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紫微綾の事件簿1 鎖の記憶  作者:
1章 栄の夜に沈むQR

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9/17

2章 潜入の鎖 3

(今池・夜9時前 - 潜入開始)


 栄の喧騒から外れた今池の路地は、ネオンの明かりと酔っ払いの笑い声が交錯する薄暗い世界だった。

朝、事務所で安田俊介殺害のニュースを聞き、心臓が不規則に鼓動する。

アクアブルーの車を雑居ビルの裏に滑り込ませ、エンジンを切る。車内の静寂が、白波凛の言葉を反芻させる。


「この事件を終わらせて、先ほどの続きを安心してやろう」


 彼女の革ジャンの匂いと、事務所でのキスの感触が冷えたシート越しに蘇る。

割り切りの関係のはずが、凛達の存在が心の支えになっている。

だが、今は一人で動くしかない。玲奈は警察の仕事で足止めされ、千景は女王法文性に集中。この事件を解決するのに一番早い鍵は鍵は、自惚れかもしれないけど、私の手の中にある気がする。


 助手席のQRコード欠片を指先で弄ぶ。

黒いインクが滲んだプラスチック片、角が欠け、湿気で柔らかくなっている。

千景のオフライン復元アプリでスキャンしたデータが頭に焼き付く。


「OK-2 / 女限定 / 報酬15万 / 場所: 今池地下 / スキャン後3時間有効」


 女限定。舞の無表情な顔が脳裏をよぎる。

16歳のポニーテールが、10年前の私の姿と重なる。

あのコンテナ、鎖の冷たさ、男たちの息遣い。体が一瞬硬直するが、深呼吸で抑える。

ハードボイルドを装う私が、こんな路地で怯むわけにはいかない。

車の窓から漏れるネオンの光が、雨に濡れたアスファルトに虹色に反射し、不気味な美しさを醸し出す。

ワイパーの音が止み、雨粒がガラスに滴る。


(今池・夜9時前 - 潜入開始)


 キャップを深く被り、黒のパーカーのフードで顔を隠す。

ポケットから偽QRをセットしたスマホを取り出し、画面の光が路地の濡れたアスファルトに反射する。

雑居ビルの裏口に近づく。コンクリの壁には落書きが乱雑に刻まれ、赤と黒のスプレーが剥がれかけのペンキに重なる。

ゴミ箱から漂う腐敗臭が鼻をつき、ネズミがゴソゴソと音を立てて逃げる。

扉の脇に新しいテープ跡、剥がれかけの紙にQRが貼られている。

スマホを近づけ、スキャン。ピッと軽い音が響き、地図アプリが起動。

誘導される先は、ビルの地下駐車場。

罠の匂いがするが、舞の行方を掴む鍵だ。

背後で風がビニール袋を転がし、孤独感が背筋を冷たくする。

雨が強まり、コートの裾が濡れて重くなる。


 鉄製の階段を下りる。

足音が反響し、空気が湿って重い。

蛍光灯がチカチカと点滅し、コンクリの壁に影が揺れる。

鼻腔にカビとタバコの匂いが混じり、水滴がポタポタと落ちる音が響く。

手すりの錆が指に触れ、金属の冷たさが骨に染みる。

階段の角に古い血痕のような染みが残り、足を止める衝動に駆られる。

昭和ならいざ知らず・・・知らんけど、よく現代でこんな骨とう品みたいな場所があるんだなぁと少し場違いながら感心した。

駐車場の奥、コンテナのような頑丈な扉が現れる。

錆びた鋼鉄に赤い文字が擦り切れ、薄暗い光が不気味な影を落とす。

QRを再びスキャンすると、ガラリと音を立てて扉が開く。

金属の軋む音が耳に残り、10年前のコンテナの記憶と重なる。

心臓が締め付けられるが、前に進む。


 中は薄暗い部屋、十数人の少年少女が座り込んでいる。

男の子たちは作業着姿で疲れ切った顔、女の子たちは化粧気のある服に身を包み、不安げな目で私を見る。

床にはタバコの吸い殻が散乱し、壁には血の跡のような染みが残っている。

空気は湿り気を帯び、汗と尿の匂いが混じる。

中央に立つ男——三十代、剃り上げ頭、首に龍のタトゥーが這う——がタブレットを手に、私を値踏みする。

タトゥーの鱗が汗で光り、男の目が体を裸にするようだ。背筋に冷たい汗が流れる。


「新入りか。OK-2スキャンかよ。高給与コースだな。」

 無言で頷く。男がタブレットを操作し、顔をスキャン。位置情報が送信される電子音がする。


「ルールは簡単。女は『接客』、報酬は前払い半分。逃げたら位置追跡で終わりだ。わかったな?」

接客——売春だ。10年前の記憶がフラッシュバック。

暗い部屋、男たちの荒い息、鎖の感触。体が震え、吐き気がこみ上げるが、表情を凍らせて耐える。


 私は従順なそぶりをしながら色目を使い、彼の話を聞いていた。

そのまま男が続ける。

「今夜の仕事は、金山のクラブ。客はVIP、容姿次第でボーナス。先日も舞って子が来てな、最近はイイ女がよく来る」


 舞! 心臓が跳ねる。

「どこに?」

私の動揺で一瞬しくじったと思ったのだが、男がニヤリと笑うだけで何とかセーフだった。

「仕事終わりに聞けよ。まずは準備」


 無言で頷き、控室に連れられる。

狭い部屋、蛍光灯がチープな鏡を照らす。壁の剥がれた壁紙が垂れ、床にゴミが散乱。

渡された赤いワンピースに着替え、スカート裏に隠しカメラ、太ももにナイフを仕込む。

千景のツールで偽QRのバックドアをハックし、位置情報を逆追跡可能に。

鏡に映る銀髪が乱れ、赤い目が鋭く光る。女の体を武器に闇に潜る覚悟が試される。


 着替えながら、10年前のトラウマが蘇る。あのコンテナで髪を掴まれ、服が裂ける音。

涙が頬を伝い、鉄の床が冷たく、尿の匂いが鼻を突いた。

無力感が体に残るが、ナイフの感触が現実を引き戻す。

安田の死が背を押し、組織の警告を無視する覚悟を固める。

心の奥で「逃げて」と囁く10年前の私がいるが、拳を握り、鏡を叩く。汗が額を伝う、

私は、ハードボイルド仕様に心を落ち着かせた。


(クラブへの移動)


 バンに押し込まれ、金山へ。車内は汗と安物の香水の匂いで充満し、シートが擦り切れている。

隣の少女が震え、「初めて? 怖いよ…男に殴られた」と呟く。涙で濡れた目と頬の痣が、私の10年前を映す。

「大丈夫」と彼女の肩を抱き寄せて安心させる。

相変わらず人を道具か何かにしか見てないやつらだ。

バンの振動がコンテナの揺れと重なり、深呼吸で抑える。彼女の手が腕を握り、そして握り返され温かさが伝わった。


 クラブ「ネオン」に到着。

重低音が耳を劈き、汗とアルコールの匂いが漂う。

裏口からVIPルームへ。客は四十代、サラリーマン風で金時計。笑顔を装いグラスを注ぐ。


「可愛いね、初めて?」

と聞かれ、適当に相槌。

雑談を交えて、色々と情報を引き出した。

そうやら舞は奥の部屋。ボスが気に入ったとわかった。

隠しカメラを回すが、客のスマホが鳴る。

「紫微が潜り込んだ」という声が私にも聞こえ、客がボタンを押すと、チンピラ2人が入る。

どうやら最初っからばれてたのかも、罠にかかったのは私か……

多分怪しいと思われたのは、あの時だ

舞がいるという事に過剰反応した……明らかに私の失態



 状況が緊迫した瞬間、グラスを手に持ち、右側にいたチンピラへ飛びかかる。

膝を高く引き、腹に全力の膝蹴りを叩き込む。

男の息が一気に抜け、呻き声とともに膝をつく。

汗と吐息が顔に飛び散り、アルコールの匂いが混じる。

2人目はナイフを振りかざし、刃が私の肩をかすめる。痛みが走るが、

櫻華流古武術の「[[rb:幻歩 > げんほ]]」を発動——足を不規則に動かし、横にステップ。

相手の攻撃を空振りさせ、ヒールの踵で手首を強打。

骨が軋む音が響き、ナイフが床に落ちる。

すごく痛そう


 男が後退する隙に、客の腕を掴み、「[[rb:関節鎖 > かんせつさ]]」をかけ、肘を極める。

ガシャンとグラスが割れ、男が叫びながら床に倒れる。

全く近所迷惑だって言うの、防音がかかってる部屋だから迷惑ではないのか


 テーブルを櫻華流の「[[rb:踏破 > とうは]]」で蹴倒し、足の裏で床を捉え、酒瓶が転がり、アルコールが煙幕のように立ち上る。

重低音の音楽が[[rb:掩護 > えんご]]となり、裏口へ向かう。

足の踏み込みは無駄なく、追手の気配を「[[rb:警戒陣 > けいかいじん]]」で捉えながら逃げる。


 裏口に飛び出すと、3人の男が棍棒を構える。

雨が降り、アスファルトが滑る中、「[[rb:陣形崩し > じんけいくずし]]」を展開。

1人目の棍棒が頭をかすめ、櫻華流の「[[rb:流転 > りゅうてん]]」で体を回転。

壁を蹴って跳び上がり、男の首に腕を巻く。

「[[rb:絞鎖 > こうさ]]」で気道を締め、脈が弱まる感覚を確かめながら絞め落とす。

男の体が重く倒れ、雨水が顔を濡らす。

2人目に接近し、「[[rb:連鎖打 > れんさだ]]」を繰り出す。

肘を振り上げ、鼻を正確に捉え、骨が砕ける音とともに血飛沫が飛び散る。

雨に赤く染まり、男がよろめく。

3人目は棍棒を振り下ろすが、「[[rb:幻歩 > げんほ]]」で身を翻し、ナイフを抜いて脇腹を浅く斬る。

刃が肉を切り裂く感触と男の呻き声が耳障りに耳に残り、雨水で滑りながらも「[[rb:踏破 > とうは]]」でバランスを保つ。

逃げる男を追うが、距離を取ることを優先。


(逃走)


 アクアブルーの車に飛び乗り、エンジンを唸らせて発進。

雨を切り裂き、金山の橋へ向かう。

男の車が並走し、窓から銃口が現れる。

ここ日本でまだ深夜でもないのに銃を使ってくるの

私は櫻華流の「[[rb:動視 > どうし]]」を駆使し、弾道を予測。

急ハンドルで回避し、弾がボディに当たり、金属が悲鳴を上げる。

ウィンドウがひび割れ、ガラスの破片が飛び散る。

追い越しを試み、サイドミラーで位置を捉え、急ブレーキで誘導。

男の車がガードレールを衝突し、爆発。

炎が雨に蒸発し、血と油の匂いが鼻を突く。

ハンドルを握る手が震え、タイヤの摩擦音が耳に残る。

今日の深夜このニュースばかりになるんじゃないのと思ってしまった


 爆発の余波で橋が揺れ、黒いバンが追ってくる。

サイドミラーにヘッドライトが近づき、「[[rb:警戒陣 > けいかいじん]]」で気配を察知。

急ハンドルで路地を曲がり、ドリフトで惑わす。

運転は凛が得意なんだけどなぁ

確かプロのライセンスを持ってたはずだったけど

バンが壁に擦れ、金属音が響く。バックで車を滑らせ、バンの横をすり抜ける。

「[[rb:制動 > せいどう]]」を使い、ブレーキとアクセルの切り替えで距離を取る。

男が窓から銃を構え、弾が車体を掠める。

金属が軋む音に身を縮め、「動視」で弾道を読み、急発進。タイヤが水たまりを蹴り、射撃が空を切る。

Uターンで死角に回り込み、窓から「[[rb:飛刃 > ひじん]]」を投擲。

ナイフが男の肩に刺さり、銃が落下。

男がうめきながら倒れ、追手を振り切る。

雨が強まり、ハンドルを「握り直し、新栄へ向かう。


 車内で息を整える。10年前の無力感が蘇るが、そんなことより、舞の救出が先だ。

凛に「新栄へ。バックアップを」と連絡。

雨がフロントガラスを叩き、銀髪が濡れる。

ナイフを握り、新栄へ。過去を葬る戦いが始まる。

車を走らせ、安田の死が調査のせいかと悩む。

昨夜の電話が頭に響き、10年前のコンテナの血と汗の記憶が蘇る。

心の傷が探偵業で埋められたと思っていたが、まだまだ心の傷として残っている感じだった。

千景の解析で新栄倉庫が判明した。


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