表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
20/68

海の街ラグダエグ

 僕達が泉に戻ると、エリックさんが待っていた。輪が何個もついている、不思議な形の杖を構えている。僕達が戻ってきたことを確認すると、僅かに微笑み、声を掛けてきた。

「もう誰も残ってないか?」

「ああ」

「了解」

 じゃあ、始めるか。そう呟き、エリックさんが杖を掲げる。もう一度、泉の中に誰もいないことを確かめると、杖を勢いよく泉に向かって振り下ろした。シャラン、と、独特な音が周囲に響くと、呼応するように水面に波紋が、泉の上に光の輪が広がっていく。分厚い雲に覆われ、薄暗い周囲を、柔らかい光が照らし出す。

「……後はエリックに任せて、村人の避難をするぞ」

「護衛は大丈夫でしょうか? 僕、戻ってくる直前に、誰かが話している声を聴いた気がするんです」

 道を通る直前、聞こえてきた会話の事を考えると、封印の儀式を行っているエリックさんを置いていくのは心配だ。聖騎士様は、僕の話を聞いて一瞬顔を顰めたが、すぐに表情を戻し、冷静な声で言った。

「魔界で、此方と同じ言葉が聞こえてきたことは気掛かりだ。だが、発言内容から考えると、声の主は魔族だろう。村人でないなら、今は放っておいていい」

「もし、道を通って此方に来たりした場合は……?」

「儀式が始まった時点で道は徐々に狭まっている。既に行き来はできないだろう」

「そうなんですね」

 それなら一安心だ。儀式中のエリックさんが襲われる心配がないなら、村人達を優先することに異論はない。村人たちは、今は自力で歩いているとはいえ、朝から極限状態に置かれている。いつ体力が切れてもおかしくない。

 僕は大きく頷き、シャムロック君が待つ先頭に移動した。

「お待たせ」

 隣まで行くと、シャムロック君は足を止めずに、ゆっくりと僕の方を向いた。

「ルート、大丈夫だった?」

「ちょっと戦ったけど、大丈夫だよ」

 逆に、泉で待機している間にハルピュイアが現れなかったか聞くと、シャムロック君は首を横に振った。

「こっち側は、クロー達が全部倒した」

「そっか。なら安心して戻れるね」

 既にハルピュイア達が利用していた道はエリックさんによって封印されている。追加で敵が現れることもないので、安心して村に戻ることができた。村の集会場に到着すると、村長さんが出てきて戻ってきた村人の確認を始めた。

「そう言えば、あの子は避難できてるのかな……」

 一足先に中に入れてもらった僕は、泉の事を教えてくれた女の子の姿を探すことにした。ぐるり、と集会場の中を見渡してみたが、それらしき姿は無い。全員が集会場にいるわけではないのだろうか。首を傾げていると、笑顔の村長さんが聖騎士様に近付いてきた。

「ありがとうございました。お陰様で、誰一人欠けることなく危機を乗り越えることができました」

「全員の無事が確認できたのか?」

「はい。全員、集会場の中に揃っております」

 村長さんは嬉しそうに言った。その言葉に聖騎士様も、神官も、冒険者も皆、笑顔を浮かべた。その中で、僕だけが素直に笑うことができなかった。

「これもすべて、聖騎士様達がお力を貸して下さったお陰です」

「いえ、偶然とはいえ、この事態に気付くことができて良かった」

 全員、集会場の中に揃っているというのなら、姿の見えない、あの女の子は一体誰だったのだろうか。偶然、この村の近くを通りすがった時に襲われたわけではないだろう。だって、あの子は村人が連れ去られた方角を知っていたし、何より、村はずれとはいえ、家の中にいたのだから。

「正直、攫われた者達のことは、半ば諦めていたのですが……」

「それに関しては、本人に感謝を。村人たちが攫われていった方角を聞いたのは、ルートなので」

あの時、周りの家は扉が開けっ放しになっているところが多かったから、村の人間じゃなくても家に入ることはできたかもしれない。でも、それなら、どうして村の人の救出を僕に頼んだのか。

「ルート? 村長殿に挨拶を」

 聖騎士様に背中を軽く叩かれ、ハッと我に返り頭を下げえる。

「は、はい。Cランク冒険者の、ルートです」

「ルート殿。この度は、本当にありがとうございました。貴方がいなければ、攫われた者達は無事に帰ってこられなかったでしょう」

「いえ、僕は、目撃情報を聞いただけで……」

 そうだ、今なら、あの子について聞けるかもしれない。そう思った僕は、村はずれの家で出会った女の子について村長に聞いた。家の場所と、黒髪だったこと、僕と同じくらいの年齢だったことを伝えると、村長は首を傾げた。

「…………そのような者は、この村にはいない筈ですが」

「え」

「村はずれにある家は、数年前から使われていないものが幾つかあります。恐らく、ルート殿が確認した家も、その中の一軒でしょう」

 さらに確認すると、最近この村に訪れた人の中にも、僕が言うような特徴を持った人物はいなかったという。僕としては、寧ろ謎が深まっただけだったのだが、村長は朗らかに笑って言った。

「ハルピュイアを見て、驚いて空き家に逃げ込んだのかと。攫われた村人について教えてくださるような方が、自身の身を護るために役立てたのなら、あの家も本望でしょう」

「そう、ですね」

 壺が割れた以外に被害は無いのだから、そんなに気にしなくていいのかもしれない。僕はそう思うことにして、ぎこちなく笑顔を浮かべた。すると、村長は更に笑みを深め、集会場中に響く声で言った。

「大したもてなしはできませんが、皆様、今日は是非この村に泊まって行ってください。あれだけの魔物と戦ったのです。さぞお疲れでしょう」

「え、っと。ど、どうします?」

 元々、この村に泊まる予定ではあったものの、あんなことがあった直後だ。僕達に気を遣ってくれるのは嬉しいが、正直、皆体力的に限界なのではないか。あまり気にせず、泊まる場所だけ貸してもらえればそれでいいのだが。ちらり、と他の人たちの方を見る。

「…………こういう場合は、素直に好意に甘えることが多い」

「神官としては、献身に見返りは必要ない、っていうべきだけど。その方が村の人の気持ちが落ち着くなら、まあ」

「騎士として当然の行いだが、感謝を無碍にすることも騎士道に反する」

 クローさん、エリックさん、聖騎士様が順に答えた。その言葉に村長は笑みを深め、集会場の中にいた村人たちが一斉に動き出す。どうやら、今夜は宴会になりそうである。


 村を救ったお礼の宴会から一夜明け、僕達は予定通り、ラグダエグに向けて出発した。前日の非常事態が嘘だったかのように順調に進むことができ、予定より早い、昼過ぎには目的地に到着することができた。

「此処が、ラグダエグ……」

 関所を通った瞬間、目の前に広がった街並みに、僕は圧倒された。海に向かって段々と低くなっているため、街全体を見通すことができるのだが、建物すべてが美しい白色をしているのである。統一された、白い壁に青い屋根。クリーム色のレンガの道。遠くに見える白い砂浜と青い海と似た色合いが、街全体に統一感を与えられていた。

「綺麗……」

「大きい……」

「人が多いな」

「東部最大の交易地だからな」

 統一された色味の建物とは違い、行き交う人々は色とりどりの服を身に纏っている。見慣れぬ服装の人は、交易のために他国からきているのだろうか。王都とはまた違う活気にあふれていて、好奇心が刺激される。

 暫く街を眺めていると、エリックさんが手を叩いた。どうしたのだろう、と視線を向けると、エリックさんは大きな荷物を持ちながら言った。

「俺たちは神殿に行くけど、他はどうすんの?」

 僕は首を傾げた。

「交代で護衛する予定じゃないんですか?」

 今回、僕達の仕事は神官の護衛だ。当然、街に入ってからも冒険者が交代で護衛に着くものだと思っていた。確認をすると、エリックさんは首を横に振る。

「いや? 移動中はともかく、街で危険なことなんて無いからな。俺達、神殿から出る予定ないし」

「関係者以外神殿には立ち入れないからな」

 宿泊場所も違うらしい。クローさん達も、道中の護衛について以外は詳しい話を聞いていなかったらしく、困惑しているようだ。関係者以外立ち入り禁止、と言うが、どの辺りまでが関係者なのだろうか。僕達はともかく、聖騎士様とかは神の加護を得ているんだから、入れそうなものだが。

「特に、聖騎士はなぁ……」

「そうだな」

 そういう訳でもないらしい。本当に、神官以外の立ち入りは原則できないようなので、僕達冒険者は神殿に近い宿をとることになった。神殿は街の中央付近にあるので、その付近を拠点にすれば行動しやすいだろう、とのことだ。

「まあ、そういう訳で、帰るまでは自由行動って感じだな」

「三日後に関所に集合ですか?」

 クローさんの確認に、聖騎士様が頷いた。

「ああ。何かあれば領主館に来れば対応する」

「あ、僕の課題は……」

 別の場所に泊まるのなら、課題の指示はどうなるのか。不合格になるわけにもいかないので、毎日領主館に通ってもいいが、逆に迷惑ではないか。控えめに尋ねると、聖騎士様は少し考えてから答えた。

「本来は課題を行う予定だったが、ハルピュイアの件を報告する必要がある。当面はラグダエグの街を見て回ると良い。様々な土地の空気を感じるのも勉強になる」

「はい!!」

 課題については、後から連絡してくれるらしい。これで安心して、当初の目的である幽霊クラゲ討伐に向かうことができる。新しい鞘の材料、と考えると、早く行きたくて仕方がない。じっと海の方を見つめていると、シャムロック君が後ろから声を掛けてきた。

「ルート、予定ある?」

「うん。取り敢えず、幽霊クラゲの傘を採取したいから海に行ってみるつもり」

 笑顔で答えると、シャムロック君は困ったように眉を下げた。

「観光は?」

「採取が終わったらするつもりだよ」

「大丈夫?」

 一人でも大丈夫か、という意味だ。魔物に詳しいシャムロック君は、幽霊クラゲに物理攻撃が効かないことを知っているのだろう。今迄はシャムロック君にエンチャントして貰わないと戦えなかったが、今の僕は違う。僕は力強く頷き、剣を掲げて見せた。

「うん。リィさんが加工してくれたからね」

「違う」

 シャムロック君はゆっくりと首を横に振った。どういうことだろう。首を傾げると、シャムロック君は青い海を指差しながら、ぽつりと言った。

「足場が、無い」

「あ」

 幽霊クラゲは海にいる。海にいる、というのは、海面に漂っている、ということだ。問題は、その海面というのは、波打ち際付近ではなく、かなり沖の方である。当然、足場なんてものは無いので、幽霊クラゲの所まで移動するには、泳ぐしかない。

「ルート、水中で、息できる?」

「…………無理です」

 しかし、武器を持ったまま泳ぐ、というのは無謀というか、無理である。それこそ、水中で呼吸できるのなら、海底を歩いていくこともできるだろうが、僕にはそんな術はない。一人で採取できると思っていたが、一人では戦闘すらできない。そのことを突き付けられ、僕は項垂れる。

「ルート」

 じぃ、と僕を見つめてくるシャムロック君。無言で、何かを待っているような雰囲気だ。もしかして、言っても、良いのだろうか。僕は小さく息を吐き、シャムロック君を見返した。

「…………お願いします。シャムロック君、一緒に行ってくれませんか」

 真っすぐに、シャムロック君の目を見つめて言うと、ふ、とシャムロック君の口元が緩んだ。そして、待っていました、とばかりに口角を上げ、笑う。

「任せて」

 最初から、一緒に行ってくれるつもりだったのだろう。シャムロック君はいつもの杖をしっかり握り、僕の先を歩き出した。僕は後ろを付いて歩きながら、ふと浮かんだ疑問を口にする。

「でも、クローさん達と行動しなくて良かったの?」

「別行動したい、って言ったら、良いって」

「そっか。良かった」

 僕と同じで魔物の討伐に向かう予定などがあるのなら、戦力であるシャムロック君が欠けるのは厳しいだろう。そう思ったが、今日は大丈夫らしい。クローさん達は常に依頼を沢山受けている印象があるが、流石に今回は調整しているのだろうか。

「サシャも喜んでた。大丈夫」

「喜んでたの?」

「そう。友達と来れてよかったね、って」

 柔らかい笑顔とともに発された言葉に、僕は目を丸くした。友達。僕と、シャムロック君が。勿論、シャムロック君のことは好きだし、仲が良い方だとは思っていたけど、あくまで冒険者仲間としての事で、友達だ、と言えるのかは少々難しいと思っていた。

 だから、そう、とても嬉しいのである。

「……僕も友達が一緒で嬉しいよ」

 へへ、と笑って答えると、シャムロック君も笑って、二人揃って走り出した。不規則なリズムで煉瓦道を跳ねながら、足取り軽く海へと向かう。嬉しいけど、ちょっと照れくさい。誤魔化すように足を速めながら、視界の端に映ったものを指差した。

「あっちの階段から海に降りれるのかな?」

「多分……」

 一段一段降りていくと、徐々に煉瓦の上に白い砂が増えてきた。同時に、視界に映る青の割合が増えていく。階段を完全に降りる頃には、僕達の視界は、白と青の二色で埋まっていた。

「うわぁ!! 遠くから見た時も凄かったけど、やむで見ると海って凄いね!!」

「靴に砂が入る……」

 白い砂浜を勢いよく走ると、確かに靴に砂が入ってくる。だが、そんなことは気にせず一気に波打ち際まで走り寄り、後ろのシャムロック君を振り返る。

「僕、海に来るの初めてなんだよね。シャムロック君は?」

「初めて」

 本格的に海に入る前に、軽く遊んでからでもいいだろうか。そう思っていると、いつの間にか海岸に一人分、影が増えていた。

「何だ、お前ら、海は初めてか?」

「はい」

「……誰?」

 振り向くと、体格のいい、日に焼けた肌の男が立っていた。シャムロック君が警戒気味に問いかけると、男は快活に笑って名乗る。

「俺は船乗りのキッド。お前らは?」

「冒険者のルートです。同じく、冒険者のシャムロック君」

「ふぅん、まだ子供なのに冒険者なんだな」

 キッドさんは、僕とシャムロック君を交互に見て呟いた。僕達はまだ、周囲の大人に比べると背が低い。ぱっと見で成人していないことはわかるのだろう。名乗るたびに驚かれるのにもそろそろ慣れてきたので、笑って流そうと思ったのだが、ぐい、と突然手を引かれ体勢を崩しかける。

「ルート、早く行こう」

「えっと……」

 僕の手を引いたのはシャムロック君だ。手を引かれるまま、海に入ろうとすると、今度は肩を掴まれた。腕と肩に反対方向の力が掛かり、一瞬、ぐえ、と変な声が出てしまう。僕の声に驚いたシャムロック君が手を離すと、キッドさんは先程の明るい表情とは一変、真剣な表情で僕達の腕を掴んだ。

「海に入るつもりなんだろ? お節介かもしれんが、幾つか忠告を聞いていけ」

「忠告、ですか?」

「ああ」

 あまりにも真剣な表情で言われたので、遠慮します、とも言いだしにくく、少しだけならと話を聞くことにした。だが、キッドさんが開口一番口にしたのは。

「この辺りの海は基本的に穏やかだ。でもな、最近は事故が多い。慣れてない奴は近付かない方がいい」

 海に入ることを止める内容だった。話を聞く限り、ここ最近、突然船に不具合が起きたり、泳ぎが得意なはずの船乗りが急に溺れたり、魚とり網に刃物が絡んでいて怪我をしたり、と奇妙な事故が続いているらしい。

「え、でも、僕、どうしてもやらないといけないことがあって……」

 事故が起こっていることは理解したが、海に入らない、という選択肢は無い。そう言おうとしたが、僕の言葉は途中で遮られる。

「良いから、最後まで聞けって。海に入る時は、幾つか守らないといけない決まりがあるんだよ」

「決まり、ですか?」

「街に昔から伝わる決まりだ。ちゃんと守ってるやつらは、事故に遭ってねえ。試してみる価値はあるだろ」

「確かに……」

 理由はどうあれ、安全な方法があるなら従うだけだ。素直に頷くと、シャムロック君も同じ意見だったようで、じろり、とキッドさんを見ながら問いかけた。

「決まりの内容は?」

 キッドさんは一本一本指を折りながら、丁寧に解説を始めた。

「海に入る前に、真水を一杯飲むこと。海に入る時に銀を持って行かないこと。海から上がったら、神殿に向かって祈ること。後は、海から戻る途中は光るものに手を出さないこと」

「全部で四つですか?」

「ああ。簡単だろ?」

「簡単ですけど、どうして、こういった決まりが?」

 四つの決まりに、関連性が全くない。しかも、海に入る前後だったり、戻る途中だったりとタイミングが決められているのも良く分からない。

「さあ、そんなことは知らん。そういうもんだからな」

「そうですか……」

 理由を聞いてみたが、キッドさんも知らないらしい。まあ、決まり自体は覚えられないものではないし、守ることも難しくない。理解しました、と頷くと、キッドさんは掴んでいた僕達の腕を離す。

「理解できたなら行ってよし。気を付けろよ」

「ありがとうございました」

「おう」

「…………あの、どうして、親切に教えてくれたんですか?」

 僕達、よそ者の冒険者なのに。そう言うと、キッドさんは目を丸くした後、大きな笑い声をあげた。驚く僕達をよそに、暫く笑い続けたキッドさんは僕の頭に手を置き、言った。

「簡単なことだ。俺は船乗りだって言っただろ? 海で事故が起こった時、救助に行くのは俺なんだ」

「……そういえば、さっき、言い切ってた」

「あ、そっか!!」

事故に遭った話を聞いたことが無い、じゃなくて、いないって言ったのは、今迄事故に遭った人は全員救助してるからなのだろう。事故について話すときも、やけに詳しかったのは現場を見ていたからか。

「そういうこった。ま、俺の仕事を増やしてくれるなよ」

「わ、これ、何ですか?」

「瓢箪?」

「水筒だ。真水が入ってるから、飲んでから入れ。船に乗ってても、海に入ったことになるからな」

「ありがとうございます!!」

 僕が頭を下げると、キッドさんはおう、と笑って去って行った。本当に忠告だけしに来てくれたらしい。

「……行こうか」

「うん」

 瓢箪の中に入っていた水を、シャムロック君が出してくれたコップに入れて一口飲む。思ったよりも喉が渇いていたのか、冷たい水が心地良い。無言で水を飲み干すと、僕達は今度こそ、海に向かって一歩踏み出した。


 一歩踏み出し、海の水の冷たさに驚いた僕達は、一度砂浜に戻り、シャムロック君に魔法をかけてもらって再度海に挑戦していた。

「凄い!! 水の上を歩けてる!!」

「足の裏にしか効果が無いから、気を付けて」

 シャムロック君が掛けてくれたのは、水の上に浮く魔法だ。お陰で、海の上を歩くことができている。これなら剣を持ったまま戦いやすい。

「それにしても、シャムロック君、色々な魔法知ってるんだね!!」

 水属性の魔法にも色々と種類があることは知っていたが、こんな実用的な魔法もあるなんて初めて知った。そう言うと、シャムロック君は一瞬言葉を詰まらせた。

「く、クローが、詳しいから……」

「そうなんだ。流石クローさんだね」

 豪快な火属性魔法を使っている印象が強いが、クローさんは魔導士の中でも屈指の実力者だとアンリさんが言っていた。きっと、他にも実用的な魔法をたくさん知っているのだろう。また今度、魔力が少ない僕にも使えそうな魔法が無いか聞いてみよう。

 そんなことを考えながら、海面を見ていると、一か所だけ他とは色が違う場所があることに気付いた。

「あ、あれが幽霊クラゲかな? あそこに浮いてる、半透明のやつ!!」

「どこ? …………うん、少し小さいけど、幽霊クラゲ」

「よし!! いくぞ!!」

 勢いよく幽霊クラゲを斬り付ける。パッと見ただけでは倒せたか分からないので、片膝をついて近くで確認しようと思った瞬間。膝を付けた箇所から、一気に水に沈んだ。

「ルート!?」

 慌てたようなシャムロック君の声が、沈んでいく僕の耳に、少し遅れて聞こえた。


次回更新は2月10日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ