表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完】紫微綾の事件簿(百合×探偵×バイオレンス)  作者:
2章 潜入の鎖

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/35

事情聴取と準備 後編

(金山 白波探偵事務所・午後2時)


 玲奈との待ち合わせが金山で、本当に助かった。

このまま次の目的地に直行できるし、次の待ち合わせ相手時間に厳しいんだよね。


 白波凛の事務所は、雑居ビルの五階。重厚な鉄扉の向こうだ。

ノックすると、すぐに鍵が外れる音がして、扉が開いた。


 そこに立っていたのは、いつもの革ジャン姿の凛。黒髪を短く切り揃え、鋭い目が私を射抜く。

探偵仲間で、割り切りの関係の一人。私とは正反対のタイプ

ハイテクを駆使して情報を操る、デジタル探偵であり頭脳派って感じ。


「よっ、遅い」短く言って、凛は私を中へ招き入れる。


 事務所内は、トリプルモニターが青白く輝いていて、埃っぽい空気と革の匂いが混じり合ってる。

デスクの上は散らかったケーブルと空のコーヒーカップが山積みで、彼女の忙しさがそのまま形になってる感じだった。

 相変わらず稼いでるなぁ。私の事務所なんて閑古鳥が鳴いてる日が多いのに、こういうハイテク環境、

羨ましいけど、全くわからないから、部屋にあっても多分扱いきれないんだろうね。


 ソファに腰を下ろそうとした瞬間、ふと視線がメインのモニターに吸い寄せられた。

なんか、既視感を感じた。

画面に映ってる景色、どこかで見たような。

え?数分前の、喫茶店での玲奈とのキスシーンが、バッチリ映ってるじゃない!


「綾、朝から殺人事件に巻き込まれてるっていうのに、お盛んな事で」凛が、口元を歪めてニタニタ笑ってる。

完全にからかうモードだ。


「のぞき見なんて趣味悪いなぁ」私はムッとして、ちょっと不機嫌そうに反論した。


「たまたま、私のアンテナにひっかかっただけよ。それに私の庭でこんなことしてたらね」


 凛は肩をすくめて笑うだけ。モニターの録画がズームインされて、玲奈の唇が私の頬に触れる瞬間が大写しに。タイムスタンプは午後1時15分、秒単位まで記録されてる。恥ずかしさが一気に込み上げて、頬が熱くなった。


「覗き趣味があったなんて、知らなかったよ……」小声で呟くと、凛の笑いがさらに深くなる。


「まあまあ、冗談。

でも玲奈さんとは相変わらず熱いじゃん。私ともそうだし、千景とも続いてるんでしょ。

罪づくり。……そのうち後ろから刺されるよ」


 私はため息をついて、ソファにどっかり座った。

はいはい、私は「女性にだらしないわよ。ごめんなさいね」そう口をとがらして反論した。

凛の笑いがさらに深くなって、むっとしたのが自分でも分かった。


赤面しながらも、これ以上からかわれたら立場が悪くなるだけだって判断して、私は慌てて本題を切り出した。


「もう、いい加減にしてよ。……これ、池田公園で拾ったQRコードの欠片。千景と玲奈から聞いた情報もまとめておくね」


 そう言って、ポケットから折り畳んだ紙とメモリーカードを凛に差し出す。

凛の顔から、からかうような笑みがスッと消えた。


 真剣モードに切り替わって、欠片を受け取り、すぐにデスクに戻る。

彼女の指がキーボードを高速で叩き始める。


 カタカタカタ、クリック音が部屋に響いて、凛の集中力がビシビシ伝わってくる。

トリプルモニターの一つに、データ解析のグラフが表示されて、緑のラインが不規則に揺れ動く。

 

 数分後、凛が口を開いた。


「位置追跡付きの罠だね。全く厄介な事をしちゃって。OK-2は女の子を高級売春ルートに誘導する選抜コース。ちなみにOK-1は男の子用の力仕事とか労働力に誘導するコース。OK-0は1も2もあてはまらない人たちだと思う。ただ0はこちらでも引っかからなかった。そして3時間で死ぬトークン設計は証拠隠滅用。10年前の『深淵』組織がAIとダークウェブでデジタル進化したパターンだね」


「千景のデーターと怜奈の情報でよくここまでわかるよね」

私は素直に感心して呟いた。凛は肩をすくめて、得意げに笑う。


「そりゃそうでしょ。大半のデータはもう送られてきてたから。千景の情報屋からね」


「私だったらもっと時間かかってるわ」

画面が切り替わって、今池の詳細な地図と雑居ビルの設計図が表示される。


「偽QRもこの中にあるから。バックドアのデーターもある。千景は綾の行動読んでるよね。私がこれの続きをして、組織のサーバーに逆侵入すればいいかな。こういう頭を使う作業は私が得意だしね、綾は不得意だけど」


 コンピューターのピコピコ音とか専門用語は正直よくわからない。

最低限のメールとかネット検索ができればいい派だから、


 今はただうんうんと相槌を打ちながら聞いてるけど。

正直、何でこれがQRコードになるのか、全然イメージできてない。


凛が続ける。「あの馬鹿正直な玲奈は信用できるけど、癒着があるから警察は当てにならん。早めにやったほうがいい。今夜潜入するのがいいと思う」


 設計図の上に赤いマーカーが引かれて、潜入ルートが浮かび上がる。

地図の隅には、衛星画像の拡大が表示されてて、夜の闇が濃く映ってる。


 衛星マーク?まさか、衛星を勝手に使ってる?

千景にしろ、凜にしろ、これやってもいいことなの?いや、見なかったことにしよう。

私はそう決めた。凛の目が私を捉えて、静かに言ってきた。


「準備は任せて。綾は、いつもの“脳筋”で突っ込んでいけばいい」


 それは失礼な言い方じゃない。


 ふいに、凛の目が私のトラウマを探るようにじっと向いてきた。

まだ会ってもいないのに、知らないはずなのに……まるで見透かされたみたいに、私の深淵の底を覗き込まれるような視線を感じた。


 赤い瞳をまっすぐ捉えて、逃がさない。

本当に深淵の残党なんだろうか?

一瞬、警戒心が背筋を走ったけど、すぐにそれは違うとわかる。


 凛はただ、私の弱さを嗅ぎ取ってるだけだとおもう。


「一人で突っ込むなよ。組織の動きが気になる」そう言って、凛の手が私の肩にそっと触れた。


 その瞬間、体が勝手に反応してしまった。熱が伝わってきて、息が浅くなる。

ソファに押し倒されるようにして、キスが始まる。


「ばっ、こんな時に……」抗議の言葉はすぐに唇で塞がれて、革の匂いと凛の強さが一気に混ざり合う。


 服が乱暴に落ちて、ベッドに体を重ねる。凛の指が私の背中をゆっくり辿って、耳元で囁く。


「お前は脆いな」


 10年前の鎖が幻のように足首を締め付ける感覚が蘇るけど、凛の体温がそれを溶かしていく。

熱くて、優しくて、逃げ場のないくらいに包み込まれる。

ベッドが軋む音が部屋に響き、汗がシーツに染みていく。

彼女の革ジャンが床に落ちて、静寂が戻る頃には、私の息は完全に乱れていた。


「なに仕事前から疲れさせるの? ばかなの、あんたは? このけだもの」

ベッドの端に座りながら、弱々しく睨むと、凛はコーヒーを淹れながら肩をすくめた。


「そんな小動物みたいにおびえてる感じだったから、緊張をほどいてやったんだろ。安心しな、脳筋なお前と違うから、今回は私がカバーする」


 事後、コーヒーをすすりながら計画を詰める。

湯気が立ち上って、部屋の空気を柔らかくする。


「決行は今夜9時。今池潜入。クラブで情報引き出して行動する。後ろはよろしくね」


 私はそう言って、凛を見た。凛が頷いて、悪戯っぽく笑う。


「この事件を終わらせて、先ほどの続きを安心してやろう」


 コーヒーの湯気が頬を温めて、緊張が少し和らいだ。

カップをデスクに置く音が、カチンと軽く反響する。


「本当にそればっかね……」


「ストレス解消と軽い運動にはそれが一番だしね」

凛の言葉に、思わず苦笑いが漏れた。


(準備・午後4時~7時頃)


 事務所を出ると、雨はすっかり上がっていて、空が少し明るくなってる。

安田さんの死、舞ちゃんの行方、10年前のトラウマ……頭の中をぐるぐる巡る。

ただの家出捜索だったはずなのに、こんな面倒なことになるなんてね。


 路地で立ち止まって、櫻華流の「静心(せいしん)」を試みる。

深呼吸を繰り返して、胸の鼓動を抑えようとするけど、全然落ち着かない。

凛の言葉が脳裏に残る。


 深淵の残党が動いてるなら、舞ちゃんはもう危険かもしれない。命は大丈夫でも、人生が終わってしまう可能性がある。


コートの下でナイフを握る。刃の冷たさが手のひらを刺して、指先が震える。10年前の鎖の感触が、ふっと蘇って、寒気が背筋を走った。


 事務所に戻って、凛と装備を点検する。

隠しカメラ、ワイヤー、偽QR。一つずつ確認しながら、作戦を再確認した。

凛がモニターで画像を拡大して、「新栄倉庫の裏口が狙い目」と指摘する。

不安が顔に出てるのがバレてる気がして、ちょっと気まずい。


 黙って頷いた。革のナイフホルスターを腰に装着すると、ナイフの重さが不思議と安心感をくれる。

モニターのファンが低く唸って、部屋に微かな振動が広がる。

今夜、すべてを決める。舞ちゃんやそこにいる少年少女達を救って、過去の鎖を断ち切ってみる。

私は静かに息を吐いて、決意を胸に刻んだ。


夕方、スマホが震えた。千景からの連絡だ。

スピーカーに切り替えると、いつもの落ち着いた声が流れる。


「新栄倉庫の衛星画像、動きあり。10人以上の熱源確認。罠の可能性高いよ」


「今回、千景も手伝ってくれるの?」


「凜に、私もいた方が成功率上がるって言われてね」


「二人もお願いするほどお金ないんだけど」


「足りない分は身体で支払ってもらうから」


「バカじゃないの。全く」


「何考えてる?私は肉体労働してもらおうと思ったんだが」


「もぅ」


ああ言えばこう言う。私が口げんかで勝てるわけなかった。


 凛がすぐにモニターを操作し始めて、画像を拡大しながらルートをシミュレーションする。


「裏口から潜入。カメラはここを回避して……」


「綾、気をつけろ。10年前の傷が開く前に戻れ。命を大事に行動して、ここで失敗してもリカバリーは出来るから」

千景の心配する声がスピーカーから漏れた。心配が滲む声に、胸が締め付けられる。

でも、頭に浮かぶのは舞ちゃんの顔。──もう一人の私を生ませるわけにはいかない。

あの子の未来を、闇に奪わせない。決意が、ますます強くなった。


 事務所を出て、凜の車の助手席に座って頭を整理した。

やるべきことは頭に入れた。


 6時、千景と連絡を取り合い、装備の最終確認。彼女の声がイヤホンから届く。

「綾、冷静な判断をしてね。確かあんたの学んだ武術で大事な事だったと思うけど」

厳しい口調だけど、それが逆に心強い。

私はナイフを手に取り、何度も抜き差しを繰り返す。


 櫻華流の「流転(るてん)」をイメージして、体の動きを滑らかにする。

息を整え、緊張を少しずつ和らげていく。


 路地の街灯がチカチカと点滅して、影が不規則に揺れる。

冷たい風がコートをはためかせ、戦いの予感が肌を刺す。


 夜7時、今池へ向かってもらう。

ネオンが濡れた街を妖しく照らし、クラブから漏れる重低音が遠くで響く。

駐車場に車を停めて、身支度を整えた。


 キャップを深くかぶり、コートで顔を隠す。

千景が最後にイヤホンを渡して、「通信は私に任せろ」と短く言った。


 雨はもう弱まって、ネオンの光がアスファルトに反射して揺らめく。

車内のラジオからはノイズ混じりの音楽が流れ、時折ニュースが途切れる。


 凛の声が耳元で響いた。

「組織の動きが活発だ。画像に新たな熱源が追加された」


 心臓が早鐘のように鳴って、掌に汗が滲む。


「無線で千景と連携するから、安心しな」


 凛の笑い声が、少しだけ緊張をほぐしてくれる。

緊張がピークに達する。

いよいよ今夜すべてを終わらせる。

私は静かに息を吐き、闇の中へと歩み出した。

「紫微綾の事件簿1 鎖の記憶」をお楽しみいただけましたか?


もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!


皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
綾の長編シリーズ!
【2部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~
他の長編もよろしくね~!
※R15・残酷描写あり。苦手な方はご注意!

他の長編もチェックしてね
2. Liebe(一部完)
学園物百合小説
3. 白雪様と二人暮らし
女子高生と仏様とのほのぼの百合小説
※R15・基本性的描写・残酷描写あり。苦手な方はご注意!

もっと知りたい人はTwitterで更新待ってるよ~
@VTuberAya_Nanjo
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ