役立たずの聖女は田舎で隠居する
さくっと読める聖女系。
「マリアンヌ・ラクシア!聖女の名を騙る役立たずめ!貴様を国外追放とする!」
魔族との戦いに明け暮れていたサーシエル王国に勇者が現れ、国内の魔族をほぼ殲滅した褒賞を与えるとして王城にて催されていた舞踏会で声高々に宣言したのはこの国の王太子、スカラ・サーシエルだ。
そして役立たず、と呼ばれ、国外追放の宣告をされた私はこの国で聖女として務めていたマリアンヌ・ラクシア。ラクシア伯爵家の長女である。
魔族と戦うにあたって聖女とは、癒しの力は勿論のこと、聖なる祈りと力で民と国を守護し、魔を祓う者のことだ。
王国に属する教会に認められた者のみが聖女と名乗る事が許され、無償でその力を使わなければならない。
そんな私を役立たずと呼んだ王太子の隣には、私の義妹であるローズ・ラクシアがこちらを蔑むような笑みを浮かべて見つめていた。
「聖女であるお義姉様は勇者様と共に魔族を退治するべく国内を巡っていたのですわよね?でも勇者様や剣士様が仰るには、魔族は消滅していないそうではありませんか。聖女とは、魔を祓うのではありませんでしたの?」
聖女の役目が何たるかを知らない義妹はそう宣うが、その発言は教会をも敵に回す発言だと何故理解出来ないのか、私は眉を顰めた。
「勇者様はその御力で魔族を斬り払うそうですが、お義姉様は祈るだけで祓う力などないと仰ってましたわよ?そんなお義姉様が聖女だなんて、妹として恥ずかしいですわ」
「魔を祓う力のない貴様など、聖女などではない!役立たずめが、さっさと国を出るがよい!」
ーーふむ。
二人の言い分に、丁度良い、と思った。
幼少の頃に聖女としての力を見出され、教会に閉じ込められてから早十数年。
最初の頃は頻繁に連絡を寄越してくれていた両親からの手紙もいつの頃か届かなくなり、離縁した噂を聞いたかと思えば父親は再婚し、いつの間にか一つしか歳の変わらない義妹が出来ていた。
なんだ、そういう事かと思ったが、教会にいるわたしには何ら関係のない事だった。
私はただひたすら、この国と民の為に無償で命を削っていたというのに。
聖なる力を使うには生命力を削る、なんてこと、聖女と教会上層部以外は知らない事実だった。
傷を癒す力は基礎能力としてあるのだが、聖なる力は魔を祓うのではなく、聖なるものに変換させる力である。
聖なるものに変換された魔のものは、姿を消すわけではなく存在を聖に属する存在に変わるのだ。
その代償として生命力を削っていたのにも関わらず、役立たずと言われる羽目になるとは。
さすがに吃驚だ。
だが、もういいだろう。
教会暮らしにも飽き飽きしていた。
「国外追放ですね。喜んでお受けいたします」
頷いた私は、近くにいた使用人を手招き、首を飾っていた装飾を外して渡した。
教会が聖女を縛るために着けさせる首輪のようなものだ。
これを着けている限り、私はこの国の聖女を辞める事が出来ない。
「それではお役御免という事で。後の事はそちらでどうぞ、御自由にしてくださいませ。大丈夫、国にはまだ健康的なご令嬢がたくさんいらっしゃいますし、どうにでもなると思います。まぁ私にはもう関係ない事ですね。それでは失礼させていただきます。皆様、御武運を」
国王陛下や教会の人間達が何やら喚いているが、私にはもう関係ない。
両手を胸の前で組んだ私の足元に陣が浮かび、さっさと国外へ転移する事にした。
最後にチラリと見えたのは、目を見開いた顔をした老けた父の姿だった。
それから数ヶ月もしないうちに、サーシエル王国は地図上から消えたそうだ。
それもそうだろう、いくら健康的な人間だって、生命力を削り続ければ長く生きられないし、国を守る事も出来ないのだから。
聖女がいなくなったサーシエル王国に、魔族はこれ幸いと乗り込んだそうだ。
私、一応皆様の御武運は祈ったのだけど。
あの日、さっさと国外へ出た私はというと。
「あら。こんなところに大きなうさぎさんが」
「いやそれは魔兎だ!」
せっかく聖女を引退したので聖なる力など使わずのんびり田舎暮らしでもしようと、転移した先で優雅な隠居生活を送っていた。
まぁ転移先は龍が住む龍王国で、地上ではなく空の上だったのだが。
実は聖なる力を使わずとも他の魔法もひと通り使えたので、その辺の森をさくっと開拓して小さな家を建て、畑を作り、近くの川でたまに魚釣りをしたり、野うさぎを捕まえに狩りに出たり、のんびり暮らしている。
ーーなぜか、お母さん気質の龍も同居しているのだけど。
ともあれ、私の未来は明るいものだ。
役立たずでごめんなさいね、皆様。