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死神と一緒  作者: 雲雀 あお
死神見習いと出会い
1/12

0~1



「これは、数珠じゅずっていうのよ。御守おまもりなの」

「おまもり?」

「そう。なお君をまもってくれる、特別な御守りなのよ」


 そう言って、綺麗きれいな、むらさき色の数珠を付けてくれた。


「いつも付けててね。大切に、するのよ」

「うん!たいせつにするよ、おばあちゃん!」


 それは、過ぎったある日の光景こうけい





 都会と言えど、夜が来ればやみが満ちる。そんな闇にまぎれて、2つの影がりた。

 そこは、高層こうそうビルの屋上。普通なら降り立つことなどできない場所に、彼らは当然であるかのように立っている。

 2人とも、全身を黒で固めているが、その雰囲気ふんいきは正反対だった。



 1人は、黒いコートの前を開け放ち、その下に着た黒いシャツも、首元くびもとのボタンを3つほど外している。右肩にけたひもには、つかつばさやの全てが黒い日本刀をくくりつけている。

 顔つきはおさなさが残っている。身長もあまり高くないこともあって、高校生、場合によっては中学生とも取れる外見をしていた。

 真剣しんけんな表情を裏切るように、その金のひとみにはたのしげな光がおどっている。


 一方、もう1人は、着ている服こそ同じだが着崩きくずしたりせずに、きっちりと着込んでいる。しかし、ロングコートをめ付けるように、ところどころ々ベルトが巻かれている。そのうち、腰に巻かれたベルトには黒いじゅうが2つ、り下げられている。

 背は隣に立つ彼よりは高く、スマートなシルエットをしていた。顔立ちは青年然せいねんぜんとしていて、整っている。

 少なからず興奮こうふんしている隣の彼と違い、冷静な目を眼下がんかに走らせている。


「・・・!」


 と、何かを見つけた小さい方の影が、何の躊躇ためらいもなくちゅうへ躍り出た。続いて、残った影も宙へと体を出す。

 本来なら、重力に従って落ちるだけの彼らは、ビルの側面をってんだ。

 まるで空を飛んでいるかのように、ビルからビルへ、屋上を伝って進んでいく。その速度はすさまじく、ビル街を抜け、人気のない住宅街へと入っていく。

 そうしてしばらく進んだ2人は、そろって地面へ視線を移した。


 その視線の先では、不気味な黒いかたまりが躍っていた。

 止まりもせずに、2人は地面に飛び降りる。そして、ない速度でそれに肉薄にくはくした小さな影が、一瞬で抜刀ばっとうしその塊をる。さらに、大きくった塊に、弾丸がいくつもち込まれる。

 やや離れた場所で、両手に銃を構えた青年が立っていた。



 2人の攻撃を受けて、塊がゆっくりと倒れて行く。しかし、地面に触れた瞬間、それがぜた。


「っ!!」


 油断していた彼は、日本刀を振って向かってきた欠片かけらたたき落とす。


「リクっ!油断するな!」

「分かってるよっ!!」


 飛び散る欠片を精密せいみつなコントロールで撃ち落とす青年。怒鳴どなられた、日本刀を持つ彼、リクはバラバラになったのに未だうごめく塊たちをみつけた。

 更に散らばった欠片を、斬り伏せ、踏みつぶしつつ、周囲に目を向ける。


 少し遠くに、2回りも小さくなった黒い塊がある。それを見つけた瞬間、リクは駆けだしていた。


「リクっ!?」

「カイ、そこは任せた!」


 声だけ残して疾駆しっくし、塊に追いついたリクは、手にした日本刀をひらめかせた。

 真っ二つになった塊は、それでも逃げるように蠢く。


往生際おうじょうぎわが、悪いんだよ!!」


 リクが手近てぢかな一つを切り刻む間に、残った塊が大きくはずんだ。

 周囲のへいや電信柱に当たり、その反動を利用して逃げて行く。動かなくなった塊を放置して、リクも後を追う。塊は、住宅街の先にある夜でも活気のある駅前通りを目指していた。

 リクは、今まで以上の速さで駆ける。が・・・、


「うおっ!!?」


 急に動きを止めた塊に足を取られ、空中で大きく体勢を崩す。


「・・っこの!」


 慣性かんせいの法則に従って流れる体をひねって、地面にへばりつく塊に日本刀を突き刺した。

 地面にいつけられた塊は、なお逃げようと動く。しかし、しっかりと刺さった日本刀はびくともしなかった。

 それを見て、未だ空中に居るリクは笑った。


「ざまぁ見ろ・・!」

「リクっ!前!!」

「へ?」




***********



「明日・・、明日こそは・・・」


 周囲が闇に閉ざされた住宅街へと続く入口に、一人の少年が立っている。

 背は高くもなく、低くもない。電車で数駅離れた高校の制服に包まれた体は、成長途中で頼りない印象を受ける。顔立ちも、幼さを残している。学校指定のかばんを持つ右手には、紫色の数珠が付けられていた。

 学校帰りの彼は、家へと帰る途中だった。


「よし・・!明日こそ、告白するぞ!」


 星の少ない夜空を見上げて、にぎこぶしをつくる。そして、住宅街へ入ろうと足を前に出した。


「・・・ん?」


 ふと、少年が振り向く。夜の闇を寄せ付けない、明るい店が連なっている。きょろきょろと周囲を見回し、前に向き直る。

 所々ある街灯がいとう以外は暗い道をしばらく見つめる。


「気のせいか・・・」

「・・・っ!・・!!」


 前方で、何か声が聞こえた。

 今度は気のせいではないと、目をらした少年に何かが衝突しょうとつした。しかし、何が衝突したのか、少年には分からなかった。『それ』は全く見えなかったのだ。

 見えなかったが、すごい勢いでぶつかって来たのだろう。

 少年の細い体は突き飛ばされ、歩道を横断おうだんし、ガードレールに当たった。


 少年の不幸は、そこで終わらなかったことだろう。

 ガードレールに当たったのは、少年の腰から太ももの辺りだった。上半身の勢いは止まらず、そのままのスピードで車道へ飛び出してしまった。


(あ・・・)


 少年が最後に見たのは、まぶしい車の光だった。




**********



(ここ・・どこだ?)


 目を覚ました少年が最初に見たのは、目の前に横たわる大きな水の流れだった。

 ぼんやりと、それをながめていた少年は、はっとして周囲を見渡した。


(ここはどこだ?!)


 同じ疑問が頭の中をめぐる。

 彼の周囲は、おかしかった。目の前にあるのは、かわであるのは疑いようもないが、周囲の光景が異常だったのだ。


 河の周りには、角の取れた丸い石がめられている。それは河原かわらなのだから、あってもいい。しかし、それが見渡す限りに広がっているのは、異常と言わざるをない。

 そして、見える範囲もおかしい。ある一定の範囲から先が見えないのだ。

 いや、見えないのではない。「ない」のだ。

 数メートル先は闇にみこまれている。そのわりに、河だけは何処どこまでも続いて見えている。


 異常な光景だ。

 少年は、再び呆然ぼうぜんとしてしまった。


「どこだよ、ここ・・・」


 今度は声を出して言ってみるが、それで何か分かるはずもなく、変化のない景色を意味もなく見つめるしかなかった。


「・・あれ?・・」


(河の、水の音がしない・・?)


 気付いた少年は、河に近寄って行った。彼が足を出すたびに、踏まれた石同士がこすれ合う。しかし、その音は何処か遠くから聞こえてくるようで、現実味げんじつみがない。

 のぞき込んだ河は、透明とうめいだった。しかし、余程よほど深いのか底が見えない。そして、流れる音がしない。湿気しっけも感じない。

 確かにそこにあるのに、石と一緒で現実感が全くない。


(何だよ、ここ・・!)


 得体えたいの知れない場所に、恐怖を覚えた少年は、不気味ぶきみな河から身を引いた。

 もう一度周囲に視線を走らせる。


(何でもいいっ。何でもいいから、なんかないのかよ!?)


 あせりと恐怖がざって、呼吸があらくなっていく。

 やがて少年は、何かに突き動かされるように歩き出した。

 河を左手にどんどん歩いて行く。早足で河をさかのぼる。頭はえず動き、目は何か別のものを求めていた。

 おかしなことに、数メートル先の闇には辿たどりつかず、ただ河原だけが続く。まるで果てがないようだ。


(・・!あれは・・はな?)


 どれくらい歩いただろうか。景色けしきに大きな変化はなかったが、所々に赤い華が咲いていた。

 少年は、そのうちの一つに近付いて、よく見てみた。


(これって、確か・・・彼岸花ひがんばな?だっけ)


 群生ぐんせいするでもなく、本当に所々にしか咲いていないその華は、物悲ものがなしい雰囲気にさせる。

 その華から目を離し、行こうとしていた方向を見る。

 相変わらず、少し先は闇に閉ざされている。何も見通せない闇から、河の向こうへ目を向ける。


 河幅かわはばは広くて、向こう側はよく見えない。それに、もやがかかったように不明瞭ふめいりょうである。幾ら目を凝らしても、見えないものは見えなかった。

 あきらめて、再び歩き出す。今度は、ゆっくりと、だったが。


(一体ここは、どこなんだよ。何で俺はこんなところに居るんだ・・?)


 思い出そうとするが、上手くいかないようだ。何度か頭を振って、思考を切り替えようとする。と、河原に変化があった。

 河原の石が、み重ねられたものがあったのだ。


「何だ、これ?」


 しゃがみ込んで、石を一つ拾ってみる。ひんやりとした感触かんしょくだけが、リアルだ。

 石の山、だったのだろう。しかし今は、途中で崩れていた。明らかに、誰かに崩されたあとがある。それは、彼以外に誰かがる、あるいは居たという事実だった。


 顔を上げて見回すが、やはり誰も見つからない。少年の口から、溜息ためいきれる。

 手にした石をしばらく見つめていたが、なんとなくといったふうに山の上に置いた。


「何てやる気のないやつだ」

「!」


 気が付いてから初めて、少年以外の声がした。

 勢いよく顔を上げた彼の目の前に、一人の男が立っていた。

 今までは確かに居なかったはずなのに、いつの間に来たのだろうか。そして、尊大そんだいな態度で彼を見下ろす男の頭には、小さいが確かにつのが2本えている。どう見ても、あやしい。

 しかし、誰かに会えたうれしさから、少年は疑問をすべわきにやってしまった。


「あ、あの・・」

「お前、初めて見る顔だな。新人か」

「え・・?えっと、あの・・」

「あ、それ前の奴が使ってた山だろ。駄目だめ駄目。一から積まなきゃノーカンだからな」


 少年が何か言う前に、男は残っていた山の残骸ざんがいを足で崩してたいらにしてしまった。

 そして、少年の前にしゃがみ込む。


「積み方、分かんねぇんだろ?最近の奴らは、みんなそうだからな。優しい俺様が教えてやるよ」


 と言って、少年の返事も聞かずに手近の石をひろった。


「良いか、少年。石積みのポイントは、土台だ。土台がしっかりしてないと、その上が崩れやすくなっちまう。だから、土台に使う石は厳選げんせんするべきだ」

「あ、あの~・・?」


 困惑こんわくする少年を置いて、男はとうとう々と石積みのコツを説明していく。

 手慣れた様子で石を積む男を見て、少年はようやく冷静に考え始めていた。


(何だ、この人。・・・てか、何だこれ。角?・・・ヤバイ人?)


 軽く引き気味の少年気付いたのか、男が目を上げた。

 するど眼光がんこうが、おそろしい。


「おい、聞いてんのかよ?」

「あ、あの!ここ、どこですか!?あなた、誰ですか?!」


 少年は思い切って聞いたのに、男はあきれたような顔を見せた。いで、やれやれ、と言った様子で頭をいた。


「・・・今更、その質問かよ。てか、その説明は俺らの仕事じゃねぇし。・・ったく、死神の奴ら、職務怠慢しょくむたいまんか?真面目まじめな俺様を見習えってんだよ・・・」


 ぶつぶつ悪態あくたいいて、イライラと体をする様は、チンピラのようだった。

 相手が怒っていることが分かって、男の言っていることを気にしている少年も声をけづらそうだった。

 男は、一頻ひとしきり悪態を吐いて、面倒くさそうに少年を見る。


「あー、じゃあ、説明からな。まず、此処ここは死後の世界・・・の、一歩手前いっぽてまえだ。

 此処は『さいの河原』って呼ばれてるところだ。此処に来た奴は、石を積む。最後までちゃんと積めたら、天国へ行ける。

 で、俺は鬼。お前らが積んでる山を、適当に途中で崩すのが仕事。と言うことで、さっさと積め。崩してやるから」

「・・・・」


 一息ひといきで説明して、鬼と名乗った男は少年に石を握らせた。しかし、言われた少年はあっけに取られていた。握らされた石に目を落として、再び鬼に目を向ける。


「何だよ?」

「・・・・俺って、死んだのか・・?」

「そうだって言ってんだろ。・・って、そこも説明されてねぇのかよ、ったく・・」


(死んだ?俺が・・?)


 またしても悪態を吐き始めた男を無視して、少年は必死で思い出そうとしていた。死んでいないと思おうと、していた。

 しかし、思い出したのは、最後の光景だった。


 道路に投げ出された自分の目の前に、車のランプがせまっていた。そして、を置かず受けた衝撃。痛む体と、遠くでさわぐ人々の声。

 彼は、確かに車にかれたのだ。


うそだろ・・・)


 涙があふれてくる。

 思い出されるのは、今まで当たり前にあった日常。そして、好きだった人。


(明日、学校に行ったら、告白しようって・・そう、思ってたのに・・・)


 後悔や取り返しのつかない気持ちが、胸を締め付ける。

 嗚咽おえつこらえて泣く少年に気付いた鬼は、居心地悪いごこりわるそうに身じろぎした。手持無沙汰てもちぶさたに頭を掻き、泣きやまない少年に目を向ける。


「・・あー、あれだ・・・、元気出せ?来世らいせは良い事あるさ」


 慣れないなぐさめの言葉を掛けるが、それで泣き止んだら苦労しない。

 鬼が、止まない嗚咽に辟易へきえきしていたら、遠くで何かが動いた。


「あん?」

「おー、居た居た!」


 駆け寄って来たのは、リクだった。少し遅れて、カイも追いついてきた。

 やたらと元気そうなリクに、鬼はまゆひそめた。


「ひょっとして、お前らか?死人しにんに説明無しで、放置してたのは」

「すみません」

「死人に死んだことを認めさせるのは、お前らの仕事だろ?職務怠慢で上司にうったえるぞ」

「本当に、すみません。少々、事情がありまして・・」


 小言こごとを言う鬼に、カイが頭を下げる。その間に、リクが少年の前にしゃがみ込む。

 少年が顔を上げるまで待って、口を開いた。


「お前、織谷直巳おりやなおみで合ってる?」

「・・・?・・そうだけど」

「お前、死んでないぜ」

「・・・・え・・?」


 あっけらかんと言われたことを理解できず、ぽかんと口を開けている少年の腕を取って、立ち上がらせる。


「どういうことだ?」


 顔を顰めたまま鬼が説明を求める。それに応じて、カイが口を開く。


「彼、事故にはったんですよ。でも、奇跡的に軽傷けいしょうで済んだんです。でも、たましいが勝手に出て行ってしまって・・。死んだと認識してしまったみたいですね。自力じりきで『賽の河原』まで来てしまったんです」

「で、それに気付いたお前たちが、あわてて連れ戻しに来たってことか」

「はい。おさわがせしてすみません」

「本当にな。いい迷惑めいわくだぜ」


 何度も頭を下げるカイに、鬼は追い払うように手を振った。


「あ~、良いよ、もう。さっさと、そいつ連れてってくれるか?仕事の邪魔じゃまだからな」

「ええ。それでは、失礼します」


 リクとカイは、未だ呆然としている少年、織谷直巳の両腕を持って引きずって行く。

 やがて、3人は闇に紛れて見えなくなった。


「・・・あーあ、なんか無駄むだつかれた・・」


 残された鬼も、肩のりをほぐす様に腕を回し、闇の中へと消えて行った。




*********



 直巳なおみの住む街の一角。そこに、3人は現れた。


「ということは、俺は生き返れるんだな!」

「てか、死んでねぇし」


 ようやく理解した直巳は、破顔はがんした。一度死んだと思ったところで、生き返れると知ったのだ。嬉しさも一入ひとしおなのだろう。


「しかも、怪我けがが軽いってことは、すぐに学校行けるようになるよな!?」

「あー、それなんだが・・」

「良かった。本当に良かった・・!」

「・・・・・」


 一人喜ぶ直巳に、苦い顔を向ける2人。それに気付かず、直巳は喜び続けた。


「俺さ、好きな子が居るんだ。体に戻ったら、即行そっこう告白する!」

「・・・・どうする、リク?」

「どうするって、はっきり言うしかないだろ。・・おい、織谷直巳!」

「何?」

「お前は、告白できない。どころか、このままだと今度こそ本当に、死ぬ」


 風もないのに、リクとカイの黒衣が、不気味に揺らいだ。



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