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第十二話 PMは新規パートナーを獲得する

「ヨシダさん、フネさん!探しましたよ!」


フードの女性は、ギルドの職員アニカだった。

彼女は嬉しそうな、それでいて少し不安そうな顔で俺たちを見つめる。


「アニカちゃん、ずぶ濡れじゃない」


フネが駆け寄ったアニカのぐっしょりと濡れた衣服に手をかけ、水色の髪に滴る雨を払った。

ずいぶん長い間、雨にさらされていたようだ。


「フネさんこそ。こんなに濡れて風邪ひきますよ」

「ふふふ。濡れ濡れだね、私たち」


フネが意味深な言葉を返しながら、アニカに身を寄せる。先ほどまでより表情が和らいでいるところを見るに、フネも人並みに不安を感じていたらしい。

状況にそぐわない台詞も、緊張を感じていたせいだろうか。


「あ、それどころじゃないんです!お二人とも、一体何をしたんですか!?」


アニカはがばっとフネの身を引きはがすと、声を荒げた。


「何をしたかって?」

「お二人に、ギルドの指名手配がかかってるんです!」


悲痛な顔で嘆くアニカの様子を見て、俺は納得する。

やはりエドワードが手を回していたのは、ギルド側からであることが確定した。

指名手配がどういう扱いなのかは分からないが、街のインフラを利用できなくなるほどの効力があるということは、それなりに重い処置なのだろう。


「指名手配ってのは、どういうことだ?」

「私もお二人が指名手配にされた理由までは分かっていませんが、ギルドの指名手配に載るってことは、お尋ね者と同じなんです。下手したら、賞金首にされることも……」


「なるほど」


俺は頷きつつも、やはり腑に落ちない。指名手配などという人を処分する仕組みを、同じ冒険者に嫌われたくらいで行使されるだろうか。

――だが、一つだけ分かっていることがある。


「じゃあ、アニカさん。あんたは俺たちには関わらない方がいいってことだ」


俺は淡々と告げると踵を返して、さっさと元来た道を歩き出した。

フネが慌てて俺の後を追いかける。


「ちょっと、ちょっと!せっかくアニカちゃんと会えたのに!」

「……俺たちと一緒にいると、彼女も同じ扱いを受けるかもしれない。ましてやギルドの職員だぞ」


俺は横を早歩きでついてくるフネに、冷静に言葉を返す。

彼女の組織の上層が出した決断だ。職員が俺たちに関われば、最悪職を失うことにも繋がりかねない。


「……そっか」


フネも俺の言いたいことを理解したらしく、それ以上は口ごたえせずに黙った。

強まり続ける雨足の音と、ばしゃばしゃと地面に溜まった水を足で弾く音が続く。

それをかき消したのは、アニカの大きな声だった。


「待ってください!!」


路地に響き渡った彼女の叫びに、さすがに俺たちも足を止める。

振り返った先のアニカの双眸は決意の色を浮かべて、俺たちをしっかりと見据えていた。




アニカの家は、貧しい街区の中でひときわ奥まった場所に存在していた。

外壁はひび割れ、立てつけの悪い扉は雨風にさらされ音をきしませている。


「狭いところですが、どうぞ」


アニカは扉を開けて、俺たちを招き入れた。

フネが遠慮なく彼女について家の中に吸い込まれていく。

結局俺たちは、アニカの熱心な誘いを断ることができなかった。

俺としては無関係な者を極力巻き込みたくはなかったが、さすがに雨に打たれた状態で押し問答を続けることの方がデメリットが大きいと判断し、ここまでついてきた。


「あら。お客さんかい?」


狭い部屋の奥から、少しかすれた女性の声がする。


「お邪魔してまーす!」


アニカがそれに返答するより早く、フネが元気に口を開いた。


「あらあら。あんたたちみんな、ずぶ濡れじゃない。アニカ、みんなにタオルを出してあげて」

「はい。お母さん」


出てきた初老の女性の言葉にアニカは応じると、足早に奥へと引っ込んでいく。

ぽたぽたと雫を垂らしながら、部屋の中に進入するわけにはいかず、俺たちは玄関あたりで立ち尽くしていた。


「濡れたままでいいから、早く入りなさい。身体が冷えてしまうよ」


そんな俺たちを、アニカの母と思しき女性は半ば強引に部屋の中へ押し込める。

案内された室内は調度品も少なく、古びた机に、揺り椅子が一つ置かれているだけだ。俺たちが拠点にしていたあのおんぼろ宿の客室よりもさらに狭い。

それでも外気にさらされていないだけで、じんわりと冷えた身体が温もりを取り戻していった。


「あの子が知り合いを連れてくるなんて、珍しいね。仕事仲間かい?」

「はい。アニカさんにはお世話になっております」


俺は気さくに話しかけてくれる女性に、会社で交わすような相槌を返す。

同時に失礼にならない程度に、視線を彼女に向けた。

髪の色はアニカと同じ水色だが、ところどころ白いものが混じっている。服装もくたびれており、お世辞にも豊かな暮らしを送っているようには見えない。


「そんなかしこまらないでいいのよ。少し狭いけど、どうぞくつろいでくださいね。お茶でも入れてくるわ」

「いえ、お気遣いなく……」


俺は申し出を断ろうとしたが、女性は上機嫌な様子で部屋の奥へ向かう。

入れ替わりにアニカが数枚のタオルを抱えて、俺たちの元へ戻ってきた。


「お母さん、なんだか喜んでいるみたい。はい、これでとりあえず身体を拭いてください」

「ありがとう、アニカちゃん!」


手渡されたタオルで、がしがしと濡れた髪を拭くフネ。そこら中に飛沫をまき散らすのを、アニカは微笑ましそうに笑って見つめている。

俺はその様子を尻目に、アニカに話しかけた。


「すまないな。アニカさん。しばらくしたらすぐに出ていくから」

「えー!いやだ!」


即座に拒絶するフネは、頬をぱんぱんに膨らませて俺を睨んでくる。


「そうですよ、ヨシダさん。しばらくここにいてください!」


アニカがフネに同調するように、続けた。

すでにお互い姉妹のように身を寄せ合い、まるで責めるような眼差しを俺に向けてくる。


「そうは言ってもな、アニカさん。俺たちはギルドの指名手配なんだろう?迷惑をかけるわけにはいかないよ」

「迷惑なんてことありません。それに私がお二人に、依頼の認可を出したせいでもあるんです」

「どういうことだ?」


俺はアニカの言葉に、ある程度推察を立てながらも聞き返した。

『深紅の鷹』との確執はダブルブッキングから始まったのかもしれないが、それも結局は俺がそそのかしたようなものだ。彼女が責任を感じる必要はない。

だがこれからの俺たちの立ち位置を決めるためにも、ここで可能ならギルド側の人間の情報も得ておきたいというのが本心だ。


「まぁまぁ。とりあえずお茶でも飲んで、少しは落ち着きなさい」


戻ってきたアニカの母親が、立ち尽くす俺たち三人をなだめるように穏やかな声をかける。


「そうですよ。ヨシダさん。まずはお茶でも飲んで落ち着きましょうよ」

「そうよそうよ。一杯ひっかけるまで、動かないんだから!」


フネが誰よりも早く腰を落とし、床に座り込んだのを見て、アニカと母親が静かに笑った。

俺も思わず口角を上げそうになり、慌てて気を引き締める。

俺までフネのペースに乗せられるわけにはいかない。

(オサム様。心拍数が少し落ち着きました。フネ様の行動の効能でしょうか?)

(うるさい)

ピットの謎の分析に心の中で返答を返しながら、俺もゆっくりと腰を下ろした。




「……というわけで、お二人が指名手配を受けたのは、ほんの数時間前なんです。私はマスターから通達を聞いただけで、詳しい理由までは聞けていません。それでも……」


アニカはコップを両手で抱えながら、そこで言葉を区切る。

出されたお茶は、茶葉を何度も使い回しているのかとても薄味だったが、温もりを取り戻すには十分だった。

アニカはぐびっとコップに口をつけると、一息に飲み干して俺の顔をしっかりと見据える。


「それでも私は、お二人が指名手配に回るような悪いことをする人たちとは思えません。だから、マスターに抗議したんです」


彼女の目の下には相変わらずクマができており、以前見た時より濃度を増しているように見えた。

整った目鼻立ちと相まって、ひどく疲れているように映る。


「抗議とは穏やかじゃないな。それにこう言ってはなんだが、そこまで深い仲でもないだろう?」

「それは……そうですけど」


おさげの髪を指でいじりながら、彼女は俺の言葉に少し口ごもった。


「いや、責めているわけじゃないんだ。ただ、登録したての冒険者にそこまでするメリットもないかなと」


俺は目を伏せたアニカの様子に、慌てて言葉を続ける。

フネがアニカの肩を抱きながら、俺を睨んだ。


「ちょっと。そんな冷たい言い方ないでしょ。アニカちゃんがかわいそうじゃない」

「いいんです。フネさん。ヨシダさんは、きっと私のことを思って言ってくれてるんです」


二対一の構図で、俺は少し居心地の悪さを覚える。

昔直属の上司に「ロジックは分かるが、正論だけではプロマネはつとまらないぞ。人の気持ちも考えなさい」とさとされたことを、ふと思い出した。


「すまない。アニカさん。本当に他意はないんだ」


俺は素直に頭を下げる。


「オサムもああ言ってるし、許してあげて。ちょっと人の心が分からないだけなの」


フネがフォローなのか、悪口なのかわからない合いの手を入れた。

俺はぐっとこらえて、話題を変えることにする。


「……ちなみに、指名手配ってのは、どういうものなのか教えてくれないか?俺たちも突然宿を追い出されただけで、よくわかっていないんだ」


現実世界なら逃走した犯罪の容疑者を公表して、情報提供を市民に求める措置だ。

しかし俺たちが受けた扱いは、街のインフラから締め出されただけで、何かに追われたりはない。あくまで今のところは――だが。


「えっとですね。ギルドが出す指名手配は、いくつか種類があるんです」


アニカは少し姿勢をただして、職員としての口調で語り始める。


「大きく分けると、A級指名手配と通常の指名手配の二つです。どちらも重い処罰なのは変わらないですが、A級がつくと、ギルド本部が賞金首をかけることもあります。冒険者登録の凍結や、各施設の利用制限などが行われます」


(他には受注している依頼の剥奪、パーティーや団体の解散なども、起こした行為の度合いによっては執行されるようです)


「なるほど。ありがとう」


俺はアニカの説明とピットの補足を聞きながら、腕を組んで考えを整理した。

あらためて考えても、かなり状況は厳しい。

それにますます、たかが一冒険者の申告で下される処置には思えなかった。


「ついでに分かれば教えて欲しいんだが、俺たちが指名手配を食らったのは、エドワードが関係しているのか?」

「……恐らくは。だけど、確かなことは分からないんです。すみません」


声を小さくして、アニカは下を向いた。

目の前の職員には知らされないような、上層での何かしらの黒い動きがあるのかもしれない。

力のある企業が業界の利権をある程度掌握するのは理解できる。

だが、新鋭企業を裏から無理やり潰すっていうやり方は、納得できなかった。


ドン、ドン、ドン!!


次の一手をどうしようかと思案している最中、突然狭い部屋中に扉を叩く音が響き渡る。


「おい、アニカはいるか!?」


続けて男の怒号に近い叫び声が轟いた。

組織が変わるこの時期、内示にビクビクするのは世の常ですね。

私も例外なくビクビクものです。

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