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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
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毒沼の異変

 背中に強い衝撃を感じて、思わず意識を飛ばしそうになる。恐らく、毒沼の中央にあった巨木にぶつかったのだろう。踏ん張ろうとしたが、体に力を入れることができず、そのまま地面に倒れ込む。

「…………どうしよう」

 パラパラと頭に降りかかってくる木の破片を払いのけながら考える。取り敢えず、周囲を見渡す限り、今すぐ危険が迫っているわけではない。が、あの生物が狙ってこの場所に僕を弾き飛ばしたのなら、じきに何かが起こるのは明白だ。

「毒自体は効かないけど、沼地に足を取られたら動けないし、見つかった場合、あいつから逃げ切れるとは思えないな……」

 恐らく、あの生物は毒沼の中を自由に動き回ることができるのだろう。例え僕が通りやすい場所を見つけたとしても、追いつかれる可能性の方が高い。と、なると、見つからないような道を探すか、相手の動きや知覚機能を封じるか、倒すか、そのいずれかである。

「取り敢えず、付近の探索しよう」

 どの手段を選ぶにしろ、まずは地形をしっかり把握しないといけない。ついでに、依頼内容の素材も採集しておこう。錬金術に用いる素材は、加工しなくても特殊な効果を持っている。今回採集する予定だった鉱石は魔法を弱める効果、薬草は止血作用がある。持っていれば役に立つだろう。

「後は、オリヴィアさんと合流できればいいんだけど……」

 僕と同じ状況に陥っているのなら、協力してこの場を切り抜けたい。そう願いつつ、僕は付近の探索を開始した。


 さて、島をぐるりと一周探索した結果、判明したことが三つほどあった。一つ目は、周囲から見られずに脱出できる道は無いということ。中央の島から沼の外まで続く道は数本あったが、どれも周囲に遮蔽物は無く、道幅も狭いのであの生物に見つかれば一巻の終わりだろう。

「まあ、予想通りではある」

 最初から、簡単に脱出できるとは思っていない。二つ目に分かったことは、この島の中には、殆ど魔物が存在しないということだ。というか、生き物がいない。オリヴィアさんも探したが、人が道具を使ったりした痕跡は一切見つからなかった。

「原因は、二種類考えられるけど……」

 元々ここには沼しかなくて、島が後からできた場合は、島に生物がいなくても不思議はない。毒の沼に耐えられる生物でないと、中央の島には辿り着けないからだ。逆に、元々生物がいたのに、今はいない場合は最悪だ。

「あいつが陸に上がれるとすると……」

 間違いなく、それが原因だろう。何らかの理由でダブス湿地帯にやってきたあいつが、島の生物を食い尽くした可能性が高い。此処で、三つ目の発見である、巨木の根元にあった謎の穴が問題になってくる。

「…………どう考えても、あそこが巣穴だよね」

 巨木の根元には、地下洞窟への入り口らしき穴があった。そして、その穴の近くには生物が通ったような痕跡も。恐らく、あの生物の巣穴だろう。近付いた冒険者を巨木付近まで吹き飛ばし、気絶させ、巣穴に連れ帰る。完璧な流れである。

「もしも、オリヴィアさんがいるとしたら、あの中だけど……」

 まだ、無事なのだろうか。そっと入り口の方を見ると、内部が僅かに光っていることに気付いた。何かの光が、洞窟内の壁を反射して、入り口まで届いて来たのだろうか。もしかして、と思い、一歩洞窟に近付いた瞬間、きぃん、という甲高い金属音が反響した。

「えっ」

 戸惑っていると、もう一度、金属音が響く。断続的で、不規則なその音は、僕が剣を振るう時と似ている。中で、戦っているのかもしれない。そう判断した瞬間、僕の足は、すでに走り始めていた。

「音がする方向は……」

 曲がりくねって、幾重にも分岐した道を、音を頼りに走り抜けていく。徐々に音が大きくなっていくのを感じながら、僕は剣を鞘から引き抜く。剣をいつでも構えられるようにしながら、二回、道を曲がると、一気に視界が開けた。

「え、あれって……」

 視界に飛び込んできたのは、波打つ剣を構えた女性と、真っ赤な炎をその体から噴き出している、トカゲのような生物だった。直接、見たことなんて無い。でも、その特徴は、子供でも知っている生き物と完全に一致していた。

「サラマンダー……?」

 四大精霊のうち、火を司る妖精、サラマンダー。魔物なんかよりも遥かに強く、そして、人間を助けてくれる存在でもある。その筈なのに、どうして、女性はサラマンダーに襲われているのだろうか。状況が理解できずに固まっていると、サラマンダーが僕に気が付いたのだろう。此方に向かって火を吹いてきた。

「うわっ!!」

 幸い、距離が開いていたので火が僕まで届くことは無かった。サラマンダーが向きを掛けたことで僕に気付いたのだろう。女性が僕に向かって走ってきていた。

「すみません、オリヴィアさんですか?」

「そうだけど、どうして私の名前を?」

「僕、組合『D』所属の、ルートと言います!! 今朝、この依頼を受けた時に、アンリさんから聞きました!!」

「ああ、あの新人の……」

 どういう噂を聞いたのかが気になるが、納得してくれたようである。後ろから追いかけて来ているサラマンダーは、あまり足が速く無いようで、徐々に距離が開いている。この調子で外まで出れば、体勢を整えてから迎撃できそうだ。

「一応聞きたいんだけど、ルートもあいつに飛ばされて来たの?」

「はい!! 道があると思って踏み込んだら、泥に潜ってたサラマンダーでした」

 そういうと、オリヴィアさんは苦い顔をした。やはり、僕と全く同じ経緯でこの島に来たらしい。脱出を試みたものの、途中で見つかり、逃げ回っているうちに洞窟に迷い込んだらしい。洞窟内で一度逃げ切ることに成功したが、今日になって再び見つかり、戦っていたところに僕がやってきたそうだ。

「結構しつこいみたいですね……」

「本当に。無事に帰りたいなら、どうにかして倒すしかなさそうね」

「でも、四大精霊って魔法付与してない武器とか持ってないと倒せないですよね? 僕、魔法は全く使えないので、役に立てるかどうか……」

 倒すしか方法が無いということは理解しているが、本当に倒せるのだろうか。確か、四大精霊はその属性とは真逆の属性の魔法を使わないと弱らせることができない筈だ。今回のサラマンダー相手なら、火属性の真逆である、水属性の魔法が使えなければ成す術はない。そして、僕は魔法が使えないし、属性付与された武器も持っていない。

「安心して。あれは、レギナ・サラマンダー。一般的に知られている精霊のサラマンダーとは違って、魔物の一種。炎を吐くからサラマンダーって名前に入ってるけど、本物より弱いし、倒す手段はいくらでもある」

「弱いんですか?」

「サラマンダーに比べると、ね。普通の魔物に比べると強いかな。Bランク以上の討伐対象だよ」

 十分強いような気がする。が、精霊に比べたらマシらしい。そう言い切れるのは、オリヴィアさんが実際に精霊と戦った経験があるからだろうか。僕がじっと見つめていると、オリヴィアさんは苦笑しながら、仲間と一緒にね、と頷いた。

「火を吐くから近付くときには気を付けないといけないけれど、精霊と違って物理攻撃も効果があるの。他にも、水属性以外の魔法が効いたり、弱点が多いから、そこを突けば二人だけでも倒せるはず」

「水属性以外で効果がある魔法って、具体的には、どんな魔法がありますか?」

「ルート君、魔法が使えないって言わなかった?」

「使えませんけど、ちょっと、考えがあるんです」

 僕は、背中を指差しながら言った。オリヴィアさんは最初、不思議そうな顔をしていたが、籠の隙間から見える紫色の光に気付くと、一瞬目を見開いた後、小さく頷いた。

「弱体化魔法は、相手に効果がありますか?」

 その問いかけに、小さな首肯が返された。


 作戦自体は単純なものだ。紫色の鉱石を利用して、相手を弱体化させる魔法陣を作る。そして、魔法陣の上までレギナ・サラマンダーを誘導し、弱らせたところを倒す。余裕があれば、魔法陣付近に罠も仕掛けておく、という作戦である。

「問題は、魔法陣を描くほどの時間の余裕があるかだけど……」

「走って逃げ続ければ大丈夫ですけど、一か所に留まれば確実に追いつかれますね」

 仕掛けるとしたら、確実に相手が通る場所が良い。となると、洞窟の出口が最適だろう。だが、聞こえてくる足音の大きさからして、魔法陣を完成させるほどの余裕はないと思われる。

「…………僕が時間を稼ぎます」

 時間の余裕がないのなら、どうにかして作り出すしかない。魔法に詳しくない僕では、大した手伝いはできないだろう。魔法陣作成で役に立てないのなら、別の方法で完成を目指すしかない。

「でも、流石に一人だと……」

「大量に薬草を持っているので、無理をしなければ時間稼ぎくらいはできます」

 まあ、火を防ぐ手段がないので、その辺りは戦いながら考える必要があるだろう。狭い洞窟内で戦うとなると避ける場所がないかもしれないが、その時に考えるしかない。そんなことを考えていると、オリヴィアさんが深い溜息を吐いた。

「他に、良い作戦が思いつかないのは事実だから、お願いするけど……」

 そう言いながら、オリヴィアさんが剣の先を僕の頭の上に向けた。そして、小さく呪文のようなものを唱えたかと思うと、僕の頭上に、赤色の光が降り注いできた。ほのかに暖かいような気がする。

「火炎耐性が上がる魔法だけ掛けておくね。完全耐性とは違って、あくまで軽減するだけだから。絶対に無理はしないで」

「わかりました。ありがとうございます」

 僕はお礼を言いながら、剣を抜き、踵を返す。できる限り洞窟の深い所で相手をした方が、撤退の時も時間を稼ぎやすい。少し下っている洞窟内を駆け下り、相手と鉢合わせになる瞬間を狙って、地面を思いっきり蹴った。

「喰らえっ!!」

 あまり耳は良くないのだろう。僕の攻撃を予想していなかったレギナ・サラマンダーの頭部を、剣先が捉える。そのまま、力を籠めようとしたのだが、少しの抵抗を手に感じたかと思うと、つる、と剣先が滑っていった。

「へ?」

 予想外の方向に力が逃げたことで体勢が崩れる。が、すぐに立て直し、距離を取る。剣を構え直しながら、レギナ・サラマンダーの頭を見ると、最初に剣が触れた部分に小さな傷ができている以外、全くの無傷だった。

「まさか……」

 攻撃されると同時に、体から粘液を出すことで受け流しているのだろうか。そう思い、相手の傷口を観察していると、細かい泡のようなものがボコボコと浮かんでいるのが見えた。泡が消えると、先程まであったはずの傷口もすっかりなくなっている。どうやら、かなりの再生能力を持っているらしい。

「本物のサラマンダーに比べたら弱いかもしれないけど、かなりの難敵だな……」

 とはいえ、傷口を再生している間は、体から炎が噴き出すことは無いようだ。どちらか一方にしか魔力を回せないのだろう。この調子で、攻撃を続けていれば致命傷を喰らうことなく時間稼ぎができる。

「僕一人だったら絶対に勝てなかったけど、一人じゃないからね」

 気合を入れ直し、剣を構える。例え、次の一撃が何事もなかったかのように回復されるだけだとしても、回復に要した時間は確実に僕達を有利にする。レギナ・サラマンダーが足を浮かした瞬間に僕も踏み込み、足の付け根を斬り付ける。

「どうだっ!?」

 相手の方が力はあるが、僕の方が速い。火を吹いてこないなら、重たい巨体の動きを見てから避けるのでも十分に間に合う。相手の動きに合わせて、できる限り弱そうなところを狙って剣を振るっていく。

 洞窟内に、レギナ・サラマンダーがぶつかる音と、小さな泡が爆ぜる音、僕の足音と、荒くなってきた呼吸音だけが響く。確実に、時間は稼げていると思う。レギナ・サラマンダーは、最初に僕が攻撃を仕掛けた場から進むことなく、この場に留まり続けている。

「ぜ、全然、体力、削れてない、気がする……」

 僕は全く傷を負っていない。一方的に攻撃を受けているのは、レギナ・サラマンダーの方だ。しかし、相手の動きは依然として変化がなく、淡々と、僕に攻撃を仕掛け、傷ができれば回復する、という作業を繰り返している。

「そろそろ、きつい……」

 一方の僕は、巨体を避け、弱点を狙って斬り付ける、という動きを繰り返していたのだが、段々と体が重くなっていくのを感じていた。単純に疲れてきた、と言うのもあるのだが、相手の粘液のせいで剣を握る手や、地面を蹴る足が滑りやすくなってきたのだ。そして、それを補うために余計な体力を使い、疲労が溜まってきたのだろう。

「うわっ!?」

 何度目かもわからない、レギナ・サラマンダーの攻撃を、最小限の動きで避けようとした時だった。足が大きく滑り、そのままの勢いで体が倒れていく。慌てて受け身を取り、地面を転がるが、その隙を見逃すような相手ではない。今迄よりも遥かに機敏な動きで、レギナ・サラマンダーが眼前に迫ってきた。

「ルート君!! 準備できたよ!!」

 まずい、と思ったその瞬間、洞窟内に、凛とした声が響いた。オリヴィアさんの声だ。魔法陣の準備が終わったのだ。そう認識した瞬間、疲れ切っていたはずの体が、ふと軽くなったような気がした。

「こっちだ、ついてこい!!」

 僕は体を起こし、声を張り上げる。レギナ・サラマンダーは大した反応を見せることなく、僕の後を追って移動を始めた。少しずつ距離が開いていくのを確認しながら、真っすぐに、洞窟の出口を目指して走る。

「もう、少し……」

 外に出た瞬間、眩しさに思わず目を細めた。それでも足は止めずに、真っすぐに進む。魔法陣の上に立っていると、僕も魔法に巻き込まれるからだ。早く明るさに目が慣れてくれ、と思いながら走っていると、オリヴィアさんの指示が飛んできた。

「ルート君、止まって!!」

 魔法陣の上は通り過ぎたのだろう。ぴたり、と足を止め、剣を握り直しながら、後ろを振り返る。既に目は明るさに慣れたようで、洞窟からレギナ・サラマンダーが出てくる光景が見えた。オリヴィアさんは洞窟の出入り口になっている、木の根の上に立っていた。

「発動したら斬りかかって!!」

「はい!!」

 僕が答えると同時に、レギナ・サラマンダーの体が、魔法陣の中央に乗った。直後、オリヴィアさんは魔法陣を発動させ、紫色の光が地面から放たれる。その光は、まるでロープのような形になり、レギナ・サラマンダーの体に巻き付いていく。

 今なら、斬れる。そんな確信を抱いて、地面を力強く蹴る。剣を高く構えながら、レギナ・サラマンダーをしっかりと見据える。相手も無抵抗でやられる気はないのだろう。此方に向かって、大きく口を開いた。開けられた口から炎が覗く。

「僕の」

 一歩、右に踏み込んで、相手の正面から側面へと移動する。炎の熱が横を掠めていくのを感じながら、無防備に晒されている首に向けて、真っすぐに剣を振り下ろした。剣は滑ることなく、僕の思った通りの軌跡を描いた。

「勝ちだ」

 巨体が地面に崩れ落ちる音が、辺り一帯に轟いた。僕は、笑顔で此方に走ってくるオリヴィアさんに手を振り返そうとして、思いっきり、地面に倒れ込んだ。まずい、体が動かない。意識はあるのに、体を起こす気力がない。

「そ、そざいが……」

 あれだけ強かったのだから、素材を持って帰れば、リィさんが何かに加工してくれるだろう。そう思うのに、疲労の限界を超えた体は言うことを聞いてくれない。僕が必死で手を伸ばすも虚しく、レギナ・サラマンダーの体は徐々に光に変わっていったかと思うと、次の瞬間、大きな赤い魔石に変わったのだった。


「オリヴィア!! ルート!! お帰りなさい!!」

「アンリさん、素材の確認お願いします」

「心配かけたみたいでごめんなさい」

 レギナ・サラマンダーを倒した後、僕達は、各自が受けた依頼を達成できるだけの素材を集めてから組合に戻った。受付カウンターから体を乗り出したアンリさんに取って来た素材と、帰り道の途中で手に入れた魔石を渡す。

「すぐに確認するね。それにしても、オリヴィアが予定通りに戻ってこないのは初めてだったから心配したよ。向こうで何か問題でもあった? それとも、目当ての魔物が出なかったから時間が掛かっただけ?」

「それが……」

「問題は起こったんだ……」

 微妙な表情を浮かべたアンリさんに笑顔だけで返事をして、オリヴィアさんがちらりと僕の方を見た。僕が首を傾げると、オリヴィアさんはダブス湿地帯で起こった出来事を話してもいいか確認をしてきた。僕がすぐに頷くと、オリヴィアさんは苦笑しながら教えてくれた。

「こういった時、先に話す人が手柄を全部取っちゃう可能性があるから、簡単に頷かない方が良いよ。今回は隣にいる状態で話をするから、何かあったら訂正できるけど、正式な聞き取り調査の場合は違うからね」

「……わかりました。気を付けます」

「勿論、正確に話をするつもりだけど、何か違う点があったら遠慮なくいってね」

 アンリさんが報告書を片手に受付に戻ってくると、オリヴィアさんはダブス湿地帯で起こった出来事を、時系列順に話し始めた。討伐依頼を受けて向かったこと。現地で目当ての魔物を見つけたが、沼の中心に向かって逃げられたため、後を追おうとしたこと。そして、レギナ・サラマンダーの尾に乗ってしまい、中央にある島に飛ばされたこと。

「レギナ・サラマンダー!? ダブス湿地帯に?」

「一匹だけだったし、島に燃えた痕跡は少なかったから、最近迷い込んだ個体だと思うけれど。一度調査した方が良いと思う」

「……うん。後で、王宮に報告して、結果次第では冒険者も募るね」

 そこからの話は僕も知っている内容だ。脱出を試みたものの失敗し、後からやってきた僕と協力して倒した。本来なら逃げるべきだが、逃げられなかったものは仕方がない。そこまで言って、オリヴィアさんは机の上に赤い魔石をのせた。

「これが、討伐したレギナ・サラマンダーの魔石。ちょっと小さくなってるから、そこまで値段がつかないかもしれないけど……」

「小さくなってる?」

 僕が首を傾げると、オリヴィアさんが申し訳なさそうに下を向いた。

「魔法陣を発動させた後、私も同時に攻撃を仕掛けたんだけど、その時に尾を切り落としちゃって。慌てて体にくっつけてみたけど、魔石にはならなかったの」

「あ、あの!! その尻尾って、今、持ってますか?」

「あるけど……、魔石と違って、大した金額にはならないと思うよ?」

 僕が聞くと、オリヴィアさんは不思議そうにしながらも、鞄からレギナ・サラマンダーの尾を取り出した。鞄の大きさと、出てきた尻尾の大きさがあっていないような気がするが、その辺は魔法でどうにかしているのだろうか。

「僕、これを貰ってもいいですか? 僕が持って帰ってきた魔石と交換してください」

「いいけど、損することになると思うよ?」

「大丈夫です。依頼料でしっかり稼げてますし、これを持って行く宛てもあるので」

 リィさんの道具屋に持ち込みたいことを説明すると、オリヴィアさんは納得したようだ。そう言うことなら、と、僕が損することを最後まで気に掛けつつも交換に応じてくれた。話がまとまったところで、アンリさんが僕の方に袋を差し出した。

「ルート、明日リィの店に行くなら、今日はもう休んだ方が良いよ。ダブス湿地帯の状況については、オリヴィアから話を聞くから」

「あ、はい。そうします」

「今日の依頼を達成したことで、ランク昇格ができそうだったら伝えるから、明日の朝、出掛ける前に受付に来てくれる?」

「わかりました」

 依頼の達成料を受け取ると、僕はすぐに受付から離れる。早く部屋に戻って、レギナ・サラマンダーについて調べよう。どんなものに加工できるのか、考えるだけで今から楽しみだ。


次回更新は10月28日17時予定です。

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