10年前の悪夢
⚠️ この話に関するご注意
本作は物語の性質上、以下の描写が含まれます。
過激な性暴力および肉体的・精神的な蹂躙描写
尊厳の破壊、心的外傷に関する表現
一部、官能小説に近い濃密な絶望描写
これらは主人公・紫微綾の過去と、彼女の「白銀の髪」に隠された真実を描くために不可欠な要素として執筆しておりますが、非常にショッキングな内容となっております。
読者の皆様におかれましては、上記をご理解いただいた上で、ご自身の判断にて読み進めていただけますようお願い申し上げます。
※本作はR15(15歳未満観覧禁止)として投稿しておりますが、描写の過激さには十分ご注意ください。
※本作品は、監禁、性暴力、その他いかなる犯罪行為も肯定・助長・称賛する意図は一切ございません。 主人公が受けた深い傷と、その後の葛藤や再起を描くための演出として描写しております。
これは、十年前の悪夢だと理解した。
櫻華流を習い始めてから見なくなったあの夢だ。
暗く湿ったコンテナの内部。
鉄の壁が冷たく息づき、天井から滴る水音が絶え間なく、狂おしいほど規則的に響く。
空気は重く淀み、鉄錆と汗、そして男たちの体臭が混じり合った腐敗した匂いが、鼻腔を容赦なく犯す。
息をするたび、喉が焼けるように痛かった。
あの時の私は、錆びついた冷たい鎖で手足すべてを繋がれ、膝を抱えて硬い床に座らされていた。
手首と足首の鎖はあまりに重く、わずかに身じろぎするだけで皮膚を無慈悲にえぐってきて、血がじわりとにじみ出ていた、
生暖かい血の感触が伝わってくる。
すでに擦り切れた傷口は熱を持ち、心臓が脈打つたびにズキズキとした鈍い痛みが這い上がる。
艶やかだった黒髪は乱れ、肩にべったりと張り付き、汗と涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
勝気だったはずの心も、絶え間ない恐怖によって気力を削り取られ、ゆっくりと、けれど確実に崩れ始めていた。
月明りは一筋も届かず、ただ底なしの闇だけが私を包み込む。
男たちの荒い、欲望に満ちた息遣いが闇を震わせ、私の鼓膜を汚し始めていた。
心の中では、幼い頃の記憶が断片的にちらつく。
優しい手が私の髪を梳いてくれた、あの柔らかな指先の感触。
私の赤い瞳を美しいと褒めてくれた、あの温かな声。
誰かはいまだにわからないけど、そんな幸せな記憶が。
今、手の届かない遠い幻のように溶け、闇の中へと消えていった。
どうしてここにいるの?
どうして私だけが?
なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?
答えのない問いが頭を駆け巡り、闇に飲み込まれ手は自問をするのが繰り返されていた。
そうしないと胸の奥で、小さな恐怖の種が急速に膨張し、私の肺を締めつけ、呼吸を奪っていくのが嫌だったから。
「商品として完璧だな」
低い、耳の奥に粘りつくような嫌悪感を催す声が響いた。
男の影が近づく。三十代後半、剃り上げの頭に禍々しい龍のタトゥー。
組織の運び屋で、ボスの手下だ。
思い出した。先日、私の前に現れたあの男と同じ顔、同じ悪臭だった。
乱暴な手つきで黒髪を掴まれ、顔を無理やり、首が折れるほどの力で引き上げられる。
赤い瞳が怯えで激しく揺れ、熱い涙が勝手に頰を伝い落ちた。
抵抗しようと腕を動かすが、鎖の重みと恐怖に縛られて力が入らなかった。
「お前みたいな珍しいガキは、高く売れるぜ。アルビノめいた白い肌、血のような赤い目……客どもが狂喜しやがるのが目に浮かぶ」
その言葉が、心臓に毒の棘のように深く、深く刺ささった。
私は『商品』なの? 私は人間だよ?何でそんなこと言うの
胸が締めつけられ、息が極端に浅くなる。自分自身という存在が、急に汚れた存在になった気がした。
違う、私は、そう必死で否定しようとするのに、喉が引きつって声にならない。
必死に抵抗しようと私が口を開いた瞬間だった。
耳元で、男のジャージのジッパーが下りる、あの金属質で冷酷な音が低く鳴り響いた。
その直後だった。
言葉になる前の悲鳴を飲み込むように、男のおぞましい塊が、私の喉の奥深くまでを容赦なく貫いた。
胃の底を直接突き上げられるような、激しい吐き気がする強烈な圧迫感がきた。
肺から全ての空気が逆流し、完全に塞がれた喉の奥で、私の叫びは行き場を失って虚しく消える。
無理やり広げられた顎の関節が外れるような激痛に、視界は白く火花を散らし、生理的な涙が溢れて頰を濡らした。
乱れた黒髪が額に張り付き、汗と涙、そして溢れ出る唾液で顔がぐちゃぐちゃに覆われる中、
男は私の髪を力任せに掴み、喉の奥を壊すように執拗な蹂躙を繰り返す。
呼吸ができなくて、鼻を突くのは、男の脂ぎった不快な臭いだった。
喘ぐことすら許されず、異物が喉を塞ぐ生々しい音と、男の下卑た吐息が、逃げ場のない私の頭蓋の中に直接響き渡った。
人間の尊厳を泥水で塗りつぶされ、ただの「器」として弄ばれる絶望が、私の身体を内側から粉々に壊していく。 鎖がガチガチと鳴り、私の細い手首をさらに抉る。血と唾液が混ざり合い、床を汚していくのが見えた。
「もう・・・許してください…や……め……て……おねがい……っ」
男のおぞましいものが口から離れた瞬間私はタトゥーの男に哀願した
扉が開きもう一人の男が入ってきた。
「次は俺の番だ。ボスが試せってよ。……いい顔してるじゃねえか」
絶望が上書きされる。
一人目の男の冷笑を背に、二人目の肥大した体躯の男が、私の逃げ場を塞ぐようにのしかかってきた。
「やだ……、こないで……っ」
悲鳴は再び、無慈悲に喉の奥へと押し戻される。
今度は下腹部を貫く、身体が真っ二つに裂けるような激痛。
口内を蹂躙され続け、同時に下からも汚されていく。
上下から挟み込まれるようにして、私の身体はただの聖のはけ口として、徹底的に、そして執拗に弄ばれ続けた。
「ボスに報告だ。このままいけばいい感じだ。お前の『価値』はきっとさらに上がるぜ!」
私は、人間だよ。あなたたちと同じように感情を持った人間なのに、何で物扱いなの……?
叫びたい。けれど、自問する力さえ、凌辱されるたびに削り取られていった。
繰り返される男たちの訪れごとに、自己の輪郭がぼやけ、失われていく。
彼らは、私の身体のどこをどう弄れば、意志に反して熱が跳ね上がるのかを熟知していた。
痛みと快楽は私の肉体を無残に破壊し、吐き捨てる汚らわしい言葉は私の精神を鋭く削り取った。
心は死にたいと叫び、これ以上汚されることに激しい嫌悪を感じているのに、痛みと快楽は私の肉体を無残に破壊し、吐き捨てる汚らわしい言葉は私の精神を鋭く削り取った。
「ほら、ここが震えてるぜ。身体は素直だな」
「恐怖と快楽を同時に教え込めば、最高の『商品』に仕上がるんだよ」
嘲笑混じりの言葉が、毒のように鼓膜から浸食してくる。
自分の身体が自分のものではなくなっていく、おぞましい感覚。
彼らが私の身体を知り尽くしているという事実が、何よりも私を絶望させた。
逃げ場など、肉体の内側にさえ残されてはいなかった。
もう、終わって欲しい。
消えてしまいたい。
この冷たく汚れた闇に、永遠に沈んでしまいたい。
どれだけの時間が経ったのか。
時間の感覚さえも、男たちの汚らわしい愛撫と暴力に塗りつぶされ、消失していく。
男たちの影が幾度となく訪れ、私の身体を打ちつけ、鎖を鳴らしては去っていく。
繰り返される専門的で執拗な暴力。繰り返される、言葉にするのも汚らわしい屈辱。
血と汗と、強制的に引き出された汚濁の液、そして淀んだ欲望の臭いが逃げ場のないコンテナを満たし、私の感覚を、人間としての誇りを、一つずつ確実に殺していった。
叫ぶ力もなく、涙さえも枯れ果てた。
この頃の私は、もう抵抗する気力すら奪い尽くされていた。
ただただ従順に、与えられる地獄に耐え続けるだけの生きた愛玩人形になっていた。
恐怖と絶望の極限で、最後の心の糸が完全に切れ、私の尊厳は、修復不可能なほど粉々に砕け散った。
その、瞬間だった。
胸の奥底で、何かが激しくうごめいた。
それは諦めなどではない。砕け散った尊厳の欠片が、鋭い刃へと研ぎ澄まされていくような、おぞましい感覚だったかもしれない。
恐怖が頂点を突破し、爆発寸前の静けさの中で、心の底から凍てつくような冷たい炎が私の中から噴き出していた。
艶やかだった黒髪が、魂の崩壊を、この世との決別を映し出すように、根元から白く、恐ろしい速さで変色し始めたのだ。
一房、また一房。
かつての「私」を形作っていた艶やかな黒が剥げ落ち、闇を切り裂くような白銀の糸が現れた。
急速に広がる白銀の髪は、闇の中で不気味に、そして冷酷に輝いていた。
アルビノのような白い肌と血のような赤い目、そこに死人のような銀髪が加わり、私はもはや人間ではなく、完全に壊れた人形のようでもあり、あるいは、復讐を誓う化け物のようだった。
男たちの下卑た嘲笑が、その異様な変化に気づいたみたいだった。
「おい、見てみろ、髪が真っ白になりやがった! ますます珍しい商品だな、これなら言い値で売れるぜ!」
笑い声がコンテナに響いた。
銀髪が血と汚濁にまみれた床に広がり、私を縛り付ける冷たい鎖に絡まる。
男たちは、私の魂が死に絶えたことなど露ほども知らず、新たな「価値」に狂喜して再び私に群がった。
もはや痛みも、屈辱も、私には届かない。
人形のように光を失った瞳で、ただ天井の一点を見つめる。
繰り返される最底辺の暴力、容赦なく肉体を突き刺す男たちの欲望。
そのすべてを、私はただの記録として、冷え切った脳の奥に刻み込んでいく。
私は、人間であることを、何も知らなかった少女であることを、完全に捨て去った。
愛玩人形という殻の中で、ただ一つ、絶対にこの恨みをはらしてやるという感情だけを持った。
コンテナを揺らしていた男たちの荒い息遣いが止み、重い扉が閉ざされれた。
暗闇に戻った静寂の中で、私の銀髪だけが冷たく、どこまでも冷たく輝いていた。
突然、鉄扉が爆音を立てて弾け飛んだ。 眩いばかりの光が差し込み、あの人と、たくさんの屈強な影が飛び込んでくる。 私は恐怖の頂点で、すべてを諦め、光さえも呪って目を閉じた、その時だった。
男たちが次々と倒されていく鈍い音。
「大丈夫か! 助けに来たぞ!」
あの人の声が、私の全てを覆っていた闇を、一刀両断に切り裂いた。
鎖が外され、冷たい空気が、晒されたままの私の身体を包み込む。
あの人の力強い腕に抱き上げられ、人間の温もりを感じた瞬間、枯れていたはずの涙が、堰を切ったように止めどなく溢れ出した。
私は……助かったの?
けれど、一度砕かれた魂は、もう元には戻らない。
身体には消えない傷が刻まれ、心には永遠に消えない。
見えない鎖が残り、髪は白いままになった。
私の魂は、あのコンテナの中に、砕けたまま置き去りにされていた。
「――っ!!」
そこで、私は目醒めた。
あまりにも白く、消毒液の匂いが鼻腔を突く病室のベッドの上で。
ピッ、ピッという規則的な機械の音だけが、私の不揃いな鼓動をなぞるように、静まり返った部屋に響いていた。
「紫微綾の事件簿1 鎖の記憶」をお楽しみいただけましたか?
もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!
皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!




