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【完】紫微綾の事件簿(百合×探偵×バイオレンス)  作者:
5章 解放

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エピローグ1 叱られる幸せ

 搬送されてから1週間が経った、ある穏やかな午後。 

名古屋医療センターの個室で、窓から差し込む柔らかな陽光が、ベッドの白いシーツを優しく照らしていた。


 遠くに名古屋城の天守閣がぼんやりと見え、街の喧騒がガラス越しに遠く聞こえる。

そんな静かな時間。それを、突然切り裂くように、部屋にドスの利いた怒声が響き渡った。


「……自分を何様だと思っている、この馬鹿者がッ!!」


 照井さんの拳がサイドテーブルを叩き、花瓶の水が激しく揺れ、床に数滴こぼれ落ちる。

低く、腹の底から響く声が、個室全体を震わせた。


「照井さん……ここ、病院なんですけど……」

私は全身包帯だらけの体で、亀のように首を縮めてベッドの上で震えながら、弱々しく一言言ってみた。


 隣でリンゴを剥いていた玲奈まで、恐怖の表情を浮かべて「なんで余計なこと言うのよ……」という視線を私に投げてくる。


 彼女の手は止まらず、器用に皮を一繋がりに剥き続けている。

きっと、私に食べさせようとしてたんだろう。器用だよね 


「全身二十箇所以上の裂傷に打撲、肩には銃創まで負って、そして病院を抜け出してまた搬送か!?お前は死にたいのか!?それに探偵みたいなヤクザみたいな仕事、辞めろって言ったよな!」


「……すみませ……」


「声が小さい!!」 再びの怒鳴り声。


 再びの怒鳴り声。

玲奈は、助けを求める私の視線を必死に逸らし、窓の外の名古屋城を死んだ魚のような目で見つめている。

全く冷たいものだよね。私、けが人なのに助けてくれないなんてさ。


 彼女だって、捜査一課の刑事である前に、この雷親父(かみなりおやじ)には逆らえないのだ。

照井さんは現・中区副所長。玲奈の上司のさらに上司で、玲奈の親父さんの幼馴染で同期。

葛城の親父さんが生きていたら、きっと同じように怒鳴っていただろうな。


「10年前の件があったから焦った、などという言い訳は通用せんぞ!一歩間違えれば、お前がまた商品となって闇に葬られてたんだぞ!10年前、お前をあの闇から救い出したのは、またこんなゴミ溜めに沈めるためじゃないと言ったはずだぞッ!!それに玲奈、お前もだ!なにこいつと共同して動いてやがる。そんなにわしが信じられないか!」


「あの、信じてたから報告はしたんですけど……」

玲奈が、小さく弁解する。


「こいつが病院に運ばれてからな」


 照井さんが、私を指さしてから、もう一度サイドテーブルを叩いた。

花瓶が危うく倒れそうになる。

私はベッドの上で、さらに縮こまった。痛みはもう大分引いているけど、照井さんの怒声は体全体に響く。

でも胸の奥が、熱い。怒鳴られてるのに、嬉しい。

10年前、私を救ってくれた人たちの想いが、今も続いている。


「まったく……お前は昔からこうだ。一人で抱え込んで、無茶して……」


 照井さんは荒い息をつきながら、持ってきた新聞をベッドの上に乱暴に投げ捨てた。

そこには、あの夜の結果が、残酷なまでの真実として躍っていた。

 

 大見出し『国際人身売買組織壊滅 警察癒着も一掃 容疑者多数逮捕 被害少年・少女全員救出』


「……見ろ。お前が勝手に命を投げ出したおかげで、連中の腐ったリストが手に入った。警察内部で甘い汁を吸っていた『ゴミ』どもは、今朝までに全員残らず叩き出したわ。癒着していたVIPや政治家どもも、今頃は弁護士を呼んで泣き言を言っている」


 照井さんの目が、鋭く私を射抜く。


「主犯の男は、お前に射抜かれた足の痛みを引きずりながら、独房で残りの人生を法の裁きに費やすことになるだろうよ。逃げ場などどこにもない。お前が繋いだ証拠で、あの組織は完全に壊滅した」


 それは、私が十年間待ち望んでいた「終わり」の報告だった。


「だがな、綾! 手柄と命は別だ! 二度目はないからな。……次にこんな無茶をしたら、その時は私が直々にお前の探偵免許をシュレッダーにかけてやる。いいな!」


「……はい、承知しました」


「お前の事件(やま)は終わったんだ。これで普通の女性としての人生を送れ、いつまでも荒事に首を突っ込んで死んだのでは、あいつも葛城もあの世でゆっくりできんだろ」


「それはわかりますけど、この日本であんな事件何回もありませんって、それに女性の方が何かと融通が利く場合もありますしね。私も野次馬根性みたいに事件に首突っ込んで警察の皆さんに迷惑かけませんから」


「本当にあいつが生きてたら文句言ってるところだ!なんで櫻華(おうか)に入門させたんだ。全く」


 照井さんは昔を懐かしむように、声が、少し優しくなっていた。

玲奈が、リンゴを剥き終えて、私に差し出す。


「ほら、綾。食べなさい」


 照井さんが、ため息をつきながらも、目を細めて見守る。 

私は、リンゴを受け取りながら、

心の中で、深く感謝した。

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綾の長編シリーズ!
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