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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
17/68

静かな村

 クローさんと聖騎士様の言い争いが一段落ついたところで、僕は挨拶に向かうことにした。最近教えてもらったばかりのお辞儀の仕方を一生懸命思い出しながら、白く輝く鎧を着こんだ騎士に頭を下げる。

「Cランク冒険者のルートです。よろしくお願いします」

「聖騎士団副団長、ハリス・ケイだ」

 特別課題について説明があったかを確認される。大きく頷くと、聖騎士様はまず、僕に盾を渡してきた。首を傾げながら両手で受け取ると、構えてみるように指示される。取り敢えず、左手だけで持てばいいのだろうか。

「重っ……」

 どうにか左手だけで支え、体の前に盾を持ち上げるが、かなり重たい。正直、持っているだけで精いっぱいである。これで右手には武器を持つなんて考えられない。ちらり、と聖騎士様の方を見ると、眉間にしわを寄せ、僕の手元や肩を確認していた。

「…………構えることも難しいか。素質は無いな」

「素質?」

「聖騎士の素質だ」

 何でも、今渡された盾には神の加護が与えられており、聖騎士が持てば重さは殆ど感じないという。素質がある人間も同様に重さを感じないので、実戦の時は勿論、才能を見極める際にも使用されているらしい。

僕には全く才能が無かったようだ。ちょっとショックだが、神様と言われてもパッと来ないので当然だろう。僕がいた村は神様に祈る暇があるなら働くような場所だったので仕方がない。ただ、竜騎士の素質もなかったし、段々と入れそうな騎士団が減って言ってる気がする。

「今迄、盾を扱ったことは?」

「無いです」

「剣や槍の扱いは?」

「剣は独学で少し。槍は使ったことがありません」

 槍ではなく、ピッチフォークなら使ったことがあるけど。絶対に使い方が間違っているので経験に入れない方が良いだろう。狩りの時に役に立つ剣と違って、槍なんてものは村に置いてなかった。

「馬は?」

「一応、乗れます」

 前回、リカンウェア火山に向かった時のように、大人しい馬なら問題ないはずだ。そうか、と頷き、歩き出した聖騎士様の後を付いていくと、そこには普通の馬より一回り大きい、鹿毛の馬が堂々と佇んでいた。

「乗れるか?」

「…………随分、大きい、馬なんですね」

「軍用馬だからな。早く乗れ。出発したら今回の日程を説明する」

「はい」

 どうやら、今回は同じ依頼を受けていても、シャムロック君やクローさん達と一緒に行動することは少なそうだ。僕はちらり、と旅団の後方で作業をしているいつもの三人を見て、馬に乗ったのだった。


「今回は聞いての通り、中央協会に所属する神官がラグダエグを訪問する。その道中を守ることが騎士団と冒険者組合が合同で行う任務だ」

「はい」

 ラグダエグ、というのは、僕の目的地でもある東の海に面した街のことらしい。様々な国との交易が行われている場所であり、国内有数の交易拠点都市でもあるそうだ。

「護衛任務とは別に、特別課題があることは理解しているな?」

「はい。経験不足を解消するための課題がある、と聞いています」

 同じCランク冒険者といっても、僕とシャムロック君の間にはかなりの実力差がある。その差は戦闘能力ではなく、主に、偵察や野営の設置など、そういった戦闘ではない部分が大きい。

「今回、我々は旅団の先頭に配置される」

「……安全を確保するために、周囲の警戒を行うことと、極力安全な道選びが必要ということですか?」

 聖騎士様は何も言わない。多分、試されているのだろう。直前の会話からして、今回の配置と、特別課題の関係を考えたらいいのだろうか。道選びの際に必要なのは、地形を知っていることと、出現する魔物の特性を知っておくこと。今回、僕は。

「…………東に向かう場合は、大きな道を真っすぐ通っていけばいい、ということしか、知らないです」

 物凄く簡単な道の情報しか知らない。正直、真っすぐ行けば五日で目的地まで行ける、ということは知っていても、目的地が地図で言えばどの辺りなのかもわかっていない。途中に出てくる魔物についても、基本的に物理攻撃が効く種類だ、ということしか知らない。

「それで、どうするつもりだ?」

「知識不足なので、知っている人に聞きます」

 知らないまま突き進んで護衛対象を危険に巻き込んではいけない。頭を下げて、知っている人に助けて貰うべきだ。そう答えると、聖騎士様は僅かに眉を動かし、続きを促してきた。

「誰に?」

「……道に関しては、聖騎士様に。周辺の魔物については、同行している冒険者に」

 王都から出ている主要な道については、多分、冒険者よりも騎士の方が詳しいだろう。冒険者は基本的に王都を拠点としており、別の街に行く機会は少ない。一方で、魔物の種類については冒険者の方が詳しい。自分の身を護るためにも、効率よく依頼を達成するためにも魔物の知識が必要だからだ。僕も時間に余裕があれば魔物については調べようと思っていた。

「どうやって聞くつもりだ?」

「素直に、お願いするつもりでした」

 教えてください、と頭を下げる。すると、聖騎士様は小さく笑った。

「素直な姿勢は及第点だな」

 王都付近の主要都市くらいは把握しているだろうな、と言いながら地図を渡される。何とか片手で地図を広げて確認すると、幾つか見知った名前があった。

「今は王都から出たばかりだ。今移動している道は王都から東へと向かう道。地図にも太く書かれているからわかるだろう」

「はい」

 今迄行った場所や王都を出発してからの時間から、どの付近にいるのかは計算できる。もう少し進めば、ダブス湿地帯を避けるため、道が大きく曲がる筈だ。

「今回は、街道から逸れることは無い。理由は単純で、街道が最も整備されていて通りやすく、魔物も少ないからだ」

「定期的に周辺の魔物の討伐が行われているからですか?」

「冒険者の努力もあるが、元々、国内の主要街道は魔物の出現が少ない場所を選んで作られている」

 最近は魔物が活発化しており、定期的に冒険者が近辺の魔物を討伐しているが、元々はそんな必要もなかったらしい。周辺の自然環境や、魔物の特性、他の町や村との距離など、様々な要素を考慮したうえで道が作られているという。

「凄いんですね」

「ああ。魔導士長様と神官長様が中心になって作られた道だからな」

 政治のことは詳しくないが、多分、王宮に努めている魔導士で一番偉い人と、中央神殿で一番偉い人の事だろう。取り敢えず、街道から逸れることなく進んでいくということはわかったので、残る問題は休憩のタイミングと、道中出現する魔物への対応である。

「あの、僕達は五日間掛けてラグダエグに向かう予定ですよね?」

「そうだ。地図を見ればわかると思うが、等間隔に町が三つと、村が一つある。これらは一日進める距離を計算したうえで作られた場所だ。夜はそこに泊まる」

「なら、野営はしないということですか?」

「泊まる場所が空いていれば、野営をせずに済む」

 街はともかく、四日目に泊まる予定の村はかなり規模が小さいため、僕達は野営になる可能性が十分にあるという。とはいえ、毎日野営ではないだけで相当楽だろう。町や村の中に入れば魔物に襲われることも少ない。情報収集もできるし、良いことばかりだ。

「なら、後は周辺の魔物を警戒するだけですか?」

 開けた道を通るので、そこまで心配は必要ない。次の休憩の時にでも、クローさんかサシャさんに確認しておけばいいだろう。

「そうだな。下手に人員を動かす方が危険だ」

「わかりました」

 聖騎士様もいることだし、滅多なことは起こらないだろう。その予想は正しく、僕達は問題なく予定の道のりを進んでいった。


 異変を感じたのは、四日目の日が傾き始めた時間帯だった。まだ目的の村は見えていないものの、時間帯的に炊事などによる煙が見えてきてもおかしくない距離まで近付いていた。しかし、空には煙の柱は一本も生えておらず、飛び交う鳥の姿も見えない。

 偶然煙が見えないだけで、何かあったと決まったわけではない。だが、何となく胸騒ぎがして、乗っていた馬に合図を送り、足を止める。

「どうした、ルート。目的の村まで、あと少しだぞ」

 突然進むのをやめた僕に、聖騎士様が声を掛けてくる。その言葉にハッとして、僕は再び進みだす。少し疲れて、暗い考えになってしまっていたのかもしれない。首を左右に振り、先程までの考えを振り払おうとする。

「何か気になることがあったのか?」

「いえ……、空が…………」

「空?」

 それだけ言って口ごもっていると、聖騎士様が空を見上げた。

「別に、晴れているが……、いや、曇ってきたか?」

「えっ?」

慌てて、再び空を見上げると、空が徐々に暗くなってきた。分厚い、灰色の雲が何処かから、次々の流れてきて、瞬く間に太陽がすっかり隠れてしまった。

「風も無いというのに……」

「む、村に急いだ方が良いでしょうか」

 何となく、不気味だ。それに、急に雲が出てきたのなら、雨が降り出すかもしれない。村が小さくて中に泊まれないなら野営の準備をしなくてはいけないし、とにかく、早く村に向かった方が良いだろう。

 同じ結論に達したのか、聖騎士様が移動速度を上げる指示を出す。その間にも雲は徐々に厚くなり、周囲はまるで夜のように暗くなってきた。

「……先に、村まで行って様子を見てきます!!」

 これは、ただ事ではない。そんな不安は現実味を帯びてきて、僕は思わずそう言った。こういった時に、先行して安全確認してくるのも護衛の一環である。間違った行動ではないはずだ。じっと聖騎士様の方を見つめると、聖騎士様は眉間にしわを寄せ、深い溜息を吐いてから言った。

「様子を見に行くことには反対しない。が、一人で行くのは危険だ。誰か一人、できれば魔導士と一緒に行け」

「っはい!!」

 村に異変が起こっていた場合、僕だけでは後ろの本隊に知らせることができない。また、戦闘になった時のことも考えると、遠距離攻撃ができる魔導士と行くが正解だろう。僕は急いで馬を反転させ、旅団の中央に向かう。

「誰か!! 魔導士の方!! 先行して村の様子を見に行きます、付いてきてください!!」

 護衛対象である神官が乗っている大きな馬車には、冒険者が数人乗っているはずだ。一人くらいは魔導士もいるだろう。そう思って声を掛けると、馬車の扉が開き、見慣れた黒いローブが頭を出した。

「ルートか」

「あ、クローさん!! 三人が中央の護衛を?」

 ちらりと奥の方にもローブが見える。クローさん達三人なら、事情も説明しやすい。簡単に今の状況と、今後の方針について話すとクローさんは馬車から体を乗り出し、何かを探す。

「状況は理解した。だが、馬が……」

「シャムロックに行かせたらいいんじゃないかな?」

 馬が無いから移動が難しい、クローさんがそう言おうとした時だった。ひょこりと顔を覗かせたサシャさんが、笑顔のまま言った。クローさんが勢いよくサシャさんの方を向く。

「サシャ。それは……」

「一刻も争うんでしょ? なら、ルート君の後ろに乗せてもらうしかないし、それなら、私たちの中で一番軽いシャムロックが適任。連携だって取れるから、問題ないよ」

「…………そうだな」

 馬への負担を考えると、軽い人の方が良い。シャムロック君なら魔法も使えるし、一緒に戦った経験もあるので安心だ。クローさんも納得したようで、奥の方にいたシャムロック君と場所を変わる。

「二人共、Cランク冒険者なんだから、自分の身は自分で守れるよね?」

「はい」

「うん」

 二人で元気よく頷いた。サシャさん達からしたら、まだ頼りないかもしれないが僕達もCランク冒険者。自分の身は自分で守ってみせる。

「なら、行ってらっしゃい。神官様たちの護衛は任せてね」

「シャムロック君、行こう!!」

シャムロック君が、馬車の扉ギリギリのところに立つ。僕もなるべく馬を馬車に寄せ、片手をシャムロック君の方に差し出す。手が掴まれたことを確認してから、少し力を入れて引き寄せる。

 無事にシャムロック君は馬車から僕の後ろに乗り移り、体勢を整える。ぎゅ、と体を掴まれたのを合図に、僕は一気に馬を走らせた。


「段々村が見えてきたけど、なんか変……」

 馬を走らせると、すぐに村の形が見えるようになってきた。が、やはり何かがおかしい。やけに静かなのだ。目的地である村は農村とはいえ、大きな道の近くにあるということで訪れる人が多く、活気のある場所だと聞いていた。

「誰もいないのかな?」

 今は訪れる人による活気どころか、村の住人の気配すらも感じない。ちらほらと畑は見えるのに、誰も人がおらず、農具も地面に放り出されているのだ。

「あれ、置いてあるってわけじゃ、なさそうだよね」

「うん……。木桶も、水が入ってたのがひっくり返ったのかな……」

 畑の端ではなく、植物の間に投げ出されている鎌を指差して言うと、シャムロック君も近くにあったバケツを指して呟いた。

木桶は勢いよく地面にたたきつけられたのか、ちょっと割れている。その周辺の地面には零れた水で変色していた。

「…………あれ?」

 何か、変な気がして、僕は馬の足を止めた。この先に進む前に、この違和感の正体を突き止めなければならない。そんな気がしたのだ。

「ルート、何か、おかしいところあった?」

「なんか、違和感があるというか……」

 シャムロック君は気になっていなくて、僕だけ気になっている。なら原因は魔法ではない。もっと根本的な、そう、畑を見慣れているからこそ、気になる何かがあるのだ。

「畑……、鎌、じゃない。なんというか、もっと、あからさまにおかしいところが……」

「桶の壊れ方?」

「いや、ぶつけて壊れたのはおかしくないけど……」

 農村で使っている桶は、別に職人が作ったわけでもなく、各家庭で適当に作るものだ。長い間使っていたら、少しの衝撃で壊れることだってあるだろう。そうではなく、もっと別のものだ。桶をじっと見ると、まだ中に少し水が残っていた。

「あっ!! そうか!!」

今日は先程、急に曇るまでは良い天気だった。それなのに、水はけが良いはずの畑で、まだ濡れた後が残っている。そして、壊れた箇所からも徐々に水が出ていっているはずなのに、中に水がある。

「さっきまで誰かいたはずなのに、今は気配が無いからおかしいんだ!!」

「どういうこと?」

「この桶がひっくり返ってから、そんなに時間は経ってないはずなんだよ」

「…………でも、それなら、何で人がいなくなったの?」

「そう、だよね」

 普通、桶を落として壊したなら、修理したりするはずだ。別の桶を使うにしても、取り敢えず回収はするだろう。無駄にできる物なんて、何一つないのだから。なので、誰もいないのに放置されているのはおかしい。

「近くに小屋もないし……」

「そう、だね。僕達が遠目から見ても畑しかなかったもんね」

 近くに道具小屋か何かがあれば、そこにいる可能性もある。だが、この辺りは一面畑になっているようで、人が隠れられるような大きさの木も生えていない。

「びっくりして桶を離して、それから、どこに……」

「普通に考えたら、村だけど……」

 その、びっくりするような出来事、の内容が問題である。珍しく獣や魔物が現れて、慌てて村の方に向かったのか。村人だけで対応できずに困っているのかもしれない。それなら、早く援護に向かった方が良いだろう。

「シャムロック君、魔法で合図送れる?」

「うん」

 最後に、少し確認しておこう。そう思い、僕は一旦馬から降りて畑に入る。落ちていた鎌の近くまで来て、ぞわり、と背筋が冷えた。

 僕は馬に飛び乗った。鎌の近くにあった足跡は、村から逆方向に移動した形跡があった。だが、それはすぐに途絶えていたのだ。

「ルート? 顔色、悪いけど……」

「足跡が無い魔物って、思いつく?」

「え……」

 シャムロック君は少し悩んだ後、わからない、と答えた。

「飛べる魔物や、足跡が付きそうにない魔物は、知ってる。けど、この辺りに出る魔物には、いない」

「でも、突然、人間の足跡が消えるようなこと……」

「この付近は、魔物も少なくて、動物も、大きくない筈」

 つまり、シャムロック君が知っている魔物や動物でも、人間を運べるような大きさのものはいない、ということだろう。飛竜なら人間を運ぶことくらいできるだろうが、それなら既に竜騎士団が現れているはずだ。その可能性は無い。

「魔法で人間を浮かせることは?」

「自分一人なら兎も角、他人は難しい。距離が長いなら、更に」

 それに、比較的栄えているとはいえ、この村を狙う理由が分からない。誰かを誘拐するにしても、村の端で畑を耕しているような人間ではなく村長や大きな店の商人を狙うだろう。

「到着してから確かめるしか……、って、えっ!?」

 そろそろ、村の入り口が見えてきた。分からないことを考えるよりも、目の前の状況を見て判断しようと思ったその時だった。何も指示を出していないにもかかわらず、突然、馬が足を止めた。

「あ、あれ?」

「どうしたの?」

「急に言うこと聞かなくなっちゃって……」

 進むように指示を出してみたものの、馬はピクリとも動かない。一体、どうしたのだろうか。落馬して怪我をするわけにもいかないので、まずは馬から降り、落ち着かせようと背を撫でた。と、思ったら、その手は空を切った。

「ま、待って!!」

 僕達二人が降りたことを確認するや否や、馬は元来た道を走って行ってしまったのである。逃げられた。追いかけようか、と門から一歩踏み出そうとした、その時。

 ばさり。頭上から大きな羽根の音が聞こえ、僕達は反射的に、門の陰に隠れた。

「と、鳥……?」

「ルート、静かに」

 状況が分からない以上、鳥が来たからと騒ぐわけにはいかない。僕は自分の手で口を覆い、小さく息を吐く。門の上に泊まった鳥は、僕達に気付いていないのか、ピィピィと甲高く泣いている。

「聞いたことがない鳴き声……」

「鳴き声というか、話し声みたい?」

 今迄に聞いたことが無いような音である。鳥の鳴き声のような、異国の言葉でしゃべっているような、そもそも、生き物が発する音ではないような、そんな、不思議な音だ。

「あ、シャムロック君。見て、影が見える」

「ほんとだ……」

 小さな声でそんなことを離していると、ふと、地面の明るさが違うことに気付いた。分厚い雲が太陽を覆っていても、うっすらと影ができているのである。じっと目を凝らしていると、門の上に乗っている鳥の外形が見えてきた。

「結構、大きいのかな?」

「そう、だね。人と同じくらい」

「というか、人みたいな形、してる?」

「いや、でも、羽が生えてるし、そう見えるだけかな」

 ぼんやりとした影だけを見ると、まるで、人間に羽が生えたように見える。でも、複数の鳥の影が被っていたり、別の建物の影が重なっているだけかもしれない。気のせいだよね、とシャムロック君に微笑みかける。

「…………ちょっと、不味いかもしれない」

 しかし、シャムロック君は真剣な面持ちで影を眺めていた。僕は無言で剣に手を掛ける。

「羽が生えてる、大きい魔物って何が……」

「魔物じゃないかも」

「え」

 魔物じゃないなら、何だというのか。僕が問いかける前に、シャムロック君がゆっくりと、口を開いた。

「魔族、かもしれない」

 次の瞬間、ギュイ、と不気味な鳴き声が聞こえ、目の前に、胴体と顔だけが人間の、鳥が現れた。


次回更新は1月13日17時予定です

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