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【完】紫微綾の事件簿(百合×探偵×バイオレンス)  作者:
4章 Shadowの深淵

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私抜きでのパーティは許さない

(駐車場~事務所・夜22:00)


 病院の地下駐車場から流しのタクシーを拾って、事務所へ向かった。

後部座席に体を沈めて、窓の外を流れる栄をぼんやり眺めた。

赤と青の光が雨上がりの路面に反射して、濡れたアスファルトを血みたいに染めたように見える。

いつも通りの混沌。毒々しくて、騒がしくて、決して眠らない街。

不思議と、この乱雑な輝きが胸の奥に安心する。


 結局、私はこの街の闇が好きなんだろう。

ここでしか生きられない自分がいるような気がする。


 雑居ビルに着いて、タクシーを降りた。

見上げた外階段は、肋骨の痛みのせいか、一段ごとに妙に高く、険しく見える。

手すりを握ると、冷たい鉄の感触が掌に染みてきた。


 息を抑えて、一歩ずつ慎重に登る。

肩の傷が疼くたび、十年前の鎖の重みがよぎる。

それを振り払うように、私は登って行った。


 重いすりガラスの扉を押し開ける。

使い古された紙の匂いと、換気扇の低い唸りが、私を迎えた。

埃っぽくて、狭いけど、いつもの私の居場所がここにある。

ここに戻ると、ようやく息ができる。


 デスクの引き出しを次々開けて、クローゼットの奥から使い慣れた突入道具を手際よく引っ張り出す。

冷たい金属の短刀。刃が蛍光灯の下で鋭く光っていた。

極小の隠しカメラ。頑丈でしなやかなワイヤー。

そして、保存食用の蜂蜜の飴が入ってるパウチ。


 肩の包帯がずれないように、きつく締め直す。


「いたっ!」痛みが走ったけ、とりあえず無視。

その上から黒いジャケットを深く羽織る。

重みのある生地が体を包んで、影に溶け込ませてくれる。


 洗面所の鏡の前に立って、自分の姿と視線を合わせた。

銀髪は乱れて、蒼白な顔に痛みの影が残っている。

赤い瞳の奥には、まだ夢の名残が揺れていた。


 だけど。

体調は最悪だけど、コンディションガスゴブル良い。

多分アドレナリンがドバドバに流れているんだろうね。

唇の端が、わずかに上がる。


 十年前、私を縛り付けていた鎖を思い浮かべる。

今も心のどこかに残っている、あの冷たい鎖。

今夜こそ、この手で粉々に砕いてあげるよ。


「さぁ、最後のゲームをしようか!」


 ローテーブルに腰を下ろして、蜂蜜をたっぷり塗ったパンをかじる。

濃厚な甘さが舌に広がって、ゆっくり喉を滑り落ちていく。

ざわついていた心が、静かな場所へ戻っていくのが分かった。

この甘みのあとに、苦いコーヒーを流し込む瞬間が、最高にいい感じなんだよね。


 カップを傾ける。熱い液体が体の奥を温めた。

余韻に小さく満足しながら、一週間ぶんの調査メモを広げて、頭の中を整理する。


 新栄のクラブ〈シャドウ〉の地下。

複雑な配線が意図的に避けられた、空白の部屋。

VIPリストに並ぶ忌々しい偽名。その背後に潜む、ボスの影。

オークションが終わったら、少女たちが港へ運ばれる秘密のルート。


 みんなの努力が、ようやく一つの形になろうとしている。

玲奈が教えてくれた警察が得た情報。

千景の鮮やかなハッキングと情報網。

凛がそれをまとめて作戦を組み立てた。

笹原さんの貴重な伝手もあったよね。



 私は事務所に厳重に鍵をかけて、路上でタクシーを拾った。

新栄の現場付近、目立たない路地裏で車を降りる。

映画や小説みたいに、自分の車で現場まで乗り付けるなんて。

私から言わせれば、無謀の極みだ。

大きな鉄の塊は目立つし、何よりこの辺りの表通りは夜でも人が多い。


 少し離れて降りてから歩いた方が確実だ。

私はそう確信している。

黒いジャケットの(えり)を立てて、銀髪を影に隠す。

闇の中へ、静かに溶け込んでいった。


(新栄 クラブ『シャドウ』付近 夜23:50頃) 


 空を焦がすようなネオンの光が、夜の闇を容赦なく切り裂いていた。

赤と紫の暴力的な輝きが、路地の壁を血のように染め、クラブ『シャドウ』から漏れる重低音が地面を震わせ、胸の骨を直接叩く。


 鼓動のように響くビートが、肋骨の傷を疼かせながらも、アドレナリンを静かに高めていく。 

入り組んだ裏路地に到着すると、そこにはすでに玲奈と凛が待機していた。

上空を、静かに羽音を殺して舞うドローンも見える。

千景も、画面越しに目を光らせているのだろう。 

玲奈が焦燥を滲ませながら地図を広げ、指先がわずかに震えている。

あれでは成功するのも成功しないでしょうが全く。


 凛はタブレットを鋭い手つきで操作し、画面の青白い光が彼女の横顔を冷たく照らす。

玲奈の目は連日の疲れで赤く充血し、凛の革ジャンが冷たい夜風に揺れていた。

全く。私を心配して看病してくれたせいで、二人の疲れが外目にも痛々しくわかる。

どうせ、私が車に轢かれたせいで動揺して、冷静な判断力まで低下しているんだろう。

こんな状態でどうやって成功させる気だってえの


 三人揃って無茶すぎる。

普段はブレーキ役の玲奈までGOを出しているんだから、相当無理をしているに違いない。 


「おい、お前たち。何をしてる」 あえて声を低く、玲奈たちに鋭く声をかけた。

二人が振り向くが、その反応は一瞬だけ遅い。


 ここはもう敵のテリトリーなのに隙ありすぎ。

怪しい人間に声をかけてくるような親切な奴なんていない。

怪しい影があれば、即座に倒した方が早い。

それが鉄則なのに。甘すぎだよ。

実際は知らないけど、私はそう考えてる。 


 私は玲奈の顔面に向かって、容赦なく拳を放った。

拳が空気を切り裂く鋭い音が路地に響き、彼女の鼻先数センチでピタリと止まる。

寸止めは狙いのところで止まった。うん、完璧だね。


 玲奈の息が止まり、目が見開かれた。

凛の手からタブレットが滑り落ちそうになり、上空のドローンが動揺を映すように不規則な旋回音を上げる。


 イヤホンからは、千景の「綾、無茶しないで!」という悲鳴のような叫びが飛び出した。


「そんな鈍い反応じゃ、潜入は任せられないよ」


「綾……っ!!」三人の驚愕が、重なり合った。


 玲奈の声は震え、凛の目は一瞬で射抜くような鋭さを取り戻す。

千景の悲鳴が耳に残る。

全く声がうるさいってば

女三人寄ればなんとかだね。

ここは敵地なんだよ、お嬢さん方。わかってるのかな?


 心配してくれるのはわかるけど、今は止まるわけにはいかない。

すべてが終わったら、死ぬほどゆっくり休もう。

……でも、この三人の姿を見て、今更ながらに思った。

 

 元々は私と割り切りな関係だったはずなのに。

いつも顔を合わせても、表面上の喧嘩を避けているだけだと思っていた。

でも今、彼女たちは目に見えて強い絆で結ばれてるようにも見える。

なんだかそれは私の胸を熱くして嬉しくさせていた。


「私がいく。みんなは計画通りに動いて。それに、現役の警官が勝手に潜入して職を失うようなことがあったら、親父さんに顔向けできないでしょ。他はバックアップをお願い」二人の顔を見てそうやって伝えた。


「それにさ、倉庫で捕まえたあの男。あいつは十年前の生き残りだったのを思い出したんだ。つまり、これは私がけりをつけるべき事件(やま)なんだよ」 

私はそう説得し、愛用の短刀を強く握りしめた。

 

 玲奈の瞳が激しく揺れるのが見えた。

 

「綾、無茶よ……!事故があってコンディションだって最悪なのに。お父さんも亡くなって、これ以上、貴女まで失ったら……!」 


 その言葉だけでわかる。

そんな精神状態で突入すれば、向こうの連中の良いおもちゃにされるのがオチだ。 

凛が玲奈の肩にそっと手を置き、諭すように軽く叩いた。


「悔しいけど、潜入技術が一番高いのは綾だ。その判断に従おう。それに玲奈、やはり今のあんたは普段の冷静な状態じゃない。私たち全員が褪せてったかもしれない。綾の言う通り悔しいけどさ、このまま行けば、失敗する可能性が高い」


 流石は凛だ。

こういう冷徹なまでの客観性には、本当に助けられる。

「私たちは計画通り、バックアップに専念する。千景、カメラをハックしろ」


『了解。ドローンで完璧なルートを確保するよ』 


イヤホン越しに、千景の声が即座に力強く応じた。


 玲奈が手に持ったノートを、指が白くなるほど握りしめ、私を真っ直ぐに見つめてくる。

 

「……わかったわ。港は私が責任を持って抑える。生きて、必ず生きて帰りなさいよ、綾」 


「うん。死ぬ予定なんて、残念ながら私の記憶にはないから大丈夫だよ」


 三人の心配を一身に浴びながらも、最後は凛がニヤリと笑って場をまとめた。


 「うちの暴れん坊のお嬢様が、どうしても自分でケリをつけたいんだってさ。私たちは最後まで、その影を支える。多分、それが一番成功率が高い」


 誰が暴れん坊のお嬢様だ!あんたたち、自分の顔を鏡で見たことある?

全く、時代錯誤かもしれないけど、あんたたちの仕事は基本、男性中心の世界でしょうが。

私は心の中で毒づきながら、反論した。


 まあ、反論している時間も惜しいけれど。 

私はジャケットの(えり)をと立て、時計の針を確認すると、裏口にある隠し扉へと足を踏み出した。

 

 背中を照らす不夜城のネオンが、忌々しい鎖の夢を押し流していく。

少年少女を家畜のように使い捨てる者たち。

そして、十年前のあの日の私。

そのすべてに、今日、私が決着をつける。

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