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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
19/68

魔界の洞窟

「あっち……?」

「そう。村の外の……、泉の方に」

 女の子は、もう一度村の外を指差した。丁度、この家を出て真っすぐに進んでいった先、ということはわかった。が、遮蔽物も、目印になりそうなものもないのは少々不安だ。

「泉以外に何か目印は?」

「本当に、何もない場所なの。真っすぐ行けば迷わないような所」

 途中に大きな木も、岩も、特徴的なものは何もないという。しばらく歩けば絶対に泉が目に入るから大丈夫らしい。村の人が言うなら確かな情報だろう。僕は改めて女の子に向き直った。

「そっか……。あ、えっと、君にも避難、してもらわないと。集会場まで、僕が付き添うから」

 だが、女の子は静かに首を横に振った。

「いいえ、一人で行けるから、心配しないで」

「でも、外にはまだ魔族が……」

 先程、ハルピュイアに壺を投げつけたのだから、肝が据わっていることは知っている。だが、あの時とは違い、外に出れば上空から襲い掛かってくる危険性がある。そんな中、冒険者でもない女の子を一人で行かせるわけにはいかない。

 僕はそう食い下がったが、再び、首を横に振られた。ぎゅ、と服の裾を握られ、目を見張る。

「私よりも、攫われた村の人を助けてほしいの。お願い」

 その手は、僅かに震えているような気がした。その目には強い意志が宿っていて、僕は、小さく溜息を吐いてから、村の中心部を指差した。

「…………わかった。一番、大きな道を通れば、魔導士から守ってもらえるはずだから」

 何かいった所で、彼女の意思が揺らぐことは無いだろう。諦めて集会場までの安全な道を説明すると、花が綻ぶような笑みを向けられた。

「ありがとう、ルート」

 そう言って、颯爽と走って行く後姿に、慌てて声を掛ける。

「そういえば、君の名前は……」

 が、既に走り出した彼女には聞こえなかったらしく、その背は段々と小さくなっていく。完全に後姿が見えなくなってから、僕はぽつりと呟いた。

「…………行っちゃった」

 後で集会場に行けばいいのに、何故か、名前を聞けなかったことが心に引っ掛かった。この家にはもう人がいないから、次の家の確認に行かないと。自分で気持ちを切り替える。深呼吸をして家から出ると、丁度、別の家から出てきた聖騎士様と目が合った。

「ルート、他の家には誰もいなかった。次の区域に向かうぞ」

「はい」

 シャムロック君も見回りが終わったようで、僕達を見つけると小走りで駆け寄ってきた。随分と奥の家まで確認に行っていたらしい。僕はこの家くらいしか確認していないので、ちょっと申し訳ない気持ちになる。

「誰かいたのか?」

「あ、そうです。女の子が一人」

 ハルピュイアに襲われていたことを説明すると、だから時間が掛かったんだな、と二人は納得したようだった。

「避難は」

「してもらいました。それで、他の村人が攫われた方角について、教えてもらったんですけど……」

「何だと?」

 二人の表情が引き締まる。確認した限り、かなりの人数がハルピュイアに連れ去られたはず。その人たちを助ける手がかりを得られたのは大きな成果だ。僕は、女の子に教えてもらった方角を指した。

「泉の方角に連れていかれた、って言ってました。真っすぐ行けば迷うこともない、と」

「そうか。この辺りは背の高い建物も少ないから様子が見えたのだろう。集会場の方に連絡だけして向かおう」

 そうか。一度、他の人たちに村を離れることを伝えなければいけないのだった。だが、下手に此方の方角を行き来していては、上空にいるハルピュイアに何か感づかれるかもしれない。僕達が邪魔されるだけならいいが、掴まっている人たちに被害が及ぶようなことはできない。

 迷っていると、シャムロック君が任せてほしい、と杖を握りながら言った。

「魔法で、知らせます」

「シャムロック君、そういうこともできるの?」

 魔法が使えるのだから、上空に向かって合図のようなものを撃つことは簡単だろう。だが、相手に気付かれないように、となると難易度は格段に跳ね上がる。伝える内容が複雑になれば尚更だ。

「クローと、サシャにだけ通じる、簡単な合図なら、練習してある」

「へえ、どんなの?」

「えっと、特定の魔力で書かれた、痕跡を辿る方法……」

 三人ともが魔力の扱いに長けた魔導士で、且つ、お互いの魔力の性質をよく理解しているからこそできる方法らしい。仮に、他の魔導士に痕跡を見られたとして、三人にしか理解できない暗号を使っているので問題無いと言う。

「なら、合図は頼んだ。早く向かうぞ」

「はい」

 本当、シャムロック君は色々とできて凄いなあ。杖で空中に字のようなものを書いているシャムロック君を見て、僕はそう思ったのだった。


 少女に教えてもらった方向に真っすぐ進んでいくと、目的地らしき池が段々と見えてきた。草原の中心に突然現れた泉は、少々背の高い植物に囲まれているものの、他に、特に陰になりそうな場所は無い。

「泉って、此処、でしょうか?」

 攫われた人も、当然見つからず、僕は教わった泉が本当にこの泉で会っているのか、段々と不安になってきた。ここに来る途中、別に泉と言えるような場所は無かった。なら、此処より先に別の泉があるのだろうか。遠くを見ようと目を凝らしていると、聖騎士様が低い声で確認してきた。

「…………付近に遮蔽物は無い、と言っていたな?」

「は、はい。そう聞きましたけど……」

 聞いている特徴と、今いる場所の特徴自体は完全に一致しているのだ。ただ、唯一の問題は。

「誰もいない」

「そう、ですね。大きい岩があるだけで、人が集められるような場所は、どこにも……」

 村人の救出のために来たはずなのに、誰もいない、と言うことである。遮蔽物が無いのなら、当然、泉を視認できた時点で攫われた村人も、攫ったであろうハルピュイアも確認できると思っていた。しかし、そのどちらも此処にはいない。

「水中に通路があり、その先に神殿や避難場所を作っているところもあると聞くが、この規模の泉では無理だろうな」

「そうですね……」

 見えている泉は、かなり小さい。池ではなく泉、と言った大きさだ。また、水が澄んでおり、底まで見通すことができる。水中通路への入り口どころか、泉の中に大きな岩すらなさそうだ。

困ったな、と泉の周りを目的もなく歩く。何となくだが、見る角度を変えるといい案が思いつかないかな、という、軽い気持ちだった。軽い気持ちだったのだが。

「しゃ、シャムロック君、聖騎士様。ちょっと、こっちに来てもらっていいでしょうか」

 泉の反対側まで歩いた僕は、向こう岸にいるシャムロック君と聖騎士様を小さな声で呼んだ。ちょっと、自分の目が信じられなくなったからだ。角度を変えたら、先程まで見えなかったものが見えてきたのである。

「なんだ?」

「どうしたの?」

 僕は、無言でその見えてきたものを指し示した。当然、泉の水が湧いているところとか、そんなものではない。僕の足元、つま先の延長線上、少しだけ泉の水に入らないといけないような場所。形状的な問題で反対側からは見えなくなっていたが、なんというか、不自然に暗い穴が、あったのだ。

「…………あれ、何でしょう?」

 深く、陰になっているから水が黒っぽく見えるとか、そういう次元ではない。そこにあることが異質、と直感的に思うような、暗い、真っ黒な穴が、ぽっかりと開いているのである。何かを待ち構えているような、そんな穴だ。

「道だ」

 聖騎士様が、短く答えた。

「魔界と、この世界を繋ぐ道だ。実際に見るのは初めてだが、文献の記述と一致しているから間違いない」

「これが……、魔界への道」

「見るからに禍々しいですね」

 シャムロック君と二人で、落ちないように気を付けながら道を観察する。よく見ると、暗闇の淵は微妙に動いていて、まるで、此方を誘うような動きをしている。中に入って来い、そう言われている気分だ。

「理論自体は移動魔法や空間魔法と同様らしいが、その辺りは詳しくない」

 魔法で作られた道なので、同じく魔法の一種である封印術を使うことで封鎖することができるのだろう。詳しい説明をしてもらっても、僕では理解できないと思うので対処法がある、とわかれば十分である。

「攫われた村人は即座にこの道を通り、魔界へ連れ去られたのだろう」

 聖騎士様は、真っすぐに道を指差して言った。魔界に連れ去られているから、今、此処に村人の姿は無い。おかしなところは何一つない推理だ。しかし、その場合、一つ問題がある。

「手遅れの可能性が……」

 魔界に連れ去られてから、どのくらい時間が経っているのかが分からない。人間が住むこの世界よりも、遥かに過酷な場所である魔界に連れられて行った村人が無事でいる保証はどこにもないのだ。

「全力を尽くすが、可能性自体は高いだろう。覚悟しておいてくれ」

「わかりました」

 僕とシャムロック君は、深く頷いた。聖騎士様は、僕達が覚悟を決めたことを確認してから、再び泉の中の道に向き直った。準備ができ次第、道の向こう側、魔界へ突入するのだろう。

「心の準備は良いか?」

 短く尋ねられる。僕は、大きく息を吸って、大丈夫です、と答えようとした。が、その時、ふと一つの疑問が頭を横切った。

「あ、一つ、不思議なことがあるんですけど」

「何だ? 言ってみろ」

 はい、と右手を軽く挙げると、聖騎士様は嫌な顔一つせず内容を聞いてくれた。僕は、空を指差し、疑問を口にする。

「ハルピュイアが何処にもいません。それと、道の封印に向かったエリックさんも」

「…………そうだな」

「エリックさんは、道の気配を辿って封印をしに行く、と言っていました」

「つまり、救助活動を行っていた我々よりも到着が遅れることは考えにくい、と」

「はい」

 エリックさんの最優先事項は、道を封印すること。僕達よりも先に出発しているのに、此処にエリックさんも、同行していた冒険者もいないのはおかしい。気配を辿れる、という発言が嘘なら僕達より遅いかもしれないが、指折りの神官だと言っていたので、それは無いだろう。

「道中、ハルピュイアに襲われている可能性もありますが、冒険者も同行しており、本人もある程度戦闘ができると言っていました。それに、村からここに来るまでは一直線ですし、近くで戦闘があった形跡も見つかりませんでした」

「此処とは別に道があり、そちらに向かっている可能性が高いな」

 途中で魔族の妨害に合っているわけでもないなら、別の道を封印しに行っている可能性が高い。そして、別に道があると考えれば、ハルピュイアの姿が見えないことも納得がいくのである。

「そこで、ハルピュイアがいないことが繋がります。ハルピュイアは攫ってきた人たちを此処に連れてきて、魔界に送り込んだものの、ハルピュイア自身はこの泉付近にとどまっていません。それに、泉には、羽が殆ど落ちていないんです」

「もしかして、ハルピュイアは……」

「はい。水の中に入るのは嫌いなんじゃないでしょうか? 泉の道はあくまでも人間を魔界に連れていくためのもので、自分たちが行き来する際は別の道を使っている、と考えたら説明がつきます」

 もしくは、泉の道が繋がっている場所が、ハルピュイアにとってはあまり行きたくない場所か、どちらかだろう。どちらにせよ、ハルピュイアが積極的に泉の道を使わないなら、僕達は比較的安全に魔界に向かうことができるだろう。

「監視の目が少ないなら都合がいい。今のうちに救出に向かうぞ」

「「はい」」

「ルート、シャムロック、覚悟は良いか。今から行くのは人間の常識が通用しない場所、魔界だ。本来はお前たちのような子供を連れていく場所ではないが……」

 直前になって、聖騎士様は、少し申し訳なさそうに言った。僕とシャムロック君は顔を見合わせて笑った。そんな心配、僕達には必要ないからだ。

「救助の為ですし、僕達、ただの子供じゃなくて冒険者ですから」

「自分の身は、自分で守ります」

 確かに、一般的に見れば僕達はまだ子供かもしれない。だけど、立派なCランク冒険者なのだ。危険な依頼に赴くときに、子供か大人かなんて、関係ない。僕達は僕達なりに、誇りを持って仕事をしているのだ。そう思いを視線に乗せて聖騎士様を見つめ返した。

「ならいい。…………行くぞ」

 無事に思いは伝わったようで、聖騎士様は短く言うと、真っ先に泉の道に飛び込んでいった。出遅れた僕とシャムロック君は、顔を見合わせ、泉から数歩下がって十分な距離を確保する。

「せーのっ!!」

 助走をつけて、勢いよく泉の道の真上に飛ぶ。どぼん、という音とともに、冷たい水が肌に触れる。暫く目を瞑って耐えていると、体が自然と浮き上がり、ざあざあと水が落ちる音が聞こえてきた。

 ざぱ、と音を立てながら水面から顔を上げると、全く見覚えのない洞窟内に移動していた。横を見ると、聖騎士様とシャムロック君もはぐれず移動することができたようだ。

「無事に魔界に来たようだが……、近くに他の気配は……」

「…………うえっ、変に水飲んだ気がする」

「ルート、大丈夫?」

 軽くせき込みながら水から上がる。早く、村人を探しに行かなければいけない。装備品を確認しながら、洞窟の奥に踏み込もうとした時だった。

「だ、誰だ!? 村の人間じゃねえな!?」

 目の前の曲がり角から、村人らしき服装の人物が此方を見て叫んだ。良かった、人がいた。そう思い、一歩、近付こうとすると奥の方から次々と悲鳴に近い声が上がる。

「見たことがない奴らだ」

「もしかして、魔物……!?」

「いや、でも、私たちと同じところから出てきたぞ……」

「あ、あの鎧は……!!」

 ざわめきが次第に大きくなっていくかと思いきや、突然、ぴたりと周囲が静かになった。見ると、一人の男性が聖騎士様の鎧を指差し、固まっている。聖騎士様が、無言で一歩踏み出した。水に濡れてもなお、輝きを失わない純白の鎧が、洞窟の中をきらりと照らした。

「あ、あなたは……」

「聖騎士団副団長、ハリス・ケイだ。助けに来た。動けない者はいるか?」

 そう言うと、先程まで警戒していた村人たちの表情が、ぱっと明るくなった。奥の方に隠れていた人たちも次々に僕らの方に寄ってくる。聖騎士様の近くが一番安全だ。そう思っていることは間違いなかった。

「動けない者はいないようだな。簡単に状況を教えてもらえるか?」

「はい。朝、仕事をしようと思ったら、急に空から魔物が現れて……。抵抗したのですが、泉に放り込まれ、気付けばここに……」

「ここに来てからは、時折、獣のような声が聞こえるだけで、魔物は見かけていません」

 次々と村人がここに放り込まれ、魔物の目的もわからず身を寄せ合って警戒することしかできなかったと言う。怪我人はいないものの、見知らぬ場所で動き回る気にもなれず、洞窟内の探索などは行っていないそうだ。下手に魔界を歩き回ると、ハルピュイアよりも凶悪な魔族や魔物に出会う可能性があったので、正解だろう。

「成程。ここは、泉と魔法でつながった場所で、村からは相当離れている。下手に動かなかったのは賢明な判断だ」

「そう、なのですか。どうやって戻れば……」

「同じように、此処の穴に飛び込めば泉に戻る。準備ができ次第、順番に移動するぞ。護衛は十分にいるから心配しなくていい」

 聖騎士様は、此処が魔界である、ということは伝えずに避難させるつもりのようだ。事実を伝えたところで、混乱を招くだけで状況が良くならないからだろう。僕かシャムロック君が先行して泉に戻り、村人が全員向こう側に戻ったところで聖騎士様が最後に戻ってくる、という手順のようだ。

「どっちが先に戻る?」

「ルートは残って」

 シャムロック君は魔法が使えるので、泉の近くにハルピュイアが飛んでいても対応できる。それに、魔法でクローさん達に合図を送ることもできるので、適任だろう。僕が頷くと、シャムロック君が水に飛び込んだ。

 シャムロック君が水に飛び込んで暫く待ち、戻ってくる様子が無いことを確認すると、村人達も続々と水中の穴に避難を始めた。

「順調ですね」

 聖騎士様が見守っていることで安心しているのか、村人達は押し合うことなく、順番に道を通っていく。この調子なら、すぐに避難は終わるだろう。

「ああ。ハルピュイアもいないし、他の魔族の姿もない。このまま、何事もなく避難が完了すればいいが……」

 どうやら、そう上手くはいかないようだ。ギュイ、と不気味な鳴き声が聞こえたかと思うと、洞窟の奥の壁に大きな影が映り込んだ。

「き、騎士様!! 奥の方から、あの、鳥の魔物が!!」

「ハルピュイアか!! タイミングの悪い……」

別の道を通って戻ってきたのか、元々魔界にいたのかは知らないが、僕達の様子を見に来たらしい。声や陰から判断するに、数は三体くらいだろうか。僕は素早く剣に手を伸ばし、奥の通路に向かって走り出す。

「僕、足止めします!! ここなら天井が低くてあまり飛べませんし、十分戦えます」

「悪い、任せた!!」

「はい!!」

 残っている村人は後少しだ。早く避難して貰った方が、僕達も動きやすい。全員の避難が終わって聖騎士様が加勢してくれるまで耐えればいい。僕は剣を構え直し、静かに息を吸う。

「ギィイッ!!」

「やあっ!!」

 ハルピュイアが角を曲がってきた隙を付き、先制攻撃を仕掛ける。無抵抗な村人しかいないと思っていたのか、特に反撃されることもなく先頭にいたハルピュイアを倒せた。どさり、と地面に落ちた仲間を見てようやく気が付いたのか、残った二体のハルピュイアが戦闘態勢を取る。

「でもっ……」

 僕の方が速い。助走をつけながら剣を構え、二体目のハルピュイアに向かって水平に薙ぎ払う。反撃のために繰り出される爪にだけ気を付けておけば、此方が怪我をすることもない。

「ギュウイッ!!」

「わっ……、あぶな」

 もう一体のハルピュイアが、僕の隙を突くように横から攻撃を仕掛けてくる。反射的に剣を目の前に構えたことで防ぐことができたが、もう少し気を付けないと危ないかもしれない。気を引き締め、深呼吸をする。

「落ち着いて……、手負いの方から……」

 仕留めよう、と思った時だ。僕の言葉を理解しているのか、二体のハルピュイアが同時に襲い掛かってきた。

「ギュピッ」

「ギュイ」

「連携攻撃!? そんなことできるの!?」

 右から左から、容赦なく爪が襲い掛かってくる。握った剣で弾き続けるものの、僕の剣は一本で、相手の爪は左右二つで合計四つ。徐々に不利になってきた。いよいよ、鋭い爪が僕の腕に食い込もうとした、その時。

「うわっ!!」

 持っていた剣が、一瞬、七色の光を放った。突然の光に目をやられたのか、ハルピュイアが動きを止める。

「いまだっ!!」

 僕は、その隙を逃さずハルピュイアに斬りかかる。二体とも動かなくなったことを確認していると、聖騎士様が此方に走ってきた。

「ルート!! 避難は終わった!! 無事か!?」

「何とか……」

「一人で三体も倒したのか? 全く、無茶をする……」

「……すみません」

 正直、オリハルコンの光が無ければ無傷ではなかっただろう。それにしても、眩しかったとはいえ、ハルピュイアが動きを止めていた時間が、やけに長かった気がする。何か、別の原因があるのだろうか。

「無事ならいい。早く泉の方に戻るぞ。先程は乗り切れたとはいえ、此処は魔界、魔族の巣窟だ。何時また襲われるかわからない」

「そうですね」

 取り敢えず、今は無事に戻ることを優先するべきだ。聖騎士様に促され、僕達は泉に戻るための道の前に立つ。先に、聖騎士様が水に飛び込み、ぶつからないように僕も続いて飛び込んだ。

「あら、誰もいないの? 残念だけど、報告だけしておかなきゃね」

 飛び込んだ瞬間、女性の声が聞こえた気がしたが、既に移動は始まっており、洞窟の様子を確認することはできなかったのだった。


次回更新は2月3日17時予定です。

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