歌声は光となり
真夜中。淡い光を灯すランプを見つめ、私は何をするでもなくぼんやりとヘッドフォンでノスタルジックな曲に耳を傾ける。
なんと表したらいいか分からない感情が溢れてくる。
少し感傷的で触れられるとすぐにでも壊れてしまいそうなこの心をそっと閉ざす。もう二度と開くことは無いと、どこかで思いながら。
気分転換にベランダで煙草を一服する。ドーパミンが静かに溢れ、束の間の幸福感に浸る私の視界が、ふと揺れた。
その瞬間、神々しい光が夜空を裂き視線の先に純白の羽を持つ影が現れた。その存在は人の形をしているが、どこか現実離れしていて、近づくことすら憚られるような威圧感を放つ。
その手には、金色の装飾と宝石がちりばめられた紫色にきらめく瓶が握られていた。光は私の全身を包み込み、何も言わず、ただ存在する―ただそれだけで、心の奥底に震えが走った。
「我が名はセラフィム。破壊と創造を司る神の主に命を下され汝の元に参った。」
セラフィムはその言葉の後、沈黙のまま静かに瓶を差し出した。
「えっと、これは……どういう……」
体が微かに震え、思わず後ずさりした。
セラフィムの姿が消え瓶だけが手の中に残り、私の胸はざわついた。
本当に、今のは現実だったのだろうか―。
突如、手にした瓶がまばゆい光を放った。光は淡く、しかし確かな熱を帯びて、私の全身を包み込む。まるで時間が止まったかのように、周囲の音も空気も光に飲み込まれていく。気がつくと、ふわりと紫色のスカートが視界いっぱいに広がっていた。
頭が真っ白になり、言葉も声も出せず、ただ呆然とその光景を見つめるしかなかった。
「これが……私……?」
衣装に魅了されていた次の瞬間、胸元の形見の鍵が淡い光を灯し微かに震えた。
光の波動に呼応するかのように、鍵は空中で回転し、鋭くも美しいマイクスタンドへと変形した。煌めくマイクの下部は槍のように鋭く尖っている。
その刹那、夜の静寂を切り裂くような低い唸り声が耳に届いた。視線を上げると、暗闇の中から影のような生物が浮かび上がる。
「……っ!?」
思わず尻もちをついた。心臓が破裂しそうなほど早鐘を打ち、逃げられない恐怖に襲われ、ただ目を思い切りつぶることしかできなかった。
その瞬間―心の奥底で叫んだ。
「助けて」
その声にマイクが応え眩い光を放った。化け物の姿はもう無かった。戦わなければ殺られる―本能がそう告げ、私は咄嗟にベランダの手すりを蹴った。
驚く事に恐怖心は無い。夜風が顔を切り、視界が宙を舞う。星空が綺麗に煌めいていた。煌めきはすぐさま消え、冷たいアスファルトに変わり、全身に衝撃が走る。膝が震え、息が胸を突いた。
マイクはしっかりと握られていた。路面の街頭の光が眩しく目を刺激する。私は二度と逃げないと心に誓う。
「私に応えて……力を貸して!」
もう一度だけ心を鎮めて、私はマイクを口元に寄せ静かに囁く。
「Vox Aeternum―」
マイクから放たれた声が光へと変わり―
光と音の波が地面へと放たれ影の化け物を包み込む。悲鳴を上げる間もなく四散した黒い霧となって消え去った。
息を荒げる私の視線の先には、黒い影に包まれた者がこちらを見つめ、問いかけた。
「君は何の為に戦う?……正義か復讐かそれとも忠誠の為か?」
私は答えられず、ただ胸の奥で早まる鼓動を感じるだけだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
この作品は、感情や喪失を大切にしながら書いています。少しでも何か感じていただけたら嬉しいです。
初投稿の為誤字脱字あるかもしれませんが、温かく見守って頂けると幸いです。




