遊撃隊
「…………どこの、騎士団にも、入れなかった」
姿を消していく、騎士団で訓練をすることが決まった冒険者達。その背中を見送りながら、僕は小さく呟いた。言葉にすることで改めて実感がわいてきて、何とも言えない気持ちになる。
「る、ルート」
「他の騎士団は、才能が無いことはわかってたけど、王国騎士団にも……」
魔法の才能も、竜や天馬に好かれるような才能もないことは知っていた。選ばれないのは当然だ。でも、目標である王国騎士団の訓練に参加できない、という現実は、深く心に突き刺さった。
今迄は、冒険者ランクを上げれば騎士団への入隊試験を受けられる。そう信じていたが、よく考えれば入隊試験の受験資格を得るだけだ。その後、入ることができるかは能力次第。僕に、そんな能力は無い、と突き付けられた気分になる。
「騎士団で訓練を行うものは決まったようだな。残った者は此方に集まるように」
「呼ばれてる、から」
シャムロック君に肩を揺らされ、ようやく、周辺の音が入ってくる。気付けば、移動を始めていた他の冒険者や、神官長、国王陛下、各騎士団員も全く姿が無く、残されたのは僕達、選ばれなかった冒険者と、宰相だけだった。
「行こう?」
「うん……。ごめんね、シャムロック君」
「大丈夫」
残っているのは僕達だけだが、大きな部屋に散らばっていては話がしにくい。改めて一か所に集められた僕達の前に、一人の文官が出てきた。
「お集まりいただきありがとうございます。案内と説明は私、ヒール・モードが務めさせていただきます」
説明役として一歩前に出てきた文官は、見知った顔の人物だった。僕を含め、冒険者組合『D』に所属する冒険者の登録などを担当しているモードさんだ。僕が目を丸くしていると、モードさんは集められた顔ぶれを一通り見てから、小さく微笑んだ。
「皆様、お久しぶりです。『D』の方々は面識のある方が殆どのですので、説明も円滑に進みそうですね」
その言葉に、僕は首を傾げる。僕とシャムロック君は『D』の所属だが、集められた人は他にもいる。その全員が『D』に所属しているなんてことがあるのだろうか。そう思っていると、背後の人物が口を開いた。
「うちは変わり者揃いだからね。こういった時に、何処にも所属できない人ばかり集まっているんだ」
「マリク」
「あ、あの時の……」
パロス遺跡の奥で倒れていた、Aランクチームのリーダー、マリクさんだ。その隣には二人の女性。遺跡で発見したときには意識が無い状態だったが、無事に回復したのだろう。バランスを取るのも難しそうな、踵の高い靴を履いているのに真っすぐ綺麗に立っている。
「遺跡では助けてくれてありがとう。お陰で、問題なく二人も冒険者を続けられそうだ」
「私はユゥイ・サンターキ。よろしくね」
「ミスト・モーリス。遺跡では情けない所見られちゃったみたいだけど、払拭して見せるから」
この場に残っている冒険者たちの中で、この三人が一番ランクの高いパーティなのだとモードさんが説明してくれた。が、優しそうなユゥイさんと、凛としているミストさん、そして、掴みどころのなさそうなマリクさん。ちょっと変わった組み合わせである。
「ユゥイは踊り子、ミストは調教師、僕は大道芸人なんだ。本来は各地を回る曲芸団なんだけれど、色々あって、王都に滞在する間は冒険者で稼いでいるんだ」
「そう、なんですね」
冒険者はあくまで副業らしい。それでAランク冒険者って、他の人が聞いたら嫉妬するどころの話ではないだろう。ちらり、とモードさんを見ると、小さく頷かれた。多分、過去に何かトラブルがあったのだろう。文官も大変らしい。
「これでもAランク冒険者だから、腕に自信はあったけれど。何処にも選ばれなかったね」
「今回、魔導士塔や中央神殿、各騎士団で行われるのは集団的な戦術行動の訓練になります。特殊な方向に秀でている方々は、訓練の対象外となってしまうのは仕方のないことでしょう」
マリク様は投げナイフを扱うでしょう、とモードさんが言う。どうやら、集団戦術で扱う武器以外を使っている時点で、今回の訓練対象から外される仕組みになっていたらしい。よく見ると、踊り子であるユゥイさんは変わった形のダガーを、調教師であるミストさんは鞭を持っている。他の冒険者たちも、あまり見かけない形の斧や使い方すらわからない武器を持っている。
「でも、僕は剣ですけど……」
素材はかなり特殊なものだが、形は一般的なブロードソードだ。王国騎士団が使っているものと大した違いは無かったはず。
「ルートは王国騎士団に混ざるには、体格が小さいから外されたんじゃないかな?」
隊列を組もうと思った時に、一人だけ小柄だと陣形が崩れやすいから。と、マリクさんが言う。それに、僕の背丈では軍用馬に乗るのは難しいらしい。剣の腕前が足りない、という訳ではないのかもしれない。そう思うと、ちょっとだけ気持ちが軽くなった。
「此方に集まって頂いた方々は、他の場所に所属するには特殊過ぎるものの、戦闘能力は折り紙付きの方々です。本当に補助向きの方は、別の場所に集まって頂きました」
「え、そうなんですか」
選ばれなかったショックで全然聞こえてなかった。
「はい。結果的に、組合『D』に所属する冒険者ばかりになってしまいましたが、これも運命というものでしょう。此処にいる方々は、第三王子殿下率いる遊撃隊として、本日より訓練していただくことになります」
「遊撃?」
「第三王子殿下?」
よし、頑張るぞ。そう思った瞬間、とんでもない単語が耳に飛び込んできた。戦闘能力は折り紙付き、という単語から、戦場を移動する必要のある伝令役でもやるのかと思っていたら、まさかの遊撃部隊。しかも、率いるのは王族の、第三王子殿下なんて。
「詳しくは、第三王子殿下の居室のある、西の離宮に到着してからお話しします。恐らく、到着する頃には他の方々も到着されるでしょうから」
「他の方?」
「ええ。今回は国を挙げての総力戦。戦闘行為が可能なものは、全て戦力として数えられています。冒険者だけでなく、私たち貴族も当然、戦いに参加します。貴族は一般市民たちに比べ、魔力を多く持つものが殆どですから。遊撃隊には貴族も数名、参加することになっています」
「モードさんも、ですか?」
勿論です、とモードさんは頷いた。貴族として認められている者は、貴族院という場所で魔法や武術を身に着けており、有事の際には戦いに出る義務があるのだという。
「貴族たちは、その魔力の属性にあわせて、四大伯爵家を中心とした軍に編成されます」
魔法は基本的に四つの属性に分けられる。火、水、土、風。南側の貴族は火属性が多いので、南の辺境伯爵家を中心とした軍に入る、と言った感じらしい。
「あれ? それなら、どうして四大伯爵家の軍じゃなくて、遊撃軍ができたんですか? 第三王子殿下以外に、第一王子殿下と、第二王子殿下もそれぞれ遊撃軍を持っているんですか?」
「第一王子殿下は国王陛下たちをお守りする親衛隊、第二王子殿下は王国騎士団を率いる予定です。隠密や伝令など、特殊部隊は幾つかありますが……、遊撃軍が一番、戦術の幅が広いと言えるでしょう」
「それって……」
四大属性以外の魔法、防御魔法が得意なものは親衛隊になるが、その他の魔法が得意なものは、特殊部隊か遊撃隊になるらしい。良く言えば人材が豊富。悪く言えば、まとまりのない、寄せ集めの部隊ということなのではないだろうか。
それらの情報を整理したうえで、最初に気になったのは、今僕達に説明をしてくれている、モードさんの事だった。
「というか、モードさんって伝令とか補給部隊じゃないんですか? 僕達冒険者とのかかわりがあるからって理由で遊撃軍に入れられたりしてないですよね?」
変わり者揃いの冒険者の相手をさせるために、危険そうな遊撃隊に所属することになったのであれば申し訳ない。魔導士ではなく文官ということは、そこまで戦闘向きの魔法であるとは考えにくい。そう思っての発言だったが、モードさんは大丈夫ですよ、と首を振った。
「ご安心ください。私は使用する魔法の関係上、遊撃隊に所属することになっただけですので。戦闘に問題はありません」
「魔法?」
「我がモード家が扱う魔法は召喚魔法。魔獣や精霊を召喚し、その力を借りることに特化した魔法です。特殊なため、遊撃軍以外に所属することは難しいですが、自分の身は自分で守れますのでご安心を」
因みに、貴族院での戦闘訓練では成績上位だったらしい。戦闘や魔法の研究よりも、文官を希望して今の仕事をしているだけで、天馬騎士団や魔導士塔から声を掛けられるほどの実力はあるそうだ。
「へ、へぇ……」
「かっこいいですね」
やらないといけないことが多すぎるから、普段は冒険者に戦闘を任せているだけで、僕達冒険者が思っているよりも、この国の貴族というのは、強いのかもしれない。モードさんの言葉の端々から、そんなことを思った。
「今から合流する他の貴族の方々も、戦闘方法が特殊な方ばかりですので心の準備をなさってください」
「は、はい。覚悟します……」
よく考えたら、騎士も基本的には一代限りとはいえ貴族なのだ。基本的に、貴族とは、権力的なことだけでなく、戦闘面でも僕達よりも圧倒的に強いものなのかもしれない。僕達は改めて気合を入れ直し、意識的に背筋を伸ばして、第三王子殿下の離宮へと足を進めた。
次回更新は7月30日17時予定です。




