魔族との邂逅
鳥と人間を混ぜたような魔族は、僕達をじっと見てから、威嚇するような鳴き声を上げる。その足に着いた爪は鋭く黒光りしており、人間の肌を傷つけることは容易だろう。カチカチと爪を鳴らしながら近づいてくる魔族に対し、僕は剣を構える。
「ま、魔族って、どうしたらいいの!?」
反射的に構えたものの、物理攻撃が効かないなら、僕の行動は相手の警戒心を煽るだけになってしまう。後ろをちらりと見て、シャムロック君に魔族への対応を確認する。
「取り敢えず、攻撃が効かない訳じゃないから……」
「わかった」
物理攻撃が効かない魔物もいるが、この敵はそういう性質を持っていないようだ。相手が急降下してきた隙を狙い、翼の部分に斬りかかる。
「ていっ!!」
「ギィイッ!!」
剣先が、僅かに翼を掠める。すると、翼が傷つき飛ぶのが難しくなったのか、魔物はそのまま地面に倒れ込んだ。すぐさま体勢を整え、再び襲い掛かってこようとするが、もう遅い。右足を大きく踏み込み、剣を振り下ろす。
「ギャッ!!」
「た、倒せた……、けど……」
ばたり、と地面に倒れ込んだ魔族。取り敢えず、倒したのだから魔石を持って帰らなくてはならない。詳しい人に見せれば、何かがわかるだろう。そう思い、魔石になるのをじっと待ったが、中々変化する様子が無い。
「魔石に、ならない……?」
幾ら待っても魔石にならない。とどめを刺しきれていない訳ではない。となると、魔石になる性質が無い、ということしか考えられない。シャムロック君の意見も僕と同じようだ。
「魔族と魔物は別物だから、かも」
「そうなの?」
「うん」
正直、あんまり違いが分からない。倒したばかりの魔族は、魔物に比べれば人間に近い見た目だが、言葉は通じないし、襲い掛かってきた点は同じである。一体、何が違うというのか。首を傾げていると、シャムロック君が魔物について簡単に説明を始めた。
「魔物は、元々普通の動物が魔力を体内に取り込んで巨大化、狂暴化した魔獣と、土地の魔力そのものが集まって生まれた魔生物、っていうのに分けられる」
「細かいんだね……」
「基本的に魔物って言ったら魔獣が多いから、気にしなくていいとは思うけど」
トノサマバッタや熊蜂などは魔獣に分類されるらしい。トノサマバッタは、風属性の魔力を取り込んでバッタが巨大化したもの。熊蜂は、熊が毒性を持った蜂の魔物が集めた蜂蜜を食べることによって狂暴化したものらしい。魔物、と呼ばれるもののうち、魔獣は八割以上になるそうだ。
「ルートと初めて会った時に戦った、スライムとかは魔生物だよ。魔生物は物理攻撃が効かなかったり、魔法が効かなかったりすることが多いかな」
「元々が生き物じゃなくて、魔力の塊だから?」
「そう」
因みに、自立稼働ができるゴーレムも魔生物に含まれるらしい。スライムもゴーレムも、どちらも戦いにくい相手だ。冒険者が単独で行動せず、パーティを組むのは魔生物に対応するため、ともいえる。
「で、魔族は?」
「魔族は更に別で、魔界の生き物のうち、自然の魔力を自分の魔力に変換できるもの、らしいけど……」
「どういうこと?」
自然に魔力があることは知っているが、それを、自分の魔力に変換する、とはどういうことなんだろうか。
「えっと、人間も、魔物も、魔力器官っていうものを持っているから体に魔力を貯めることができるけど」
「そ、そうなんだ」
「この魔力器官が魔石になる部分。魔物は魔力器官が一か所に集中しているけど、魔族は人間と同じように、体全体が魔力器官だから、魔石にならない、のかな」
魔物が死ぬと、魔力器官から全身へと流れていた魔力の流れが止まり、魔力器官に集まるので魔石に変化するらしい。一方、人間は全身が魔力器官で、体中に均等に魔力が存在するため魔石にならない、という。魔族も同じような体の構造をしているのではないか、とシャムロック君は予想したらしい。
「魔力を増やす方法は、食事として取り込むか、休んで体の中の魔力を増やすか、どちらかになるけど、魔物と違って人間は体内魔力を増やす能力が高いから、魔法が発達してきた、って言われてる」
「僕には遠い世界の話に聞こえるけど……」
体全体が魔力器官なので、貯められる魔力も多く、魔力を増やす能力も高いということらしい。多分、僕はその魔力器官が人と比べて発達していないのだろう。ちょっと悲しい。
「魔族は更に凄くて、食事ということをしなくても、周囲の魔力を自分の体に取り込むことができる」
「え」
それは、かなり、凄いことなのではないだろうか。食べたり休んだりしなくても魔力を取り込むことができる、ということは、魔力が多い場所なら、幾らでも魔法が打てるということではないか。
「で、魔界って……?」
「この国とは全く別の、物凄く魔力が豊富な場所。その分、魔物も多いから、人間には到底暮らせるような場所じゃない」
「…………魔族が魔界で生き残ってきた理由はわかったけど、その魔族が、どうして人間の村に?」
魔界に比べて魔力が少ない場所に来るということは、弱くなるということである。そんなことをしてまで、人間の国、しかも、王都ではなく小さな村に魔族が来る理由が分からない。
「魔王が、復活したんだろうな」
振り向くと、そこには聖騎士様がいた。周囲の様子を調べたり、魔族と戦ったりしている間に本隊が追い付いたのだ。聖騎士様は僕とシャムロック君の頭をぐしゃりと撫でて、言った。
「状況を冷静に判断し、突っ込んでいかなかったのは正解だ。魔族、特に、このハルピュイアは複数で行動する。二人だけで行けば無事では済まなかっただろう」
「あ、あの、聖騎士様。魔王の復活と、この村の状況に、何の関係が……」
知っていることがあるなら、少しでもいいから教えて欲しい。目で訴えかけると、聖騎士様は村の方を見つめたまま、硬い声で言った。
「魔王は魔族の王。そして、何度も人間の国を滅ぼそうとしてきた相手でもある。魔王が復活した記念に、人間を襲ったんだろう」
「どうして、そんなことを……」
魔族、という言葉も初めて聞いたのに、いきなり魔王とか、人間の国を滅ぼそうとしているとか言われても、よくわからない。
「魔界は魔力が豊富な土地だが、魔力が多すぎて普通の植物が育たないうえ、魔物が大量にいる。だから、食料を求めて人間の国を襲い、服従させようとするんだ」
過去、魔族と人間は何度も戦い、その度に魔族を退けてきたらしい。とはいえ、前回、魔族と人間が戦ったのはこの国ができるよりも前のことで、王宮の記録にしか記されていない、ということだ。
「前回の戦いは、人間の勇者が魔王と倒したことで終わった。そして、魔界との行き来ができないよう、道が封じられたはずだが、その封印が解かれたのだろう」
「道……?」
「…………魔界は、この国の下にある、地底世界の事だ。道というのは、地下へと続くような洞窟や、穴のこと。恐らく、この付近にも魔界への道があり、そこから魔族は現れたのだろう」
魔族からしたら、王が復活したお祝いのために、行けるようになった村を一つ征服しようとした、ということだろうか。理由はわかったが、到底許容できるものではない。一刻も早く、村の人を助けなくては。じ、と聖騎士様の顔を見る。
「言いたいことはわかる。だが、先程言ったように、ハルピュイアは複数で行動する上、飛ぶことができる。無策に突っ込めば囲まれたうえ、此方の攻撃が届かない場所から一方的に攻撃されるだけだ。それに、村人の救出もある。下手に出れば人質に取られるぞ」
「…………はい」
先程は、相手が一体だけで、且つ、攻撃のために近くまで降りてきたから勝てたのだ。複数に囲まれた状態では、同じように戦うことはできないだろう。
「最優先事項は村人の救出。次に、道を見つけ、再び封印すること。最後にハルピュイアの討伐だ」
「道の封印方法はあるんですか?」
優先順位は理解できる。今いるハルピュイアを倒したところで、魔界との道が繋がったままではこの村は何度も襲われてしまうだろう。だが、封印が行われたのはこの国ができるよりもずっと前の事だ。方法を知っている人がいるかも怪しい。
「その点は問題ない。運が良いことに、中央協会の中でも封印術に長けた神官が同行しているからな」
「げ、それ、俺の事?」
丁度、馬車から出てきた、年若い神官が嫌そうな顔をした。服装で神官とわかるが、全体的に緩く着ているためか、あまり真面目そうには見えない。背は高いが、顔を見る限り僕より少し上、十五、六歳と言った所か。
「彼はエリック・ユラ。今回同行している神官の纏め役であり、神官の中でも特に優秀と言われている人だ」
「聖騎士団の副団長にそう言われると寧ろプレッシャーなんだけど」
「出来ないと言わせる気は無いからな」
「相変わらず人使いが荒いなぁ」
仕方ない、任されましたよ。と、エリックさんが言う。が、随分と聖騎士様と仲がいいようである。神官と聖騎士は同じ神の加護を得たもの同士、比較的仲が良いのかもしれないが、それにしても年齢差があるのに砕けた口調だ。
「…………言っとくけど、俺、ハリスと同じ歳だからな。親が極東の人間だから、若く見えるみたいだけど」
「えっ!! す、すみません!!」
良くあるから気にしてねえよ、とエリックさんは笑った。そして、馬車の中から二人の神官と、護衛役だったクローさん達三人を呼ぶ。後方に配置されていた冒険者も合流して、本格的に作戦を考える。
「俺は道を探して封印するとして、誰が救出作戦に行くつもり?」
真っ先に口を開いたのはエリックさんだ。最優先事項である救出作戦にどれだけの人員を割くかで作戦も変わってくる。聖騎士様は、全体を見渡してから答えた。
「大人数で救出に向かっても気付かれやすくなる。必要最低限の人数で向かい、道の封印が終わってから合流して一気に叩くのはどうだ」
相手の増援を完全に断ち切ったうえで戦う、という作戦だ。村人が室内などに閉じ込められている場合は、扉を守れば少人数でも十分耐えられる。そう思ったが、クローさんは反対のようだ。
「村人が別々の場所にいた場合、守り切れず人質にされるだけだろう。そのくらいなら、囮役が大々的に暴れて、そちらに意識が取られている間に避難させた方が早い」
クローさんの作戦は、僕達が目立っている間に村人が自力で避難する、というものらしい。村人が一か所ではなく、家ごとに閉じ込められているならこの作戦の方が安全だろう。
「自力で避難できない者はどうなる。それに、避難中に襲われる可能性も考えれば、避難してこない者だって出るだろう。見捨てる気か?」
「この限られた人数で全てを救うなんて不可能だ。最大限、助かる人数が多い方法を選ぶべきだろう」
聖騎士様とクローさんは、どちらも自分の意見を譲るつもりはなさそうだ。声を荒げることは無いが、鋭い目つきでお互いを見据えている。
「…………どっちも間違っては無いけど」
「信念が違うから、分かり合えないというか……」
どちらの作戦も間違っている訳ではないので、口をはさみにくい。どうしよう、とシャムロック君を見るが、無言で首を横に振られた。こうなったクローはサシャでも止められない、ということらしい。
「お二人さん、いったん落ち着こ?」
動けないでいると、笑顔を浮かべたエリックさんが、二人の間に割って入った。二人は無言でエリックさんを睨み付けるが、当の本人は飄々とした様子で言う。
「揉めてる間に状況が悪くなるかもしれないだろ。こういう時は、間を取ってやればいいんだよ」
だろ、と聖騎士様に微笑みかける。
「間を取ると言っても、全く違う作戦では……」
低い声で聖騎士様が言い返すが、エリックさんの作戦を聞く気にはなったようだ。そのことを確認すると、エリックさんは人差し指を口に当てた。
「良いから聞けって。まず、最初は黒ローブの言う通り、囮役に暴れてもらう。その間に救出隊は人が多そうなところに行って、一番頑丈な建物を聞いて、そこに避難させる」
俺たちは村の建物について詳しくないからな、聞くのが一番だ。エリックさんの言葉は尤もで、僕は思わず頷いていた。聖騎士様とクローさんも何も言わずに話を聞いている。
「最初の避難の時に、リュイバンを同行させれば防御魔法が得意だし、何とかなるだろ。次の避難の時はタカキ、お前が弓と魔法で援護して、避難場所まで守ってやれ」
「わかりました」
「はい」
リュイバンとタカキ、というのは同行している神官の事らしい。神官は防御系の魔法に秀でたものが多いので、避難場所の安全確保に当たってくれるとのことだ。ただし、攻撃系の魔法は使うことができないので、魔族と戦うことはできないそうだ。
「後は簡単だ。遠距離攻撃ができる奴が避難の補助をして、避難できない奴は近接攻撃系が運べばいい。俺達神官や魔導士はあんまり筋力ねえけど、騎士や戦士は重たい武器持ってんだから人一人歩く手伝いするくらい簡単だろ?」
なあ、と視線を向けられた僕達戦士職は一斉に頷いた。人を抱えたまま戦えと言われたら無理だが、運ぶだけなら可能である。成人男性一人持ち上げられないようなやわな鍛え方はしていない。
「これなら、自力で動けない奴を見捨てることにもならない。な?」
「ああ」
聖騎士様はこの作戦に納得してくれたようだ。彼が一番気にしていたのは、自力で動けない者を見捨てることなので、一軒ずつ回って確認する方針なら反対する理由が無いのだろう。
「黒ローブも、この作戦でいいか?」
「構わない」
そう言うと、クローさんは囮役を自ら買って出た。大規模な炎の魔法を得意とするクローさんは、室内などでの戦闘は向かない。最初から自分が囮役になることを前提として、囮作戦を提案したのだろう。
「サシャ、最初は救出の方に向かってくれ。子供なら運べるだろう」
「了解。最初の囮はクローだけでやるつもり?」
「ああ。その方が、敵の目を引き、油断を誘える」
現れたのが魔導士一人だけなら、人質を取らずとも囲んでしまえば倒せると判断するだろう。クローさんはそう言った。そして、ローブをしっかりと着直して、堂々と門の方へ向かっていく。
「先に行く。救出は任せた」
「じゃあ、俺も道を探しに行ってくる。護衛役で一人、戦士職の奴、付いてきてくれるか?」
エリックさんの発言に、盾を持った冒険者が一人立ち上がった。残ったメンバーが村人の救出隊だ。全員で動くには少々目立ちすぎるが、戦力を分散しすぎても危険だ。連携の取れない相手と組んでも仕方がないし、中々難しそうだ。
「クローの魔法が見えたら動くとして、これだけ人数がいるなら別れた方が良いですよね?」
「ああ。神官殿には頑丈そうな建物に向かってもらうとして、安全確保のため、最初は同行しよう。避難場所が決まれば、後は二人一組で動けばいいだろう」
「でも、魔導士は途中からクローさんの援護に入りますよね?」
「単独で動くか、別の組と合流するかは各々の判断に任せる」
おおよその方針が決まったところで、ごう、と音がしたかと思うと、村の中央付近に大きな火柱が現れた。すると、村のあちこちからハルピュイアの影が飛び立つ。
「クローの魔法だ!!」
「気合入ってるね」
「…………あれだけの威力、確かに、室内戦には向かんな」
「ですね」
続けて、二本、三本と細い炎の柱が立っては消えていく。囮、というよりは主砲としか思えない火力である。だが、そのお陰で魔族の意識は完全にクローさんに向いているようだ。
「行くぞ!!」
救出に向かうなら今しかない。聖騎士様の掛け声に、僕達は力強く頷いたのだった。
村の中央付近、クローさんが暴れている場所から、一本横の道に入ったところにある、大きな建物。多分、此処がこの村の集会場か何かだろう。そう判断した僕達は、真っ先にこの建物に向かった。
「聖騎士団だ!! 救助に来た!! 負傷者はいるか!?」
扉を叩きながら、聖騎士様が中に向かって叫ぶ。すると、中から怯えたような声が返ってきた。
「ほ、本物の騎士様ですか?」
「そうだ。聖騎士団副団長、ハリス・ケイと言う。不安なら扉を開けなくていい。ただ、村人全員が避難できているのか教えてくれ」
「す、少しお待ちください」
慌てたような足音が遠ざかっていく。扉を開けるべきか否か、他の人と話し合うのだろう。突然、村を襲われたので警戒するのは仕方が無いが、此処で時間をつぶすわけにもいかない。僕達は別動隊として動いた方がいいか、聞こうとした時だった。
建物の中から、重たい物を動かす音がして、ゆっくりと扉が開かれた。
「聖騎士様、どうか、どうかお助け下さい……」
中から現れたのは、村長であろう、年配の男性だった。僕達が頷き、中に入ると、村長は村の状況を手短に説明してくれた。
「今朝、空が暗くなったかと思えば、いきなりあの鳥のような魔物が現れたのです。村人の多くは既に畑仕事に出ており、その半数が何処かへさらわれました。すぐに近くの建物に逃げ込んだのですが、この集会場にいる者以外、全く安否がわからぬ状況です」
「そうか。この建物が村で一番大きいのか?」
「はい。ここは、避難所にもなっておりますので、近くにおった者は皆、此処へ駆け込みました」
村の中心付近にいた人は、殆ど此処に避難したという。だが、村の端の方で暮らしている人の安否はわからず、また、最初にさらわれた人たちも何処へ連れ去られたのか、見当もつかないという。
「お願いします。どうか、どうかお助け下さい……」
「わかった。できる限りのことをする」
「あ、ありがとうございます!!」
そう言って、頭を下げるようとする村長を聖騎士様が止める。そして、村の簡単な地図と、人が残っていそうな場所を尋ねた。
「手筈通り、神官殿は此処を守ってくれ。他の者で逃げ遅れた村人の確認に向かう」
村人の中でも、体力が余っている者は魔導士が守れる範囲内の家の確認を手伝ってくれることになった。僕とシャムロック君は聖騎士様と一緒に、村の外れにある家から回っていくことになった。
「聖騎士団だ!! 救助に来た!!」
「助けに来ました!! 負傷者はいませんか!?」
「集会場に逃げてください!!」
一軒一軒、扉を叩いては声を掛けていく。村の端、僕達が入った門の近くの家には、女性や子供、老人が多く残っており、付き添いながら徐々に避難が進んでいった。しかし、門の反対側に近付くにつれ、誰もいない家が増え、とうとう扉が開けっ放しになっている家も出てきた。
「誰かいますか!?」
二つ目の、扉が開いたままの家に向かって叫ぶ。すると、中からガタン、と大きな音。次いで、ギィ、と威嚇するような声を上げながら、ハルピュイアが飛び出してくる。不味い、この距離だと、剣を構える暇もない。真っすぐ向かってくるハルピュイアの爪を防ぐため、左腕を前に出した、その時。
「やめてっ!!」
ガシャン、と大きな音がしたかと思えば、目の前のハルピュイアがゆっくりと僕の方に傾き、倒れた。床に視線を移すと、割れた壺のようなものが落ちており、その奥、家の中には、僕と同じくらいの少女が、何かを投げた姿勢のまま固まっていた。
「え、えっと……」
「…………助けに来てくれたの?」
僕が頷くと、少女は安心したのか、へなへなとその場に座り込んだ。僕は倒れたハルピュイアを確認してから、再び少女に視線を戻す。打ち所が悪かったのか、ハルピュイアは完全に動きを止めていた。火事場の馬鹿力というやつだろう。
「大丈夫?」
「うん……」
今は青い瞳に涙を溜めている少女を安心させることができるように、僕はできる限り優しい笑顔を浮かべていった。
「僕、ルート。君を助けに来たんだ」
さっきは、助けられちゃったけど。そう言うと、少女は黒い髪を揺らして少しだけ笑った。が、すぐにその表情を引き締め、村の外を指差し、言った。
「私は大丈夫。だけど、他の人が、あっちに連れて行かれてしまったの」
次回更新は1月20日17時予定です。




