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アルセリウム

 朝日の光がベッドまで伸びている。その眩い光を遮る様に、腕で顔を覆いながら再び自問自答を繰り返す。

 

 どうして戦うのか―。

 何度問いただしても、答えは見つからなかった。あの時不思議なあの瓶を受け取って、なりたい自分になれて馬鹿みたいに舞い上がってた。

 ただ、小さい頃から憧れていたテレビの中のヒーローみたいになれて、嬉しいだけだった。

 なりたい自分になれた悦楽さと何故か心に穴がぽっかりと開いたような寂しさが混同して、言葉にできない思考となって頭を巡り続けていた。

 そんな風に考え事をしていた、その時―枕元に置いていたスマートフォンからバイブレーションが鳴り、微かに震えた。気になり画面を覗くと、見慣れたニュースアプリの通知が表示されている。


 昨夜未明、各地域で原因不明の失踪事件が多発。失踪者に共通点は確認されておらず、年齢・性別・地域すべてがバラバラであることから、原因は未だ特定されていない。また、失踪直前の目撃証言には不可解な点も多く―。


 心に開いた穴を抉る様な不安や恐怖心が一気に押し寄せ、何故かこのありきたりなニュースに違和感を覚えた。まるで、何かが少しずつ狂い始めているみたいだった。

 指先に力が入らないまま、スマートフォンの画面を見つめる。ここから動く気力が湧いてこなかった。ただ、そこに縫い付けられたみたいに、動けない。

 

 再び、眠りにつこうと目を閉じた途端、昨夜見た夢の光景が瞼の裏に写った。夜空を裂いた、あの眩い光と天の使いと名乗る純白の翼を持った影。そして―紫色に光り輝く瓶。まるで、白昼夢みたいだった。

 

 足先にひんやりとした感触を感じ、その瞬間、間を裂くように、何かが床に落ちる鈍い音が部屋に響いた。ゆっくりと視線を落とす。

 目に入ったのは、昨夜、夢で見たあの瓶だった。

 瓶から放たれている光は、未だに消える事を知らず、淡い光が静かに脈打つように揺れている。

 何故、この瓶がここにあるのか。夢だと思っていたあの夜は夢では無かったのか。困惑と疑問が絶えない。


 部屋は、こんなにも静かなのに頭の中は酷くうるさくて、思考が止まらない。喉の奥がひどく乾いていることに気づき、小さく息を呑む。

 ただそこにあるだけなのに、目を離せば消えてしまいそうで視線をそらす事が出来ないまま、ただ見つめていた。

 

 ―触れて確かめるべきか。

 それとも、見なかったことにしてしまえばいいのか。

 一瞬躊躇した。それでもゆっくりと、手を伸ばす。指先が光に触れようとした瞬間。

 視界を遮るほど眩しく光り輝きだした。再び瞼を開くと、上品で可愛らしい猫の見た目をした動物が確かに存在した。可憐で紫色の綺麗な毛並みをしていて、凛としたルビーのような赤色の瞳。

 

 宙に浮いて人間のように立っていた。だが、その存在は私を気にするでもなく、静かに毛づくろいをしている。驚きで言葉が出ない私を一瞥すると、まるで当たり前のことのように口を開いた。

 

「そんなに何を驚いているのかしら。貴方がわたくしを生み出したのでしょう?」

 見覚えの無いことで戸惑っている。何もしていないのにどうやって生み出したというのだろうか。もしかしたら、まだ夢を見ているのかもしれない。

 

 そう思った瞬間、胸の奥がわずかに軽くなる。そう思えば、全部説明がつく。こんな不思議な事は現実で起こるはずが無いのだから。

「……もしかして、夢とか馬鹿みたいな事考えているのかしら?」

 

 考えを見透かされているみたいにその存在の言葉は私の芯を突いた。

「なんで……」

 久しぶりに口を開いたせいか、声が震えてうまく言葉にならない。その存在は驚く様子も見せずに、どこか呆れたようにただ淡々と呟く。

 

「随分と、都合のいい解釈ね。」

 その一言で、地に落とされるように思い知らされた。これまで夢だと思っていたすべてが、現実だったのだと。

 それなら―昨夜の影も、あの問いかけも本当に起きた事になる。

 

「貴方は誰なの?どうして、何もしていないのに生まれたの?」

 

 私の問いかけに対して、その存在は初めてわずかに目を見開いた。しかし、すぐに何事もなかったかのように表情を戻し、焦らず語り始めた。

 

「……少し驚いたわ。普通ならアルセリウムに一定量の魔力を注ぎ込むと生み出されるものなのよ。」

 

 そう言いながら、瓶を両手で持ち上げる。だが、その小さな身体では重いのか、空中でふらふらと揺れていた。

 瓶を凝視してみると、以前より光が弱まり、淡い光が漂っていた。無意識に喉が鳴る。

 見ているだけなのに、胸の奥がざわついた。

 

 ただの瓶のはずなのに、目を逸らせば、このまま消えてしまいそうな不安に駆られ、恐る恐る口を開く。

「……ねえ、光が弱くなってるのは気のせい……じゃないよね。」

 その存在は小さな身体をゆらゆらと揺らせながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。手のひらを器のように重ねる。すると、瓶が手のひらの上にそっと置かれた。

 

 手の中に確かな重みを感じたと同時に―現実だという事を改めて思い知らされる。

 これから先、どうなってしまうのか。

 ―不安は消えない。


それでも、ありきたりな日常に飽きていた私は、初めて触れる“非日常”に、ほんの少しだけ胸を高鳴らせていた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

少しずつですが、世界が動き始めてきました。

けれど、物語はまだ始まったばかりです。

これからの展開も見守っていただけると嬉しいです。


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