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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
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西門の危機

 西門が見える位置まで移動してきた、その時。大きな爆発音がしたかと思うと、瞬く間に視界が白く染まった。

「な、なに!?」

「みんな、気を付けて」

 鼻についた火薬の臭いで煙幕だ、と気付く。煙を吸わないように鼻と口を覆うより早く、今度は重たい、何かがぶつかるような、いや、破壊されるような音が響き、周囲の煙がざあっと引いて行った。何者かが、煙を払ったらしい。煙を引き裂いた、音がした方向を見る。

「あれって……」

 その先には、大きな影が一つ。西門の真下に陣取るそれは、どうみても人間とは大きさが違った。成人男性の倍近くある巨大な体躯。その体は、人間よりも横に大きく、全身の筋肉量が圧倒的に違うことが、この距離からも理解できる。

 その影の足元、地面に半分埋まっている、僕と同じくらいの大きさはありそうなハンマーが、武器なのだろう。あれを地面に叩きつけることで、煙を払ったのだ。それが何なのか、僕達が理解するより先に、フラムの叫ぶような声が頭に響く。

『ちょっと、あれ、ノームじゃない!!』

「土の、上位精霊」

 シャムロック君が、ぽつり、と呟いた。すると、王子や副指令、モードさんやオッズさんといった、貴族の面々の表情が苦笑した。上位精霊という時点で強いということは予想できる。が、ちょっと予想外の反応だ。悲観しているというよりは、よりによってそれか、という、運の悪さを感じているような、そんな印象だ。

「あ、あの、ノームって、そんなに戦いにくいんですか?」

 僕が尋ねると、王子は眉を下げて答えた。

「私たち遊撃軍との相性が悪いというか……」

 どういうことだろうか。僕と、他の魔族に詳しくない冒険者たちも一緒になって首を傾げると、副司令が解説をしてくれた。何でも、上位精霊の中で最も戦いたくなかった相手がノームなのだという。

「ウンディーネや、シルフ、サラマンダーでしたら、戦いようがあります。しかし、ノームは明確な弱点というものがあまり存在しないのです」

「その上、圧倒的な身体能力を持つからね。簡単に言うと、一番正攻法で挑むしかない相手ということなんだよ」

 例えば、ウンディーネには物理攻撃が効果がないが、雷属性に弱いので魔法付与すれば戦える、など、幾つか攻略法があるらしい。だが、ノームは基本的に物理魔法共に強いバランスの良い精霊。一旦突破的な戦術は通用しないらしい。

「…………つまり、あまりものというか、ちょっと変わった集団である僕達では戦いにくい相手ということですか?」

「そういうことになるね」

 僕たちは、圧倒的な攻撃力もなければ、特に防御に秀でているわけでもない。パワーで押し切ることも、相手の消耗を待つような戦い方も難しいだろう。

「ち、近付かずに倒すとかは……」

「ハンマーの威力で相殺するか、土属性魔法を使ってくるだろうね」

 そう言った矢先に、威嚇なのか、鋭い岩が此方に向かって勢いよく飛んできた。距離が長いのもあって回避や迎撃は簡単にできたが、凄まじい威力である。

 これは、近づかずに倒すどころか僕たちが近づく前に倒されるかもしれない。と、いうか、心配なことが一つ。

「この距離にいる僕達にも攻撃が飛んでくるということは、西を守っていた軍は……」

 壊滅状態なのではないか。そう思ったが、王子と副司令は至って真面目な顔で首を横に振った。

「フェオドル伯爵家の軍に関しては、全滅の心配は無い」

「苦戦を強いられているだろうが、被害は最小限だろうな」

「そうなんですか?」

 心配している雰囲気は全くない。僕は人影が全く見えないので不安になったが、人影が見えないことこそが、西門を守っていた軍が無事であるという証拠らしい。

「ああ。フェオドル伯爵家は、罠などを仕掛けるのが得意でね」

「足止めをしつつ、本当に危なくなる前に距離を取って戦うことに特化しています」

「当然、他の西側の貴族もその指揮下に入っているから……」

 ほら、と殿下が示した先には、物陰に身を潜めるようにしながら、ノームに向かって何かを投げている人が所々にいた。先程は逆光になっていて見えなかっただけのようだ。そういえば、激しく戦っているはずなのに倒れている人もいない。

「ぜ、全員、めちゃくちゃ疲れてるけど、大きな怪我はしてない……!!」

「す、すごい……」

 シャムロック君と二人、感嘆していると、僕達の声に気付いた兵士が此方を向いた。一瞬の静寂の後、わっと歓声が上がる。

「第3王子殿下!!」

「遊撃軍だ!!」

「伝令が連れて来たのか?」

「それにしては早すぎる」

「そんなことはどうでもいい!!」

「目の前の事態の解決が先だ!!」

 援軍の登場に、兵士たちの士気が一気に上がる。僕達に一番近い所、つまり、ノームからは遠い所に控えていた兵士は、手に持っていた何かを大量にノームに向かって投げつけてから、此方に走り寄ってきた。

 その間も、僕達が到着したことが徐々に伝わっていったのか、戦っている軍勢から上げられる声は段々と大きくなっていく。援軍が来たということは相手の士気を下げることに繋がるので、静かにしろとは言わないが、これでは必要な指示も通らないのではないか。

 少し心配になってきたところで、凛とした声が歓声を劈いた。

「皆様、五月蝿いですよ!! 口ではなく手を動かしてください!! ノームの攻撃が直撃したら人間なんて一撃で即死ですよ!!」

 油断せず隙無く罠を投げなさい、と叫ぶ、丸眼鏡の男性。大量に収納が付いたベストのようなものから、次々と怪しげな道具を取り出しては投げつつ、周囲に指示を飛ばしている。

「もしかして……、あの、眼鏡のいかにも頭が良さそうな人が……」

「フェオドル辺境伯爵だね」

 温厚、知的、と言った言葉が似合いそうな長髪の男性が、鬼気迫る表情でノームに向かって次々と投擲している。何とも言えない状況に、早く、この戦いを終わらせたいな、という気持ちが強くなる。

 フェオドル伯爵は、色々なものを投げながら僕達の方に近付いてきた。そして、若干ずり落ちていた眼鏡を押し上げ、先程の怒号とは一変、穏やかな声音で王子に話しかけた。

「殿下、来て早々申し訳ありませんが、ご助力願えますか? お恥ずかしいことに、我々ではこの場に留まるので精一杯。攻勢に出ることが叶いません」

「勿論です、辺境伯。そのために、遊撃軍はいるのですから」

「ありがとうございます」

 これが、貴族なのだろう。戦場ということを忘れるほどの優雅な一礼に、僕を含めた冒険者一同は、一瞬呆気にとられる。

「とはいえ、この状況では近づくのも難しいかな?」

「罠は人間には作動しないように作ってありますので、ご安心を」

 僕達が最初に見た煙幕も、火薬のにおいはするものの、人間には影響が出ないように作ってる魔術道具の一種らしい。精霊を含めた魔族は、人間に比べて圧倒的に魔力が多いので、その特性を利用して魔族にだけ効果が出るような仕掛けを作ったそうだ。良く分からないが、凄い技術が使われていることはわかった。

「成る程。それなら、気にせず戦えるね」

「殿下、どうなさいますか?」

 副司令の言葉に、王子は少し考えた後、僕たちに指示を出し始めた。最優先事項は西門の防衛、次に、ノームの撃破であると。

「取り敢えず、ユゥイには負傷兵の治療を頼もうかな。マリクとミストはユゥイの護衛をしつつ、上空に敵がいないかも確認してほしい」

「わかりました」

「了解」

 そのためには、まずは負傷した兵士たちを回復させ、戦線を維持することが重要だ。回復魔法が使えるユゥイさんが対応できない人は、一旦神官たちが控えている所まで下がってもらうしかないだろう。

「オッズとルートは私と一緒にノームと戦って欲しい。ジュカとシャムロックには魔法で援護を頼む。他は、兵士の治療で防衛線に穴が開くから、そのフォローを」

 そして、僕たちはノームとの戦闘部隊だ。難しく考えず、いつも通り目の前の敵を倒すだけ。よし、大丈夫だ。僕は深く息を吸い、大きく頷いた。

次回更新は9月17日17時予定です。

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