巨大ゴーレム
ゴーレムの巨体では、遺跡の中に入ってくることはできないようだ。僕達の方を一度睨み付けて、再び足で道を塞いだが、それ以上の行動は起こしてこない。遺跡を破壊してまで攻撃するつもりはないようだ。
「今すぐ戦闘、という訳ではなさそうですけど……」
「見逃してくれそうにはないね」
遺跡の出入り口を破壊され、生き埋めになる恐れはない。が、このまま入り口に立たれていると、僕達は遺跡の中に閉じ込められることになる。調査は日帰りの予定だったので、当然、食料も最低限しか持ってきていない。また、相手は生物ではないので、諦めるのを待っても意味は無いだろう。
「ルート君、どうしようか?」
サシャさんが、落ち着いた様子で聞いてくる。僕は入り口のゴーレムから目を離さないようにしながら、返事をする。
「どうするって……。昇級試験の評価のために聞いてないですか?」
「勿論、返答によっては評価に影響は出るよ」
依頼人の安全を確保できないような方針を取るなら、その時点で試験は不合格とし、サシャさんが指示を出すのだろう。非常事態とはいえ、これは僕が引き受けた依頼だ。自分の力でこの状況を打開しなければいけない。
「……先に、二人に幾つか質問していいですか?」
「どうぞ」
「いいよ」
僕の力で状況を打開しなければならないが、周りを頼ったらいけないわけではない。二人が知っていることや、できることがあるのなら、力を借りることも大事だろう。
「お二人は、ゴーレムを見たことや、戦ったことはありますか?」
「僕は、知ってはいましたが、実物を見たのは初めてです」
「私は何回か戦ったことがあるよ。こんなに大きいやつは流石に見たことないけど」
落ち着いた様子から察してはいたが、サシャさんはゴーレムと戦ったことがあるらしい。イチさんも知識はあるようなので、先に、弱点や気を付けるべきことを聞いておいた方が良い。
「これ、やっぱり大きい方なんですか?」
「そうだね。普通は、人間と同じくらいの大きさが多いかな?」
「遺跡を守るためにゴーレムが設置されていることは多いですが、多くの場合は、道の両側に控える様に置かれていることが多いはずです」
イメージとしては、お屋敷の廊下の両側に甲冑が置いてある感じらしい。ゴーレムを作成するには大量の素材と魔力が必要となるので、沢山のゴーレムを設置することで実力を示す役割もあったそうだ。
「いつの時代も、権力を見せつけようとするのは変わらないのね……」
「確かに、戦闘目的ではなく、装飾目的で作成されたゴーレムも多いようですが……」
「単純に、戦力としても優秀ですし、人と違って魔力さえあればいつでも動けるのは便利ですよね」
「本当、優秀過ぎるのよね。壊れる寸前まで動きが止まることもないし……」
サシャさんが深々と溜息を吐いた。戦ったことがあるゴーレムは、戦闘目的で作られていたのだろう。魔物と違い、魔力が切れるまで動きが鈍ることもなく向かってくるゴーレムは、他の魔物とは違った強さがありそうだ。
「…………あれ?」
動きが止まらない相手に対して、サシャさん達は、そこまで苦戦するだろうか。剣や斧を扱う戦士系からすれば、息切れも隙も無い相手では苦戦するだろうが、サシャさんのパーティーは全員魔導士だ。近付かれる前で攻撃し、倒すはずなのに、どうして動きが止まらないことに溜息を吐いたのか。
「……あの、サシャさん、もしかして」
「流石ルート君。今ので気付いた?」
「まさか、ゴーレムに、魔法って効果が無いんですか?」
そうでもないと、サシャさん達が苦戦するとは思えないが、その場合、どうやって倒したというのだろうか。
「全くない訳じゃないよ。私たちが戦ったゴーレムは、魔法を跳ね返す効果を持つ材料で作られていただけだから」
「跳ね返す!? そんなものがあるんですか?」
「大変貴重な鉱石ですが、北の方で僅かに採取できると聞いたことはあります」
できれば、その鉱石を使って鎧などを作りたいと思ったのだが、イチさんの表情からして、かなり貴重なものなのだろう。採取しに行くのは難しそうだ。
「というか、どうやって倒したんですか?」
「仕方が無いから、物理攻撃で核を狙ったの」
魔法、正確に言えば魔力を跳ね返すものだったらしく、魔法を使って放った岩などによる物理攻撃は効果があったという。また、核の部分が分かりやすく表面に露出していたこともあり、無事に倒すことができたらしい。
「え、じゃあ、今、目の前を塞いでいるゴーレムも、核を狙えばすぐに倒せますかね?」
「核が狙える位置にあれば、ね」
僕は、入り口にそっと視線を向けた。そこにあるのは、一面の黒色。ゴーレムの足だけである。核らしきものも、それを収納していそうな箇所も、見つけることはできない。
「見たところ、魔法を跳ね返されることは無いだろうけど、核を狙おうにも、遺跡から出らないなら勝負にならないでしょうね」
「足の一部分しか見えてないですもんね……」
「足に核が無い、とは言わないけれど、普通、弱点を抱えている場所で道を塞ぐとは思えないし……」
「あれだけ大きいなら、普通、届きそうにない顔とかに核を設置しますよね」
折角の巨体を生かさない手は無い。足だけで出入口を塞げるほど大きいのだから、胸や顔の部分は、そう簡単には剣が届かないだろう。一度核を狙って攻撃したら次の攻撃を警戒される可能性がある。そうなると、ただでさえ届きにくい攻撃が当たる可能性が下がる。できれば、核の位置を見極め、一撃で核を破壊したいところだ。
「核の場所として、予想できるのは……」
「あの、赤い目ですよね。近くに何か書いてありましたし、重要そうなのは間違いなさそうですけど……」
核ではなかったとしても、何かしらの情報が得られる可能性が高い。もう一度、顔の部分を見ることができればいいのだが。
「…………最初の一瞬、睨んだだけで覗き込んでくる様子はないですね」
「わざわざ弱点を近付けてくるつもりはないでしょうね」
「となると、やっぱり、まずは遺跡を脱出するしかないですね」
ゴーレムの全体像を見てから戦わない判断をするかもしれないが、まずは遺跡から外に出ないことには始まらない。どうやって巨大な足を動かすか、僕は少し考えてから、再び剣を抜き、真っ黒な壁に向けた。
「ルート君、何を……」
「さっき、傷は付いたから……」
抜いた刀身を、今度は深めに、そっと壁に当てる。そして、素早く横一文字に切っ先を滑らせれば、地面が大きく揺れた。
「効果がある!?」
「ゴーレムに痛覚は無いはずですが、確かに反応しているように思えますね」
やはり、このゴーレムの表面は、普通の岩や金属とは違う気がする。斬った手ごたえもほとんどないし、音もしない。何か、特殊な素材であることは間違いないだろうが、一体、何故剣を防げないような素材でできているのか想像がつかない。
「反応はあるけど……、出口を開けてくれる気はなさそうですね」
「なら、強引に開けるまでです!!」
僕は剣を構え直し、今度は勢いよく、壁に向かって真っすぐに突き出した。すると、剣は大した抵抗も受けずに目の前の黒い足に埋まっていく。
「え」
「埋まって……?」
「衝撃を吸収しているのでしょうか?」
僕は慌てて手を止める。が、柄を掴んだ手に、今度は強い手ごたえが返ってきた。抜けない。力を入れているのに全く動く気配が無い。何度引いても駄目なら、どうするべきか。
「押してみる!!」
勢いよく、柄がゴーレムの足に密着する勢いで剣を突き立てる。すると、ガツン、と何か固いものに触れたかと思うと、地面が急激に揺れ始めた。同時に、目の前の黒い足が動き、僅かに光が差し込んでくる。
「体勢を崩した……?」
そう判断すると同時に、僕は後ろの二人の方を向き、叫ぶ。
「今のうちに出てください!! 早く!!」
「イチさん、私の後ろに」
「わかりました」
サシャさんは素早く駆け出し、その後ろをイチさんが付いていく。僕も剣の柄を持ったまま、外の方へと向かって引っ張る。
「あ、抜けた……!!」
「ルート君、早く!!」
「は、はいっ!!」
どうにか刺さっていた剣を引き抜き、遺跡の外に飛び出す。直後、入り口にゴーレムの足がゆっくりとぶつかり、ごごご、と凄まじい音を立てた。動きが遅くて分かりにくいが、もしかして蹴りを放ったのだろうか。速さは無いが、その分威力がある。当たれば無事では済まなかっただろう。
「どうにか外に出られたけど……」
「何というか、怒っているような気がしますね」
走って距離を取り、上を見上げると、かなり上の方にある赤い瞳が此方を睨み付けているのがわかった。遺跡の大きさと比較して考えるに、大体、人間と五倍にしたくらいの大きさだろうか。
「……急に活動的になってませんか?」
動かないなら今のうちに逃げてしまおう。そう思ったのだが、僕達が遺跡から遠ざかろうとすると、ゴーレムはその腕を動かし、行く手を阻もうとしてくる。さっきまでは入り口を塞ぐだけで、動く気配が無かったのに。
「基本的に、ゴーレムは術者に指示された行動しかません。なので、どこかから術者が見ていて指示を出しているのか、それとも、自動で動き出す条件を満たしたのか、そのどちらかだと思いますが」
「近くに魔導士の気配はないわ」
イチさんが近くを見渡すが、サシャさんが即座に否定した。その割には、妨害行動が的確な気がする。僕達が向かおうとする先に手を伸ばし、それを見て僕達が向きを変えればもう片方の手が迫ってくる。動きがゆっくりな為、相手を見てから動けば手を躱すことはできるが、躱す方向は誘導されている、という感じか。
「ということは、何かの条件に引っ掛かっているから動いてるんですよね?」
「確かに、遺跡に入る時にはゴーレムはいませんでしたし、何かきっかけがあったのかもしれないですね」
「なら、その条件さえ何とかすれば、ゴーレムは停止するんですね?」
「問題は、その条件だと思うけど……」
大岩に追われ、走っている最中に何か別の仕掛けを作動させたのかもしれないし、もっと別の原因があるのかもしれない。遺跡内での行動を振り返ろうとした時、ふっと視界が暗くなった。見上げると、大きな握り拳が僕達の頭上に振りかざされていた。
「わわわ、取り敢えず、避けましょう!!」
横並びで走っていたので、それぞれ、互いの邪魔にならない方向に避ける。僕は右に、イチさんはそのまま直進、サシャさんは左に全速力で飛び退いた。何度か地面を転がりながら距離を取り、素早く体を起こしてイチさんのフォローに入ろうとした。
「あれ…………」
入ろうとしたのだが、ゴーレムの次の一撃が、僕に迫ってきていたので慌てて更に横に転がった。上を見上げると赤い瞳は真っすぐに僕だけの方を見ている。
「僕だけ狙われてませんか!?」
「そうみたいね。私とイチさんの方が近い場所にいるのに、全く追いかけられる気配が……」
正直、サシャさんとイチさんの方がゴーレムの足の近くにいるのだ。だというのに、ゴーレムは二人を狙う気が全く無いようで僕に向かって何度も攻撃を仕掛けてくる。踏みつぶされないように注意だけしておけば、イチさんに危険が無いのは良いことだが、これでは反撃を狙うのも難しい。
「ルート君が追いかけられるってことは、何か条件を満たしているんだと思うけど……」
「二人がやってなくて、僕がやったことですか……!?」
直前で言えば、ゴーレムの足に剣を突き立てたことだろうか。しかし、それより前にゴーレムは出入り口を塞いでいたので、直接的な原因ではない気がする。それ以外で、僕だけが取った行動といえば。
「「「あ!!」」」
「オリハルコン!!」
そう、僕だけ、オリハルコンを採取して、持ち運んでいるのだ。採集ボックスの中に入れているので、見た目では分からないというのに、ゴーレムには感知できているのか。
「貴重な鉱石であるオリハルコンが持ち出されそうになった場合に、取り返すための防衛機構と言ったところでしょうか」
「ルート君、諦めたら無事に帰れるとは思うけど、どうする?」
サシャさんが微笑みながら問いかけてくる。僕は、迫ってくるゴーレムから距離を取りながら、イチさんに向かって声を張り上げた。
「イチさん!! 調査に、オリハルコンって、必須ですか!?」
「あると嬉しいけど、無理はしないで!!」
予想通りの答えだ。僕はにっこりと笑って、腰にある採集ボックスではなく、走るために鞘に納めていた剣の方に手を伸ばした。
「なら、ちょっと頑張ってみます!!」
安全優先なのはわかっているが、すぐに諦めるのは嫌だ。サシャさんだって、僕に聞いた時点でオリハルコンを諦める気は全くなかったのだろう。僕の方に走り寄ってきた。イチさんは少し離れた場所に避難し、此方をじっと見ている。
「サシャさん!! 手伝ってもらえますか?」
「良いけど、私はシャムロックみたいに付与魔法できないよ?」
「大丈夫です!!」
ゴーレムはそこまで硬くない。剣も効果があるようなので、付与が無くても何とかなるだろう。どちらかというと、体力がなくなる前に相手の弱点を見つけて、攻撃を正確に当てることの方が重要だ。
「弱体化魔法お願いします」
「了解」
「イチさんも、危ない時教えてもらっていいですか?」
「わかりました」
サシャさんから紫色の光が放たれ、ゴーレムの周りに向かっていく。がくん、と動きが遅くなったゴーレムの右足に、僕は助走をつけて斬りかかる。ゴーレムに近付きすぎると、脚以外が見えなくなるが、その分はイチさんが確認してくれているので安心だ。
「あっ」
先程、剣で切りつけた場所を狙ったのだが、うまくいかなかった。それどころか、剣先がゴーレムの足に再び埋まってしまった。
「ルート君、上から攻撃が来る!! 右に避けて!!」
「うわっ!!」
何とか剣を引き抜きながら、伸ばされた腕を避ける。すぐに体制を立て直して、今度は腕を斬り付けると、またまた剣先が引っ掛かる感触がした。
「もしかして……」
剣を抜いて、避けて、また、斬り付ける。何度かその動作を繰り返すうちに気付いたこと。ゴーレムは、まずは先に武器を潰そうとしている。体から抜けないようにして、叩き折ろうとしているのだ。
「物理攻撃を無効化するだけなら、他に方法もある気がするのに……」
それこそ、表面を固くして、刃物が一切通らないようにすることだってできるはずだ。とはいえ、物理攻撃に強い素材は、魔法への耐性が低いことが多いのだが。
「サシャさん!! どんな魔法でもいいので、ゴーレムに向かって撃ってもらっていいですか?」
「良いけど、クローみたいな威力を期待しないでよ?」
次の瞬間、風の刃がゴーレムに向けて放たれる。しかし、その風はゴーレムの表面を少し掠めただけで、すぐに消えてしまった。サシャさんが無言で僕の方を見る。
「…………やっぱり、攻撃魔法への耐性が高いからこそ、物理攻撃手段を奪おうとしているんでしょうか?」
「そうだと思う。弱体化魔法は効果があるみたいだし……」
言いながら、サシャさんはゴーレムの顔に向かって風の刃を放つ。しかし、小さく顔を逸らされ、核であろう目の部分に当たることは無かった。
「……避けたってことは、あの部分には効果があると思うけど」
「的が小さい上に、距離があるので防がれやすいってことみたいですね」
どちらの攻撃も完全に防げるわけではないが、核を破壊されない程度の高い防御性能を持っている。大変厄介である。間合いの事を考えると、僕が動きを止め、サシャさんの魔法で核を破壊するのが正解だろうか。
「サシャさん、僕が動きを止めるので、核を……」
そう言った瞬間、目の前に、今までとは段違いのスピードで拳が振り下ろされた。僕は咄嗟にサシャさんを突き飛ばし、自分は反対方向に転がる。
「ルート君!!」
「だい、じょうぶです!!」
「左に避けて!! サシャさんはこっちに!!」
風魔法を撃った時に、弱体化魔法が切れたのだろうか。それならサシャさんが何か言うはずだ。何度も振り下ろされる拳を避けながら、必死に打開策を考える。
「重ね掛けしてるのに……」
ぽつり、とサシャさんの呟きが聞こえる。やはり、魔法の効果は切れていない。それなののに動きが速くなったのは、先程、ゴーレムの核付近に攻撃を仕掛けたからだろうか。
「はやい……」
が、拳を連続して振り下ろしているので、ゴーレムの姿勢が低くなっている。今なら、どうにか剣が届くかもしれない。短く息を吐きだし、剣をしっかりと握る。
「今っ!!」
イチさんの指示で避けながら、ゴーレムが地面に拳を叩きつけた隙を狙い、飛び掛かる。この距離で、この速さなら、防がれることは無いはずだ。真っすぐな剣先が、赤い瞳に向かって真っすぐ突き出される、筈だった。
「嘘っ!!」
「ルート君、剣を離して逃げてくれ!! 無理だ!!」
先程地面に下ろされた拳とは、別の腕が、僕と目の間に割って入ってきたのである。全力で突き出していた剣は腕に深々と刺さり、簡単には抜けそうにない。しまった、と思うより先に、体が上に引っ張り上げられた。
「うわぁっ!!」
ゴーレムが腕を振り上げたのだ。当然、剣を掴んだままだった僕の体は宙に浮く。あまりの衝撃に剣を離しそうになるが、僕は、逆に剣を掴む手に精一杯の力を込めた。これは、圧倒的危機的状況ではあるが、逆転のチャンスでもあるからだ。
「うぐっ……」
僕が剣を手放していないことに気付いたのだろう。ゴーレムが僕を振り払うかのように大きく手を振った。その瞬間、僅かに、剣が動いた。
「サシャさん!! 思いっきり、弱体化魔法お願いします!!」
「えっ……。わ、わかった!! けど、長時間続かないからね!!」
「僕も足止めだけなら……」
僕が声を張り上げると、サシャさんは驚きつつも、先程より一層明るい紫色の光を放つ。イチさんも何か魔法を使ってくれたらしい。ゴーレムが、僕がしがみついている腕を真っすぐ前に突き出した姿勢で固まった。僕はゴーレムの腕に何とかよじ登り、剣を引き抜いて腕の上を走る。
「くらえっ!!」
今度は、反対側の腕が動く様子もない。僕の剣先は、真っすぐにゴーレムの顔を貫いた。パキ、と小さな音がして、赤い瞳が砕けていく。剣を鞘に納め、ふう、と息を吐いた時だった。
「ルート君!! 急いで!!」
「ゴーレムが崩れそう!!」
二人が僕に向かって叫んだ。下を見るように促され、目線を落とす。
「えっ」
がくん、と足元が揺らいだかと思うと、先程まで足場にしていた腕に沢山のひびが入っていた。慌てて降りようとすると、ふっと視界が暗くなる。
「うわあああああああ!!」
頭の部分が崩れて降ってきたのだ。避けようとしても、そもそも崩れかけの足場では、中々前に進むことはできない。全速力で逃げた僕だったが、最後に、ごつん、と頭に大きな破片が当たった。
「いっ…………」
ぐらり、と体が傾き、視界が真っ黒になりかけた。が、歯を食いしばって一歩踏み出し、剣を地面に突き立てて支えにする。致命傷ではないが、かなり痛かった。
「いった、かった……」
護衛任務の途中に意識を失う訳にはいかない。気合だけで何とか持ちこたえ、サシャさんとイチさんの方を向く。
「……倒せました。けど、歩くの、辛いので、肩かしてもらってもいいですか?」
ちゃんと、魔物が出てくるまでには、動けるようになるので。へらりと笑って言うと、二人は顔を見合わせてから、僕に近付いてきた。
「歩くより先に応急手当じゃない? ルート君が頑張ったから、帰る時間までは余裕あるし」
「僕、治療道具持って来ているので任せてください。肩も幾らでも貸しますよ」
「ありがとうございます……」
休憩してから帰ろうか、とサシャさんが言いながら、木陰へと移動する。休憩が長くなりすぎて、城門の閉門時間ギリギリに帰ることになるとは、この時の僕達は知らなかったのだった。
次回更新は12月23日17時予定です。




