消えた剣先
「あっつ……」
一瞬、あまりの暑さに意識が朦朧としていた。が、手に伝わる剣の重さが軽くなると同時に、周囲の空気が急激に冷えていくのを感じた。冷たい風が頬を撫で、寒さに体が小さく震えた。
「えっと、ラクタ鳥は…………?」
肩で息をしながら、周囲を見渡す。近くには誰もいない。深く息を吸いながら空を見上げると、シャムロック君や他の人たちが手を振って合図をしながら、此方に向かって降下しているのが見える。
「ルート!!」
「あ、シャムロック君。良かったら状況教えて欲し……」
「体は!? 火傷してない!?」
「火傷?」
目線の高さまで降りてきたかと思えば、シャムロック君は慌てたように竜から飛び降り、僕に駆け寄ってきた。そして、僕の周りをくるくる回り、怪我がないか確認してくれているのだが、どうして火傷の心配をしているのだろうか。
「打撲じゃなくて火傷? なんで?」
「なんでって……」
「ルート、理解していないのか?」
首を傾げていると、クローさんが呆れた表情を浮かべながら、僕の肩を叩いた。ぱん、とクローさんの手が当たった瞬間、素肌に冷たい手が辺り、思わず悲鳴を上げた。
「つめたっ!! えっ、クローさん、手、冷たくないですか?」
「少々冷えているが、問題は別だろう」
「あ!!」
そして、僕は気付いた。普段は僕の肩や腕を覆っているはずの布の感触がないのである。やけに寒く感じたのはこれが原因だろう。だが、服を脱いだ記憶がないのに、どうして服が無くなっているのだろうか。上着は跡形もないし、ズボンはあるが、所々焼け焦げている。
「ルートがとどめを刺したおかげで、無事にラクタ鳥は討伐できた。王都の安全を最大限守れた、予想以上の成果だ。正直、作戦としてはラクタ鳥の飛行能力を奪い、王都から遠ざけるだけだったのだが、理由はわかるか?」
「…………戦力的に、危険が大きいからですか?」
ラクタ鳥は竜の天敵ともいえる存在で、この場にいたのは竜騎士団と冒険者数名だ。王都に被害が出ないよう時間を稼ぎ、改めて討伐隊を編成する予定だったのかもしれない。
「違う。どれだけ危険だったとしても、討伐可能なら騎士団は戦う」
隊長さんが力強く頷いた。国を守るため、可能性があるのなら身命をなげうって戦うのが騎士である。と、なると、倒すよりも遠ざける方が効果的だと判断されたか、可能性がないと考えられたか、どちらかである。
「えっと……」
「完全に討伐するつもりが無かったからではない。討伐は、不可能だと思っていたからだ。ラクタ鳥から発される熱量は人も武器も耐えられるような温度ではなかった。相手に触れるより先に体が発火するほどの温度だからな」
「え」
どちらを言おうか迷っていると、クローさんが答えを言った。が、その理由を聞いて、僕は固まった。ラクタ鳥から熱が発されていることは知っていたが、触れることすら不可能な温度だとは全く思っていなかった。
「シャムロックのエンチャントがあっても、近付くことは難しいと思っていた。が、ルート。お前は近付くどころか、直接ラクタ鳥の上に飛び降りている。なのに、服が燃えただけで大きな火傷をしている様子はない」
「あ、それは…………」
僕が腕を見せようとすると、クローさんは知っている、と頷いた。
「レギナ・サラマンダーの皮を加工したグローブのお陰だろう。完全耐性ではないものの、火炎耐性が飛躍的に向上している」
向上しすぎな気もする。無効化できない炎は軽減だけする、と言われていたが、ラクタ鳥が発する熱は殆ど軽減されていたように感じる。流石に、剣を突き立てた瞬間は、暑さで意識が朦朧としていたけれど。
「でも、流石に直接当たってなかった服と、ラクタ鳥に刺した剣は駄目になっちゃったみたいだね」
「そうですね、服と剣は……」
サシャさんに笑顔で言われ、僕も笑顔で返事をする。体には火傷一つないものの、無効化できなかった熱量によって、服と剣は無事では済まなかった。
「剣!?」
「気付いてなかったの?」
「いや、確かに軽くなった気がするけど、確かに、手に持ってるはず……」
右手には柄を握っている感覚が、確かにある。慌ててサシャさんにも見えるように、剣を目の前に持ってくる。先程までと変わらない姿の柄が、きちんと僕の視界に入ってきた。が、サシャさんは冷静に、少し上を指差して言った。
「柄より先がないけど」
「本当だ!?」
道理で軽いはずである。というか、柄から先、刀身の部分が跡形もなく消えている。付近に水たまりのようなものもないので、完全に蒸発してしまったのだろう。金属であるはずの、剣が。
「僕の剣……」
「無傷で済んで良かったな」
「はい……」
剣が駄目になってしまったのは悲しい。が、剣が溶けるほどの敵に突っ込んでいって、大怪我もせずに済んだことを感謝した方が良いだろう。剣は、村を出る前から使っていたものなので多少の愛着はあるが、そろそろ変え時だったんだと思うことにする。
「ラクタ鳥討伐の功績があれば、帰り道で一切戦闘をしなくても不利にはならないだろう」
「そうだね。今回の報酬で新しい剣を買ったらいいよ。ラクタ鳥の魔石を売ったら、かなりの値段になるだろうし」
「帰りは、任せて」
クローさん、サシャさん、シャムロック君が口々に慰めてくれる。僕は足元に転がっていた、大きな魔石を拾って頷いた。素材を取る余裕が全くなかったので、完全な状態の魔石だ。重さも相当なので、いい値段が付くだろう。
「回収が終わったなら戻るぞ。追いつけるなら、依頼主に合流しよう」
「はい!!」
「ルート、ちょっと待て。帰り道で困るなら、騎士団の予備なら貸せるぞ?」
王都に向かって歩き出したところで、隊長さんが後ろから声を掛けてきた。隊長さんは、ルーイ君の背に乗せていた荷物の中から、支給品であろう剣を取り出し、僕に見せてきた。国王から騎士に叙任される際に渡される、騎士の剣。予備とはいえ、デザインは全く同じものである。
「本来なら、騎士以外に渡すわけにはいかないが、今回は緊急事態だ。俺は槍を使うから、剣を使う機会はないし、報告すれば問題はない」
叙任の際に渡される、騎士の剣は、極めて一般的な鋼で作られている。そのため、魔物などと戦う際には別の武器を使うことが多いらしい。そして、隊長ともなると、別の隊長用の飾り剣が渡され、一般騎士用の剣を使う機会は全くないらしい。
「流石に、王都に到着したら返して貰うことになるが、道中で扱う分には問題がない。俺たちは此処の片付けをしたら竜に乗って戻るから、門に着くのは先だ。門番に言っておけば変なことにもならないだろう」
「ルート、どうする? 安全を考えたら、剣を借りた方が良いとは思うけど……」
「取り敢えず、上着は渡しておく。クローも、ローブがないと冷えるだろ」
僕は、服だけ受け取った後、静かに首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。クローさんもサシャさんも、シャムロック君も強いですから」
「そうか」
「はい。心配してくれて、ありがとうございます」
ずっと、憧れていた、騎士の剣だ。持ってみたい、という気持ちは当然ある。が、どうせ手にするのなら、正式な騎士となってから、胸を張って手に取りたい。そう言った気持ちを込めて断ると、隊長さんは笑った。
「礼を言うのは俺たちの方だ。いい剣を買えるといいな」
「はい!!」
最後に、隊長さんにお辞儀をしてから、先を行く三人の方に駆け寄る。手に何も持っていない僕を見て、三人は顔を見合わせ、笑ったのだった。
王都の手前でリコリスさんと合流した僕達は、波乱はあったものの無事に依頼を終え、冒険者組合に戻ることになった。本当はラクタ鳥の出現について聞き取り調査があったのだが、リコリスさんが引き受けてくれたのだ。
「クロー、サシャ、シャムロック、ルート、おかえり!!」
「依頼達成しました」
「ただいま帰りました」
扉を開けると、受付カウンターから顔を出したアンリさんが出迎えてくれる。行きと違う格好をしている僕とクローさんを見て、大変だったみたいだね、と目を丸くした。
「アンリさん、私とクローが受ける予定だった依頼、どうなりましたか?」
「そうそう、二人が予定通りに戻ってこないなんて珍しいと思ってたんだよね。依頼自体はキャンセルして、他の冒険者に向かってもらったよ」
「そうですか……」
サシャさんが肩を落とす。予定外の自体に陥ったとはいえ、事前に受けていた依頼を達成できなかった、という事実は冒険者にとって致命的だ。失った信用を取り戻すのは、かなり大変だろう。
「最後まで聞いて。二人が遅れるなんて珍しいと思ったのは私だけじゃないみたいで、依頼主もキャンセルについての賠償は、原因を聞いてから判断する、って言ってくれたの」
「良かった……」
「依頼が達成できなかった時に、賠償なんてあるんですか?」
「依頼によってはあるよ」
時間に限りがある依頼や、特殊な技能を持っていないと達成できない依頼に多いらしい。その代わり、達成した場合の報酬が高いため、腕に自信のある冒険者は積極的にそう言った依頼を受けるそうだ。
「それで、帰りを待ちながら、リカンウェア火山付近の情報を調べてたら、突然、王宮から伝令が来て。火山が噴火したかと思えば、伝説レベルの魔物が出て、更には討伐したって話を聞いてね」
「そう、です、ね……」
笑顔のまま話すアンリさん。しかし、目が全く笑っていない。流石にクローさんも、言葉を詰まらせながら返事をする。
「キャンセルした依頼主に事情説明までしてくれて、クロー達の評価は落ちるどころか上がったけど、ね」
「……はい」
「強い魔物と遭遇した場合、安全を優先して逃げるのも冒険者に必要な能力だってこと、理解してる? 倒せたらしいけど、本当なら近付くこともできないような相手だったんでしょ?」
「…………はい」
後で報告書にして提出してね、と圧のある笑顔のまま、アンリさんは言った。クローさんは無言で頷いた。すると、アンリさんの目線がクローさんから僕の方に移った。その瞬間、ぞわり、と背筋に悪寒が走る。これは、まずい。
「で、ルート。とどめを刺したって聞いたけど、本当?」
「…………はい。これが、ラクタ鳥の、魔石です」
ごとり、と音をさせながら、ラクタ鳥の魔石を受付カウンターに置く。アンリさんは笑顔を崩さないまま、魔石をそっと布で包んだ。今迄見たことがないような、高級そうな布だが、石を包むのに使っていいのだろうか。
「魔石が本物か、私には鑑定できないから、これは王宮に提出するね」
「王宮には伝説級の魔物を判別できる人がいるんですか?」
王宮には、国内全ての資料がそろっていると聞いたことがある。なので、ラクタ鳥に関する書物や資料は当然存在するだろうが、それでも、魔石の鑑定は難しいのではないだろうか。
「国で一番強い魔導士様は、ラクタ鳥を見たことがあるらしいよ。その人に確認してもらうって」
「そうなんですか……」
凄い人がいる、ということは良くわかった。高級そうな布に包んだのも、綺麗な木目の箱に入れているのも、王宮に提出するためなのだろう。
「提出についてはこっちでやっておくから気にしないで」
「ありがとうございます」
「それで、ルート。私が何を言いたいか、わかる?」
ラクタ鳥の魔石では誤魔化されてくれないようだ。僕はつい視線を逸らしたが、その間もアンリさんは黙って此方を見つめてくる。このままでは、次の依頼を受けさせてもらえなくなるだろう。
「…………すみませんでした」
「何に対して言ってるの?」
「ラクタ鳥に、突っ込んでいってしまったこと……。危険な行動をしたことです……」
「自覚はあるんだ?」
「帰る途中にも、大分、怒られたので……」
火炎耐性グローブのお陰で無事だったが、もしも途中でグローブが外れていたら、どうなったかは想像に難くない。クローさんには低い声で注意されたし、サシャさんには静かに諭されたし、シャムロック君には涙目で心配された。
「わかってるならいいけど……」
反省していることは伝わったのか、アンリさんは大きな溜息を一つ吐いて、先程までの表情を崩した。半ば諦めたような表情で僕と、他の三人を順番に見る。
「…………なんというか、ルートは、次から次へと問題を起こすというか、滅多に出会わないような強い魔物と遭遇するよね。その上、逃げないで戦って、ギリギリのところで討伐してるイメージが」
「あはは……」
「最終的に勝ってるから、撤退っていう選択肢がないのか、それとも、本能的にまずい、って感じてないのか」
どうなの、と聞かれ、首を傾げる。今迄、見たことがないような魔物と戦う時、危ない、と思う瞬間は何度かあった。だが、絶対に勝てない、逃げないといけない、と思ったことは無いかもしれない。いつも、攻撃を防いだり、時間を稼ぎながら待っていると、必ずチャンスがあるのだ。今なら倒せる、と確信が持てる瞬間が。今回だってそうだった。
「えっと……」
「まあ、どちらにせよ、無事に帰ってきてくれたらいいから。今迄はクローとかオリヴィアとか、強い仲間が近くにいたから、安心してただけかも」
「……そうですね」
確かに、クローさんやサシャさんは、一緒にいるだけで何となく大丈夫だ、という気持ちになる。二人が強い魔導士であることも理由の一つだろうが、何というか、魔法だけではない強さがあるような、そんな感じがする。状況判断能力とか、交渉能力が高いからだろうか。
「毎回、同じ依頼に行く訳でもない。自分で気をつけろ」
「はい。気を付けます」
「クローこそ、今回はローブが燃えるほど苦戦したんでしょ?」
気を引き締めた方が良いんじゃない、とアンリさんに言われ、クローさんは苦い顔をした。そのまま、隊長さんから借りていた外套を脱いで、綺麗に畳んでからアンリさんに差し出した。
「…………ラクタ鳥の魔石を王宮に提出するなら、これも一緒にお願いしても?」
「いいけど、これ、騎士団に支給される外套? それにしては豪華な気がするけど」
「竜騎士団三番隊隊長の物です。ローブが燃えてしまったので借りました」
それだけ言うと、クローさんは階段の方へと歩いて行ってしまった。アンリさんは明日の朝には報告書出してね、と声だけ掛けて、引き留めはしない。若干荒い足音が聞こえなくなると同時に、サシャさんが小さく笑った。
「クロー、珍しく拗ねてる…………!!」
「サシャ」
シャムロック君が呆れたような表情でサシャさんの方を見る。そういう風には見えなかったのだが、サシャさんがそう言うのなら、不機嫌だったのだろう。
「咄嗟の事態だったとはいえ、ローブ燃えたの気にしてたんだ……」
「クローだけなら、平気だったと思う」
「そうね。私たちで新しいローブでも探してこようか。予備は無かったはずだから」
「ルートも一緒に行く? ルート、服、買わないといけないよね?」
服も、グローブ以外の防具も、剣も買わないといけない。今すぐに買い物に行きたいところだが、アンリさんの話は良いのだろうか。ちらり、と目線をやると、アンリさんは僕を上から下までじっくりと眺めて、答えた。
「本当はラクタ鳥について聞きたいことが山ほどあるけど、その装備じゃあ今後の活動にも支障が出そうだからね。先に買い物に行ってきていいよ」
「ありがとうございます!!」
後で報告書を提出することを条件に、僕達は、聞き取り調査を免除してもらうことになった。そして、空いた時間を使って、新しい剣を探しに街に出たのだった。
サシャさんに案内してもらい、冒険者向けの店を数軒回って気付いたことが幾つかある。王都には、冒険者が集まるだけあって、沢山の店があり、自分に合った価格帯の店も見つけやすい。逆を言えば、良いものを安く買える、ということは無く、良いものはそれだけ値が張るのだ。
「…………まさか、村の物置にあった剣が、あんな値段がするなんて」
「トノサマバッタに斬りかかっても刃こぼれしてなかったからね。結構良いものだったんじゃないかな?」
「あれ、村の鍛冶屋の、先々代が作った剣で、誰も使わなかったやつなんですけど……」
誰にも使われず、ただ置いておくにも場所を取るから、という理由で譲ってもらった剣だ。それと同等の剣を王都で買おうと思うと、Cランク冒険者が一か月働いて稼げる額が必要になるとは思わなかった。
「ルート、手持ちの額はどのくらい?」
「今迄の依頼で貰ったお金と、今回のお金でギリギリ買えるとは思うけど……」
お金が足りないわけではない。だが、所持金の殆どを使ってしまうことになる。依頼の達成料から宿泊費などは引いてもらっているとはいえ、お金はある程度持っておいた方が良い。だからと言って、質の悪い剣を使うのは危険に直結する。
「…………どうしよう」
命を預ける武器は妥協するな、とじいちゃんも言っていた。
「もう少し、お店回ってみる? 掘り出し物があるかもしれないし……」
サシャさんがそう言ってくれるが、買い物に出てから相当な時間が経過している。そろそろ組合に戻った方が良いだろう。店に行くとしても、後、一軒か二軒が限度だろう。その間に掘り出し物が見つかるとは考えにくい。
「…………あの、行きたい店があるんですけど、良いですか?」
「大丈夫だよ。何処に行くの?」
「ウィーダ道具屋です」
下手な所を回るくらいなら、お金を増やすか、剣について相談できる場所に行った方が良い。溶岩アリから取った素材で装備を作って貰おう、とシャムロック君に約束していたので丁度いいだろう。
「ああ、あの」
サシャさんは納得したように頷いた。恐らく、サシャさん自身は行ったことが無くても、依頼を目にしたことはあるのだろう。リィさんは基本的に『D』以外には依頼を出していないと言っていたし。
「でも、道具屋だと剣は無いと思うよ?」
「はい。先に、別の装備品を見て、どのくらいお金がいるか計算して、ついでに素材を売って資金調達をしようと思って」
今迄は、ちょっと丈夫な素材の服を下に着こんで、その上から防具を付けていた。が、折角の機会なので根本から見直してみようと思う。リィさんが作る服なら、下手な鎧よりも実践向きかもしれない。
「溶岩アリの素材、使うの?」
「そう。一緒に装備を作って貰って、余った素材を売った金額は等分でいい?」
そう言うと、シャムロック君は嬉しそうに頷いた。余るか分からないが、素材を売った代金は僕とシャムロック君、クローさんとサシャさんで四等分すればいいだろう。サシャさんにもそれでいいですか、と確認をすると、きょとんとした顔で言われた。
「私は倒してないから、二人で分けていいと思うよ」
「え、でも、クローさんの分は……」
「今回は指導役でしょ? 別で報酬は貰ってるし、直接関わってないなら気にしないで」
指示は出してもらっていたが、本人は魔法を使ったわけでも、素材の採取をしたわけでもない。その場合は分けなくていい、というのが冒険者のルールらしい。とどめを刺した人物がその魔石の所有権を持つ、を基本として後は良識の範囲内で分配するそうだ。
「今、一番お金が必要なのはルート君なんだから、わざわざ減らすようなことはしなくていいよ。律儀な所は素敵だと思うけどね」
「はい……。ありがとうございます」
「先輩としてルールを教えただけだよ。ほら、もう着いたから入ろう」
そう言って、サシャさんは笑ってウィーダ道具屋の扉を開けた。すると、丁度リィさんが店番をしていたようで、僕を見た瞬間、にこりと笑って手招きしてくれた。
「いらっしゃい、ルート。新しい素材持ってきてくれたの?」
「こんにちは、リィさん。素材を持ってきたのと、装備について相談があるんです」
満面の笑みで素材を確認し始めたリィさんに、溶岩アリの外殻で装備を作ってほしいことを説明すると、すぐに頷いてもらえた。部分的な鎧なども錬金術で作ることができるらしい。これならいけるかもしれない。
「あの、リィさん。錬金術で、剣って作れるんですか?」
僕の質問に、リィさんは優しく微笑んだ。
「流石にそれは無理」
次回更新は12月2日17時予定です。




