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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
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初めての依頼

 何とか閉門時間までに城壁まで辿り着いた僕は、クローさん達のお陰で無事王都に入ることができた。とはいえ、正式に王都に滞在する許可が下りたわけではなく、あくまでも冒険者になるまでの、一時滞在という形である。

「では、一時滞在者は此方に」

「はい」

 僕はクローさん達とは一旦離れ、城門の中の小さな部屋に案内された。此処で色々な書類を書いたり、説明を受けたりするらしい。椅子に座ると、若い、真面目そうな女性が中に入っていた。服装からして、文官なのだろうか。

「王都で宿を取ったり、食事をしたりする場合は、この札を店員に見せてください。忘れると、不法滞在と間違えられる可能性があります」

「わかりました」

「それと、滞在許可は二週間です。二週間あれば、王都にある殆どの組合の試験を受けることができます。この札を見せれば、試験を断る所はないはずです」

「はい。この札が、滞在許可と試験資格を兼ねているのですね」

 札には有効期限があり、魔法で管理されているので盗まれたりした場合はすぐに役所に届け出ないといけないらしい。過去に滞在を伸ばしたいがばかりに、他の人の許可証を盗むといった事件が起き、規制が厳しくなっているそうだ。

「期間内で合格しなかったら、諦めて故郷に帰って頂くことになります」

「わかりました」

「他に疑問点がございましたら、その札に魔力を通していただけば私、モードに連絡が入ります。少々お待ちいただくこともありますが、可能な限り速やかに対応させていただきます」

「はい。ありがとうございました!!」

 説明が終わると、王都滞在に関する条件に同意する書類にサインする。無事に冒険者になった場合も、許可の変更手続きがあるので担当文官であるモードさんに連絡すればいいらしい。僕はお礼を言って部屋を後にした。

「えっと、さっきとは別の方向に曲がればいいから……」

 札を見せながら門を潜りぬけると、目の前には、活気あふれる街が広がっていた。道は煉瓦で舗装されており、馬車が走っている。また、通りには様々な店があり、宿屋だけでもかなりの数がある。見たこともない光景に圧倒されていると、真横から声が掛けられた。

「王都見物もいいが、冒険者登録を済ませなくていいのか?」

「クローさん!!待っててくれたんですか?」

「一人だと登録できないだろう」

 そういうと、クローさんは無言で歩き始めた。目的地は中心部ではないのか、大通りとは全く違う方向だ。置いていかれないように、慌てて後を付いて歩く。

「あの、サシャさんとシャムロック君は?」

「シャムロックが疲れていたから、先に戻らせた。後で会える」

「冒険者組合の場所と宿が近いんですか?」

「……組合の建物内に部屋がある」

 クローさん達が所属している組合は、王都出身者が少ないため、所属冒険者のための部屋があるらしい。食堂なども完備されており、贔屓の武器屋や道具屋もあるので快適に過ごせるそうだ。

「凄いんですね」

 その割に、進んでいく道はかなり薄暗く、狭い。迷路のような細い道を何度も曲がりながら歩いていると、壁に、小さな看板が掛けられた扉が見えてきた。クローさんは無言でその扉に手を掛ける。もしかして、組合の裏口なのだろうか。

「扉に当たらないようにして入れ。登録していないと危ない」

「どういうことですか?」

「登録者以外が扉に触ると軽い電撃が走る」

 受ける依頼によっては早朝から出発する必要があったり、帰りが深夜になったりするので、いつでも使える裏口があるのだろう。そう思いながら中に入ると、目の前に、受付のような場所があった。扉の開閉音で気付いたのか、受付の奥から女性が現れ、クローさんを手招きした。

「お帰りなさい、クロー。サシャとシャムロックから話は聞いたけど、その子が希望者?」

「只今戻りました。そうですが、先に依頼達成の確認をお願いします」

「はいはい。確認しました」

 相変わらず強いね、と言いながら、女性がクローさんに袋を渡す。受け取る際にじゃらり、と重たい音がしていたので、報酬が入っているのだろう。クローさんが無言で袋を懐に入れたことを確認すると、女性は僕の方を向き、にこりと笑った。

「さて、詳しい説明の前に名乗っておくね。冒険者組合『D』、代表のアンリ・カヤ・バドックです。気軽にアンリさんって呼んでほしいな」

「ルートです。よろしくお願いします!!」

「クローが連れて来た時点で実力は申し分ないとは思うけど……、真っ先にうちに来たってことは、君も訳ありなのかな?」

 朗らかな笑顔で握手をしながら言われ、僕は固まった。訳あり、とは、どういうことなのだろうか。話を聞く限り、此処は正式な組合のはずだ。何と答えるべきか考えていると、クローさんが話に入ってきた。

「騎士志望で、南の村から出てきたということです」

「成程、冒険者として生きていきたいわけじゃない、と」

 アンリさんは納得したように頷いた。所属冒険者のレベルは組合の評価に繋がるので、取り敢えず王都に滞在するために組合に入る、という人は受け入れないところもあるらしい。

「えっと、騎士の試験を受けるまでは、冒険者としてしっかり働くので、どうか入れてください……」

「うちは一時的な拠点が欲しくて在籍している人も多いからね。騎士を目指すのは全然大丈夫だよ」

「ありがとうございます!!」

 ただし、今日はもう手続きができないので、正式に冒険者登録を行うのは明日になるそうだ。正式に登録されたら、組合から提案される最低限の依頼をこなせば、衣食住は保証してくれるらしい。

「この組合の説明は大体終わりかな」

「はい。ありがとうございました!!」

 正式登録はまだだが、今日から部屋は使っていいらしい。アンリさんから鍵を受け取り、クローさんの案内で部屋がある上階に向かおうとした時だった。受付の奥に戻りかけていたアンリさんが、慌てて僕の方に駆け寄ってきた。

「最後に確認だけど、ルートは騎士になるための条件は知ってる?」

「騎士団の詰め所で行われる試験に合格すればなれるって聞きましたけど……」

 じいちゃんに聞いた話によると、騎士団は、実力があれば入団できるとのことだ。騎士の家系ではないので苦労はするだろうが、入団試験で実力を示せば平民でも認めてもらえる、と言っていた。ただ、試験がいつ、どのように行われるかは全く知らないので明日から情報収集する必要がある。

「間違いではないけど、情報が足りてないかな」

 僕が答えると、アンリさんは少し困ったように笑った。もしかして、平民は平民でも、王都出身者でないと試験が受けられないのだろうか。絶対に達成できない条件だったらどうしよう。

「騎士団の入団試験自体は毎月あるし、何回でも挑戦できるんだけど、入団試験を受けるための条件があるの」

「え、そうなんですか?」

「条件がないと希望者が増えすぎるからね」

 入団試験を受ける条件は、大きく三つに分かれるらしい。一つ目は、一定以上の身分を持つ貴族や騎士からの推薦を受けること。代々騎士の人や貴族の次男以降が使う方法で、僕には絶対に無理である。

 二つ目は、一定以上の金額を納めること。商人などが使う方法だ。ただし、試験一回につき、かなりの金額を納めなくてはいけないので僕には無理そうだ。

「最後に、冒険者ランクがB以上であること。ルートが騎士を目指すなら、この条件を満たすしかないと思う」

「冒険者ランク?」

「登録されている冒険者の、強さの指標みたいなものだよ。組合で依頼を受けて、達成した以来の数や難易度に応じてランクが上がるの」

 ランクは上から順に、S、A、B、C、D、Eとなっているそうだ。最初はEランクから始まり、一定数の依頼をこなすと、上のランクへの認定試験を兼ねた依頼を受けられるようになるらしい。Cランクになれば一人前の冒険者で、家族を養っていくには十分な収入が得られるとのことだ。Bランクとは、どのくらいの実力が必要なのだろうか。ちょっと不安だ。

「最初は危険度の低い、王都の近くでの採取依頼を受けてもらうか、上のランクの人に引率して貰って討伐依頼に行くかだけど……」

 新人が受けることができるのは、Eランクの採取依頼。Eランクの討伐任務に行きたい場合は、Dランク以上の冒険者の同行が必要になる。討伐依頼で実力を示せば、次からは引率なしで依頼を受けることができる、と言うことだ。所属している冒険者が無理をしないようにするのも組合の仕事のなので、それは理解できる。

が、問題は、正規の手順を踏む場合、Bランクになるまでどのくらいの時間が掛かるのか、ということだ。

「普通に依頼を受けていくと、Bランクになるまで、最低でも十年は掛かるかな……」

「そんなに待てません!!」

「だよね」

 既に一定の実力があったとしても、最低で十年。途中で依頼を失敗したりすればさらに時間は掛かるという。基本的にBランク冒険者と言うのはベテランが多く、若くてBランクとなると相当の実力者だそうだ。

「今迄、僕くらいの年で騎士団の試験を受けた人は……」

「冒険者出身では、見たことないかな」

「そんな……」

 今すぐにでも騎士になりたいと意気込んで王都に来たのに、十年も待っていられない。せめて、少しでも早くランクを上げる方法は無いのだろうか。じっとアンリさんを見つめると、彼女は困ったように笑って、受付から一枚の書類を取り出した。

「ゴースト退治の実績があるから、最初の一回さえ引率があれば、それ以降の依頼は調整してあげられるけど……」

 最初の一回だけはどうしても引率が必要らしい。そこまで言って、アンリさんがちらり、と僕の横を見た。正確に言えば、僕の横に無言で立っていた、クローさんを。

「そういえば、クローはAランクだよね?」

「Aランク魔導士であって、冒険者ランク自体はBです」

 魔物の種類によっては、魔法が効かなかったり、物理攻撃が効かなかったりする。そのような特殊な相手と戦う時の基準として、魔導士ランクと戦士ランクと言うものがあるらしい。クローさんは訂正を入れたが、アンリさんは気にせず書類を突き出した。

「どちらにせよ、Dランクの討伐依頼の引率はできるよね?」

 クローさんは溜息を吐いた。そのまま無言で受付に近づき、アンリさんが持っていた書類とペンを受け取った。討伐依頼の内容を確認しているのだろう。ある程度書類に目を通すと、クローさんは何も言わずに書類にサインをした。

「よろしくね、報酬は多めに配分するから」

「通常の配分でいいです。代わりに、報酬が高い魔導士向けの依頼を優先で回してください」

「交渉成立だね。なら、早速明日の朝から、お願いしようかな」

 冒険者登録はどうするんだろう、と思ったが、札さえあれば出入りはできる。朝一番に依頼を終わらせてから登録した方が、色々な手間が省けるらしい。余裕があれば、夕方から別の依頼に行けるように、とのことだ。

「何から何まで、ありがとうございます……」

「大丈夫だよ。代わりに、ルートには過去最短で騎士団の試験を合格してもらうから」

「はい!!」

 にこり、と微笑むアンリさんに、今日はもう休むように言われ、部屋へと向かう。僕の部屋はシャムロック君の隣の部屋だそうだ。部屋の設備や施錠方法などの説明を終えると、クローさんは扉の方に足を向けた。

「あ、お茶は……」

「必要ない。出発時間前に扉を叩く。一応、日が昇る時間には身支度を整えておけ」

 色々とお世話になるようなので、せめてお茶くらいは出した方が良いのではないかと思ったが、断られた。取り敢えず、今日は寝よう。そう思い、僕はベッドに体を横たえたのだった。


 コンコンコン、と控えめに扉が叩かれる。既に身支度は整えていたので、慌てず扉を開ける。すると、廊下には僕と同じく装備を整えた状態のシャムロック君が立っていた。

「あれ、シャムロック君が来てくれたの?」

「おはよう」

「おはよう。クローさんは?」

 昨日の話から、起こしに来るのは依頼の引率役を引き受けてくれたクローさんだと思っていた。しかし、廊下にはクローさんの姿がない。どうかしたのだろうか、と思っていると、シャムロック君は階段の方を指差した。

「先に下に降りて、今日の依頼の確認してる」

「確認?」

「ルートの動きの、評価基準とか」

 なんでも、引率役は有事の際に手助けをするだけではなく、依頼中に僕がどのような行動をとったかを見ておく必要があるらしい。更に上の、難しい依頼をこなせるかどうかを評価するので普通に依頼を受けるより確認事項が多くなるそうだ。

「終わったら、改善点とか教えるのも、引率役の仕事」

「そうなんだ……」

 新人からすると良い勉強の機会だ。しかし、戦闘の手助けだけなら兎も角、依頼人との話し合いや採取方法などの指導をするのは面倒と言うことで、中々引率役を引き受けてくれる人は少ないそうだ。

「い、一回で合格しないと……」

「ルートなら大丈夫。一緒に頑張ろうね」

 若干プレッシャーを感じていると、シャムロック君が手を握ってくれた。そうだ、昨日はシャムロック君と協力してゴーストを退治できたのだ。今日だってきっと大丈夫だ。深呼吸をして、力強く頷く。

「シャムロック、ルート。出発の時間だ」

「はい!!」

 丁度、依頼の確認が終わったのか、クローさんが下から声を掛けてきた。僕達は急いで階段を降り、外に出る。僕たちの姿を確認するなり歩き始めたクローさんに走りよると、クローさんは歩く速度を緩めずに説明を始めた。

「今日の依頼は、王都付近の街道に出るバッタの魔物を三匹討伐だ」

「バッタの魔物、ですか?」

「基本的に人間を襲ってくるわけではないので、危険度は低い。しかし、穀物を輸送していると貨物を狙ってくる。各領地から王都に穀物を輸送する時期になる前に、定期的に討伐依頼が出る」

「成程」

 魔物と言うことで、大きさは普通のバッタよりも遥かに大きいが、知能は発達していない。人間に対して襲い掛かってくることは無いが、すぐに逃げるため、討伐は大変らしい。大変ではあるが危険度は低いため、Eランク冒険者の初めての討伐依頼の定番だそうだ。

「魔物を倒すと、核となっていた魔力器官、簡単に言うと魔石が残る。それを三つ持って帰れば依頼達成と見做される。一応、引率役が討伐の様子を見ているが、魔石の回収は忘れないように」

「わかりました」

「この依頼は他の冒険者組合にも出ている。早めに移動して、場所が被らないようにする」

「はい」

 滅多に起こらないが、稀に、他人が倒した魔物の魔石だけ回収して自分の手柄にしようとする人がいるらしい。そう言った不正を防ぐためにも、討伐依頼の際は他の組合の冒険者とは距離を開けて行うらしい。

「とはいえ、依頼には常に危険が伴う。引率役と逸れたり、何か危険を感じた場合は他の組合でも関係なく合流し、協力するように」

「わかりました!!」

 クローさんと一緒に城門から出て、街道を歩いていく。暫く歩くと、周囲は一面の草原に変わっていき、草の背丈も徐々に伸びていく。段々と歩ける道も細くなり、横に生えている草が、丁度僕の背丈の高さまで伸びた時の事だった。周囲から、風を切るような、特徴的な音が聞こえてきた。反射的に剣を構え、草むらに入ろうとしたが、クローさんに手で制された。

「これって……」

「魔物の発生区域に入った。シャムロック、位置と数は?」

 クローさんが聞くと、シャムロック君は杖を構え、何かを小声で唱え始めた。すると、杖の先から青色の光が周囲に放たれる。きらきらと空中を光の粒が舞い、暫くすると、光は何か所かに集まり、球のようになった。

「周辺に、合計六体。右手側の草むらに二体と、左手側に四体。右手側はサシャの気配があるから、行くなら左手側」

「ルート、光の玉の下に魔物がいる」

「わ、わかりました」

 先程のシャムロック君の魔法は、周辺の魔力探知を行う魔法らしい。魔物は必ず魔力を持っており、その性質は人間とは異なることを利用しているそうだ。

「本来なら索敵からやってもらうが、今回は草が成長しすぎている。シャムロックの索敵に引っ掛かった魔物の数が多いのも気になるから、早めに終わらせてしまおう」

「ルート、気を付けてね」

「うん」

 二人は、少し距離を置いて付いてきてくれるらしい。僕は、シャムロック君がつけてくれた目印を確認しながら、一体目の魔物に近づいていく。草を掻き分け、慎重に一歩ずつ歩いていくと、目印の真下付近に、草と同じ色の魔物を見つけた。

「……いた」

 まだ、此方には気付いていないようだ。相手に気付かれないよう、また、相手が逃げようとした際に怪我をしないように、魔物の側面に回り込む。後ろ足で蹴られたら無事では済まなさそうだからだ。

 魔物が少し頭を下ろした瞬間を狙って、僕は勢いよく地面を蹴り、剣を振り下ろす。

「まずは、一匹」

 気付かれる前に仕留めた魔物は、小さな石を落として完全に消滅した。僕は周囲を確認してから、地面に落ちている小さな石を拾い、腰のポケットに入れた。後ろを振り向くと、クローさんが小さく頷いた。これが魔石で合っているらしい。

「次は……」

 上を見て、シャムロック君の目印を探す。次の魔物も近くにいるようだ。同じように横に回り込んで倒してしまおう、と剣を持っていない左手で目の前の草を掻き分けた瞬間だった。

 目の前に、魔物が、いた。

「っ!?!?」

 悲鳴を何とかこらえつつ、素早く剣で斬りかかる。相手よりも僕の行動が早かったようで、無事に倒すことはできたのだが、一瞬遅れたら逃げられていただろう。

「…………びっくりした」

 近くにいる、ということはわかっていたが、魔物がどの方向を向いているかはわからない。当然、魔物を見つけた時に相手に見つかることもあるのだから、もう少し警戒するべきだったのだろう。内心反省しつつ、それでも悲鳴は上げなかったし、逃げられなかったのでギリギリ合格ラインだろう、と自分を元気付ける。

「さて、最後は……」

 魔石を拾い、反省を活かして次の魔物を探そうとした、その時だった。ぶわり、と強い風が吹き、草むらが音を立てて揺れた。風が収まり、改めて魔物を探そうと思って上を見た、その瞬間だった。一斉に何かが空を埋め尽くした。

「ルート!!街道まで戻る、急げ!!」

「は、はい!!」

 クローさんの指示が飛んできて、僕は慌てて街道へと引き返す。その間にも、空はどんどん暗くなり、低い、風を切る音が周囲に響く。

「シャムロック、魔法で合図を。周辺の冒険者を全員集める」

「クローさん、一体、何が……」

「『トノサマバッタ』だ」

 クローさんは、僕たちを道の中央に移動させながら言った。トノサマバッタ、とは、極稀に発生する、バッタの魔物の事らしい。その名の通り、群れのリーダー的存在で、大きさや魔力が通常の魔物に比べて圧倒的だという。

「でも、大きいだけなら、協力すれば何とか……」

「無理だ。あれは大きいだけでなく、魔法も使ってくる。正しく言えば、体を動かすだけで、自然に魔法が発生する、と言った方が良い」

「そんな……」

 続々と冒険者たちが街道に集まってくる。クローさんが指示を出し、魔導士を中心に、武器を扱える者は外側に配置しながら、ゆっくり王都に向かって移動を始める。一度王都に戻り、体制を整えてトノサマバッタを討伐するつもりのようだ。

「知能は発達していない相手だ。このまま縄張りから抜けて、遠ざかる分には問題ないはずだ」

「穀物でも、持っていない限り」

 好物である穀物を持っている場合は、相手は我を忘れて追ってくる可能性が高いらしい。とはいえ、今回は穀物輸送の護衛ではなく、討伐依頼だ。恐らく大丈夫だろう、と歩き始めたその時だった。

「た、助けてくれ!!」

 草むらから、三人組の冒険者が飛び出して来たかと思うと、その後ろから、大量の手下を引き連れた、トノサマバッタが現れたのだった。


次回更新は9月30日17時予定です。

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