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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
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召集

「これ、今ので何回目……?」

『ご主人様、ぼうっとしてないで!!』

 祭壇に反撃されてから暫く。僕達は、押し寄せるゴーレムの間を搔い潜って祭壇に近付いては、また押し戻されるということを繰り返していた。隊長さんも、僕も、ゴーレムとの戦い方には慣れてきた。お陰で、祭壇から離れた場所でゴーレムを倒すことは大して難しくない。が、しかし。

「近づけば近づく程、数が増えるし、反撃に対処しきれない……!!」

 離れた場所では、ゴーレムは目の前にしかいない。が、祭壇付近になると、前後左右をゴーレムに囲まれている。正直、防御に専念しないとすぐにでもやられてしまいそうな状態であり、攻撃を仕掛ける余裕は殆どない。フラムが魔法で援護をしてくれているが、それでも流石に無理がある。

「ゴーレム、減って、る……?」

 僕達の迎撃にゴーレムを回しているからか、祭壇に新たなオリハルコンが供給されることは無い。お陰で、敵の数は増えることなく、倒した分だけ減っているはずだ。が、元々の数が多すぎる。

「数は減ったが、俺達の体力が尽きる方が早い!!」

「正直、僕、そろそろ限界……」

 先程から、隊長さんに置いて行かれそうになっている。普通の物よりもずっと軽いはずの剣は重たく感じるし、前に踏み出す足も、自分が思っているより進んでいない。動きを合わせて進まないといけないのに、集中力が切れてきたのか、微妙にずれてしまう。

「一気に決める。行くぞ、ルート!!」

「はい!!」

 僕が限界なのは、横で戦っている隊長さんが一番把握しているのだろう。シャムロック君とフラムに今迄以上の援護を指示し、僕の斜め前を走り出す。僕はその少し後ろを付いて行こうと、走り出した瞬間だった。

『ご主人様!!』

「ルート、危ない!!」

 フラムと、シャムロック君が殆ど同時に叫んだ。見ると、丁度、僕の死角。隊長さんが陰になって見えなかった位置から、ゴーレムの腕が近付いてきていた。

「あ」

これは、避けきれない。間に合わない。僕を振り返った隊長さんが、しまった、という表情を浮かべた。これは本来、避けられる攻撃だったのだ。僕の背が、もう少し、成人男性の平均程度なら、見えない角度ではなかった。隊長さんが悪い訳じゃない。けど、これは不味い。体を硬くし、衝撃に備えたその瞬間。

「きゅいっ!!」

 高く、愛らしい、緊迫した場にしては間の抜けた、生き物の声が響いた。

「え」

 ついで、鈍い、重たい物同士がぶつかり合う音。僕の体には、衝撃も、痛みも襲い掛かってこない。恐る恐る前を確認すると、白い、リスによく似た後姿と、その生物が作ったであろう、半透明の防御魔法の壁があった。

『あ、あんた、付いてきてたの!?』

「さっきのカーバンクル、だよね?」

 僕を守ってくれたの、と、問いかけると、カーバンクルはつぶらな瞳で僕の方を見て、先程よりも少し高い声で鳴いた。

「きゅう、ぷい」

 うん、わからない。僕が首を傾げていると、カーバンクルは僕の足を伝い、肩まで登ってきた。登りきると、僕と同じ方向を向いて、満足げな声できゅい、と鳴く。大して重くは無いので良いけれど、これは、一緒に戦ってくれるという認識でいいのだろうか。

「ふ、フラム、何て言ってるか分かる?」

『よくわからないけど、ご主人様を守る気みたい』

 カーバンクルなら防御魔法も得意だし丁度いいわね、と、フラムは小さな声で言った。かと思えば、次の瞬間、僕が持っていた剣が、真っ赤な色に変わった。フラムによる、炎属性の付与だ。

『ご主人様に協力するのは良い心掛けだけれど、一番の使い魔は、四大精霊である私だって言うことをしっかり教えておかないとね』

「ふ、フラム? これ、かなり凄いことになってる気がするんだけど……」

『まあ、防御に魔力を割かなくていいのは助かるわ。全力で攻勢に転じましょう』

 どう見ても真っ赤で近くにあるだけで火傷しそうな見た目なのに、僕は一切暑さを感じていないのが逆に怖い。それに、鞄に入っている筈のフラムがいる場所から、赤と金の光が発されている。これ、多分普通じゃないよね、とシャムロック君に目線で問いかけると、小さく頷かれた。

「純粋な火属性の付与、相手に火傷の付与、追加で初級火属性魔法程度の攻撃効果、斬撃の鋭さと、物理攻撃の威力の上乗せ。ルートに掛けられる、強化魔法、ほぼ全部」

 凄い、負けてられない。と、何故かシャムロック君もやる気になったようで、杖を一振りしたかと思うと、隊長さんに向かって様々な色の光が飛んでいく。強化魔法を追加で掛けたのだろう。

「気合十分だな。よし、気を取り直して、一気に片付けるぞ!!」

 おお、と反射的に右手を挙げようとして、剣先が、目の前のゴーレムを掠めた。拳を受け止めていた防御魔法は、カーバンクルがタイミング良く消したらしい。剣を強化しているとはいえ、流石に掠っただけでは全身オリハルコン製のゴーレムには何ともないだろう、と、思っていたのだが。

 剣先が触れた箇所から、ゴーレムの体がぱっくりと裂かれたかと思うと、次の瞬間、断面が炎に包まれ、そして、焼け落ちた。

「わあ」

「…………よし、行くぞ!!」

 三回目になる隊長さんの掛け声に合わせ、今度こそ勢いよく祭壇に向かって走って行く。今度は、失敗することもなさそうだな。先程までの戦いが嘘のように、数が減っていくゴーレムを見ながら僕は思うのだった。


 あの後、攻撃だけに専念することができるようになった僕達は、あっさりと祭壇を破壊することができた。大量にいたゴーレムたちは僕達が破壊するまでもなく、祭壇が壊れると同時に動きを止めた。

「結局、コボルトの大量発生は何だったんですか?」

 異常が残っていないか確認をしながら地上へと戻る途中、ふと、一つの疑問が解消されていないことに気が付いた。今回、祭壇が作り出していたのはオリハルコン製のゴーレムであって、コボルトを生み出したり、召喚したりしていたわけではない。それなのに何故、入り口付近にコボルト達がいたのだろうか。

『カーバンクルと同じで、ゴーレムが出てきたから遺跡の入り口付近まで追い出されたんじゃないかしら。深部は何もしなくても魔力が豊富だったけれど、入り口では他の物から魔力を摂取するしかない。だから人間や付近の魔物、動植物を狙ったんだと思うわ』

「と、言うことは……」

「この調子で戦線を維持すれば、遺跡の中に戻って大人しくしてるってことだな」

「そうみたいですね」

 人間より気配感知に優れているコボルトのことだ。既に、洞窟深部にいたゴーレムたちが動きを止めたことには気付いているだろう。じきに人間と戦うのをやめて、洞窟に戻っていくだろう。

『それよりも、問題はそいつよ!! 当然のようについて来てるけど、どうするつもり?』

 これで一件落着、と話が落ち着いたかと思いきや、フラムが鋭い声を上げた。それが何を指摘しているか、分からない訳はなく。僕は苦笑いしながら、自分の方に乗ったままのカーバンクルを見た。

「どうするって言われても……」

「きゅい?」

 当然のように肩に乗っているカーバンクルは、問いかけても可愛らしく小首を傾げるだけだ。動く気配は全く無い。

「入り口までお見送り、って、訳じゃなさそうだな……」

「懐いてる」

 どう見ても、付いてくる気だろう。僕としては、さっきは助けてもらったわけだし、最低限お礼か何かしたい気持ちはあるので、無理に追い返したりはしたくない。が、しかし。

『ご主人様、カーバンクルなんて珍しい精霊、使い魔にしてたら人間に疑われること間違いなしよ?』

「しかも、ルビーじゃなくてオリハルコン……」

「問題が起こること間違いなしだな」

 伝承でしか知られていない精霊、しかも、特殊な個体。サラマンダーであるフラムに続いて、カーバンクルまで一緒に行動していたら、僕が魔族と繋がっている疑いは深まるばかりだろう。

「…………取り敢えず、後で考えます。後で!!」

 まだ大量発生は解決してないんですよね、と確認をすると、隊長さんは小さく頷いた。大量発生が起こっていた三つの地域のうち、これで二つは解決した。が、まだすべて終わったわけではない。少し休憩をしたら、再び救援に向かうことになるだろう。

「その筈だ」

 それなら、ダブス湿地帯に向かったクローさんとサシャさんと合流してから考えても遅くは無いだろう。それまではフラムと一緒に鞄に隠れてもらおう。

 そんなことを話していると、遺跡の入り口から光が見えてきた。やっと出口だ。

「コボルトとの戦いは落ち着いているようだな」

「もう疲れてるので、戦わなくて済んで良かったです」

 外にコボルトの姿はなく、簡単に拠点の場所まで戻ることができた。僕たちより先に、マリクさん達が戻って状況を伝えてくれていたのだろう。拠点に入るとすぐに竜騎士が一人飛んできた。

「隊長!! 報告です!!」

「何だ」

 別の大量発生とかはやめてほしいな、と思いつつ聞いていると、騎士の口からは、全く逆の言葉が出てきた。

「ダブス湿地帯での大量発生ですが、王宮魔導士と冒険者の夜通しの尽力によって解決とのこと!!」

「そうか」

 どうやら、クローさん達の方も無事に解決したらしい。これで、緊急事態は脱したことになる。そう思うと、一気に疲れが襲いかかってきた。

「…………いつの間にか、夜が明けてたんですね」

「遺跡の中は時間間隔が狂いやすいからな」

「自覚すると、眠く、なってきた」

「そうだな。取り敢えず休息を……」

 ずっと戦い続けていたのだから、いい加減休まないと体がもたない。仮眠をとらせてもらおうと思った矢先、報告に来た騎士が眉根を下げて僕たちに告げた。

「そ、それが、王宮から、此度の戦いに参加した全ての者へ招集が掛かっています!!」

「日程は?」

「本日夕刻からですので、大至急、出立なされませんと……」

 どう考えても身支度が間に合わないだろう。いや、それ以前に、疑いが晴れていないのに王宮に行って大丈夫なのか。僕は頭が痛くなるのを感じた。

次回更新は7月1日17時予定です。

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