表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
4/68

不思議な依頼

 さて、無事にDランク冒険者になった僕だが、冒険者として本格的に活動を始めるにあたり、問題があった。そのため、依頼を受けようにもどれを受けるか決めることができず、受付カウンターの一覧を眺め始めて、かなりの時間が経過していた。

「どうしよう……」

 Dランク冒険者は初心者と言われるランクではないので、基本的に活動は個人又はパーティ単位のものになる。そして、依頼等で指定される区域も広くなる。城壁近くでしか活動しないEランクに比べて圧倒的に広くなり、当然、その範囲にはあの森も含まれる。

「と、なると、物理攻撃が通じない相手への対策がないと、危ないけど……」

 僕は、魔法が使えない。使ったことがないのではない。使えないのである。村を出る前、じいちゃんに教わって訓練を積んだのだが、日常生活レベルの魔法すら碌に発動できなかったのだ。魔物に通用するような魔法なんて使えるはずもない。

「だからと言って、パーティを組むのも無理だろうな……」

 冒険者がパーティを組むのは、様々な事態に対応するためだ。なので、僕も魔法が使える人物とパーティを組むのが正解だろうが、それは少々難しい。僕は、冒険者として生活したいわけではないからだ。ランクアップを目指すために次々と難易度の高い依頼を受けることを了承してくれて、且つ、Bランクになったら解散してもいい、という人は中々いないだろう。

「Cランクになった時点で生活に困ることはないみたいだし」

 それに、多くの場合、パーティはEランクのうちに決まるものだ。Dランク以上になっても個人で活動している冒険者は殆どいない。いたとしても、そういった人は集団行動を嫌う人が殆どだ。断られる可能性の方が高いだろう。

「倒せなくてもいいけど、隙を作って、逃げられるだけの余裕が欲しいかな」

 自力ではどうにもできないのだから、積極的に戦うつもりはない。囲まれたりしたときに、一点突破できる機会が作れればいい。そう考えると、魔法効果のある剣を買うしかなくなるが、お金が足りるだろうか。

「トノサマバッタの魔石を売ったお金があるとはいえ、魔法効果がある剣が買えるほどではないし……」

 仕方がないので、今日はEランクの依頼を受けて、王都近辺でお金になりそうなものを集めるしかないだろう。一日資金集めに集中して、どれだけ稼ぐことができるのかを確かめてから方針を決めても遅くない。そう判断して、一枚の依頼書を手に取ろうとした時だった。

「ルート、何か迷ってるの?」

「アンリさん、おはようございます」

 ひょい、と目の前の依頼書が取られたかと思うと、カウンターの奥からアンリさんが顔を出した。先程まで対応していた冒険者との話は終わったのだろう。受付にいるのは僕だけになっている。

「それで、何かあるなら言ってごらん? 代表だからね、所属している冒険者に適切な依頼を提案するのも仕事なんだよ」

「えっと、魔法が使えなくても危険の少ない依頼を探そうと思ってまして……」

「ルートって、全く魔法が使えないの?」

「はい。訓練はしたことがあるんですけど、魔力自体がかなり少ないらしくて」

「成程ね。ちょっと待ってくれる?」

 僕が頷くと、アンリさんはカウンターの奥の方に行き、厳重に包装された箱を一つ手に取り、その中から数枚の書類を取り出した。僕が受けられるような、魔法を使えなくてもいい依頼を探してくれているのだろう。暫く待っていると、アンリさんは少し日に焼けた書類を一枚持って戻ってくる。

「あったよ。この依頼なら、今のルートにピッタリだと思う」

「僕でも受けられる、じゃなくて、僕にぴったりの依頼ですか?」

「そうだよ。ただ、ちょっと特殊な依頼なんだけど、大丈夫?」

「はい」

 アンリさんが言うなら危険はないだろう。内容が特殊でも、僕ができることなら全力でやるだけだ。しっかりと頷くと、アンリさんは微笑みながら書類を僕の方に渡してきた。その瞬間、独特な匂いが鼻先をかすめた。ハーブか何かの、強烈な匂いだ。

「あまりに人気が無くて放置気味だったんだけど、今思えば、ルートが受けるために残ってたのかもしれないね」

「あの、この依頼、内容は……」

「内容自体は単純だよ。とある人の、採取の手伝いと道中の護衛が依頼内容」

 依頼主が城門の外側で採取を行うので、荷物の運搬や採取の補助、依頼主が倒せない魔物との戦闘が仕事の内容になる。普通の護衛依頼とは違い、運搬と採取の仕事が増えるが、その分、報酬が多い。しかも、依頼主が魔法を使えるため、戦闘になっても一人で戦うわけではないという。

「……なんで、こんな条件が良い依頼なのに、人気が無かったんですか?」

 確かに特殊だが、少し依頼の内容が多いだけで、特殊技能が必要と言うわけではない。力自慢ならこぞって受けたがるような依頼なのに、どうして誰も受けなかったのか。それが一番気になる所だ。アンリさんをじっと見つめると、彼女は、少し困った顔をして言った。

「それはね、依頼主が、生物系専門の錬金術師だからだよ」

 生物系の錬金術師だと、人気が出ない理由があるのだろうか。僕は首を傾げながらも、依頼を受けることを決めたのだった。


 アンリさんから依頼に関する説明を受け、僕は組合の近くにある店までやってきた。建物自体は他の店と特に変わりがないように見えるが、やけに古びた二枚の看板が扉の前に掛かっている。

「別に、変な所は無いけど……」

 大きな看板に書かれているのは、『ウィーダ道具屋』の文字。冒険者の多い地域では、道具屋というのは生活用品ではなく、戦闘の際に必要な道具のことを言うので、おかしな点はない。

もう一つの看板には『本日定休』と書かれている。定休日だから採取に行きたい、と言うことだろう。確か、依頼書に曜日指定について書かれていたはずだ。

「曜日指定以外は条件がないのに、本当に、誰も受けなかったのかな?」

一度受けたら次回以降も指名される、などの条件は無かったはずだ。一体、何故人気が無かったのだろう。僕は再び不思議に思いながら、扉を叩いた。

「すみません、組合『D』から依頼を受けてきました。冒険者のルートと申します」

 反応は無い。依頼主は錬金術師なので、今は作業をしているのかもしれない。その場合は中に入ってもいい、と説明を受けている。僕はもう一度声を掛けてから、ゆっくりと扉に手を掛けた。僅かに扉が開いたその瞬間、僕は、盛大にむせた。

「な、なんの、におい、これ……」

 僕は慌てて扉を閉め、道の方に顔を向け、何度か深呼吸をする。扉を開けた瞬間、感じたのは強烈な、鼻が曲がりそうな独特な臭いだ。扉越しでは全くわからなかったが、恐らく、中にはあの臭いが充満しているのだろう。

「もしかして、依頼が不人気な理由って……」

 扉を背にして、座り込みながら呟く。すると、僕の目の前に小さな影が二つ現れた。そして、僕が顔を上げるより先に、元気のいい声が道に響く。

「てつだいがいない、りゆうはかんたん!!」

「おねえちゃんがつかうざいりょうは!!」

「「とっても、とってもくさいから!!」」

 仁王立ちをしながら言ったのは、二人組の女の子だ。身長が同じくらいで、同じ服、同じ髪形をしている。顔もよく似ているので双子なのだろう。そして、発言内容から考えると、依頼主の妹、ということになる。手に籠を持っているので、おつかいをした帰りだろうか。

「えっと、僕は……」

 取り敢えず、中に案内してもらうためにも挨拶をした方が良いだろう。慌てて立ち上がり、口を開こうとする。が、目の前の少女が元気よく手を挙げたことで、僕の言葉は遮られた。

「わたしは、チィ!!」

「ミィだよ!!」

「あ、ルートです。よろしくお願いします」

「「よろしくね!!」」

 ぺこり、と頭を下げると、二人も元気よく挨拶をしてくれた。そのまま二人は籠から鈴のようなものを取り出し、何度か鳴らす。そして、扉に手を掛け、躊躇わずに店の中に入っていった。

「はやく~!!」

「おいてくよ?」

 二人は慣れているのかもしれないが、あの強烈なにおいを嗅いだ後に中に入る勇気は中々でない。が、既に、依頼を引き受けているのだ。此処で投げ出すわけにはいかない。すべては、騎士になるためだ。僕は覚悟を決めて、店の中に一歩踏み込んだ。

「…………あれ、臭くない」

「さっきのやつだよ」

「においけしなの」

 二人が説明をしてくれる。先程、二人が入り口で鳴らしていたのは消臭効果のある鈴で、周辺のにおいを一定時間消す効果があるらしい。普段は店の扉に着けてあるのだが、今日は定休日なので外して持ち歩いていたそうだ。

「はやくいこ」

「おねえちゃーん!!おきゃくさん!!」

 二人に連れられ、店を通り抜け、奥へ奥へと向かっていく。一本道の廊下に差し掛かったところで、先導していたチィちゃんが大きな声を上げる。すると、奥にあった扉の向こうから、訝しげな声が返ってきた。

「お客さん? 今日は定休日だし、忙しいから誰とも約束してないはずだけど?」

「いらい、うけてくれたひと!!」

「はやくきて!!」

 二人は扉を叩きながら言う。どうして扉を開けないのか、そんな質問はしない。この先が依頼主である錬金術師の工房ならば、店に入ろうとした時の臭いの発生源は、間違いなく扉の向こうだからだ。

「あー、あの、組合に出してた依頼受けてくれた人か。全然来ないから、忘れてた」

「いいから!!」

「はやく!!」

「ごめんって。そんなに怒らないでよ……」

 扉の向こうから人が動く音が聞こえてくる。その音が、徐々にこちらに向かってきていることを確認すると、二人は僕の方を向き、はっきりと言った。

「では、あんないはおわったので!!」

「わたしたちは、ここでおわかれです!!」

「「じゃあね!!」」

「あ、ありがとうございました……」

 呆気にとられる僕を気にした様子もなく、二人は物凄い速さで店の方へと走っていった。直後、ゆっくりと背後の扉が開き、中から女性が現れる。丸い眼鏡に、邪魔にならないように束ねられた髪。そして真っ白な実験着。間違いなく依頼主だろう。

「ええっと、依頼、受けてくれた人ですよね。取り敢えず、中で説明するのでどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 案内されるまま工房の扉を潜った瞬間、僕は、思わず鼻をつまんだ。先程まで全くしなかったはずの臭いが、再び襲ってきたからである。とはいえ、依頼主の前で叫ぶわけにもいかない。必死に耐えていると、女性は僕の様子を見て、慌てて布を取り出した。

「ごめんなさい!! 工房の中は、他の魔法の影響を受けないようにしてて……。奥の部屋は大丈夫なので、そこまで布で押さえててください」

「あ、ありがとう、ございます……」

 奥の小部屋まで移動すると、僕は布を外し、深呼吸する。此処は臭いがしないようになっているようだ。女性は申し訳なさそうな顔をしながら僕に椅子をすすめた。

「改めまして、錬金術師のリィ・アッカ・ウィーダです。今回は、依頼を受けていただきありがとうございます」

「組合『D』所属、冒険者のルートです。よろしくお願いします」

 リィさんは中に赤い液体が入っている、ガラスドームが付いたペンダントを。僕は、冒険者の証である青色のバッジを取り出し、互いに見せた。ペンダントは、錬金術師である証拠で、赤い液体が入っているので、リィさんはCランク錬金術師だという。

「錬金術師にもランクがあるんですね」

「冒険者とは基準が違うけどね。Cランクになったら一人前で、一人で店を開けるようになるの」

 因みに、道具屋の商品は、リィさんが作っているらしい。数年前まではリィさん達の父親が商品を作っていたのだ。しかし、リィさんがCランクに上がると同時に自分の研究を行うため、仕事を任されたそうだ。

「昔からある店なら、仕入れ先もあるんじゃないですか?」

「今回集める素材は、商品の材料じゃなくて、私が個人的に使うものだから自分で取って行いといけないの」

 普段は店の営業もあるので、素材を専門業者から仕入れているらしい。しかし、今回は業者も持っていないような材料を使って作るものがあるらしい。

「一人で行けたらよかったんだけど、Bランク以上じゃないと、個人での採集活動は許可されなくて……」

「リィさんはCランクなので、冒険者の同行が必要になる、と」

「そういうことです」

 当然、同行する冒険者のランクによって、行動できる区域は変わる。リィさんが採集したい素材は、Dランク冒険者でも行ける範囲にあるという。

「ある程度魔法は使えるんだけど、Bランクの条件をまだ満たしてなくて……」

 因みに、Bランクの錬金術師になる条件は、Dランク冒険者程度の戦闘能力、中級以上の錬金術がつけること、そして、上級以上のアイテムを作成することらしい。

「それで、リィさんはどの条件を満たしてないんですか?」

「上級アイテムの作成だよ。今から、そのための素材を取りに行くの」

「わかりました!! でも、僕、採集用の道具類は、何も持っていなくて……」

 革製の手袋と小さめのナイフは持っているが、専門的な道具は全くと言っていいほど持っていない。上級アイテムの作成に使うような素材なら、扱いが難しいものもあるだろう。何か必要な道具があるなら、先に確認しておいた方が良い。そう思って質問をすると、リィさんは目を丸くしたのち、笑った。

「特殊な素材は自分で採取するから大丈夫」

「わかりました」

「素材を入れるための籠は準備してあるから、それだけ持ったら出発しよう」

 そう言って、リィさんは大きな籠を一つ、僕の方に渡した。僕が集める素材は、他のものと混ざってもいいようなものだけなのだろう。一方で、リィさんは複数の小さな籠やケースを沢山持って、出発の準備は完了だ。

「それじゃあ、行こうか」

 リィさんの宣言に、僕は元気よく頷いた。


 採集が始まり、僕は、すぐに驚くことになった。想像以上にやることが無かったのである。ある程度魔法が使える、と言っていたリィさんは宣言通り、王都近辺の魔物は余裕で相手ができており、僕が近付くより先に魔法で倒してしまう。結果、僕は荷物持ちしかしていない、という状況に陥ったのである。

「…………これ、僕必要でした?」

 王都の東側、川の付近で採取活動を行いながら、僕はリィさんに聞いた。僕は川辺にある小さな貝殻の採取、リィさんは川の中にいる魚を魔法で取っては捌いている。

「物凄く助かってるよ? 私一人だったら持ちきれなくて諦めてた素材も採取できてるし」

「なら、良いんですけど……」

「それに、かなり臭いがするから、荷物持ちをしてくれる人は貴重だから」

「まあ、かなり、強烈ですもんね……。僕は大分慣れてきましたけど」

 リィさんは生物系の錬金術師と言うこともあって、素材に魔物の角や爪、毛皮なども集めている。それらは当然、魔物から採取しており、洗ったり、加工は一切行っていない。ので、現在、僕が背負っている籠からはかなり獣独特のにおいがしている。

「素材自体に消臭効果をつけちゃうと、状態が分からなくなったり、実験の時に成功したかも判断しにくくなるから、どうしてもそのまま運ぶ必要があるから、消すわけにもいかなくて」

「冒険者側も、鼻が利かなくなったら困りますからね」

 結果、耐えてくれる人を探すしかないのだという。錬金術師の系統としては、生物系の他に鉱物系、植物系があるらしいが、他二つは生物系に比べると圧倒的に臭いがしないという。

「でも、冒険者が頻繁に使う道具は生物系が圧倒的に多いの。回復薬とか、獣除けとか。店を続けるためにも、生物系が一番いいんだけど……」

 そこまで言って、リィさんは言い淀んだ。どうかしたんですか、と声を掛けようとした時。何かが、川の石を踏みしめ、次いで水の中に入った音が聞こえた。その音は大きく、決して人間のものではない。

「リ、リィさん……」

「ルート君。慌てないで、ゆっくり私の方に来ながら振り返って。絶対、大きな声を上げたりしないでね」

 ばちゃ、ばちゃ、ばちゃ。と、徐々に水音が近付いてきているのを聞きながら、僕はリィさんの指示に従い、移動を始める。ゆっくりと進みながら、体を反転させ、後ろを振り返る。すると、そこにいたのは、僕の背丈を優に超える大きさの、熊のような生物だった。

「…………!?」

 だが、普通の熊ではない。体毛は黒や茶色よりも、黄色に近く、手の甲に大きな針のようなものが生えている。魔物であることは理解できるが、どのような魔物なのか全く分からない。

「あれは……」

「熊蜂。熊の体に、蜂の針と毒を持った魔物。この辺りで見た話は聞いたことがないけど……」

「もしかして、臭いに釣られてきたとか……」

「魚は好物の筈だから、可能性は高いかな」

 基本的には熊と似た生態をしているので、対処法自体は同じらしい。が、もしも戦闘を行う場合は、全身に蜂と同じ毒を持っているので細心の注意が必要になるという。このまま、リィさんが捌いた魚の残骸の方に集中してくれればいいのだが。そう祈りながら、一歩、二歩と下がっていく。

「…………あの、リィさん」

「うん」

 一歩下がるたびに、熊蜂も一歩距離を詰めてくる。リィさんが魚をさばいていた場所に熊蜂が差し掛かったのだが、一瞥もせずに横を通り過ぎた。これは、確実に僕らの方を狙っているのだろう。

「逃げ切れると思います?」

「身体能力で負けてるから、多分無理かな……」

「ですよね」

 何といっても相手は熊、の魔物。確実に逃げきれない。かくなる上は戦うしかないのだが、剣が通用するのかがわからない。相手が持っている魔力が多いと、体の表面も強くなっている可能性が高いからだ。

「リィさん、勝てる自信は?」

「ないかな。確か、熊蜂は魔法への耐性が高くて、火属性と地属性が殆ど効かないから」

リィさんが得意なのは地属性らしい。足場を悪くしたり、土の壁で防御したりといった援護はできても、ダメージを期待しないでほしい、と言い切られた。そんなことを話している間にも、熊蜂は徐々に距離を詰めてくる。

「……とにかく、やってみるしかない!!」

 僕は諦めて剣を構え、熊蜂を真っすぐに見据える。相手の主な攻撃手段は、爪と針だろう。甲に生えている針に気を付けつつ戦えば何とかなるだろうか。体格で圧倒的に負けているので、力勝負になるようなことは避けて、躱しつつ攻撃の隙を伺う方が良いだろう。

「来い!!」

 僕が短く叫んだ瞬間、熊蜂が勢いよく腕を振り上げる。意外と体が大きいので、後ろに下がって躱すのはまずいだろう。僕が剣を正面で構えたまま横に飛びのくと同時に、手に軽い衝撃が伝わってきた。

「うわっ!!」

 爪は躱せたが、針が剣先に当たったらしい。微妙に崩れた体勢を整えながら、熊蜂の方を見ると、先程よりも針が若干伸びている。ある程度の伸縮が可能になっているようだ。これは、中々に厄介である。

「ルート君、大丈夫!?」

「大丈夫です!!」

 相手は巨体の割には素早いが、僕の方が早い。先に体勢を整えた僕は、熊蜂の後ろに回り込み、その背中に向かって勢い良く踏み込み、剣を突き立てる。

「いけるっ!!」

 剣先が弾かれるような感覚は無い。僕はそのまま、剣を真っすぐに突き出し、そして、引き抜いた。すると、熊蜂の体は重力に従い、ゆっくりと地面に倒れ伏す。

「……思ったより、呆気ないというか」

 熊の身体能力と蜂の毒を持っていただけで、魔力自体はあまりないのかもしれない。取り敢えず、危険は去っただろう。そう判断して剣を納めようとした時だった。

「待って!!」

 リィさんの鋭い声に再び剣を構え、熊蜂を警戒する。が、リィさんは僕の横を通り過ぎ、熊蜂に駆け寄っていった。どう言うことだろう、と思っていると、既に熊蜂の横に座り込み、手を動かしているリィさんが僕に向かって言った。

「消滅する前に、解体して!! 素材にするから!!」

「あ、えっと、わかりました……」

 魔物は倒すと魔石になるが、倒してすぐに解体すれば、その部分は残るらしい。僕はそんな説明を聞きながら、リィさんの指示に従い、解体作業をするのだった。


次回更新は10月14日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ