遺跡の番人
部屋を照らす七色の光を見て、直感的に思った。多分、この光を放っている鉱石が、オリハルコンなのだ、と。説明が無かったのは、言葉の通り見ればわかるからなんだろうな、と思いながら、確認のためイチさんを振り返る。
「あれ……?」
が、後ろを振り返っても、あるのは壁だ。今迄通ってきたはずの道も、一緒に来たはずの二人の姿もない。もしかして、分断されてしまったのだろうか。慌てて壁を叩くと、ぐるん、と目の前の壁が回転した。
「あ、ルート君」
一瞬だけ向こう側にサシャさんが見えた。もう一度、今度はそっと壁を押すと、ゆっくりと扉が開いていく。半分ほど開いたところで、サシャさんとイチさんが順番に部屋に入ってくる。部屋に入った瞬間、七色の光が眩しいのか、二人は揃って目を細めた。
「回転式の隠し扉があったなんて」
「取り敢えず、印をつけておきますか? 帰り道が分からなくなったらいけないので」
「そうだね」
扉と壁の境目は、パッと見ただけでは分からない。今は何となく位置がわかるが、時間が経ったり、危機的状況に陥ったりしたら場所が分からなくなってしまうだろう。今のうちに対策をしておこう、と僕は借りている剣を抜き、扉の部分に大きく傷をつけた。
「これで大丈夫ですね」
「それにしても、印がないと壁と見分けがつかないけど……」
サシャさんは壁と扉を見比べて感心しているようだった。一方で、イチさんは背負っていた鞄から地図らしきものを取り出すと、周囲と見比べ始めた。
「この形の部屋は、文献にも載っていません。隠してあったということは、何か重要なものがあるのだと思いますが……」
「あ、多分、これの事だと思うんですけど」
部屋中を見比べていても、光の発生源には気付いていないようだ。僕が煌々と輝きを放つ鉱石を指差すと、イチさんは硬直し、少し遅れて、持っていた地図が地面に落ちた。
「こ、これは……」
「何となく、オリハルコンかなって思ったんですけど……」
合ってますか、と首を傾げると、イチさんは勢いよく僕の肩を掴んだ。そして、衝動のまま揺さぶりながら、上ずった声で叫ぶように言う。
「こ、これ、どうみてもオリハルコンだよ!!」
「あ、やっぱりオリハルコンなんですね」
「透き通りながらも輝ける金属、それがオリハルコンです」
解説を聞けば聞く程、オリハルコンで間違いなさそうだ。近くで見てみると放たれている光は七色だが、鉱石自体は透明であることがわかる。鉱石の根元は遺跡の床、石畳の下に隠れていて見ることができない。地面から石を突き破って出てきているとすれば、かなりの硬度である。
「自然から採れるものだとは言われているけど、実物を見たのは初めてだよ」
「え、でも、シオンさんは此処にオリハルコンがあるって言ってましたけど……」
僕とイチさんは、同時に首を傾げた。遺跡に詳しいはずのイチさんが知らなくて、鍛冶屋であるシオンさんが何故、オリハルコンがあることを知っていたのだろう。
「近くで採れたりしないんですか?」
「いや、この付近でオリハルコンが採れたって話は聞いたことがないよ。もし、遺跡からオリハルコンが採取できることが知られていれば、王都にはオリハルコン製の武器が出回っているはずだ」
「確かに」
近くに、別のオリハルコン鉱脈があるとすれば、この遺跡でも採取できると考えられる。しかし、付近に鉱脈があるなら王都はオリハルコンが出回っているだろうし、実物を見たことがない、なんてことはないだろう。
「なら、どうして遺跡の最深部にオリハルコンがあるって知ってたんでしょう?」
「さあ……」
鍛冶屋独自のネットワークで聞いたのだろうか。職人たちの間で伝わっている話などで知っていたのかもしれない。信憑性が無いからイチさんには伝えていなかっただけなのかもしれない。
「二人とも、考えてるところ悪いけど、その話は後にした方が良いんじゃないかな?」
サシャさんの一言で、僕の思考は中断された。そうだ。今するべきことは、遺跡の調査とイチさんの護衛だ。僕とイチさんは顔を見合わせ、頷きあう。
「そうですね。今考えても仕方ありませんし」
「後でシオンさんにお話聞きましょう」
「うん。で、問題は、私たちが今いる場所が遺跡のどの辺りなのか分からないこと。現在地が分からないと、王都に戻るまでの時間も分からないから、行動しにくいよね」
頭を切り替えたところで、サシャさんが現状を整理してくれる。予定では、地図を頼りに入り口に近い場所から調査しているはずだったのだが、落ち着いて調査するどころか必死で走っていたので現在地が何処かも分かっていない。
「ずっと下ってたので、此処は確実に地下ですよね。外を見れないから、体内時計を頼りにするしかないか……」
平原や森で活動する場合は、太陽の高さを見ればある程度の時間や方角を把握することができる。しかし、洞窟や、こういった日の差し込まない場所で活動する場合は、経験や道具を使って時間を管理する必要がある。
「長さを調整した松明は途中で落としましたし、砂時計は無いですし……」
「少人数だと巨大な砂時計を持ってくるだけで大変だからね」
一般的に、洞窟などに向かう場合は、長さを調節した松明を持って行くことが多い。決まった時間で燃え尽きるようにしておけば、時間を忘れることが無い。今回も持ってきていたのだが、大岩から逃げる途中、落とし、サシャさんの魔法で行先を照らしていたのだ。
「安全に戻りつつ、本来の目的である調査もできるようにしようと思うと……」
「入り口に向かって進むのが正解ですね」
正確な時間が分からない以上、まず行うべきは、安全な帰り道の確保である。恐らく、まだ時間に余裕はあるが、戻る際に別の仕掛けが発動する可能性は高い。比較的安全と思われるこの部屋で休憩をして、体力に余裕があるうちに戻るべきだ。
「よくわかってるね、ルート君。イチさんも、それで大丈夫ですか?」
「大丈夫です。僕は守ってもらう立場ですので、お二人の指示に従います」
調査はまた来たらいいだけですから、とイチさんは笑った。大岩の他に仕掛けがなく、順調に入り口まで戻ることができれば、ある程度の時間は確保できるだろう。イチさんのためにも、何も起こらないといいのだが。
「じゃあ、少し休憩したら出発しようか」
「えっと、戻る前に、オリハルコンを採取してから行きたいんですけど、大丈夫ですか?」
採取して来い、と言われているので、できれば持って帰りたい。最低限の量を採取するだけなので、物凄く時間が掛かるわけではない。二人が休憩をしている間に手早く終わらせるつもりで尋ねると、二人は真剣な表情で頷いた。
「オリハルコンは報告しないといけないから、採取しておいた方が、話が速いかな。提出分も採ってもらっていい?」
「あ、僕もオリハルコンのサンプルが欲しいな」
「わかりました」
採取が終わったら休憩してね、とサシャさんが付け加えた。僕は小さく頷き、持ってきておいた採取道具を取り出す。まずは、自分の剣を作るための、大きめの鉱石から採取すれば、途中で小さい欠片も幾つか出てくるだろう。
「大体できました。どれにしますか?」
自分用の鉱石を少し離れた場所に置き、手頃な欠片を床に並べて二人に見せる。小指くらいの大きさの欠片から、拳くらいの大きさのものまであるが、どの程度必要なのだろうか。
「小さい欠片でお願いします。荷物が増えると大変なので……」
サシャさんに比べて悩んでいるな、と思っていたら、荷物のことを心配していたらしい。イチさんは遺跡調査のために沢山の荷物を持ってきているし、僕とサシャさんは戦闘を行うため、必要最低限の物しか持っていない。
「僕の採集ボックスに入れておけば、場所も重さも気にせず持ち運べますよ?」
「え」
普通なら、最低限の量だけ持って帰って、極力荷物を軽くするだろう。しかし、僕には便利なアイテムがある。素材の状態を変えることなく、かさばらず、且つ重さもなく運ぶための箱が。
「シオンさんがどのくらい必要としているかわかりませんし、環境的な問題が無いなら、それなりの量を持って帰ろうと思ってるんです。イチさんの分も一緒に運びますよ」
「そう、してくれると有難いけれど……」
「はい!! 任せてください!!」
「ありがとう」
僕というより、箱が凄いだけだが、役に立てるなら何よりだ。
「休憩の間にこの場所が遺跡のどの辺りなのか考えておくね」
オリハルコンをボックスに詰めていくだけなので、僕は座って作業をすることにした。大して疲れてはいないが、休める時に休憩しておくのも必要なことだ。一方で、サシャさんとイチさんは地図を持って部屋の中を歩き始めた。
「ここ、奥に向かうにつれてオリハルコンが増えてるみたい。地下……、最深部に何かあるのかしら?」
「この遺跡は深部の調査記録が一切無いんです」
僕達が入ってきた、回転式の入り口から更に奥へ進むとオリハルコンも増えるらしい。オリハルコンが自然にできることは目の前の光景を見ればわかるが、奥に行くほど増える原因があるのか、僕も気になる。しかし、イチさんが持っている資料には、オリハルコンの事どころか、遺跡深部の地図すら書かれていないという。
「今迄、あまり調査がされなかったということですか?」
「記録上、調査に向かった人数自体は多いのですが……」
「誰も戻ってきていない、ということですか?」
「はい」
調査をしていないのではなく、結果を持ち帰れていないということか。だが、この遺跡は、危険な仕掛けがあるものの、Cランク冒険者が立ち入れる程度の場所だったはずだ。過去、調査に向かった人物がどのような人だったのかは分からないが、予想以上に調査の成果が上がっていないことが気になった。
「恐らく、此処も記録のない区域だと思いますが……」
「走った時間と疲労感で考えると、多分、この辺りだから……」
「丁度、記録が無い付近ですね」
それに、魔物も全く見かけていない。大岩が転がっていたので、魔物の方が遠ざかっていたのか、僕達が気付かなかっただけなのか、どちらか判断できないが、それにしても魔物の痕跡が無いことは気に掛かる。
「この感じだと、入り口まで、そんなに時間は掛からないかな……」
「でも、それならどうして地図が途中で終わって……」
「最初の一本道は行き止まりになってたから、この部屋に気付かない限り、奥に進めないのかもしれないですね」
体は十分に休まったし、何より、二人の会話が気になって仕方がないので、僕は休憩を終了し、二人の後ろから地図を覗き込み、目を丸くした。イチさんが持っている地図には、一本の大きな通路を中心とした、沢山の部屋が書き記されていたからだ。
「途中、別の部屋なんてありました?」
どう考えても、途中に別の道や部屋は無かったと思う。横道を見かけたのなら、岩を回避するために飛び込んでいたはずだ。
「凄く小さい出入口というか、通れるかギリギリの穴はあったよ」
「走るのに必死で気付いてなかったです……」
「岩から逃げながら入れるような大きさじゃなかったからね」
僕もイチさんも気付いていなかったが、サシャさんは気付いていたらしい。咄嗟に入れるような大きさではなかったので、何も言わなかったのだろう。無理に時間を掛けて、危険な目にあったら元も子もない。
「調査隊の人は、最初の岩の仕掛けに対処してから少しずつ進めたのかな」
それにしても、こんなにも沢山部屋を調べているとは、ちょっと予想外だ。この部屋の手前の一本道までが書かれているだけだと思っていた。僕達と同じように、一度横道が出るまで走って下り、そこから入り口に戻っていったのか、それとも、大岩を破壊したのか。
「偶然、大岩の仕掛けが作動する場所を踏まなかった可能性もあります」
調査隊の規模によっては、大岩くらいなら簡単に破壊できる人がいたかもしれない。そう考えていると、イチさんが真剣な表情で大岩の仕掛けが作動しなかった可能性を挙げた。
「遺跡の記録に、大岩については無かったからですか?」
「はい。仕掛けがある、とだけで、詳しいことは何も」
「なら、ルート君が偶然踏んだだけかも」
「……まあ、僕、歩幅がちょっと狭いので」
調査隊が大人だけで構成されていたなら、僕とは歩幅が違う可能性は高い。だが、僕が偶然仕掛けを踏む確率よりも、調査隊が事前に対策していたという方が納得できる。ただ、その場合、どうして遺跡の調査記録に仕掛けについて記載がないのか、という疑問が残る。
「…………どちらにせよ、矛盾がありませんか? 僕と大人では歩幅が違うとはいえ、調査を行ったなら、行きにも帰りにも近くを通っているはずです。その間、全く誰も仕掛けを作動させたことが無い、とは考えにくいですし、調査隊が奥の記録を残せているのに、仕掛けについて何も書いていないのも気になります」
「だよね。正式に調査したいなら、普通、記録は残すだろうし。仕掛けの場所に印をつけておくくらい、しそうだけど……」
「あ、確かに。戻る時は気を付けないと、また踏む可能性が……」
目の前から大岩が落ちてきたら、今度こそ無事に逃げ切れる自信が無い。戻る時は、入り口からの距離をしっかりと見て、ついでに、目印か何か付いていないか確認しておこう。
「……新しく仕掛けが追加された、と考えると、どちらも納得できませんか?」
「新しく、ですか?」
大岩のことは不思議だが、僕達が報告しておけば問題ないだろう。そう思っていたのだが、イチさんは何かが引っ掛かったようだ。
「はい。以前、遺跡を調査したときには大岩の仕掛けが無かったので書かれていない、と考えることもできるので」
「でも、それなら、新しく設置した誰がいるということになりますよね?」
イチさんが持っている調査記録は、王国が正式に調査隊を派遣して、何年もかけて作っているものだ。得られた情報を記載していない、などありえないと言う。なら、どうして記載がないのか。それは、過去の調査の際は、本当に仕掛けが無かったからではないか、と。
「あり得ない話ではないでしょう。ならず者が拠点にしている可能性もありますし、オリハルコンを独占したい人物が仕掛けた可能性もあります」
その可能性は大いにある。魔物が増え、人々は防壁に囲まれた大きな町に集まって暮らすようになったとはいえ、そこにいられない者は一定数存在する。街で暮らせないような人たちにとっては、入り組んでおり、雨風を凌げる洞窟や遺跡は格好の根城になる。
「でも、それにしては、人間が出入りしている痕跡が少ないような気が……」
「そうだね。人間や小型魔物の足跡は無い気がする」
だが、此処はあまりにも人の気配が無い。というか、出現すると聞いていた小型の魔物も一切見かけていない。入口付近の小さな部屋にいるのかもしれないが、同じ遺跡内だというのに、生物が出入りした痕跡が全くないのは何故だろうか。
「取り敢えず、オリハルコンと一緒に、遺跡に関する不審点も冒険者組合か騎士団に報告するとして、今日は奥には行かずに戻りましょう」
「調査場所も絞った方が良いかもしれません。入口が狭い場所だと、入った瞬間を狙われると対応できないので」
「そうですね、わかりました」
僕が周囲感知系の魔法を使えたら良かったのだが、残念ながら不可能だ。安全のためにも、今回は調査を控えめにしてもらうしかない。ランク昇格は大事だが、焦り過ぎはよくない。無理はしない、と約束したばかりなのだ。
「じゃあ、戻りましょうか」
安全策を取って、早く入り口に戻ろう。僕達は回転扉に手を付け、ゆっくりと入口へと戻り始めた。
遺跡の入り口付近まで戻ったところで、僕は、後悔していた。僕達が考えるべきは、どうして大岩の仕掛けが記されていないのか、ではなく、あの部屋までは詳細な地図があるというのに、どうして突然途切れているのか、だったのだ。
「…………サシャさん、もしかして」
「多分、何かあると思う」
特に問題もなく、地図にある部屋の出入り口だけ確認しながら、僕達は進んでいた。地図通り、別の部屋に行くための穴や扉があることを確認し、後は岩にだけ気を付けて外に出ようとした時だった。日が差し込んできているはずの入り口が、やけに暗いことに気付いた。
「原因は分からないけど、この辺りまで戻ってきて、全く光が差し込んできてないのは、何かに塞がれているとしか考えられない」
「でも、隙間もなく光を遮るって、それこそ、入り口全体を覆わないと無理じゃ……」
それに、一つ、疑問がある。犯人が遺跡内を拠点としているなら、わざわざ入り口をふさぐ理由が分からない。追い出したいのなら、塞ぐのではなく外に出るよう仕向けた方が良いし、僕達を捕まえたいのなら、拠点としている部屋の近くで捕まえているはずだ。
「どちらにせよ、気を付けながら進まないと」
「そう、ですね」
今迄は横並びに歩いていたが、僕を先頭に、中央にイチさん、最後尾にサシャさんという順番に変わる。何かあった時、イチさんを最優先で守るためだ。一歩、また一歩と進んでいくと、目の前に、真っ暗に切り取られた四角形が目に入ってきた。
「魔法、ですか?」
「そんな気配はないけど……」
煉瓦や、木の板などが置かれているわけではない。サシャさんの魔法で、此方から照らしているので、塞いでいる物体の色はきちんと照らし出されるはずなのだ。しかし、何度見ても入り口を塞いでいるのは黒一色の何かだ。
「取り敢えず、押してみて……」
素手で触ると危険な物質かもしれないので、鞘の先で軽く押してみる。置かれている物体は意外と硬いようで、手にしっかりとした感触が返ってくる。全く動く気配はないので、今度は少しだけ力を入れて小突いても、動かない。
「全く動く気配がないですね……」
「そうだね……」
しかも、黒い表面にも変化はない。正直、どのくらいの重さなのかも想像がつかない。というか、鞘で小突いたのに全く音がしなかったのも変だ。普通、物がぶつかったら、何かしら音は立つものだ。柔らかいものだったら別かもしれないが、これは、確実に硬いものなのだから。
「うーん、何だろう、これ」
動く気配は無いが、何とかしないと遺跡から出られない。押して駄目なら、削ってみるしかないだろうか、と剣先を表面に軽く当て、そのまま横に真っすぐ引く。
「あ、傷がついて……」
剣が表面を滑っても、全く音を立てなかったが、どうやら無傷ではなかったらしい。横一文字に少し薄い傷がついていた。剣先も刃こぼれしていないので、地道に斬りつけていけば向こう側が見えてくるかもしれない。そう思って剣を握り直した時だった。
「ルート君、なんか、音がしない?」
「え?」
「地面も、少し揺れているような……」
一度手を止めると、確かに、鈍い、地面に何か、重たいものが擦れるような音と振動がしている。そして、目の前の黒い壁に付けた傷が、ゆっくりと移動している。
「壁が、回って……?」
壁が回っているのだろうか、そう思った次の瞬間、下の方から突然光が差し込んできた。外はまだ日は高いようで、白い、強い光が入り込んでくる。壁は徐々に上に消えていき、外の景色が見えてきた。
「今のうちに、外に……」
そう言いかけた、次の瞬間。ずどん、と大きな音がしたかと思えば、少し離れた場所に、真っ黒な柱が立っていた。
「え……」
「まさか、あれは……」
あれは、多分、先程まで、入り口を塞いでいた壁だろう。いいや、壁ではない。あれは、もっと別の、大きなものの、脚だ。そう認識するとほぼ同時に、入り口に巨大な物体が近付いてきた。
真っ黒な、しかし、先程よりも小さい四角形の中央には、赤色の光が灯っている。どう考えても顔だろう。目より上、額のような部分には何か文字が刻まれているが、相手が動いているのもあり、読むことはできない。
「ゴーレム……」
遺跡の守護者、石の番人。その瞳は、真っすぐに僕達をにらみつけていた。
次回更新は12月16日17時予定です。




