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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
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降りかかる火の粉

「さて、無事に目的地に到着したわけだが……」

 目的地、リカンウェア火山の麓。そこに作られた野営地に僕達は無事に到着していた。現在は輸送物資の欠けがないかの確認作業中であり、終わり次第、騎士団に補給物資を引き渡すことになる。

「今から騎士団の方にご挨拶するんですか?」

 もし、挨拶の作法が違うのなら、今のうちに教わっておいた方が良いだろう。そう思ってクローさんに確認をすると、静かに首を横に振られた。

「代表者だけだ。今回の依頼は輸送団の護衛であって、騎士団への物資輸送ではない。騎士団への挨拶は輸送団を率いているカークランド家のお嬢様と、その護衛だけでいい」

「それに、騎士団の中でも竜騎士団は特殊だからね。下手に刺激しないためにも、関係ない私たちは少し距離を取って待っておいた方が良いと思う」

「特殊?」

 サシャさんの言葉に首を傾げる。僕達が挨拶に行かないのは理解したが、距離を取った方が良い、とはどういうことだろうか。直接挨拶をしないにしても、荷物を運び込むといった作業があると思っていたのだが。

「…………王に仕える騎士団には種類がある。知っているだろう?」

「はい。王国騎士団、聖騎士団、魔法騎士団、天馬騎士団、竜騎士団の五つがあります」

 最も人数が多く、各王族直属部隊も含む王国騎士団や、神の加護を得たものが集まる聖騎士団、魔法も剣も扱える魔法騎士団に、空駆ける天馬に乗る天馬騎士団と、様々な竜がいるという竜騎士団だ。

「竜騎士団の訓練地ということは、当然、竜がいる。そんな中に部外者が大勢入っていくのは望ましくないだろう」

「どうしてですか?」

「竜は警戒心が強くて、滅多なことでは人間に心を開かない。基本的には人間の気配を感じた時点で姿を消すか、攻撃を仕掛けてくるか、どちらかだ」

 騎士と生活している竜なので、たとえ驚いたとしても急に人を襲ったりすることは無いだろうが、近くに人間がいると普段通りではいられないだろう。クローさんの説明を、頷きながら聞く。

「そうなんですね……。でも、それなら竜騎士ばかりとは言え、自分の相棒以外がいるのは嫌なんじゃないですか?」

「竜騎士というのは竜に気に入られる素質を持っていることが絶対条件だ。多少の相性があれど、竜騎士という時点で竜には好かれる」

「そうなんですね」

 馬に乗れなくても、武器の扱いが得意でなくても、相棒と呼べる竜がいるのなら竜騎士を名乗れるのだという。とはいえ、竜に好かれる人間は大抵の場合突出した才能を持っているので、竜騎士団は実力者揃いらしい。

「とにかく、竜騎士団の竜はある程度人に慣れているとはいえ、余計な負荷を掛けない方が良いだろう」

「はい。じゃあ、僕達は此処で待機していればいいんですね?」

 クローさんが話を戻したので、僕は今後の方針だけ確認することにした。憧れの騎士団を間近に見ることができないのは残念だが、訓練の邪魔はしたくない。クローさんが肯定するのを、地面を見ながら待っていると、暫くの沈黙ののち、顔を上げるように言われた。

「えっと……?」

「…………護衛役である冒険者が、誰も顔を出さないというのも問題かもしれない。一人だけでも挨拶に向かった方が良いか、依頼主に確認して来てくれ」

「はい!!」

 僕は元気よく頷き、リコリスさんが乗っている馬車に向かって走り出した。


 確認が終わった後、僕達は輸送団の最後尾を歩きながら話をしていた。向かう先は、騎士団が寝泊まりしているテントである。極力近付かないようにしようと言っていた僕達が、野営地に向かっているのには深い理由があった。

「……まさか、確認をしに行く間に、火山が噴火して、滞在を余儀なくされるとは」

「リカンウェア火山って、火山ではあるけどこの数十年全くと言っていい程活動してなかったはずだよね? どうして急に……」

「最近、魔物が増えているのと原因は同じかもしれないな」

 そう、僕がリコリスさんに確認をしている最中に、大きな音がしたかと思ったらリカンウェア火山が噴火したのだ。溶岩が出る方向が僕達のいる場所とは逆方向だったこと、魔法や道具を駆使したことで、人は勿論、馬車や輸送物資も無事なのだが、噴石や振動で落ちてきた岩が麓への道を完全に封鎖してしまったのだ。

「また噴火があったらどうしよう……」

「魔法を使えば被害を逸らすこと自体は可能だ。それより問題は、一人どころか全員で騎士団に挨拶する必要があることだ」

「全員ですか?」

「全員で向かっているということは、全員で挨拶する必要がある」

 クローさんが深々と溜息を吐いた。正直、挨拶よりも噴火の方が大変なことだと思うのだが、クローさんの中では違うらしい。僕とシャムロック君を交互に見ては、眉根を寄せて何かを考えているようだ。

「……今更何か言っても仕方がないか。最初に手本となる挨拶をするから、極力同じ動作をするように」

「「はい!!」」

「本当、クローは心配性だよね」

「慎重と言え」

 多分何とかなるだろう。騎士という立場の人間が、他人を貶めたりすることは無いだろうし、多少の失敗には目を瞑ってくれると信じたい。勿論、騎士になるまでの間には身に着けないといけないので、全力で練習はするけれど。

「そういえば、此処にはどのくらいの時間いることになるんでしょうか? 全員で作業したら、すぐに道も開通しませんか?」

 挨拶をしてからすぐに撤去作業に取り掛かれば、明日までに馬車一台が通れる程度には復旧するのではないだろうか。翌日の移動が辛くなるだろうが、不可能、というほどではない。魔法を使えば、更に効率は上がるだろう。そう思ってクローさんに尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「二日は滞在するだろうな」

「そんなに!?」

数時間から長くても半日程度かと思っていたら、まさかの二日である。どうしてそんなに、と聞く前に、クローさんが説明を始めた。

「どれだけ短く見積もっても、落石を撤去するのに半日は掛かる。その前に落石をどこに移動させるか、破壊するならどの程度破壊するかも決める必要がある。全て決定して、明日の朝一番から作業したとしても出立は昼を回る。となると、野営を回避するために、出立は翌日に延期されるだろう」

 リカンウェア火山周辺に人は住んでいないとはいえ、周辺環境への影響などを考える必要があるので、すぐに撤去作業を始めるわけにはいかないのだという。また、撤去作業が無ければ夜通しの移動も可能だが、作業後に魔物も出現する地域で野営をするのは危険だ。なので、出立は休息を取った後、朝になるだろう、と。

「本来ならお嬢様だけ馬車で休んでもらって、夜通し移動して明日の昼には帰る予定だったのにね」

「……丸一日以上日程が遅れることは確実だな」

 今回の場合、状況が状況なので仕方がないが、普通の依頼だった場合は達成が遅れたら評価が下がる。不慮の事態に対応するのも、冒険者には必要な能力なのだ。

「後々の事を考えると、今から気が滅入るな」

「で、でも、騎士団の方達がテントを用意してくださるみたいですし、そこまで酷い状況という訳ではないのでは?」

 まだまだ指名依頼というものがなく、毎日その場で依頼を決めている僕のような新米冒険者とは違い、クローさんやサシャさんは何日か先まで受注する依頼が決まっていたりするらしい。確かにそれは大変だが、滅多にない、騎士団の実態について知る機会だ。僕としては不幸中の幸いというか、かなり嬉しい予定外だ。

「……騎士団のテントで一緒に過ごすくらいなら、少し離れた場所で野営した方が良い」

「こら、クロー。そんなこと言わないの。ルート君の前なんだから」

 わくわくしている僕と違い、クローさんは苦虫を嚙み潰したような顔でテントの方を見た。近付いてきたテントからは沢山の人の話し声が聞こえており、時折、人間のものではない呼吸音も聞こえてくる。

「騎士が嫌いなんですか? それとも竜が苦手ですか?」

 騎士団によって訓練されているとはいえ、強大な力を持つと言われている竜がすぐそばにいるというのは、気が休まらないかもしれない。これは、リコリスさんに伝えてきた方が良いだろうか。ちらちらと輸送団の先頭を見ていると、クローさんが小さく首を横に振った。

「……集団行動が嫌いなだけだ」

「ずっと三人だったからね。休んだりする時に他の気配が近いと落ち着かないだけだよ。ね、クロー」

「ああ。疲れが全く取れないわけではないのに、余計なことを言って悪かった。気にしないでくれ」

「そうですか」

 冒険者を続けていると、周囲の警戒が重要になる。僕もいつか、気配だけで相手の位置が分かるようになるために、後でクローさん教えてもらえないか頼んでみよう。にっこりと笑って、秘かに決意を固めたのだった。


 騎士団側も此方側も準備が整ったようで、僕達は中央にある、一番大きなテントに案内された。カークランド家のリコリスさん専属護衛達は既に挨拶が終わっているのか、別のテントに向かっており、リコリスさんと僕達冒険者だけが大きなテントに通される。

「竜騎士団に補給物資を届けに参りました。カークランド伯爵家長女、リコリスと申します。突然、泊めていただきたいというお願いをしたにもかかわらず、丁寧に対応してくださり感謝いたします」

 テントの中に入り、恐らく一番偉い人の前に一列に並ぶと、リコリスさんが一歩前に踏み出し、挨拶をした。リコリスさんがお礼を述べ、頭を下げたタイミングに合わせて僕達も頭を下げる。すると、すぐに頭を上げてください、と穏やかな声が掛けられた。

「火山が活動することは誰にも予想できませんでした。どうぞお気になさらず、旅の疲れを癒してください」

「ありがとうございます、竜騎士団長様」

 竜騎士団長は、流れるような動作でリコリスさんに近付き、何かを話し始めた。恐らく、輸送物資の内容などについて、細かい話があるのだろう。僕達はどうしたらいいのかな、と少し不安に思っていると、後ろに控えていた別の騎士に声を掛けられた。

「冒険者の方は此方に。すぐに案内の者が来ますので」

「ご丁寧に、ありがとうございます」

 竜騎士団長とリコリスさんに頭を下げてから、テントの中から出る。入口から出てぐるりとテントの反対側に回ると、丁度反対側から人が来ていた。先程の騎士団長より若く、前を歩いている騎士よりは立派な鎧を着ている。この人が、案内役なのだろう。

「組合『D』所属Bランク冒険者、クロー。パーティーメンバーで魔導士のサシャと、同じく魔導士のシャムロック。後輩冒険者で戦士のルート」

 横にいた騎士に促され、クローさんが挨拶をする。丁寧な所作に反して人物紹介は必要最低限だが、相手は気にしていないようだ。僕達一人一人の顔を見てから、よろしくな、と明るく笑った。

「案内役の、竜騎士団三番隊隊長、リュノ・ラングだ」

「三番隊の隊長……!?」

 朗らかに挨拶が進んだので、後は案内が終わるまで大人しくしていればよかったのだが、聞こえてきた衝撃の一言につい反応してしまった。

「そうだが、どうした?」

「い、いえ、あの、三番隊、ということは、もしかして、相棒の竜は飛竜ですか?」

「そうだ。詳しいんだな」

 良かった。特に不審に思われたわけではなさそうだ。ほっと胸をなでおろしていると、服の裾を軽く引かれた。振り向くと、シャムロック君が小さく手招きをした。

「ルート、どうしてわかったの?」

「竜騎士団は相棒である竜の種類によって隊が分けられるんだ。一番隊は地竜、二番隊が水竜、三番隊が飛竜。特殊な竜はまた別の隊に所属するらしいけど、基本的にはこの三つの隊に分けられるんだよ」

 内緒話をするように、小声で質問されたので、僕も小声で返事をする。シャムロック君はそうなんだ、とつぶやいた後、首を傾げた。

「どの隊にも満遍なく竜を配置しないのは、似た性質の竜を同じ隊にしておく方が、役割分担がしやすいから?」

「えっと、多分……?」

「その通りだ。それにしても、ルートだったか? 随分と竜騎士について詳しいな」

 戦略的なことはよくわからない。答えに詰まっていると、前を歩く隊長さんが振り返り、質問に答えた。小声で話をしていたつもりだが、どうやら聞こえていたらしい。僕が騎士団について解説していたのが気になったようで、じっとこちらを見つめてきている。

「僕、騎士になりたいんです。なので、騎士団については沢山調べました」

 正直に答えると、隊長さんは興味を持ったらしく、続けて質問をしてきた。

「騎士になりたいのに冒険者ってことは、Bランク以上の組合推薦希望か?」

「はい」

「見た感じ、ルートは平民だよな?」

「そうです。でも、諦めたくはなくて……」

 着ている装備は、極めて一般的な冒険者用の装備だ。寧ろ、リィさんに作って貰った装備がある分、新人にしては豪華な装備な方なのに、一瞬で平民と見抜かれた。名前が一般的、というのがあるかもしれないが、やはり、何か動きが違ったりするのだろうか。

「今のランクは?」

「Dランクです」

「歳は?」

「十二歳です。…………あの、無謀、でしょうか?」

 淡々と、変わらない調子で質問をされるものだから、ちょっと不安になってきた。騎士の家系の子供だったら、もっと小さい頃から訓練をするだろうし、実力的に足りない、と言われるかもしれない。

「今、俺が無謀だって言っても諦める気はないんだろう?」

「…………はい」

 諦められるか、と聞かれたら、絶対に無理だ。下を向いたまま、それでも、はっきりと口にすると、隊長さんが笑った。

「その歳でDランクなら、可能性は大いにある。俺が推薦できるなら、してもいいと思えるくらいだ」

「本当ですか?」

 勿論だ、と隊長さんが頷く。騎士と冒険者は別物とはいえ、どちらも実力が重視される仕組みだ。Dランクに上がっている時点で、見込みはあると判断してくれたらしい。

「……まあ、伯爵か、各騎士団長以上の身分がないと推薦できないから、気持ちだけの話だが」

「いえ、そう言ってもらえるだけで、凄く、嬉しいです」

 実力を評価してくれているとはいえ、隊長さんの身分では推薦はできないらしい。推薦に値する、と言ってもらえただけで十分だが、隊長さんは真剣に推薦について考えてくれているらしい。

「今から案内するのは、三番隊のテントの近くだ。ルートが望むなら、他の奴らの竜とも顔を合わせてみるか? 素質があるなら、竜騎士団に限定されるが推薦を受けられる」

「はい!! 是非、お願いします!!」

 推薦の話抜きでも、実際に竜を見ることができる、というのは貴重な機会だ。元気よく頷くと、シャムロック君も小さく手を挙げ、見たいです、と呟いた。

「勿論だ。早速呼ぶか。ルーイ!! 来てくれ!!」

 ばさり、と大きな羽音が下かと思うと、僕達の頭上に影が掛かる。顔に強い風が辺り、思わず目を瞑った次の瞬間、僕達の目の前に、一頭の竜が降り立っていた。

「わあ……」

「触っても大丈夫だ。ルーイ、気にしないだろう?」

「ぐるる、って言ってる。返事なのかな?」

 結果だけ言うと、僕は竜に威嚇されることは無いものの、好かれる気配は全くなかった。どちらかというと、クローさんの方がルーイ君と仲良くなっている。王国騎士を目指して地道に頑張ろう、と、振り払われた手を眺めながら思うのだった。


 色々と話を聞いた後、僕達は小さめのテントに案内された。中に入ると四人分の寝袋が準備されており、テントの中心部には大きめの鍋が一つ、蓋をされた状態で置いてあった。

「悪いが、全員同じテントで過ごしてもらうことになる」

 隊長さんはサシャさんを見てそう言った。女性であるサシャさんにとって、個人的な空間がないことを気にしたのだろう。だが、当のサシャさんは明るい口調で答えた。

「その辺りは大丈夫です。慣れてますから」

「魔法を使えば目隠しもできる」

「そうか。食事は鍋の中に入っている。食べ終わったら自分たちで洗っておいてくれ」

「わかりました」

 僕達が頷くと、隊長さんはすぐにテントから出ていった。完全に足音が聞こえなくなったところで、クローさんとサシャさんが地面に座り込んだ。

「…………疲れたな。時間が掛かった」

「そうだね。あの隊長さん以外にも、周りに結構気配が……」

 僕達は話に夢中になっていたので気付かなかったのだが、実は、テントに来るまでの間に、結構な人たちから見られていたらしい。その上、最初のテントから真っすぐ来たわけではなく、遠回りもしながら移動していたという。

「シャムロック、食事の準備頼んでいい? その間に私とルート君で荷物の整理しておくから」

「武器だけは手放すなよ」

 機密事項を見られないように、また、素行が悪い冒険者ではないかの確認をされていたのだろう、と二人は言う。まあ、僕達が問題を起こさない限り、相手も何かしてくることは無いので、気にし過ぎなくていいらしい。

「クローさん、何してるんですか?」

「地図を作っておく。移動の際は基本的に案内が付くだろうが、緊急時に最短距離で逃げられないのは問題だ」

「堂々としてますね……」

 相手がどうして複雑な道を通らせたのかを把握したうえで正確な地図を描く、というのは心証が悪いのではないだろうか。

「安全が最優先だからな。悪用しなければ何も言ってこないだろう」

「それに、今のクローは守らないといけないものが多いからね」

「守らないといけないもの?」

「私とシャムロックはいつもだけど、今はルート君の安全を守るのもクローの仕事だよ」

 昇格試験というのは、今までよりも難易度の高い依頼に挑むことでもある。そのため、採点係の冒険者は、実力不足だった場合に代わりに依頼をこなし、挑戦した冒険者を守ることも仕事内容に入るらしい。

「溶岩アリが火山の外まで出てきていたかと思えば、小規模とはいえ突然の噴火も起きた。まだ何かあると考えた方が自然だろう」

 クローさんが簡単な地図を見せながら、避難経路を説明してくれる。取り敢えず、何があっても火山とは逆方向に逃げるように、と言われ、僕は首を傾げる。

「火山の噴火が起こりそうだったので、溶岩アリが出ていただけでは?」

 そう何回も噴火が起こるとは思えないし、先程の噴火で被害が大きかったのは山の反対側の方だ。警戒する必要が全くないとは言えないが、絶対に逆方向、と決めつけるほどではない気がする。

「群れごと移動していたなら納得だが、出てきていたのは働きアリだけだ。女王は移動していないということは、付近に食料が減ったことで、遠くまで行く必要が出たんだろう」

「そもそも、溶岩が流れてきたところで平気だしね」

「確かに……」

 溶岩の中に住んでいるから溶岩アリである。付近に食料が減って移動範囲が広がっていたとすれば、その原因は何だろうか。騎士団が環境破壊につながるようなことをするとは考えにくいし、噴火が原因というのは順番が逆だ。

「だから……」

 気を付けるように、というクローさんの言葉は、何かの鳴き声によって搔き消された。竜の鳴き声ではない、もっと別の、大きな生き物の鳴き声だ。

「何が……」

「取り敢えず武器を持て。まだ外には出るな」

 鳴き声は上空から聞こえてきた。下手に外に出ると、頭上から狙われる可能性が高いからだろう。神経を研ぎ澄まし、周囲の音を聞いていると、竜たちの咆哮に交じって、騎士の声が聞こえてきた。

「ラクタ鳥だ!!」

「どうしてこんなところに!?」

「竜たちを狙ってきたのか!?」

 僕は慌ててクローさんを振り返る。すると、クローさんは今迄に見たことがないくらい、険しい表情を浮かべていた。

「あ、あの、クローさん。ラクタ鳥って……」

「基本的に人が見ることがないような、ほぼ伝説のような魔物だ。竜さえも食べると言われていて、その羽が落ちた場所は炎に包まれる、とも言われる」

 だが、問題はそこではないらしい。

「…………ラクタ鳥は空を飛ぶ。魔法でも、届くか怪しい程の上空を」


次回更新は11月18日17時予定です。

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