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ウィン・キャロル  作者: 借屍還魂
15/68

貴重な素材

「アンリさん、依頼、終わりました……」

「お帰りなさい、三人とも。報告は此方でお願いします」

 組合まで戻ると、夕方の受付は依頼達成の報告をする冒険者で賑わっていた。普段、人が多い時間帯に受付に来ることが無いので、少し戸惑っていると、アンリさんに手招きをされる。

「ルートが自分で報告しに来るの、実は初めてだよね」

 はい、と笑顔で報告書と筆記用具を手渡される。普通は、冒険者になって最初に受ける採取依頼の終わりに自分で報告をすることになるらしい。リィさんの依頼を受けた時は依頼主が組合に達成報告を入れてくれたので、報告書は書いたが簡単な内容だけだった気がする。

「いつも何かに巻き込まれて他の人が報告してましたからね」

「今回は自分で報告しに来て、問題なく依頼をこなせたみたいで良かった」

「そうですね。問題、なく……」

 意識を失っている間に報告が終わっていることも多かったが、今回は問題なく依頼を達成できたので良かった。いや、問題はあったかもしれない。そう、予定外の仕掛けや、敵との戦闘が、あった。

「え、何か、問題があった? 依頼主が満足できなかったとか?」

「いえ、調査の成果自体は、十分だったのですが……」

 僕が言い淀んだ瞬間、アンリさんはカウンターから身を乗り出した。依頼達成できていないのに遺跡から帰還したとなれば、契約違反になるからだろう。慌てて否定するが、どう説明すればいいかが分からない。

「ですが?」

「寧ろ、十分すぎる、と言いますか……」

「……実物を見せた方が早いかも。ルート君、お願いできる?」

「わかりました」

 説明に困っていると、サシャさんが助け舟を出してくれた。実物を見せて、そこから質問に答えていった方が良い、ということだろう。僕は、受付カウンターの上に採集ボックスを置いた。

「待って。一体、何を見せるつもり?」

「調査の成果です」

 とはいえ、下手に周りにも見せると、面倒なことになるかもしれない。アンリさんだけに見てもらうために、僕はボックスの上に布を置いてから中に手を入れ、目的の物を取り出す。そのまま、布にくるんでアンリさんに手渡す。

意図は正確に伝わったようで、アンリさんは周囲から見えないように、そっと中の物を覗き、そして、深々と溜息を吐いた。

「………………これって、もしかして」

「はい。オリハルコンです」

「オリハルコン!? パロス遺跡で!? 調査の成果ってこれ!?」

 問いかけに肯定すると、小声で叫ばれた。言葉としておかしい気がするが、声の勢いは凄いのに音量は僕達にしか聞こえない程度に小さいので、この表現が一番正しいと思う。調査の成果については、僕からよりはイチさんから説明してもらった方が良いだろう。ちらり、とイチさんの方を見ると、任せてください、と頷かれた。

「このオリハルコン自体も成果ですが、採取した場所と、今迄記録されていなかった遺跡内部の地図なども成果になりますね」

「待って、情報が多い。遺跡に行った後、何があったのか、最初から最後まで、順番に話してもらっていい?」

 成果はオリハルコンだけではない。そう伝えると、アンリさんは慌ててイチさんの言葉を一旦止めて、カウンターから報告書を取り出した。僕達冒険者が依頼達成時に使うものではないので、多分、王宮に報告する時の用紙なのだろう。

「あ、アンリさん。報告書じゃなくて、王宮の文官も呼んだ方が良いと思いますよ。後から報告すると質問されたとき困りますし」

 基本的に、冒険者が依頼時に何か発見をした場合は、所属する組合に報告し、重大なものであれば組合から王宮に報告する仕組みになっている。だが、今回は確実に王宮に報告する案件なので、呼び出せばいい、ということだろう。

「サシャが付いてきてくれるなら解決するんだけど……」

「私は無理です。依頼の予定、沢山入っていますから」

 今回は僕の依頼に同行してくれたが、基本的にサシャさんは忙しい。報告に時間を取られるのは、組合としてもいいことではないのだろう。アンリさんは暫く考えた後、深い溜息を吐いた。

「……わかったよ。少し待ってもらっていい?」

「わかりました」

 三人揃って頷くと、アンリさんは席を外した。程なくして、アンリさんはモードさんを連れて戻ってきたのだった。


「つまり、遺跡に入った瞬間、大岩の仕掛けに追われ、現在の地図上の最深部まで到達。隠し扉の向こう側にオリハルコン鉱脈があることを確認し、一部を採取。遺跡から出ようとした所で、オリハルコンを守るゴーレムと戦闘を行い、勝利して帰ってきた、と」

「はい」

 担当文官であるモードさんに聞かれたまま、僕達は時系列順に出来事を話した。改めて確認されると、現実味のない話だが、実際そうだったのだから仕方がない。力強く頷くと、モードさんは少し困ったような表情で僕達に問いかけた。

「…………実績がありますので、決して疑っているという訳ではありません。ですが、ゴーレムを倒したという証拠はありますか?」

 そう言われて、僕は固まった。そうだ、モードさんは信じてくれたが、普通、証拠が無ければゴーレムと戦ったなんて信じてもらえないだろう。今迄、王宮の調査隊が何度も派遣されているのに、一切記録に無いのだから。

「えっと……、倒すので精一杯で、特に何も……」

 だが、今回は倒した証拠となる魔石を回収して帰っていない。そもそも、ゴーレムは魔物ではないので、倒したとしても魔石が出てこなかったのだ。どうしよう、と隣に座っている人物に目線を送り、助けを求める。

「さ、サシャさん……」

「砕けていますけど、核として使われていた宝石なら」

「あるんですか!?」

「あるよ」

 ほら、とサシャさんは中央に穴が開き、所々砕けている赤い宝石を取り出した。確かに僕が剣で貫いた痕跡があるが、その赤色に見覚えが無くて、僕は小さく首をひねる。戦っているときは、もっと、何というか、暗い光を発していたような気がするのだが。

「ゴーレムは魔石の代わりに、核だった部分を持って帰るのが基本なの。今回は初めてだったから仕方ないけど、次から気をつけようね」

「はい」

「確かに、魔力の反応がありますね。此方、お預かりしても?」

 モードさんはサシャさんが取り出した宝石を見て頷いた。ある程度魔法の扱いに長けている人が見れば、この宝石に魔力が残っていることは簡単にわかるらしい。

「…………」

凄いな、と思っていると、サシャさんに横腹をつつかれた。

「…………ルート君が返事するんだよ」

「あっ!! だ、大丈夫です!!」

 モードさんが何も言わなかったのは、僕の返事を待っていたからのようだ。証拠を持って帰ったのはサシャさんだが、一応、倒したのは僕なので、王宮に提出するかどうかは僕に決定権があると言う。何に使えるかわからないが、役に立つなら持って行ってもらうのは全く構わないので、大きく頷いた。

「では、私は王宮に戻らせて頂きます。イチ・デミック様は宜しければ同行していただきたいのですが」

「つ、付いていくのは勿論ですが、僕は様付けされるような立場では……」

「今回の遺跡調査による成果はこの国に多大な利益をもたらす可能性があります。丁重な対応をさせていただかなくては、私の立場も危うくなるのです」

「は、はい。わかりました……」

  文官であるモードさんと、一般市民であるイチさん。普通なら、モードさんの方が圧倒的に身分は上だ。イチさんが戸惑う気持ちはわかるが、モードさんも下手に対応できないのだろう。結局、お互いに敬語を使うということで落ち着いたようだ。

 こほん、と小さく咳払いをして、モードさんが僕に向かって言う。

「最後に、組合『D』所属、冒険者ルートの昇格試験の結果については、今回の遺跡調査任務の結果が出次第、通達させていただきます。今回も特殊な事例ということで、結果が出るまでは依頼を受けず、王都内に待機していただくことになりますので、ご注意ください」

「わかりました」

 今回も、と言われてしまったのは不本意だが、どうせ新しい剣が完成するまでは依頼には出られない。改めて、王都散策でもしてみよう、と素直に頷く。

「それでは」

「今日は本当にありがとうございました。また、依頼することがあったらお願いします」

 最後に、丁寧にお辞儀をしてイチさんは出ていった。二人の足音が完全に聞こえなくなったところで、アンリさんがわざとらしく咳払いをした。

「と、いうことで、ルートは暫く依頼を受けられません」

「…………どのくらい掛かりますか?」

「遺跡調査の結果次第、って言われたから、最低でも三日は掛かるんじゃないかな?」

「そんなに掛かるんですか!?」

 予想以上の日数だ。明日の朝にでも報告に行って、夕方には結果が帰ってくるのかと思っていた。驚いていると、アンリさんは、もう少し王宮の仕組みについて勉強した方が良いね、と説明してくれた。

「王宮内で、それも、国王陛下も参加するような会議で決めることだから、三日なら早い方だよ」

「オリハルコンって貴重ですもんね。今は魔物が増えて輸入も難しいですし、王都に近い場所で、しかもかなりの量が発見されたとなると、一気に状況が変わりますから」

 現在、遺跡の調査結果については、冒険者組合から担当文官であるモードさんに伝えられただけの状態だ。モードさんが職場に戻ってから、冒険者関係の文官を集めて報告会を開き、重要であることを確認されたら、職人関係や、貿易関連の文官に話をして協力して貰い、やっと宰相様に話を聞いてもらえるらしい。

 そこから、国王陛下や宰相閣下、将軍閣下なども参加する会議で取り上げられ、審議が行われるのだという。今回はオリハルコンという、大変貴重なものが絡んでいるので、比較的早く会議に掛けられるだろうと言うが、それでも三日は掛かるそうだ。

「す、すごく時間が掛かるんですね……」

「そうだね。普通、冒険者の成果が王宮に報告されたとしても、結果が出るまで三ヵ月とか、半年待つことだって多いんだよ? それだけオリハルコンは凄いの」

「ぼ、僕達が採取してきたオリハルコン、王宮に提出することになったりは……」

 それだけ貴重なら、持って帰ってきた残りも全部提出しろ、と言われそうだ。流石にただで提出ではなく、買い取ってもらえるとは思うが、どちらにせよ理想の剣が遠ざかってしまうだろう。

「それは無いと思うよ。王国は冒険者を大事にしているから、冒険者の権利を奪ったりはしない筈。まあ、今回持って帰ってきた分以外は、国の管理下に置かれると思うけど」

「…………多めに持って帰ってよかった」

 冒険者の権利をきちんと守ることが、国の利益にもつながるのだという。良かった、とほっと胸をなでおろしていると、サシャさんも頷いた。

「本当、ちゃんと持って帰ってきてよかったよね。鉱脈発見で幾らか安くなるとは言っても、庶民に手を出せる値段じゃないからね」

「二人共。一体、どれだけ持って帰ってきたの?」

 アンリさんが強張った声で僕達に問いかけた。

「…………僕の剣と、サシャさんが選んだ分と、イチさんのサンプルと」

 他に余った欠片は、クローさんやシャムロック君、オリヴィアさん達冒険者仲間と、リィさんやシオンさんに渡せば有効活用してもらえるだろう。

「…………王宮に提出してたよね?」

「それなりの大きさの欠片を、きちんと提出しましたよ?」

 イチさんのサンプルよりも大きい欠片なので、王宮でオリハルコンの研究をするには十分な量の筈だ。僕と、サシャさんが持って帰ってきた欠片よりは小さいけれど、という事実は黙っておいた方が良いだろう。

「多くない?」

「生えていた大きい塊を壊したので……、小さい欠片が沢山出たんです」

 アンリさんの分もあるんですよ、と持って帰ってきた欠片を一つ取り出す。そのまま手渡そうとすると、え、と小さな呟きが聞こえた。

「普段お世話になっているので!!」

「ありがとう……」

 使い道に困るなら、綺麗に光るし、宝石みたいに加工したら似合うと思います、と伝える。深い溜息を吐いた後、アンリさんは欠片を受け取ってくれた。

「後は、報告書に書けば大丈夫ですか?」

「うん。明日の朝までに出してくれれば大丈夫」

「あ、なら、今から出掛けてもいいですか? 剣の注文に行きたくて」

「良いよ。遅くなり過ぎないようにね」

 元気よく返事をして、サシャさんと一緒に組合を出る。勿論、目的地はメニカ工房である。


「シオンさん!! オリハルコン、採ってきました!!」

 そう言いながら扉を開けると、店の奥から怒鳴り声が返ってきた。

「馬鹿!! 大声で言うな!! 他の店に聞こえるだろ!!」

「す、すみません……」

「取り敢えず、中に入れ」

 大股で入り口まで来たシオンさんは、周囲を見渡し、人がいないことを確認してから僕達を中に入れた。そのまま、シオンさんの作業場まで案内され、全員着席したところで口を開く。

「えっと、改めて。オリハルコンを持ってきました」

 じ、と見つめられる。本当かどうか、疑われているのだろうか。本当ですよ、ということを伝えるためにも見つめ返していると、シオンさんは溜息を吐いた。

「…………言いはしたが、本当に採って来るとはな」

「え、無理だと思ってたんですか?」

「そもそも、遺跡にオリハルコンがあるっていうのは、この辺の鍛冶屋にだけ広まってる噂だからな」

「そうなんですか!?」

 かなり限定的な噂だ。近くに住んでいて、遺跡について調べているはずのイチさんが知らなかったのは、鍛冶屋の間だけの噂だったからか。

「とはいえ、噂を信じてなかった訳じゃない。証拠は無いし、お前が取ってこれるとは限らないが、本当にあると思ってた」

「信憑性のある噂だったんですか?」

「何でも、昔、遺跡の調査に同行して、一人だけ生き残って帰って来たっていう、鍛冶屋の見習いが噂の元らしい。オリハルコンは本当にある、って主張したが、実物が無いから信じてもらえず、他の仲間を失ったショックでおかしくなったと判断されたそうだ」

「成程……」

 王宮には全く信じられなかった話だが、職人仲間たちは見習いの話を信じたのだろう。そして、鍛冶屋の間だけの噂になった、ということか。

「まあ、採ってこれなくても、遺跡調査の依頼が達成できたなら、今できる中で良い剣を作る予定ではあった」

「本当ですか?」

「当然だ。約束は破らない」

 僕がオリハルコンを買うだけの財力があればオリハルコンで作ったし、駄目でも極力求めている剣に近い物を作ってくれる予定だったらしい。絶対に肯定しないだろうが、多分、依頼受注とオリハルコン採取を条件に出したのは、イチさんの調査のためだろう。

「それで、持って帰ってきたオリハルコンは?」

「これです!!」

 成果が出て良かったな、と考えていると、オリハルコンを出すように言われた。意気揚々と持って帰ってきた塊を机に置く。ちょっと机が軋むような音がしたのは、きっと気のせいだろう。

「…………馬鹿みたいに大きい塊を持って帰ってきたな」

 シオンさんが溜息を吐いた。こんなに沢山は必要なかったらしい。

「剣を作るのに、どのくらい必要なのか分からなくて……」

「半分も使わない。オリハルコンは叩けば薄く伸びるんだ」

 その分、何も加工していない塊は、普通の金属に比べて圧倒的に重たいらしい。叩いて、普通の金属と同じくらいか、少し軽いくらいまで加工しないと武器や防具としては使えないという。

「作ったことあるんですか?」

「剣は無いが、オリハルコンを扱ったことはある。これでも、王都の鍛冶屋だからな。一人前になる前に、一通りの材料の扱い方は身に着ける。まあ、一回、小物を作っただけで、それ以降オリハルコンを見たことも、触ったこともないが」

「訓練のためとはいえ、よくオリハルコン買えましたね……」

「それだけは親父に感謝してる」

 超貴重素材、とはいえ、少し前まではお金を払えば手に入らない訳ではなかったらしい。王都に店を構える鍛冶屋である以上、一人前なのに作れない物があってはいけない、という理念に基づき、絶対に一度は全ての素材で鍛冶仕事をさせるらしい。職人の意地、というものなのだろう。

「で、貸した剣は?」

「あ、あります。ありがとうございました」

 シオンさんが紙を取り出しながら聞いて来たので、僕は慌てて腰に差したままだった剣を渡した。シオンさんは無言で鞘から剣を抜き、明りにかざして刀身を観察する。

「…………思ったよりボロボロになってるのは」

「ちょっと、色々あったので……」

 刃こぼれなどはしていないが、戻ってきてから手入れをする暇が無かったので、細かい傷などが所々目立つ。すみません、と謝ると、別に傾向把握したいだけだから良い、とぶっきらぼうに返された。

「お前、結構無理な戦い方するんだな」

「えっと……」

 今回はゴーレムと戦うためにちょっと頑張ったかもしれないが、無理な戦い方、というほどではない気がする。普段はそんな、無理はしていないはずだ。

「いつも強い敵と戦うことになってるから、結果無理することになると思うよ」

「それは僕のせいでは……」

「なら、耐久性は高い方が良いな」

 僕は、騎士になるために着実に依頼をこなしていきたいだけで、毎回アンリさんが驚くような敵と戦いたいわけではないのだ。お陰で、異例の速さで昇級試験を受けられたので、悪いことばかりという訳ではないが。

「剣の形自体は使いにくいとかは無かったか?」

「いえ、とっても使いやすかったです」

「そうか。小柄だから、普通の長さでいいか迷ったが……、元々、成人用の剣で訓練してたか?」

「は、はい。それしかなかったので」

 村にあった剣は、大人が使うための物だった。子供用の剣なんて無かったし、騎士団に支給される剣は決まっていると聞いていたので、普通の剣で訓練していたのだ。最初の頃は重すぎて片手で持つこともできず、ひたすら筋力をつけるための訓練をしていた。

「なら変えない方が良いな。握りは……、グローブを付けるし、これから大きくなるだろうから、少し余裕を持たせるか。後、特に要望は?」

「最初に言ったこと以外は、特に……」

「リィの所で属性付与ができればいいんだな?」

「はい」

 最終的に目指すのは、物理攻撃が効かない敵も倒せるような剣、である。そのために必要なのは、リィさんの錬金術で魔法属性を付与できることだ。剣のつくりについては僕よりシオンさんのほうが詳しいので、特に要求することは無い。

「わかった。今から作る。そうだな……、早くて、二日後くらいか。暫くは来ても作業をするから気付かない。できたら知らせるから、店には来るな」

「わ、わかりました」

 作業に集中するので邪魔をするな、ということだろう。帰り支度をしていると、オリハルコンから視線を外さないまま、シオンさんが言った。

「残ったオリハルコンを譲ってくれるなら、加工費はいらない。というか、今後のメンテナンスと幾つか武具を作ってもこっちが払わないといけないくらいだな」

 何か欲しいものはあるか聞かれ、足を止める。欲しい物。剣は今から作って貰うし、大きい鎧などを作って貰っても、騎士になったら支給品がある筈なので使えないだろう。小さい防具か、何か、あると役に立ちそうな、オリハルコン製の物。

「えっと、なら、余ったもので、小さめの、ナイフを」

 思いついたのは、剣が弾き飛ばされた時などに、一時的に使うためのナイフだ。緊急事態ように、魔法付与されたものがあれば頼もしいだろう。

「予備の武器か。わかった」

 楽しみにしておいてくれ、とシオンさんは自信満々に笑ったのだった。


次回更新は12月30日17時予定です。

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