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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
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門の向こう側

諸事情により更新が遅れましたが、楽しんでいただけると嬉しいです。

 じ、と魔界と繋がる門の先を見つめる。先程と同様、ゆらゆらと黒く歪んでいる。フラムの言葉に反応するかのように、此方を手招くように、黒い靄のようなものが漂っている。王子達は、辺境伯と状況確認をしているようで、門の方には意識が向いていないようだ。

 そっとシャムロック君を手招きし、鞄の中に入っているフラムと話をする。鞄を少しだけ開けると、小さな姿のフラムが、不機嫌そうに顔を覗かせた。色々と言いたいことはあるけれど、と、前置きをしてから、フラムは話し始めた。

『ご主人様達には悪いけれど、正直、おかしいことばかりなのよ』

 フラム自身も困惑しているようで、確認するかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「どういうこと?」

『ノームは上位精霊よ。私たちサラマンダーと同じ。そして、繊細な魔力調節は下手だけど、身体能力は飛び抜けているの』

 ご主人様たちが弱いという訳じゃないんだけどね、と、フラムは言う。確かに、以前、フラムと戦った時と比べると、今回のノームは。

「…………弱すぎる?」

 王子やオッズさんが強かっただけかもしれないが、正直、オリハルコン製のゴーレムの方が強かった気がする。警戒していたハンマーによる大規模攻撃もほとんどなかったし、何と言うか、ただ、立っているだけというか、単調な動きだった気がする。

『幾ら、直前の戦闘でダメージを負っていたとしても、流石に呆気なさすぎるわ』

 僕達が到着するより前から、辺境伯が率いる防衛軍と戦っていたとはいえ、著しく判断力や動きが鈍るほど消耗していたようには見えなかった。僕達よりもノームに近い、精霊であるフラムがおかしいと言っているのだから、何かがあったのだろう。

 原因を少し考えて、思いついた可能性を述べる。

「魔界から出てきて弱体化している可能性は?」

『きゅきゅい!!』

 言った瞬間、静かにしていたカーバンクルが、じたばたと四肢を動かし、声を上げる。これは、僕の発言を否定しているのだろうか。カーバンクルは一生懸命手足を動かし、鞄の中で飛び跳ねたりして、僕に何かを訴えかける。これは、多分。

『カーバンクルの元気を見る限り、あり得ないと思うわ』

 僕もそう思う。属性による弱体化という可能性はなさそうだ。教えてくれてありがとう、と、カーバンクルを撫でてやる。すると、きゅい、と満足そうな声を上げ、鞄の中で丸まったのだった。


 ノームの様子がおかしかったことは理解できたが、原因が全く分からない。シャムロック君と頭を悩ませていると、王子達と辺境伯の話も終わったようだ。王子から小さく合図をされ、遊撃軍のメンバーが周りに集まる。

「此処からどうするのですか?」

 簡単な現状報告の後、真っ先に口を開いたのは副指令だ。脅威であるノームは倒し、軽傷だった兵士の治療は完了。傷の深かった兵士たちも、神官によって治療をされており、次第に戦線復帰するだろう。僕達がいなくても、この場所の防衛は問題ない。

「そうだね、気になるのは……」

「あちら側、ですか」

 王子が見たのは、西門の向こう側。魔界と繋がる『道』だ。ノームとの戦闘が終わって少しの時間が経過したが、次の戦力が送り込まれてくる様子は無い。最初に僕達が戦ったハルピュイアは何だったのだろうか。偵察なのだとしたら、戻って来なかった時点で次の手を打ちそうなものだが。

 だが、それは、僕達の側からも同じことが言える。

「このまま正門に向かっても良いけれど、待つだけで状況が好転するとは思えない気がしてね」

「偵察部隊を待つだけでは駄目だと?」

「罠を仕掛けていた此処で、これだけ被害が出たんだ。魔界側に行った部隊が無事とは考えにくい」

 そう、偵察部隊を送り込んでいるのは、僕達も同じことだ。彼らが戻って来ない限り、王国軍は攻勢に出ることは無いだろう。しかし、その彼らが戻って来ないとしたら、作戦を立てられず、純粋な力比べになるのだとしたら。僕達の勝ち目は薄くなる一方だ。

「でも、各門を守っている部隊は動かなくて、余剰戦力も多くはない……」

 四大伯爵家が率いている軍は、それぞれの門を守っていて動けない。王国騎士団と聖騎士団は正門。魔導士や神官、竜騎士団や天馬騎士団、魔法騎士団も各門からの中間防衛地点に配置されている。国王は親衛隊が守っているとはいえ、これらの軍が動くことは難しいだろう。

 とはいえ、先程ハルピュイアとの戦いの時に、殆ど参加しなかったうえに魔法騎士団長の姿がなかった魔法騎士団には、少々疑念というか、違和感が残っているのだが。

「残りは特殊部隊だが……」

「戦闘向きではない者も多い」

 隠密、伝令、補給。僕達遊撃部隊とは別に、そういう特殊部隊もあるはずだ。最初の偵察に向かったのは、この隠密部隊の筈だ。彼らは隠密魔法という、その名の通り姿や気配を消す魔法を扱えるらしいが、そんな彼らが戻って来られない原因を考えるとすると。

「戦闘状態、ということだろうね」

 隠密魔法を扱うものは、攻撃魔法が苦手なことが多いらしい。魔族からすると人間は魔力が少なすぎるので、魔力感知に引っ掛かる可能性も低い。そのため、姿を隠していれば無事である可能性は高いが、戻ってくることはできないのだろう。

「あちらも防衛線を張っているのだろう。そして、侵入を許したことに気付いたのなら……、情報を持ち帰られないよう、防衛線を強化するはずだ」

「隠密魔法は完全に存在を消すことができるものではない。相手が警戒していたら、突破は難しいでしょうね」

「少しでも意識を逸らすことができれば、帰還できるだろうけれど」

 例えば、今迄偵察しか送ってこなかった、人間側からの攻撃が開始された、とか。王子が小さく呟いた。一つの門からの攻撃だったとしても、その知らせは他の場所にも伝わり、一瞬、意識を逸らすくらいはできるだろう。

「つまり、1番効果的なのが、僕たち遊撃部隊による強襲」

 ある程度戦闘ができて、陽動も、治療も、防御も自分たちの部隊だけで可能であるというのは、何が起こるか分からない状況では有利に働くだろう。最善手であることは理解できる。問題は、悪い言い方をすると寄せ集め部隊であるメンバーが、危険に身を投じることに対してどう思うかだが。

 僕が不安を口にするより先に、王子が、はっきりとした口調で言う。

「当然だが、危険は大きい。部隊を預かる身として、覚悟のない者を連れて行くことはないし、無責任に指揮を放り出すこともしない」

 つまり、僕達のうち、誰かが拒否するのなら、他の手立てを考えるということだろう。覚悟が無い者が行ったところで、状況が好転しないどころか、下手をすると部隊を壊滅させるだけ。それなら、多少時間が掛かっても、国王に現状を報告し、別の部隊を動かすよう頼んだ方が確実だという。

「だから、誰かが行きたくないと言っても責めることはしない」

 どうする、と、王子は静かに尋ねてきた。僕は、最初から覚悟は決まっているので問題ない。それに、今、こうして意思確認をしてくれるこの人の指揮なら大丈夫だと、そう思える。

 それは、他の冒険者や、貴族たちも同じだったようで。誰も、行きたくないとは言いださなかった。

「…………ありがとう」

 当然、無理せず、即時撤退を基本として向かうから、と王子は笑った。副指令やシャムロック君、補助系の魔法が使える人が、一斉に防御魔法を掛けた。

「…………行こうか」

 王子の一言に、僕達は頷いた。

次回更新は10月8日17時予定です。

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