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【完】紫微綾の事件簿(百合×探偵×バイオレンス)  作者:
番外編1

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番外編3 櫻華本家に呼び出し

 私は、30分ほど和室で正座をしていた。何で正座をさせられているのか、今一つわからなかった。畳のにおいが鼻をくすぐり、膝がじんじんと痺れ始める。障子の向こうから、庭の雪がちらつくのが見える。


 少し思い出してみようかな?


 昨日は、夜は玲奈の家に泊まっていた。大晦日のカウントダウンから、元旦はゆっくり過ごすはずだったのに、朝イチで櫻華(おうか)鈴藍(すずらん)師匠から電話が来たんだっけ。


「あけましておめでとう。綾」


「あけましておめでとうございます。鈴藍さん」


 道場以外で「師匠」って呼ぶと怒るから、鈴藍さん呼び。多分今も猫耳つけたままの彼女の声が、電話越しでも少し眠そうだった。


「どうしたんですか? そちらは忙しいのでは? お客様とか?」


 櫻華流は1000年以上の歴史を持つ古武術。由緒ある道場で、SPや警察の指南もしてるし、昔は暗殺も請け負ってたって噂。正月は政治家や名士が挨拶に来るから、鈴藍さんはあまり好きじゃないって言ってたのに。


 余談だけど、「鈴ちゃん」って呼んだら「なめすぎだ」ってグーパンで最速で小突かれたことがある。

あの人、身体弱いのに速力はチーター、筋力はゴリラだから、すごく痛いんだよね。ちょっとしたお茶目なのに……。


 玲奈が「誰?」って聞いてきたから「鈴藍さんだよ」って言ったら、「ご挨拶に行くなら私も行くわ」って即決した。

電話の理由は、本家に来いってことだった。


 無理って答えた。だって東京だよ。名古屋から急に言われても。でも「夜になってもいいから来なさい」って。何でって聞いたら、「(たける)お兄様が用事があるから呼びなさいって。貴女、何かしたの?」って聞かれた。


 はっきり言って記憶がなかった。玲奈に相談したら、すぐさま切符二枚を予約して、行くことになった。何で正月から東京の武蔵野まで行かないといけないんだろう。でも逃げると後が怖い。門下生とはそういうものなんだよね。


 玲奈と一緒に行くと、大きな日本家屋の立派な門がお出迎えしてくれた。雪が薄く積もった庭、伝統的な屋根の重厚さ。インターホンを鳴らすと、お手伝いの女性の声が聞こえた。


「紫微様は裏の道場へお通りください」


 玲奈もついてこようとしたら、鈴藍さんが現れた。


「葛城さん、お久しぶりです。葛城さんはこちらへ。綾は道場ね」


「なんで私道場なの?」


「健お兄様の言いつけだから、私ではどうにもならないわね」


「ですよね」


 私はもう帰りたくなった。絶対に小言だ。正月早々怒られる。怒られることしてないのに怒られる。


「綾、大丈夫なの?」


 玲奈が、心配そうに聞いてくる。彼女の瞳に、本気の不安が浮かぶ。


「殺さないとは思うから、大丈夫だとは思うけど」


 私は笑って誤魔化したけど、玲奈の顔がさらに青ざめた。もうそのように言うしかない。


 私は道場に向かい、正座をして待っていた。

ここで足を崩して待っていたら、必ず怒られる。

畳の冷たさが膝に染み、背筋を伸ばす。

道場の空気は、いつも通り厳かで、木の匂いと古い歴史が混じっている。

やはり、思い返してみても怒られる要素が、どこにあるのかわからなかった。


 そうして40分経つと、和服を着た40代ぐらいの男性二人が入ってきた。

現当主の健さんと、次男の(みどり)さんだ。

二人が上座に座ったので、私は頭を下げる。


「新年あけましておめでとうございます。当主様、副当主様」


 健さんは私を苦虫でも噛んだように厳しい顔で見ているが、翠さんはにこやかな顔で聞いてきた。

基本的にこの家族には私は頭が上がらない。でも普段はすごくいい人なんだけどね。


「紫微、どうしてこちらに呼ばれたかわかりますか?」


 健さんではなく。いつも穏やかな翠さんが私に聞いてくれたのは助かると思う。


 去年の事件での不覚のお説教は鈴藍師匠がしたので、それはない。それ以外だと、私は悪いことはしてないはずだから。


「わかりました。何かの武者修行のためにどこかに行けということですか?最近探偵業も忙しいので無理ですって。

それ以外だと、表で渡すのは恥ずかしいので、お年玉を隠れてくれるんですか?」


 数年前、武者修行の一環で格闘大会に出されたり、軍事訓練に向かわされたりしたので、それかな?最後のお年玉は私の要望だけど。


「ばっかもん。お前は(しょう)と同じでおちゃらけすぎだろ」


 翔さんは鈴藍師匠の双子の兄らしい? 一応そう言ってるけど、師匠は弟だって言い張ってる。


 私はもう一度深く考える。でも、身に覚えがないものは、何度考えても出るはずがなかった。


「やはり思いつかないのですか?」


「紫微、大晦日の日にあなたは何をしたのですか?」


「大晦日ですか? 年末のお祭りを見て回ってました」


「そこで何かをしませんでしたか?」


 翠さんは優しく教えてくれるけど、全く思い出せない。


「ここ一年で出会って仲良くしてくれた人たちと会って友好を広げていました」


「翠、こいつにはそんな回りくどい言い方をしても無駄だ」


「ひどいですよ当主様。私、探偵ですよ。相手の言い分を深く読んで推理するのも仕事なんですよ」


 ガチで悩んでいたら、雷が落ちた。


「いつから櫻華は大道芸人になった」


 ナイフが数本飛んできたので回避はしたけど、手加減なかったよね。壁に突き刺さる音が、道場に響く。これは私に対する信頼の証か、それともお仕置きか。回避ミスったら死ぬ可能性ありますって。


 呼ばれた理由は、大晦日に笹原さんがゴミ箱不足で悩んでたから、ドラム缶を輪切りにしてゴミ箱作ったこと。

歴史ある由緒正しい家柄の技術を、大道芸人みたいに使ったから怒られた。しかも自分で気づかないから二重で怒られた。


 なぜこんなに怒られたかというと、私の技術は表に出たらいけない裏の技術もある。自分の使う技術の重さを理解してないのではないかと思い、呼ばれたみたいだ。今回は裏の業は使用してなかったからこれで済んだのかも。どうやら今日の挨拶に来たお客様が健さんに教えたそうだ。余計なことを。


 いくら私だって裏の技術を普通には使いませんって、そんなことを言っても火に油を注ぐだけだから、おとなしく従った。


 その後は本家の家に呼ばれて夕ご飯を頂いた。

豪華な座敷で、伝統的なお正月料理とお年玉もいただいた。しかも玲奈の分も

玲奈は、終始緊張してたみたいだ。


「自分だって日本家屋じゃん」って言ったら、「規模が違うのだって」って小声で返された。「それに私もお年玉なんていただいていいのかしら」だって、もらえるものはもらっていいんじゃないかな


 その後で、櫻華の一番下のしょうこちゃんの勉強を見てあげた。もう高校生なんだって、今日初めて気づいた。この兄弟って年の差が広すぎだから。長男の健さんが42歳でしょうこちゃんが16歳。年の差が親子だからね。先代当主が今62歳だったかな?頑張ったもんだよね。


 この少子化時代なのに4男2女の6人兄弟だから。


 帰りはタクシーを呼んでもらって、私は玲奈の肩を借りて寝ていたと思ったら、起きた時は胸枕で寝てて驚いた。玲奈が、照れくさそうに笑う。


「綾、重いわよ……」


「ごめん……でも、気持ちよかった」


 散々な東京旅行だった。

後日凜と千景、舞にお土産を買い忘れて怒られたのは別のお話。

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