Shadow潜入2
エピソード21を前後編に分け、増やしました。
奥の部屋に入ると、たくさんの本棚と机の端に、無造作に置かれたUSBメモリが置いてあった。
なんか罠の可能性が高いのでふれなかった。
データを抜こうとしてウイルスを仕込まれ、位置を特定される。可能性がある。
千景がいるから、逆探知なことはされないとは思うけど、念のため。
『この書庫を抜けると、地下の本筋に出れるはず。軍用の真似事みたいな区画だよ』
千景の声が、無線越しに低く響く。
冷静だが、わずかに緊張が混じっているのがわかる。
いくら千景といえどもただの情報屋だからこんな経験はしたことないだろう。
「了解入るよ。扉を開けたらすぐに動いてみるね」
書庫の棚は背が高く、間隔が狭い。
天井まで届くような古い木製のラックが、迷路のように並ぶ。
木口の欠けや擦れから、人が頻繁に通る側がわかる。
多分右側がメインルートだね。
足跡やきの本棚の傷などを見れば一目瞭然だね。
風は向こうから、感じるからあちらだね。
部屋を出て先に進みながら、ふと思った。
本当に櫻華流は便利だよね。
武芸十八般すべてを極めるはずなのに、忍術のような隠形術まで含まれてる。
裏の技術は暗殺も含むって聞いたから、当然なんだよね。
私は本格的な暗殺術は教えてもらってないけど、潜入は「探偵業で必要になるかも」って師匠に言われて仕込まれたんだっけ。
当時は「そんなわけあるか」って反論したのに。
師匠たち、ありがとう。
本人たちの前では絶対言わないけど、心の中では尊敬してる。
この技が、今、私を救ってくれてる。
そんなことを思いながら進むと、通路の先に重い鉄の扉が見えた。
扉自体は簡易なものだけど、鍵が電子ロックなんて面倒なものを。
でもこれは古いタイプだから助かったかも。
カバーを目で追い、接点の位置を正確に確認する。
指先で軽く力を加えると、動きが鈍いのがわかる。
これで間違いない。
解除完了。
そっと扉を開けた瞬間、空気が変わった。
湿りと金属の匂いが一気に広がり、肺を満たす。
壁一面に新しい配管が這い、冷たい光を反射している。
これは本格的だね。
千景が言ったように軍事施設の真似事に見えてくる。
へたしたらそれ以上かも。軍事基地中に入ったから詳しくはわからないけどね。
照明は少なく配置され、薄灰色の通路が果てしなく続いてるような錯覚を起こしてきた。
影が長く伸び、足音一つで反響しそうだ。
私は息を殺し、壁に身を寄せた。
ここからが、多分本番だと確信した。
壁際に赤外線センサーを発見。
投光器と受光器が対になり、間を不可視の光学線が走っている。
埃が細く白い筋となって浮かび上がり、闇の中で不気味に光っていた。
私は息を殺し、ポーチから小さな鏡を取り出した。
指先で角度を慎重に調整し、線を壁の鈍い金具へそっと逃がす。
一本の光学線が逸れ、センサーのバランスが崩れる。
隣のセンサーが反応を止め、ランプが静かに消えた。
第一関門突破。
『ここから先はパターン固定。投光を落として散らすよ』
千景の声が、無線越しだけど、少し心配そうな声に聞こえてくる。
事故ったせいか、いつもより声が優しい。
全く凛も千景も、心配しすぎだ。
まあ、先日捕まったり車に轢かれたりしてるから、無理もないけど。
反対だったら私は正常じゃないかもしれない。
ん?正常に行動しているあの三人はもしかして薄情なのかな?
潜入中に無駄な会話は危険が増すだけだからやらないけど。
話しかけたいなぁ。やったら凜から絶対に怒られそうだけど。
だからこど千景も、私に話しかけず、地図のマップを静かに更新してくれているんだろう。
その気遣いが、胸に温かく染みる。
通路の先、照明がわずかに点滅している。
古い蛍光灯が、チカチカと不安定に明滅し、影を不規則に揺らす。
空気がひんやりと淀み、湿った金属の匂いが肺に染み込む。
壁に耳を当て、音を探る。
微かな足音が聞こえる。
巡回の靴音は硬く、歩幅が揃っている。
訓練を受けた者同士の、機械のような一定のリズムが聞こえた。
心臓の鼓動を抑え、タイミングを計る。
角を曲がる手前で、壁に肩を寄せた。
小さな鏡で先を見る。
視界の端に、誰もいないことを確認した。
床に、新しい押し傷。
これはキャスターじゃないよね。
多分重いものを引きずったような、深い溝がある。。
コンクリートに残る擦れ跡が、はっきりと鮮明に見えた。
少女たちを、運んだ跡なのかな?
その跡が示す先に、非常時の通路があることを、千景が送ってくれるスマホの地図アプリから確認した。
逃げ道違うね、多分搬出ルートのような気がする。
警戒をさらに強め、進んでみた。
その先に、金属探知のゲートがあった。
アーチ型のフレームが、通路を塞ぐように立っている。
鳴らせば連鎖警報が鳴る仕組みだね
施設全体に響き渡る仕組み。
ばれたら人数差で押し切られて負けるよね。
壁の保守口に指をかけ、ネジが甘いことに気づく。
日常点検はしっかりやらないと、こういうことになっちゃうよっと。
L字ツールで素早く外し、カバーを開ける。
中は旧式の端子で配線がむき出しになっていた。
短いワイヤーの橋を渡して、感度を鈍らせる。
正面のランプが鈍く光り、息を止めたように浅くなり、消えた。
体を斜めにし、息音を上げずにゲートを通り抜ける。
短刀の柄に、わずかに手が触れた。
金属の冷たい気配が、肌をかすめる。
こうする事をして甘く見ないようにした。
警戒を、決して緩めない。
先に広がる通路は、さらに深く、暗い。
通路の先に広がるのは、薄灰色の通路が、三方向に分かれてた。
地図を見ると、左が倉庫、右が発電所、正面が管理区画だと書いてあった。
凜にしろ、千景にしろどのようにしてこの地図を拾ってきたのやら。
右奥から、低い唸り声が響いてくる。
自家発電の重い振動が、機械の息遣いのように、絶え間なく続く。
停電でも、この施設は動き続けるのだろう。
逃げ道が、徹底的に制限されているよね。
背筋に冷たいものが走り、警戒をさらに強めた。
警察に動いてもらうのが一番手っ取り早いんだけど、証拠がないので動かせれないんだよね。
この場所は、鼠を捕らえるための檻だと思う。
『正面の二つ目の扉、その先に固定熱源。一つ小柄。目当ての可能性高いよ』
千景の声が、無線に低く響く。
だからなんで熱発言までわかるの?
冷静だが、わずかに息を飲むような緊張が混じっている。
「行く」
私は短く答え、通路を進んだ。
管理区画に差し掛かる。
壁に貼られた注意書きは、ありきたりで、だからこそ威圧的な文言が書いてあった。
「許可された者のみ通行可。この先立ち入り禁止。危険区域。進行には注意が必要」
筆圧の強いサインが、赤いペンで乱暴に書かれ、壁に食い込むように目に入る。
誰かの苛立ちか、脅しなのか?それともカルシウムが足りない人なのか?
いずれにせよ、侵入者を拒む意志が滲んでいる。
影から影へ、素早く移動をした。
足音を完全に殺し、壁の冷たい感触を背に感じながら。
角を曲がる前に、小さな鏡で先を確認する。誰もいない。
慎重に、息を潜めて進む。
床の押し傷が、先ほどのものと一致している。
やはり重いものを引きずった跡だと思う。
少女たちを、運んだ痕跡か?それとも別のものなのか?これだけでは何もわからない。
胸の奥が、熱く疼く。 二つ目の扉の前に、立ち止まる。
カード専用の重い扉が目の前に侵入を阻止するかのように見つけた。
金属の表面が、薄い照明を冷たく反射している。
カードリーダーのランプが、赤く静かに点滅している。
枠と壁のわずかな隙間に、薄い板を差し込む。
金具を慎重に操作して、押して、引き。
軽い手応えとともに、噛み合いが外れる。
カチリ、という小さな音が、静寂に響く。
本当に旧式でよかったよ。
最近の品物だったらどうしようもなかった。
扉を開ける前に、一度身を引き、周囲の空気を嗅いだ。
冷たく、消毒の匂いが強く漂っていた。
薬品の甘ったるい臭いが混じり、鼻の奥を刺す——鎮静剤か、麻酔か。
心臓の鼓動が、速くなる。
怒りと、焦りと、十年前の記憶が混じり合う。
扉の隙間から、そっと視線を入れる。
室内の様子を、静かに、慎重にうかがった。
薄暗い照明の下、白いベッドのような台が整列していた。
その上に、少女たちが横たわっている。
十人以上年齢は十代前半から20代。
全員が薬で眠らされ、手足を柔らかい拘束バンドで固定してあった。
白いガウンに着替えさせられ、まるで商品のように並べられている。
部屋の奥では、黒い制服の男たちが無言で作業を続けていた。
少女を一人ずつストレッチャーに移し、エレベーターのようなリフトで下の搬出エリアへ運ぶ。
その先の扉から、トラックのエンジン音が低く響いてくる。
多分ここから、オークション会場へ、直行便だ。
舞は……まだ、見えない。
でも、間違いなくここにいると思う。
十年前の自分と、重なる。
胸の奥が、熱く焼ける。
息を殺し、私は一歩、闇の中へ踏み出した。
部屋の隅に、一人の兵隊が立っている。
背中を向けて、監視カメラをチェック中。
黒い戦闘服、タトゥーが首筋から覗く。
間違いない深淵のマークだ。
十年前の男たちと同じ。
怒りが、静かに爆発する。 影から影へ、音もなく近づく。
櫻華流華奪
低く滑り込み、首筋に手刀を叩き込む。
男の体が、びくりと震えて崩れ落ちる。
気絶をさせた。
まだ、聞きたいことがある。
男の制服を素早く剥ぎ取り、さらしで体を巻いてサイズを調整。
胸がめちゃくちゃ苦しいけど我慢しないと。
黒い戦闘を上に羽織る。
帽子のつばを深く下げ、銀髪を隠す。
鏡で確認多分完璧にできたと思う。
気絶した男は、部屋の奥の余りのベッド下に隠し、手錠をはめておいた。
『兵隊に変装した。トラックに乗る。最終ステージへ』インカムに、低く伝える。
『……無茶しないで』凛の声が、わずかに震える。
ここから脱出する方が多分大変だと思う。
多分行先は玲奈が向かってる港だと直感が教えてくれていた。
『了解。場所が確認したらすぐに連絡する』千景が即応。
私は男たちの作業に混じり、ストレッチャーを押して搬出エリアへ向かった。
少女の一人を運ぶ列に並ぶ。
トラックの荷台が開き、冷たい夜気が流れ込む。
少女たちが、次々と積み込まれていく。
私の番がやってきた。
ストレッチャーを押し、荷台へ進む。
この夜のお陰で誰も疑わないのが幸いした。
トラックの荷台の扉が閉まり、エンジンが唸る。
今度こそ、最終ステージへ。
オークション会場。
そこで、すべてを終わらせる。
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