e01E.ファスター・ザン・ライト
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「ご覧くださいまし」
レーヤはスカートを持ち上げて、ゆらす。シールドが波を描いて全身を巡る。
「いくつもの組織を壊滅に追いやったその鎧を目指して、ようやく完成したんですのよ。新素材の筋繊維で織り上げたドレス、お目にかける機会に恵まれ、幸いですわ」
「ああ? だからなんだってんだ、オキャン」
「フ……フフフ」
イヤそうにレーヤは眉をひそめる。
「まだわたくしをそのように呼ぶのですわね、お姉さま」
今度はヴェローチェに鳥肌が立った。
あー、やだやだ。
「はッ……オレのケツを追ってきた蓮っ葉が、今度はジョロウにケツを振ってるたぁな」
「わたくし、感謝しているんですのよ。あなたのそばにいられた一年八ヶ月と十三日プラス九時間に。――ええ、そうですわ!」
ひとりでテンション上げるレーヤ。
ドレスに埋まるジュエリーのひとつが輝いて、酒場いっぱいに立体映像が展開。
うーわ。
そこには昔のふたりが――アニメ調の粉飾まみれで。
「銀河中心核外の豪商の元に産まれ、幼気で無知な学生であったわたくしは、あの日! お姉さまとドラマティックな出逢いを果たしたのですわ! 学生旅行の最中、野蛮極まりない宇宙海賊に襲われた船内、懸命に生き延びようと短剣を握るわたくし……! 少女をいたぶろうと企む下品な男に風穴を開けたのは……そう! 凜々しきお姉さま!」
だれだこいつ。
ビュン、と謎の効果音と十文字の光とともに現れた黒い姿の……色男? オレなのか?
そもそもお前は泣きべそかいてぶっ倒れてたろうが。
「苦境においても気高さを忘れないわたくしとお姉さまは、すぐに通じ合いましたわ! その決断は、たしかに衝動的なものでしたが、後悔の無い選択でしたの。わたくしは親も、友も、約束された未来も投げ打って、お姉さまに付き従うと決意したのです!」
体が回復してからオレを探し出してきたんだろうが、家の経済力使ってよ。
「そして! 悪しき海賊を追って銀河外縁への旅が始まったのですわ! 極小戦闘機を操る不敵なお姉さまと、その背にしなだれるわたくし! 飛び込んだワープは数知れず! 海賊船を見つけては鮮やかに殴り込み! 迫り来る男どもをばったばったと薙ぎ倒すお姉さまと、ライフルで巧みに援護するわたくしの姿には、だれもが羨みましたわ!」
お前はイードラを盾にしてむちゃくちゃに撃っていただけだろうがよ。
「銀河広しといえども、ふたりに傷を刻める者はいなかったでしょう! 異体同心を体現する絆は、嗚呼、二輪薔薇!」
ただし、映像の中のイードラは、まるでカプセルみたいな宇宙船で。
こいつは結局、モトステラに乗る理由を、理解しないままか。
「お姉さま」
赤い花びらが舞って、映像が途絶える。その向こうでレーヤが手を差し伸べていた。
「ようやくお迎えできますわ、あなたを」
「は?」
「今度はわたくしがあなたを救うのです。ともに新たな人生を歩みましょう!」
なにを言い出すかと思えば、ずいぶん素っ頓狂な勧誘。
「本気で言ってんのか」
「ジョロウグモとともにあれば、男におもねって生きることから永遠に解き放たれるのです。男がまとめる暴虐極まりない宇宙海賊、旧時代的な新銀河連合と戦って、銀河に新たな秩序を創りましょう! あなたとわたくしの力が合わさるとどうなるか……知らしめてやるのですわ!」
「あのなぁ」
隣で呆気にとられている間抜けを指差す。
「こんなのにビビって寄り合ってるお前らの方が、よっぽどキュウジダイテキ意識持ってると思うがよ。くだらねぇ活動にオレを巻き込むじゃねぇ」
「か、活動ですって?」
「もっともオレが知るジョロウは、その程度の感性で海賊やってるようには見えなかったがな。落ちぶれたもんだぜ、あいつも。お前みたいなオキャンを登用するなんてよ」
「ジョロウを馬鹿にしないでくださいまし!」
オンナどもの銃口が一斉に向く。
「あの方は、あなたに置き去りにされたわたくしを拾って、ここまで育ててくださったのですわ!」
人聞きが悪ぃ。勝手にお前が着いてきて、勝手にどっか行っただけだろうが。
「いまや、巡洋艦十二隻と駆逐艦三〇隻を束ねる小艦隊の旗艦を任される身。ジョロウグモの未来を左右する重要な任務さえ、与えていただける位にまで昇り詰めたのですわ!」
重要な任務ねぇ。
「すべて、ジョロウの支えあってこそ! 風来坊のあなたにはできないことですわ!」
「はッ……それが本音か?」
「わたくしは、あなたが好きですわ……いいえ、愛していると言ってもよいでしょう」
とりまきが吐息を漏らす。なんなんだこいつら。
「その気概に心奪われたのです! ジョロウグモの一員としてともに歩んでいただけるのであれば、わたくしは――」
これっぽっちもそそられない。
カウンターに残していた酒をあおって、怯えるバーテンダーに支払いを済ませる。
ヴェローチェのその様子に、レーヤは閉口していた。
「与太話は終わりだな。じゃ、オレは行くぜ」
「フ……フフフ、わかっていましたわ」
絞り出すような声。
「わたくしの想いだけでは、あなたを誘い込むなんてできないことは。だからこそ……」
盗難通知!
鎧が知らせた通知は、無人のモトステラに手を出したバカがいるって意味だ!
なにもせず去るつもりだったんだが、ふざけた真似しやがって!
「お前、オレの単車に手ぇ出したらどうなるか、よーく知ってんだろうが」
周りのオンナよりも頭ひとつ分抜きん出たヴェローチェの凄みに、レーヤは涙目になりながらも真っ向から立ち塞がった。
褒められた度胸じゃねぇ。
「だからこそ、ですわ。わたくしはあなたと――」
「見下げ果てたオンナだな」
ハーフマスク展開。
戦車砲のようなショルダータックルをカマした。
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