・?)


 自分の日常を思い返す。家では家族と話し、学校では辰弥たつやを始めとする友人たちと馬鹿な話で盛り上がる。そんな生活ばかりだったので、今の自分の姿がおかしく思えて仕方ない。

 切ない感情が、胸にき上がってくる。そんな直巳の脇を誰かが通り過ぎた。その姿を見た瞬間、直巳の顔からうれいが消えた。


織谷おりや君」


 『直巳』を呼び止めたのは、ゆるくウェーブした亜麻あま色の髪をした少女だった。女生徒の制服がよく似合っている。彼女は、直巳の隣のクラスに所属している、胡桃くるみななという生徒である。

 奈々緒の大きな茶色の瞳が、『直巳』を気遣きづかわしげに見ている。


「事故にったんだって?怪我けがはない?大丈夫?」

「・・・っ!だ、大丈夫・・!」


 顔をのぞきこんでくる奈々緒から逃げるように、顔をそむける。おびえているようなその姿は、辰弥を相手にしていた時に似ていた。どうやら『直巳』は、他人と話すことに恐怖を感じているようだ。


「織谷君?」


 様子のおかしい『直巳』を案じて、奈々緒が手を伸ばす。

 それを少し離れた場所から、リクと直巳が見ている。


「・・っ、いいから、放っといて・・・!!」


 伸ばされた手を振り払って、『直巳』は逃げ出した。呆気あっけにとられた3人は、振り向きもせず駆けて行く『直巳』をただ見送っていた。

 奈々緒は、しばらくその場に立ち尽くしていた。そして、何も言わずに歩き出した。その顔には、困惑こんわくの表情が浮かんでいる。

 一方、リクと直巳は、まだ唖然あぜんとしたままだった。『直巳』の目的も、何故他人を避けるのかも、全く分からないのだ。


「一体、何なんだよ・・・?」

「さあな。・・・それより、あいつを追うぞ。今はそれしかできないしな」


 『直巳』の後を辿たどるように、リクが駆けだす。つられて直巳も前へ出る。しかし、直巳の視線は奈々緒をとらえたままだ。


(声、掛けられたらな・・・)


 そう思ったが、当然叶うはずもない。落ち込む奈々緒を追い越して、リクを追う。

 直巳は、何度か後ろを気にしていたが、やがて前を向いて進むことに専念せんねんし始めた。リクは、直巳のことなど考えず、ただ『直巳』を追って走って行く。

 と、そのリクの後ろに黒いものが落ちてきた。


「リク、何でこんなところを走っているんだ?」

「カイか。あいつの体を追ってるんだよ」


 カイは、かなりの速さで走っているリクになんなく追いついた。そして、前方へ目を向ける。リクの前を『直巳』が走っている。と言っても、運動部に所属しているわけでもない直巳の体は、すでに疲労をうったえているようだ。小走り、いや、ほぼ歩いているような速度で進んでいる。

 呼吸もあらかったが、それでも足を前へ出している。

 すぐに2人は追いついた。進むことに必死な『直巳』に気付かれる前に、近くの路地へ入る。


「ところで、織谷直巳は?」

「あ?追ってきてねぇのか?」


 リクが振り返ってみるが、未だ直巳は追いついてきていなかった。カイが呆れたように溜息を(ためいき)吐く。しかし、何か言う前に、手にした紙の束をリクに押し付けた。


「何だよ、これ」

「彼の体に入ってしまった女の子の資料。織谷君が来るまでに目を通しておいて。それと、今度からは彼を放って行かないように。間違って狩られたら、取り返しがつかないことになるよ」

「分かってる」

「・・・本当かな」


 カイの小言を適当に流して、持たされた紙に目を通す。『直巳』の方は、ようやく足を止めて、休んでいるところだった。

 と、不意に『直巳』が振り向いた。さっと隠れた2人には気付かずに、顔を戻した。そして、顔を俯け、背中を丸めて歩き出した。今度は振り返る気もないようだ。


「どうやら、真っ直ぐ織谷君の家に帰るみたいだね」

「おい、これって・・・」


 充分距離を開け、『直巳』の足取りを追う。冷静なカイと違い、リクは手元の紙に目を落としたまま顔をしかめていた。


「どういうことだよ?こんなこと有り得るのか?」

「ちゃんと調べてきた結果だよ。それに、前例がないわけでもない。・・・状況から考えると、まれかもしれないけど」

「あっ!居た!」


 そこで直巳が追いついてきた。体がない直巳は、足こそ走っているように動かしているが、そのじつちゅうを浮いていた。前へ進む動作に合わせて、浮いた体が進んでいる。そうして、音もなく2人に並ぶ。先を行く自分の体を確認して、苦い表情を浮かべた。


「俺って、ちゃんと戻れるんだよな?」

「そのために俺らも頑張がんばってんだろ」

「頑張っている姿を見てないから言ってるんだ」


 そう言って、じろりとリクをにらんだ。しかし、リクはまだ紙から目を上げていなかった。真剣に読む姿に、何かを感じた直巳はカイに疑問の視線を投げかけた。

 直巳の言いたいことが分かっているのか、カイは少し困った顔を見せた。


「実は、君の体に入ってしまったのことが分かったんだ」

「本当か?」


 喜ぶ直巳とは違い、カイは苦笑いを浮かべた。それを見た直巳も、何か困ったことが起こっていることを察した。無意識に姿勢を正す。


「まず君の体に入ってる娘の名前だけど。彼女は、花井雪乃はないゆきのというらしい」

「・・・花井雪乃?」


(どっかで聞いたことあるような・・・)


 何処どこで聞いたか思い出そうとするが、出てくるのは関係ないことばかり。仕方なく、思い出すのをあきらめて、話の続きを聞こうと意識を戻す。

 

「彼女は、君と同じ私立朱野あけの学園の生徒だ。そして、君と同じ日、同じ時間に事故にっている」

「え・・?」

「違うことと言えば、彼女の場合、軽傷じゃ済まなかったことぐらいだ。彼女の体は、今、病院にある」

「ま、まさか・・・、し・・・」

「生きてるよ。重体だけどね。とは言っても骨折とかだけで、療養すれば治る。・・・たましいが無事に戻ったら、だけど」


 淡々と、特に感情をまじえず事実だけを告げるカイ。対する直巳は、おどろきが先行して、いまいち現実感がつかめていなかった。意味もなく、リクの持った紙を見つめる。恐らくその紙には、「花井雪乃」の現状が書かれているのだろう。

 カイは、紙に書かれたことを覚えているのか、見もせずに説明している。


「魂は・・・、まだつながりが切れたわけじゃないから、いつでも戻れる。戻れるはず、何だけど・・」

「戻ってない?」

「そう。やっぱり何か目的があって、君の体に入っているみたいなんだ。・・・それで、そっちはどうだった?何か分かった?」

「何にも。分かったことと言えば、やたら暗いことと、他人に対して異常に怯えてるぐらいだ」


 それまで黙っていたリクが、そう言った。リクが言ったように、『直巳』、もとい花井雪乃は、その目的の片鱗へんりんさえ見せていなかった。消極的な言動をのぞけば、普通の学園生活を送っているだけだ。


「他人に対して怯えてるのは、ほら、ここ。これが原因だと思うけど」

「そうだよなぁ。でも、そうすると、本当に取っ掛かりがないことになるんだよな」


 書かれたものを指しながら、2人は今後の対策を練ろうとしていた。直巳が、入って行けない空気に辟易へきえきした頃、織谷家から人が出てきた。

 『直巳』である。

 制服を着替え、直巳にとっては見慣れた私服姿で、こちらに向かって歩いて来る。

 大急ぎで隠れた3人の前を、ゆっくりと通り過ぎていく。


「何処へ行く気だろう?」

「そんなの、追ってみれば分かる!」


 暗い雰囲気ふんいきを振りまく背中を追う。

 駅前に出た『直巳』は、ちょうどやって来たバスに乗った。すぐにバスは出ていく。遅れてバス停に着いた3人は、お互い顔を見合わせた。


「どうしよう。これじゃ、追えない」


 直巳は、折角せっかくのチャンスを逃したとあせる。しかし、リクとカイはいたって冷静だった。『直巳』を乗せたバスを追って走り出す。


「おい!?」

「何してんだ!!追うぞ!」

「ええっ!!?」


 驚く直巳に説明もなく、リクとカイは加速していく。置いて行かれないように直巳も走るが、すぐに立ち止まってしまった。追いつけるはずがない。そう思うのが、当然だった。しかし、直巳が付いてきていないことに気付いたリクが、戻ってきた。


「もたもたすんな!行くぞ!」

「で、でも、相手はバスだよ?無理だよ」

「何言ってんだ!あいつの目的を知るチャンスだぞ!みすみすのがす気かよ!!」

「いや、だって・・・」

「・・~っああ、メンドくせえ!!」


 ごうやしたリクは、いつまでも動かない直巳の腕をつかむ。そして、強引に走り出した。直巳を引きずっているのに、その速さはどんどん加速していく。

 やがて、直巳の体が宙に浮き、リクの走る速度は自動車以上となった。そのことに目を丸くする直巳は、いつの間にかカイが隣を走っていることに気付き、さらに驚いた。


「ちょっ、これって・・!?」

「君も慣れればできるようになるよ。俺たちは、肉体なんてないんだから、これぐらい簡単にできる」


 当たり前の口調で言われたが、直巳には信じられなかった。

 そうして走ること十数分。バスは、とある病院に着いた。そこで、『直巳』も降りた。脇目わきめもふらずに中へと入っていく。

 その後を追って3人の入っていく。


 病院のロビーは、順番待ちの人や見舞みまいに来た人、医療関係者などが居る。ぶつかっても問題はないのだが、直巳はそれらの人々を避けながら自分の体を探す。

 『直巳』はすぐに見つかった。外来の文字が見える受付に立っていた。何かを話して、ロビーの椅子に座る。そんな『直巳』に見つからない位置から様子をうかがう。


「何しに来たんだ、あいつ」

「うーん・・・、多分、診察だと思う。軽傷とは言っても、事故に遭ったんだし。時間が経ってから、どっか痛むようになるかもしれないから」

「へぇ。肉体持ってると大変だな」


 リクは、どうでもよさそうに返事して、欠伸した。早くもきたらしい。手近の観葉植物をいじっている。カイは『直巳』から目を逸らさない。


(こういうのって、性格出るんだな)


 そんな2人を横目で見てから、直巳も自分の顔をじっと見つめる。今日一日、一貫いっかんして暗かったその顔は、場所もあってか、余計に暗く見えた。

 やがて名を呼ばれて『直巳』は診察室に消えた。中に隠れるスペースがあるか分からないので、3人は外から様子を窺うことにした。

 やはり、事故後の体調などを確認しているだけのようだ。問診や触診などをした後、解放された。再びロビーのかげに隠れた3人は、すぐに帰るのだと思っていた。しかし、『直巳』は会計を終えたその足で、奥へと歩いていった。


 その行動の意味も分からず、3人はただ後をつけた。

 『直巳』は、迷わず進んでいく。階段を上り、廊下を進んで、並ぶ病室の一つに入って行った。その病室は、個室だった。

 そして、その病室のネームプレートには「花井雪乃」と書かれていた。

 3人は顔を合わせた。自分の体に会いに来た彼女のことが、分からなかったのだ。


「ますます分かんなくなったぞ・・・」


 リクのつぶやきは、他の2人の思いと同じだった。





 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。



 活動報告にも書きますが、この『死神と一緒』は作者的に書きにくく、週一ペースでの投稿が難しいことを悟りました。


 そこで、切りの良いところまである程度書き溜めてから、まとめて投稿する、というスタイルに変えたいと思います。



 こちらの勝手で変更すること、大変申し訳なく思ってます。


 毎週読んでくださっている方、待って頂けると助かります。


 投稿日はまだ未定ですが、今月末か来月中には投稿するつもりです。決まり次第活動報告にて、お知らせします。


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