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死神と一緒  作者: 雲雀 あお
死神見習いと再試験
11/12

大変お待たせしました。短くてすみません。



 リクとカイが捜し物を始めて早3日が過ぎた。しかし相変わらず、手掛かり一つ見つかっていない。そのことが、リクを苛立たせていた。

 学校にも行かず捜し続けていたのだが、その成果はまだ見られない。それに加え、捜し始めたあの夜のような変質した魂の相手もしているのだ。

 リク程でもないが、カイも焦りを感じていた。捜し物の影響力を考えたら、猶予の無さを強く感じてしまう。そこから焦りばかりが先んじてしまっているのだ。



 変質した魂。

 それは、ある意味指針の一つではあった。しかし決定的な証拠とはなり得ない。居場所を特定するには至らないのだ。

 また、捜している「それ」の仕業ばかりとは限らない。そう2人は考えていた。似たようなことが、人と暮らす中で・・・、直巳と過ごす日々の中で、起こっていたからだ。


 理由の予測は可能だった。そしてその予測が正しければ、リクとカイが直巳のそばに居ることの本当の意味も自ずと導き出せる。

 直巳の能力。上司の言葉が頭に甦る。

 未だ推論ではあるが、リクとカイは、直巳についてある仮説を立てていた。しかし、それは立証されることなく中途半端に放置されている。確たる証拠がないのだ。



 捜し物も見つからない。直巳の能力も分からない。それらが予想以上に、2人の余裕を奪っていた。だから彼らは気付かなかった。

 彼らの頭を悩ましているそれらが、接触したことに。




**********




 直巳は珍しく、1人帰路に着いていた。いつもは親友の辰弥や帰る方向が同じ雪乃と帰っている。が、生憎その日は部活動もなく、彼らはそれぞれ用事があるため先に帰ってしまったのだ。

 常に一緒に居なけらばいけないわけでもなく、直巳自身は特に何も感じていなかった。一人きりだと、見えるようになった「あれ」や「それ」が近寄ってくることもあったが、明るいうちはそれも少ない。

 そんなわけで、直巳は何の危機感もなく歩いていた。


 危険はないとはいえ、決してぼんやりとしていたわけではない。しかし彼は、学校を休んで仕事に奔走するリクとカイのことを考えていた。

 時折空を見上げて、その姿を捜したりしていたのだ。


「っ!?」


 何度目かの余所見で反応が遅れた。いや遅れたと言うより、完全に遅かった。

 横合いから出てきた誰かとぶつかってしまったのだ。お互い勢いはなく、軽く接触しただけだったのだが、直巳にぶつかったそれは、弾き飛ばされ道に転がった。


 慌てて視線を戻す直巳。

 道に倒れたのは、小柄な少女だった。白い着物を着ている。着物とは珍しいが、その丈は短く、膝小僧が見えている。最近流行りの着物か、と直巳の思考が一瞬逸れる。

 が、その間も少女は倒れた姿勢のままだ。その様子に直巳は焦り、声を掛けた。


「ご、ごめん!大丈夫?」


 手を差し出す直巳を、少女は呆然と見つめ返す。しかし反応らしい反応がない。そのことに、直巳はうろたえた。頭でも打ったのかと目線を合わせるが、少女は茫洋とした目をするだけだった。


「おい?」


 触れて良いものかどうか、迷うように直巳の手が彷徨う。と、ふっと息を吐く音がした。少女の瞳が直巳を捉える。

 何故か胸がざわめいて、居心地の悪さを覚える。まだ彷徨っていた直巳の手を、少女はゆっくりと掴んだ。ようやく助け起こすことに成功した直巳だったが、反応の薄い少女が気になって仕方なかった。

 自分の胸より低い少女の顔を改めて覗き込む。すると、今度は真っ直ぐな視線と目が合った。少し驚いた直巳だが、すぐに「怪我はないか?」と訊いた。

 こくんと頷いたのを見て、ようやく本当に安心した。


「悪かったな。でもお前も、前見て気を付けて歩けよ」


 そう言って、その場を後にする。ちょっと変わった少女だったな、と思いながら家を目指す。

 しばらくぼんやりしながら歩いていた直巳だったが、ふと自分の後をついてくる足音に気が付いた。急ぐ気のなかった直巳は、道の端により、わざと歩調を落としてやり過ごそうとした。

 足音の速さから、多分追い抜くだろうと考えたのだ。しかし、予想に反して足音の主は現れない。


 耳を澄ましてみる。確かに、自分の後ろを誰か歩いている。だがその音は、先程とは違いゆっくりとしたものになっていた。

 まるで直巳の後を付けているようである。直巳は自分のその考えに笑ってしまった。


(一般人の俺を、誰が付けるって言うんだ)


 振り返る。誰か、知っている人かもしれないと思ったのだ。其処に居たのは、確かに知り合いだった。ほんの数分前に出会ったばかりの。

 ぼんやりとした表情の少女が、直巳の数歩後ろを歩いている。

 直巳と少女の目が合う。お互いに何も言わない。直巳からすれば、用があるのは少女の方である。何か言うのを待つべきか迷う。

 しかし少女は何も言わない。口を開く気がないようだ。仕方なく、直巳の方から声を掛けてみた。


「何か用か?」

「・・・・うん」


 少しの沈黙後、小さく肯定の返事が届く。一体何かと今度こそ待ちの姿勢を見せる直巳。少女はそんな直巳にただ視線を向けるだけだ。

 しばらくそのまま待ったが、一向に喋る気配がない。

 溜息を吐いて、再び直巳が話を振った。


「何の用だ?」

「・・捜しもの」

「捜しもの?何を捜しているんだ?」

「・・・・・記憶」


 ぽつりと言われた言葉に目を見張る。まじまじと少女を見つめるが、それで何が分かると言うこともない。

 気持ちを落ち着かせるように咳払いして、もう一度尋ねる。


「悪い、もう一度良いか?何を、捜してるって?」

「・・・記憶」


 同じ答えに頭を抱える。何かの比喩かと一瞬考え、即座に否定する。多分言葉通りの意味だ。そう結論付けた直巳は、改めて本人に確認した。


「記憶を捜しているってことは、お前、記憶喪失なのか?」


 肯定の動作。直巳の口から、溜息が零れた。厄介なことに関わっていると自覚したからだ。しかし、厄介事だと認識しながらも、直巳は少女を突き離すような考えには至らなかった。

 出来る限りの力は貸そう、とすら思っていた。目の前で困っているのだし、何より彼女は直巳に助けを求めている。それを無下には出来なかったのだ。

 それに直巳には、「危険なことはないだろうし、良いか」という、楽観的な考えもあった。

 結果彼は、少女の詳しい話を訊くべく、場所を移すことにした。




***********




 大通りに面した喫茶店の窓際。オレンジジュースをしげしげと見つめる少女がいた。

 彼女の話を聞くために訪れた店だったが、直巳は未だにその目的を果たせていなかった。いや、事実の確認くらいは済ませている。だが、少女が覚えていることは限りなく少なく、また、何故直巳に助けを求めたのかという問いには、


「・・・なんとなく、そうしたら良いと思ったから」


 と答えただけだった。

 つまり直巳は、ほぼ手掛かりなしの状態で、彼女の記憶を捜さなくてはいけなくなったのだ。


(・・無理だろ・・・)


 何度考えても、何の手段も浮かばない。早速壁に当たってしまった直巳は、頭を抱えていた。しかも、店に入ってから気付いたことが更に彼を悩ませていた。それは、どうやら彼女の姿は他の人には見えていないらしい、ということだった。

 案内された席が、カウンター席だったのだ。直巳が、後ろの彼女も連れだと言ったら、店員が変な顔を見せた。

 とっさに、後から連れが来る、と言い直した直巳は何とかボックス席に着くことができた。が、次に出てきた水のグラスは一つだけ。メニューも当然一人分しか持って来なかった。そんな状態で飲み物を2つ注文できるわけもなく、直巳はオレンジジュースだけ頼んだのだった。


 目の前に置かれたオレンジジュースを彼女の前に押し出してから今まで、直巳は水しか飲んでいない。周りからは奇異な目で見られていることだろう。それを思って、何度目かの溜息を吐いた。

 話を聞く時も、極力声を出さずに軽く頭を動かすだけで対応したのだ。疲れも相当溜まっていた。

 これ以上は限界だった。詳しく問い質したりするのは不向きな場所であるし、何より訊くべきことはもうなくなっていた。

 後は、彼女が覚えのある物を捜して歩くことしか思いつかない。直巳は、分かり切っていた答えを何度も確かめて、ようやく席を立った。

 乗り掛かった船だ。覚悟を決めて、少女と2人歩き出す。


「さて・・、お前は今まで何処を捜してきたんだ?」


 直巳の問いかけに、少女はゆっくり手を上げた。そして、駅の方角を指差し「あっち、見た」と答えた。

 アバウトな答えに、吐きかけた溜息を堪えて顔を上げる。


「じゃあ、学校の方を見てみるか」


 直巳が指差した方は、駅と反対方向だ。少女は小さく頷いた。どうやら行ったことはないらしい。そうして、反応の薄い少女を連れて、直巳は来た道を引き返して行った。

読んで下さり、ありがとうございます。


ちょろっとずつで申し訳ないです。



直巳の秘密や少女の正体、追々判明していくのでお待ちください。

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