拱廊
用事が済んだら帰らなければなりません
できるだけとっとと とっとと帰らなければなりません
大理石調の幾何学模様を刻んだ床は
擦り減ったスニーカーの裏ではつるつると
つるつると上滑って歯ごたえなく
ふくらはぎと腿の筋ばかりが強張り
さほども前へ進みません
用事が済んだら帰らなければなりません
さもなければそれそれ陽も落ちる頃
人波越えて掻き分けても 掻き分けても
行く手は強固な肉の壁で閉ざされるばかり
いじましく背を丸めて向かい来る肩を避けても
また別の肩にぶつかるばかり
はたはたとコートの裾裾にも叩かれて
用事が済んだら帰らなければなりません
だから言わないことはない
苛苛をふつふつと ふつふつと眉間に溜めて
冷えきりつつある指先を揉みしだいて
滑る靴底を擦り擦り もたもたと
もたもたと狭い通路をのたうって
アーチの終わり こばるとぶるうを目指します