聖国イグリス
それは、いつも通りの日々でした。
コンロの上でヤカンは鳴き、おうちの隣のパン屋さんからは香ばしいパンの薫りが漂ってきます。
しかし……
「いってきまーす」
そういつものように扉を開けたあたしの目に飛び込んできたのは、とてもいつも通りとは言えそうに無い様な景色だったのでした。
それは……
「わぁ!キレイ!」
流れ星でした。
空から真っ直ぐに落ちてくる無数の流れ星。
それは黄金の雲を割き、次々と黒い大穴へと吸い込まれるように入っていきます。
これはきっとこの国でも高い所だからこそ見れた景色でしょう。
そう考えたら、国の高所への引っ越しを提案してくれた父への感謝が湧いてきました。
「ありがとうお父さん」
仕事で居ないお父さんにそんな念を送りつつ、私がその光景に見とれていると……
「あら、ゴミ出しって今日なのね」
そんなことを言いながらお母さんが玄関から顔を覗かせました。
その言葉に思わず耳を疑います。
「え?ゴミ出し?」
「え?あぁ、トマリは知らないのね。ほら、今降ってる奴有るでしょ?」
「?うん」
「あれ、全部神様のゴミなのよ?」
「えー……あれゴミなの?」
思わずガックリと肩を落とします。
さっきまで美しく目に写ったあれも、いざ正体を知ってしまえばつまらない物で……というかむしろ、汚い物を見せつけられたような気分になってしまいました。
「まぁまぁ、そう肩を落としなさんな。どーせタルタロスに落ちる物なんか全部そんなもんよ」
タルタロス……この国唯一の汚点とも言うべき、この聖国イグリスにぽっかりと空いた大穴です。
話によれば、神様を疑ったりした人はあそこに投げ込まれるんだとか。
なるほど、そう考えれば今落ちているアレがゴミでもなんら不思議では無いですね。
母にポンポンと慰められながらそう考えると、私は「いってきます」を告げ、重い足取りで学校へと向かいました。
残念ながら、今日は憂鬱な1日になりそうです。