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第十一話 PMは街にフィルタリングされる

エドワードの言葉の意味。俺たちはそれを早々と思い知らされることになる。


「なにこれ!」


フネの悲鳴。

我らが拠点に戻った俺たちの目に飛び込んできたのは、宿の外に放り出された荷物だった。

入口から宿屋の店主が一瞬顔を出したが、俺たちが戻ってきたのを見るとすぐに首を引っ込める。


「何あの態度。感じわっるーい!」


フネは自分の荷物を手に取りながら、悪態をついた。

だが彼女の気持ちもよく分かる。

俺だってさすがに黙ってはいられなかった。


「どういうことですか?」


閉ざされた入り口の扉をノックしながら、俺は努めて冷静な声で中の人物に声をかける。

だが中から返ってきたのは、きっぱりとした拒絶の声だった。


「さっさとどこかに消えてくれ!あんたたちを泊めるわけにはいかないんだ!」

「どうしてです?」


俺は突然の理不尽な仕打ちに、さらに説明もないことに若干苛立ちながらも、声のトーンは変えずに根気強く聞き返す。


「……」


しかし今度は返答すらなかった。

落ち着いて周りを見渡すと、街の行き交う人々の空気がどことなく不穏な感じがする。好奇や同情といった単純なものではなく、どこか関わりたくない、という空気が伝わってきた。

これ以上ここに留まること自体が、何かしらマイナスに働きそうな嫌な予感。


「ねぇ。吹っ飛ばしてもいい?」


フネが閉め出された扉を凝視しながら、物騒なことをさらりと告げる。

すでに剣の柄に手をかけているあたり、本気のようだ。


「いや。止めとこう。それより、さっさとここから退散した方が良さそうだ」

「なんで!わたし、すっごくムカついてるんだけど!」


フネは扉の方を向いたまま、肩を震わせている。彼女がここまで怒るのは珍しい。

手には、地面に落ちて汚れた赤い髪飾りが握られていた。

それが理由というわけではないだろうが、俺は彼女の肩に手を置き促す。


「わかったわよ……」


深く嘆息を漏らし、ようやく柄から手を離したフネと共に、俺たちは足早にその場を後にした。




事態は想像していたより深刻なようだった。

あの後、寝食の場を求めて街のあらゆる宿を回った俺たちだったが、どこも門前払いだった。

あらゆるところに、出入り禁止のお触れでも出回っているのだろうか。

エドワードとの会食から、数刻も経っていない。


「ねぇ。どこも泊めてくれないよ?」


フネが頬を膨らませて、地面の小石を蹴飛ばす。

可愛らしい仕草と容姿がマッチして、思わず庇護欲が掻き立てられるような様だ。

――中身を知らなければ。


「どうやら誘いを断ったことの仕返しを受けているみたいだな、俺たちは」

「あの怪しいおっさんの?」


俺は頷きを返しながら、考え込む。

エドワードという男は、どうやら相当な影響力を持つ人間だったらしい。ただの一介の冒険者が、徒党を組んでいるとはいえ、こんな短期間に街全体へ影響を及ぼせるものだろうか。


「ピット。ギルドに登録されているエドワードという人物の情報は割り出せるか?」

「識別個体:エドワードは、シルバークラスの冒険者です。特技は剣術。それ以外はマスクされており、開示されている情報はありません」


足元で俺を見上げるピットは、申し訳なさそうに小首を傾げて答える。

どんどん表現豊かになるな、このAIは。そんなことに少し感動を覚えながらも、俺は大した情報を得られないことに少し焦燥を覚えた。

相手が分からなければ、対処のしようもない。


「わっ。雨が降ってきた」


フネが右手を開き、声を上げる。

俺も空を見上げると、同時に冷たいものが頬を叩いた。

この世界でも雨という気候は存在するらしい。


「本格的になる前に、どこかで雨宿りしないとな」


灰色の空から降り注ぐ雨足は、次第に勢いを増してきていた。

俺たちは小走りに駆けると、飲食店のような佇まいの建物の軒下に一時避難する。


「オサム。もう歩き回るの疲れた!お茶でも飲もうよ」


狭い屋根の下でフネが駄々をこねた。

だが、その提案は俺も賛成だ。雨は冷たく身体も冷えてきている。このままだと二人とも体調を崩しかねない。

俺は店の扉を開いて、水を滴らせたまま店内に足を踏み入れた。

店内を忙しそうに歩き回っていた店員が、俺たちが入ってきたことに気付き顔を向ける。


「いらっしゃいま――」


ウエイトレスと思しき女性の顔が、俺たちを見た途端凍りついた。

もの凄く嫌な予感がする。

女性はくるりと踵を返すと、慌てたようにばたばたと奥に引っ込んでいった。


「感じわる……」


フネが背後でぼそりと呟きを漏らす。

店内を見渡すと、数人いた客たちが、俺たち二人に気付かれないように視線を送りながら、何やらひそひそと会話しているのが聞こえてきた。「あれって出回っていたギルドの……」「鷹に目をつけられたみたいだ。かわいそうに」そんな声が、あちこちで上がっている。


「あんたたち、悪いが出ていってもらえるか?」


奥から、恰幅のある人の良さそうな男性がのっそりと現れた。

風体と隣の先ほどの女性の態度から、店の店主のようである。


「入れてもらえないんですか?」

「……すまんね」


もう何度したか分からないやり取り。

宿だけではなく、飲食店も立ち入り禁止とは。俺が肩を落とすのを見て、店主は申し訳なさそうに声をかけた。


「あんたたち、冒険者だろ?アステリスク内の店は、どこも入れないと思った方が良いよ……」

「ブラックリストってことですか」

「……」


沈黙が雄弁と語っている。

俺はフネを促すと、それ以上はねばらずに店の外へ出た。

どうやら本格的に、街中から排斥されたらしい。


「ふう。さすがにこたえるわねー。いっそもう一回あのおっさんに会って、実力行使しちゃうしかないか!」


フネが軒先で大きく伸びをして、わざとらしく明るい声で口を開く。

彼女なりに俺を慰めているのかもしれない。

だが、俺は別に落ち込んではいない。プロジェクトの進行上、立ち行かなくなることなどいくらでもある。

リリースしたシステムの予期せぬ不具合。

外注業者の納期遅延。

重大なヒューマンエラーによるサービス停止。


「とりあえず、今はその時じゃないな。まずは人目につかず、腰を落ち着ける場所を探そう」

「そうね。まずはゆっくり寝たいもんね!」


俺とフネは店の軒先を離れ、なるべく雨に打たれないように民家の間を縫うように足早に歩いていく。

薄暗い通りを何度も何度も抜けた先。

街は大通りの様相から一変し、寂れた風体へと変貌していた。居並ぶ民家の壁はひび割れ、そこかしこにゴミが散乱している。どんな世界でも華やかな都心のすぐ傍には、こういったブラックボックス化した街区が存在しているのは同じだった。


「オサム、誰かいるよ」


前を行くフネの足が止まる。

俺も同じく足を止めて、前方に視線を向けた。振り続ける雨で視界が利かないが、確かに彼女の言うように路地の先に人影が立っているのが見える。

人影は、フードを深くかぶった女性のようだ。

俺たちの間に緊張が走る。


「あのおっさんの手先……とか?」


フネは静かに呟きながら、じりっと身体を強張らせた。

その可能性は十分にある。この世界の倫理観はまだ把握できていないが、最悪のケース、邪魔者を始末しにきたなんてことも想像できた。

フードの女性がこちらに気付き、雨に濡れるのも厭わずに駆け寄ってくる。

はらりと脱げたフードの下から現れたのは、水色の髪をおさげに纏めた女だった。

リリースしたらバグや不具合起こすまでが、ITの世界の常識ですよね笑


全然笑えないけど、仕方ない話なのかもしれません。

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