表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第五話 PMはNW障害を解消する

巨大な門扉。

年代物の趣を醸し出したその門は、表層に血管のような幾何学模様が走り、時折不気味にその模様の上を紫色の光が明滅していた。光は規則性があるような輝きを放っているが、複数の箇所にある窪みの部分で一度途切れて、またその先の模様の上を光が走っていく動きを繰り返している。

これが正常な状態かは判別つかないが、俺の目には不具合や異常を示す点滅に映った。

「おっきいわねー。こんなのどうやって開くのよ。バシッと魔法でぶっ壊してみる?」

「いや、多分そんな簡単じゃなさそうだ。恐らく何かに反応して開くような仕組みになっていそうだが……」

依頼書にはこの門の存在は情報があったが、開き方までは掲載されていなかった。未攻略部分ということだろうか。

俺は慎重に門の文様をなぞりながら、どこかオフィスのセキュリティゲートのような雰囲気を感じ取る。だが指を触れても何も反応はなく、明滅する光にも変わりはない。

「……とりあえず、少し休憩にするか。俺はこれから会議があるから、少し待っててくれ」

「じゃあ、私はご飯にするね」

俺がヘッドホンを耳にあてるのと同時に、フネは腰に装着した革製のウエストポーチから、街で調達した固そうなパンを取り出した。

フネがガリガリと、とてもパンを齧る音とは思えない音を出しながら食事をするのを目にしながら、『パーソナル・ターミナル』を操作し、会議画面をARで表示させる。

議題は昨晩発生したNW障害の緊急社内会議だ。

事前に資料を見ていたが、どうにも要領を得なかったので、俺が号令をかけて招集した。若手の社員が事象の説明をしてくれる。

内容は作業で新しいNWシステムを導入して切替を行ったが、対向システムとの通信が行えないといった、よくある話だった。

AR画面上に、次々に表示される詳細設計書を眺めながら、俺は今回新規で導入した設備の実際のコンフィグを表示するように指示する。

「ほんと、なんで現実世界の仕事なんて、まだ続けるの?むぐむぐ……ゴクンっ」

TeraTerm画面が目の前に表示されるのと、フネの顔がその画面を突き破ってぬっと現れるのは同時だった。

口いっぱいにパンを頬張り、小首を傾げる彼女の心底不思議そうな顔。

パンを嚥下して喉を鳴らす、フネの白く細い首元が視界いっぱいに広がる。

(これは、中年熟女。これは、中年熟女。これは……)

俺は突然無機質なコンフィグが、可愛らしい美少女の顔に変わったことにどぎまぎしながら、胸中で念仏を唱えた。

(オサム様。フネ様は一般的に四十歳前後を超過しておらず、肉体的には中年というよりかは、少女に定義されるかと)

(そんなことは聞いてない!)

俺は冷静に落ち着くためにも、フネの顔に重なるように表示されてるコマンドラインベースの文字列を追っていく。

「突然異世界に飛ばされて、気持ち悪いからだよ」

「気持ち悪い?」

俺はフネとの会話を続けながらも、流れる文字列を追い続け、目当てを探し当てた。

(やはり、そうか。新規のコンフィグのルート再配送の設定が、対向設備向けのインターフェースのACLに適用されていない)

「俺は何でもやりかけがあるのが許せないだけだ。現実世界には、やり残したプロジェクトが山ほど残っているんだ。それを投げ出して転生されるなんて、生理的に受け付けないんだよ」

「仕事人間だねー」

感心というよりかは、呆れたような顔つきでフネが笑う。ころころと表情が変わる様は、年頃の少女然としていた。元の性質なだけかもしれないが。

「フネみたいに、すっぱりと割り切れないだけだ」

なるべく彼女の方には目線を合わせず、俺はミュートを解除し、部下にコンフィグの誤りを指摘する。

再配送が正常に行われていないということは、相手先からこちらへのルートが見えていないということ。いわゆる、ルートの糞詰まりというやつだ。

アドバタイズされているルートも、念のため修正後に確認するように伝えながら、俺はふと思いついた。

(ピット、道中回収したあの四角い箱って、解析完了しているか?)

(完了済みです。魔力循環を阻害する装置ですが、仕組みは単純。特定の魔力フローを一方的に逆流させる設定になっています)

ピットが小さな両手を俺に向けて差し出すと、回収した箱がピットの手から魔法のように噴出し、綺麗に都合五つが縦に並べられた。

(正常な魔力の流出がどの方向に何のために行われているのかは知る由もないが、もし本来門に設置されていたものだとしたら……)

俺はピットの解析結果を聞きながら、巨大な門の表面にある模様の血脈に目を向けた。血脈の流れに沿って点在する窪みは、ちょうどこの回収した四角い箱と同じくらいの大きさに見える。

「お、何か思いついた顔してるね!」

思案に耽る俺の横で声がした。いつの間に移動したのか、フネがすぐ隣で大きな目をきらきらと輝かせている。

「まあな。だが、うん……なるほど」

(この門を起点に中継させていたものが魔力だとすると、門に装置が嵌められていたとしたら、ルーターのようなものだったのかもな。だとすると、今はループして魔力が押し戻されているってことか)

(その可能性が高いです、オサム様)

胸中の独り言に、ピットが脳内で反応した。

俺は会議が終わったので、残りのタスクを部下に指示するとヘッドフォンを外し、ピットが縦に積み上げたそれに手をかける。

(ピット。この装置を改修して、元の機能に戻せるか?)

(スタティックな逆流の設定を反転させ、正規のルーティングに書き換えることは可能です)

(構わない。やってくれ)

ピットの全身が微細に振動し、それと同調するように積まれた五つの箱に流れていた鈍い光が一瞬輝きを増す。明滅は一瞬だったが、箱自体の様子には特別変わりはなかった。

(完了しました。コンフィグ修正済みです)

ピットの言葉に俺は小さく頷くと、箱を一つ手に取り門へ近づく。フネは意図を汲んだのか、残りの四つを軽々手にもって、俺の後を続いた。

門へ近づいた俺たちに、ピットが警告の言葉を発する。

「門にただ嵌めるだけでは、起動しないと推察します」

「どういうことだ?」

俺は足を止め、肩に飛び乗ってきたピットに顔を向けた。

フネもピットの反応に興味を示し、小首を傾げる。

「まず循環装置を門に固定するには、一定以上の魔力をこめる必要があります。加えて現在門の表面を走っている魔力の波長と同期をとる必要があるので、タイミングが合わないと循環装置が役割を果たせないと解析結果が出ています。タイミングを外すと、門側か装置側にどう影響するかは不明」

ピットの言葉に、俺たち二人は巨大な門を改めて見上げた。

血管のように張り巡らされた幾何学模様上を流れる、紫色の煌めき。光の流れは周期的に見えたが、よくよく観察すると、完全な規則性をもっているわけではないのが見てとれる。

「なお、嵌め込む際の魔力量はかなり膨大です」

「これくらいあればいける?」

ピットが付けくわえた言葉に対して、フネは魔力をこめた(と思われる)手をかざして見せた。俺にはぼんやりとフネの手のひらの周りを、白い光が揺らいでいるようにしか見えない。

「問題ありません。流石でございます。フネ様の魔力量は、この世界のデータベースを照会しても、最高クラスの冒険者と遜色ありません」

「ふふーん。えっへん」

胸を張って、まんざらでもない様子を見せるフネだが、中身を考えるとその態度はどうかと思う。それにいつの間に、ピットはおべっか機能まで追加されたんだ。

「じゃあ、嵌めるのはフネの役目だな。ピット、周期間隔を可視化して、この間みたいにARで表示させてくれ」

「了解」

ピットの返答と同時に、巨大な門の幾何学模様を走る紫の煌めき上に、分かり易く可視化されたタイミングが表示される。さらに窪みの上で、「3、2、1、0」とカウントダウンまでされる親切設計だ。

「フネ、魔力をこめてタイミングを合わせて箱を嵌めていってくれ」

「まっかせなさい!」

俺の指示通り、次々とフネは循環装置をタイミングよく嵌め込んでいく。一つ埋まるたびに、パケットのループが解消されたように、紫色の光が薄青く変色していった。

「これで、ラストぉ!」

最後の五つ目が窪みに収まった瞬間、門の血脈が正常に復帰したことを示すよう眩しく発光し、紫色の光は全て透き通るような青い光へと様変わりする。

ズゥゥゥン……

そして、物理的な重みを無視したように、擦過音すらなく巨大な門扉が左右にスライドした。

「やったね!」

フネが掲げた手に、俺は一瞬戸惑ったが、少しだけ口角を上げるとその手をバチンと叩いた。

大分間が開きました。遅筆で悲しいですが、まったり続けます。

NW障害ってサーバと違って、基幹なので大障害になりやすいですよねー。大体報告書になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ