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モトステラ  作者: 達田タツ
episode 00
2/17

e00.アヴァン

   ▼▼▼



「ジジイ、終わったかよ」

「おお、ヴェローチェか。もう暗いからのぉ、こっちから連絡するつもりだったんじゃが」


 ひげ面の、下半身が四本脚の機械になったジジイが、きぃきぃと音を鳴らして現れた。テラフォーミングに失敗して全球砂漠のこの星に、機械の体をさらして何年も住んでいればああもなろう。

 ヴェローチェの長い黒髪と強固な鎧も、エネルギーシールドがなければまたたく間に砂礫の餌食だった。


「ちゃんと仕上げたぞ、オーバーホール。内から外まで、まるで新品のようじゃ」

「ああ。そうじゃねぇと困る」


 指でこめかみに触れると、視界にホログラムが表示される。整備の支払いを済ませようとして――


「いや……いや、カネはいらん」

「はぁ? なんだって?」


 ジジイの四本脚は、今度はぎぃぎぃと鳴って関節を折る。獣がするように、その場に座り込んだ。行儀よく両手を膝に置いて、裏の整備場を振り返る。


「BZ9イードラ、隅々まで素晴らしいマシンじゃった。最後にお前さんのモトステラを弄れて、わしは嬉しかったよ」

「ジジイ、ライフカットするつもりか」


 つまり、死を選択するということだ。他殺でもなく、事故死でもない。人類が老衰を克服した代わりの、選択可能な死。


「モトステラ技士なんて無意味な職だと嘆いとったわしに、仕事をくれたのがお前さんじゃ。じゃから、今回の仕事は完璧なんじゃ」

「オレはまた壊すぞ」


 言うと、ジジイは破顔して声を上げた。


「お前さん、初めて会った時と比べて、ずいぶんと丸くなったのぉ! その調子なら、いずれ嫁の貰い手も出てくるじゃろうな」

「ほざけジジイ。カネがいらねぇなら、オレの単車はもらってくぜ」


 どすんと重い歩みを進める。

 長身のヴェローチェと鎧の重量に部屋は揺れ、天井やら棚やらに詰まった砂がパラパラと落ちた。頭上に降ってきた、年月を経て固まった土塊は、エネルギーシールドの反発を食らって散り散りになる。


「あの子のおかげじゃな」


 ヴェローチェは答えなかった。

 歩みも止めない。


「あの子はまだ生きとるよ、きっと。だから、モトステラを降りるわけにもいかんじゃろうな」


 砂粒の絡んだのれんに手をかける。


「そぉれ行った行った」

「達者でな」



   ▼▼▼



 モトステラ。

 生身をさらしてコクピットにまたがる宇宙機。

 外殻に守られた宇宙船がいくらでもあるのにこんなものを選びたがる、狂人御用達の恒星間往還機。


 ――何百年も前だ。

 地上や宇宙船同士を行き交った一人乗りもしくは二人乗りの小型ビークルで、宇宙船と同じように旅をしたいと考えた大馬鹿者が現れたのは。

 限られた荷物。

 限られた燃料。

 限られた操縦。

 限られた人員。

 そいつは制限だらけの機体で、宇宙服だけを身につけて、旅に出たがった。


 やがて熱意に当てられた間抜けな企業が、真剣に宇宙機としての完成を目指してしまった。一〇メートルぽっちの細長い機体に、強力なFTL機関、可能な限り大きなフューエルタンク、シールドジェネレーター、更には最低限のラゲッジスペースまで、可能な限りぶち込んだ。


 モトステラと名付けられたそれに、どこから湧いてきたか狂人どもは群がって、そして、我先にと星屑の向こうへ消えていった。

 存在はまたたく間に忘れ去られた。

 モトステラも……ライダーたちも……。


 だが。

 数少ない残された機体のひとつがここにある。


 フジワラ社製共通暦四五二四年モデルBZ9イードラ。

 丸くカーブを描いたナイフのようなフロントモジュール。FTL機関の詰まったプレート状のリアモジュール。フロントとリアをつなぐコクピットには座面と、剥き出しのシールドジェネレーター。


 カラーは月白(げっぱく)


 二〇年以上を共にした愛機にまたがる。

 ハンドルを握れば姿勢はやや前傾。

 サイドグラビティアンカーを払った。

 スイッチに触れ、パワーバッテリーからの電力供給を開始。

 夜のとばりにロケーティングライトが真っ直ぐ伸びた。

 手元には金のホログラム・インストルメントが浮かぶ。出力計と速度計が伸び上がり、広域レーダーは踊る。

 それらが落ち着いたのを見計らい、ジェネレーターに火を入れた。


 荒れ地に、大河がとうとうと流れ出す。


 パワー、シールド、FTL……三基のジェネレーターがうなり、右手のアクセルを捻ればさらに快音を響かせる。


 イードラの表面やエネルギーシールドに金色の筋が波打つ。

 右レバーを引けばリバーススラスト、分割された左レバーはそれぞれピッチングスラスト、右足ペダルは緩制動、左足ペダルはヴェロシティ・レンジ……四肢に割り当てられた入力機の感触を確かめた。


「はッ、完璧以上だな」


 ヴェロシティ・レンジを1に、そしてフットブレーキを踏み込んで、アクセルを全開。

 静と動の力に機体が震える。

 鎧からマスクが展開し顔の半分を覆った。


「行くぜ!」


 ブレーキ解放。


 驀進。


 速度は一秒とかからず一五〇メートル秒を超え、速度計が目一杯に振り切れる。

 すぐさまヴェロシティ・レンジを2へ。

 機首を上げ、大気圏離脱コースに。


 ハンドルを握りしめ、ヴェローチェは星界を睨む。


 ……待ってろよ。



   ▼▼▼

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