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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
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宣戦布告

「面を上げよ」

 謁見の間に、落ち着いた威厳ある声が響く。言われた通りに顔を上げると、少し離れた壇上に数人が立っていた。中央に立っているのが国王陛下。その両隣に立っているのは、見た目からして魔導士と神官だろうか。後は、少し離れた場所に宰相らしき人物が控えている。

「国を守るため尽力した冒険者達よ。よくぞ来てくれた」

 勿論、警備のための騎士は部屋の隅に配置されているが、思ったより人数が少ないな。と、微妙に違うことを考えているうちに、国王陛下の話はどんどん進んでいく。

「国王として、礼を言う。お陰で魔物の大量発生を食い止めることができた。これは騎士団、王宮魔導士だけ解決できることでなく、冒険者たちの協力があってのことだ」

 警備上の問題もあるだろうし、そろそろ話も終わりだろうか。これなら、フラムやカーバンクルの事も気付かれずに済みそうだ。少しホッとしながら話を聞いていると、突然、国王陛下の声が低くなった。

「だが、今、新たなる危機が我が国の前に立ちはだかっている」

「危機?」

 思わず、誰かが聞き返した。流石に不敬ではないのか、思わず周囲にいる騎士や、国王陛下の周りの人物を見る。が、特に誰も咎める様な気配はない。そのこともあり、冒険者たちの声がぽつりぽつりと漏れ出した。

「また?」

「次は何だ……?」

「これ以上戦うのは……」

 聞こえてくるのは、不安の声だ。大量の魔物達と長時間にわたって戦い、碌に休憩も取らずに王宮に呼び出されたのだ。戦いに対して後ろ向きになっても仕方がない。でも、偉い人の前で話していていいのだろうか。ちらり、と壇上の様子を伺うと、国王陛下と目が合った、様な気がした。

「静まれ。新たなる危機について、魔導士長から説明を行う。魔導士長、此方へ」

 国王陛下がそう言うと、隣に控えていた魔導士が一歩、前に出た。被っていたローブが外れ、銀色の髪と、深紅の瞳が明りに照らされる。その瞬間、冒険者、特に魔導士たちから黄色い声が上がった。

「ノア様?」

「本物の……?」

 聞こえてきたのは、僕でも知っている名前だ。50年前、竜がこの国を襲った時に、今の国王陛下と共にそれを討ち取ったと言われる伝説の魔導士、ノア。見た目は完全に20代にしか見えないが、間違いなくこの国の重鎮である。

「魔導士塔の長、ノア・アルカだ。つい先ほど、魔族側から我が国に対して、正式に宣戦布告が行われた」

「え……」

 そんな、国の重鎮の口から出てきたのは、魔物の大量発生が大したことじゃなくなるような、衝撃的な言葉だった。

「それも、国王陛下の手元に魔王からの書簡が届く、という形でな」

 魔導士長様はそう言って笑ったが、全く笑い事ではない。それはつまり、魔王からすれば魔法で国王を攻撃する程度は簡単だということだ。事前に実力を見せつけ、降伏を促そうというのか。

「彼方にも国家の面子というものがあるのかは分からんが、開戦の日時と場所まで指定されていてな。これを拒否した場合は問答無用で攻撃を開始する、とのことだ」

 書簡を届けることができているのだから、攻撃する程度は簡単である。今、こうして僕達に伝えている時も、戦いを拒絶するような発言をした時点で魔王からの攻撃が飛んでくる可能性がある、ということか。僕は思わず体を硬くした。

「騎士団や我ら魔導士塔に所属する王宮魔導士たちは勿論、様々な伝手を総動員しても人材が足りるとは言えない状況だ。今回の大量発生鎮圧で活躍した冒険者諸君には、是非とも参加してもらいたい」

 冒険者の間に動揺が広がっていく。魔物の大量発生でもあんなに苦労したのだ。魔物とは比べ物にならない強さの魔族と、正面から戦うことなんてできるのだろうかと思うのは当然だろう。

 冒険者たちの動揺をよそに、いや、動揺しているからこそか、魔導士長は次々と言葉を重ねていく。

「ちなみに、降伏をした場合だが、わが国は彼方側の属国になる。属国と言えば聞こえはいいが、実際は完全降伏だからな。一般市民は奴隷同然の扱いになるだろう。言っておくが、王族や貴族、後はお前たちのような冒険者は、一般市民以上に安全が確保されないだろう」

「どういうことだ?」

「王族や貴族はまだわかるが、何で俺達も……」

 数人の冒険者が首を傾げた。王族、貴族は兎も角、権力を持たない冒険者がどうして安全確保されないのか、と言った風である。一般市民を労働力として考えるならば、力が強かったり、魔力を多く持っていたりする冒険者は良い労働力といえる。

「権力の問題ではない。強さの問題だ。王族や貴族は、一般市民に比べて魔力が多く、強大な魔法を使える者が多い。単純に、魔族を倒す可能性があるものを放置するのか、ということだ」

「それって……」

 今回の大量発生で、魔族を倒した、大量の魔物と戦っていたような、実力のある冒険者は、当然放置されないということになるのではないか。

「参加を強制することは無い。士気が低い者がいても邪魔なだけだからな。だが、戦闘に参加しないということが、この戦いに負けるということが、どういうことなのかは理解しておくべきだろう」

 実質、選択肢は無いので覚悟を決めろ、ということですよね、と心の中で叫んでいると、国王陛下の横に立っていた、もう一人の人物が魔導士長の肩を叩いた。

「ノアは回りくどいんだよ。もっと簡潔に、全員で力を合わせて魔族と戦わないと国が滅んで、此処にいる奴は全員始末されます、って事だろ」

「お前は神官長の癖に雑過ぎるんだ、ウォルス」

「でも、それで結構な数の覚悟が決まったんだから良いだろ」

なあ、陛下。と、神官長が言う。かなり砕けた態度だが、それも当然。彼も魔導士長と同じ、かつての英雄である。改めて考えると、50年前に国を救った英雄が態々全員揃って僕達に説明してるということは、相当不味い状況ということではないか。

「構わん」

「じゃあ、殆どの奴らの覚悟は決まったみたいだし、詳しい説明するな。魔王が提示してきたのは魔界とこの国を繋ぐ『道』と呼ばれる空間内だ。そこで、それぞれの王を総大将とした戦いをしよう、とのことだ」

 と、言うことは、少なくとも戦いによって国土が荒らされることは無いのだろう。魔界は緑のない土地だというので、食料が取れる此方の国をあまり傷つけたくないのかもしれない。だが、疑問もある。僕はそっと、右手を挙げてみた。神官長が僕の方を見て、小さく頷く。発言していいらしい。

「あの、質問良いですか?」

「いいぞ」

「その、道というのは、特定の場所にあるイメージがあるのですが、僕達はどうやって決戦の場所に行くんですか?」

 ハルピュイアと戦った時、泉に作られていた道は、魔界の洞窟に繋がっていた。何度通っても同じ場所を行き来していたことを考えると、道は決まった場所通しを繋ぐのだろう。なら、決戦の場所に行くための道を探す必要があるのではないか。

「ああ、それに関しては、玉座の間とその空間が繋がるらしい。何というか、そう言う周期?になってるらしい」

 神官長はそう答えて、魔導士長を振り返った。

「…………そもそも、魔界とこの王国は定期的に空間が繋がる。記録によれば、前回の戦いでも魔界の王城と此方の城が繋がったとのことだ。恐らく、此方と魔界は殆ど同一の世界で、魔界と此方の同じ場所が繋がっているんだろう」

「えっと……、つまり、決戦の場所に行く手段は心配しなくてよくて、軍勢が負けて城に入られて、王のもとに辿り着かれた方が負け、ってことですか?」

「そう言うことになる」

「で、日時は、今から二週間後。新月の日だな」

 意外と時間が無い。此方が十分な人材を集める前に決着をつけてしまおうということか。

「既に玉座の間は魔導士たちが調べ始めている。決戦の地へと行くことができるようになれば即座に軍勢を配備していくことになる」

「それで、ここからが提案なんだが、参加してくれる冒険者は、暫く王宮で訓練しようと思ってな」

 できれば、決戦までの二週間は王宮に滞在してほしい、と神官長は言った。突然の提案に冒険者は困惑する。冒険者は騎士たちとは違い、戦い方が人によって大きく変わる。何を訓練するのか、といった雰囲気だ。

「人間は魔力も身体能力も魔族に劣る。唯一勝てるとすれば、連携能力くらいだ。魔族は基本的に個人主義だからな。お陰で前回も勇者一行が魔王を倒すことができたみたいだが」

「だが、前回は部下を一人一人向かわせたせいで敗北した魔王は、今回は総力戦という形をとってきた」

「一対一の勝負に持ち込めば魔族の勝利は確実だ。しかし、人間には軍略というものがある。有効に使えば魔族に勝てるかもしれない。ただ、現時点では軍略を活かせないかもしれない。その理由がわかるか?」

 さっきの少年、と指名され、僕は少し考えてから答えた。軍略について詳しいわけではないが、騎士に憧れる身として、少しは勉強をしてきた。その時に教わったこと。基本的に、戦いにおいては個人の数で戦力を考えるのではなく、部隊としての戦力を考えるということだ。

「冒険者は、連携に慣れていない、からですか?」

「その通り!! 別に冒険者を貶している訳じゃない。単純に、宮廷魔導士や騎士団とは違って、大人数で行動するための訓練は受けていない、というだけだ」

 冒険者には冒険者にしかできない動き、というものもあるからな、と神官長は明るく言った。同じような能力を持った者と行動する騎士や宮廷魔導士と違って、冒険者は全く違う能力を持った個人同士でパーティを組んでいる。確かに、全員で同じことをするのには慣れていない。

「だから、決戦までの二週間の間に、連携のための訓練をしてもらいたい。冒険者諸君は軍の中に組み込まれるということに慣れてもらい、此方は冒険者の特性を把握するための機関とする。どうだろうか?」

 そう言った神官長の目は、老いてもまだ衰えぬ、強者の輝きが灯っていた。


次回更新は7月16日17時予定です。

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