竜の背に乗って
クローさんは、周囲の警戒をしたまま、僕達にラクタ鳥についての説明をしてくれた。見た目自体は金色の大きな鳥だが、その羽根は高温で、地面に落ちればそこから火が付く程だという。そのため、追い払うためには魔法を使用するしかない。問題は、相手が上空から降りてくることはめったにない、ということだ。
「魔法でも攻撃が届くか分からないって……」
「…………不可能とは言い切れないが、距離が開けば魔法の精度も、維持するために必要な魔力量も多くなる。しかも相手は動く。余程軌道を読むか、魔法を撃った後に操らないとまず当たらない。運良く当たったとしても、威力が維持できるとは考えにくい」
「攻撃にすらならないってことですね……」
当たっても意味がないのなら、別のことに魔法を使った方が良い、という判断なのだろう。特に、クローさんの得意な魔法は火属性魔法の筈なので、ラクタ鳥とは相性が良くないのかもしれない。
「でも、どうにかして追い払わないといけませんよね」
「ああ。流石に、王都に近すぎる」
リカンウェア火山は、王都から片道一日掛からない距離にある。もし、ラクタ鳥がここを拠点に生活するなら、王都の上空を頻繁に通過することになる。そうなると、どれだけの被害が起こるのだろうか。想像するだけでもぞっとする。
「一番現実的な案は、ラクタ鳥に近付いてもらうか、僕達がどうにかして近付いて攻撃することですけど……」
「竜騎士は頼れないかな」
サシャさんがはっきりと言った。ですよね、と僕は小声で返す。クローさんが敵を確認してから、竜騎士と合流する素振りがない時点で薄々気付いてはいた。協力した方が安全になるなら、二人が、真っ先に合流を図らないはずがないのである。
「上空、といっても見える範囲だし、普段なら飛竜が飛行できる高度ではあるけど……」
「ラクタ鳥は、数少ない竜を食べる種族だ。訓練された竜でも本能的に近付くのは嫌がるだろう。正直、戦力に数えられない」
「相棒である竜騎士を危険に晒さないために、飛ぶことを拒否する可能性の方が高いだろうね」
「というか、ラクタ鳥の狙いが竜である可能性が高い。竜騎士と竜がこの場を離れてから行動した方が、安全だろう」
そう言っている間に、段々と外が静かになってきた。正確に言えば、ラクタ鳥の鳴き声などは聞こえてきているのだが、騎士たちの慌てる声や、竜の咆哮が聞こえなくなってきた。クローさんは静かに外の様子を伺うと、僕達の方に向き直った。
「本格的に行動が始まったようだな。逃げるにしろ、迎撃するにしろ、もう少し落ち着いたら依頼主と合流して避難を……」
ごう、と、大きな音がした。次いで、熱気を孕んだ空気が頬を掠めていった。吸うだけで喉が渇きそうなほどの温度の空気が肺を満たしたかと思うと、視界に、赤や黄色の光がちらつく。
そして、赤く揺れる壁より視線を上空に向ければ、真っ暗な空の中で輝きを放つ、金色の鳥が見えたのだった。
「クロー!!」
呆気に取られていた僕の意識を現実に引き戻したのは、聞いたことがないような、サシャさんの声だった。ほぼ無意識に、その声が向けられた先を見ると、半分以上焼け焦げたローブを投げ捨てているクローさんがいた。
「……問題ない。ローブは、駄目になったが」
ローブの下に着ていた装備に問題はないようだ。特に火傷もしていないらしく、一安心である。一安心では、あるのだが。
「あ、あの、これ、ラクタ鳥の攻撃でテントが吹き飛ばされたか、燃やされた、ってことですよね?」
「ああ。正確に状況判断できている。ここで『一体何が起こったんですか?』と言った場合は容赦なく不合格にするところだった」
「…………良かったです」
厳しいな、と苦笑いしながら周囲を見渡すと、上空から真っすぐ、こちらに向かって落下してくる物体があることに気付いた。ラクタ鳥の羽根にしては速度が速い。落石か何かだろうか、と慌てて剣に手を掛ける。
「待て!! 俺だ!! リュノだ!!」
空から降ってきたのは落石ではなく、相棒であるルーイ君の背に乗った隊長さんだった。ある程度の高さでルーイ君が止まると、隊長さんはその背から飛び降り、僕達の前に立って笑った。
「良かった、無事だったんだな」
人の良い笑顔を浮かべたまま近付こうとする隊長さんを、クローさんは無言で制止した。僕達を背に庇うよう立ち塞がったまま、クローさんは冷静に相手を見据える。
「…………何をしに来た?」
「何、と言うか……、協力要請、って言えばいいのか?」
「悪いが、依頼主の安全を確保する必要がある」
「カークランド家のお嬢様たちなら、先に一番隊と一緒に避難してもらっている」
隊長さん曰く、ラクタ鳥の姿が確認されてすぐ、リコリスさん達は一番隊の地竜たちと一緒に避難を始めたらしい。そして、三番隊がラクタ鳥の足止めを、二番隊が周辺地域への伝令へと向かったのだが、その際、僕達への知らせが完全に忘れられていたらしい。
「それで、慌てて伝えに来たんだが、逆に俺とルーイを狙った炎がテントに直撃して……」
「え!? 直撃してたんですか?」
その割に、僕達には大した被害はない。いや、クローさんのローブは燃えてしまっているけれど、本来ならテントと一緒に焼き尽くされていても可笑しくないはずだ。
「……火属性魔法の応用だ。自分の魔力で作った炎を混ぜ込むことで、別の要因から発生している炎を操った」
「取り敢えず、クローさんのお陰で無事だったってことですよね? ありがとうございます!!」
頭を下げると、地面よりラクタ鳥の見張りでもしておけ、と上を向かされた。確かに、お礼を言うことは大事だが、まずはこの危機を乗り越える方が重要である。上空にたたずむラクタ鳥に目を向けると、クローさんが深々と溜息を吐いた。
「………依頼主の安全が確保されているなら、協力自体は不可能ではない」
「なら……」
「だが、協力したところで、役に立つかは分からない。ラクタ鳥に効果がある魔法を使えるとは限らないからな」
魔導士と言っても、得意な魔法は人によって違う。隊長さんが期待しているような魔法が使えるとは限らないのだ。余計な期待をさせる前にはっきりと告げるのは、クローさんなりの誠実さなのだろう。
「それでもいい。力を貸してほしい」
「……各自、協力するかどうかは自分で決めていい。シャムロックもルートも、これは流石に依頼の範囲外で、お前たちのランクでは討伐どころか出会っただけでも危険な相手だ。逃げたところで昇格試験に影響は出ない」
正直、僕が残ったところで、剣が届くような距離でもないし、クローさんからすると守らないといけない人数が増えるだけだろう。昇格試験にも影響が出ないなら、大人しく避難する方が正解だ。だが、何となくだが、今、此処で逃げてはいけないような気がしているのだ。
「ルート……」
隣にいたシャムロック君が、不安そうに僕の顔を覗き込んできた。どうするのが正解なのか分からない。でも、どうしたいのか、は僕もシャムロック君も同じらしい。僕は、小さく頷いた。
「僕達も、戦います。役に立つかは分からないけど、此処で逃げたらいけない気がするので」
僕がはっきりと告げ、横のシャムロック君が頷くと、クローさんとサシャさんは顔を見合わせて肩をすくめた。
「…………そうか。隊長殿」
「リュノでいい」
「リュノ、竜には最高何人まで乗れる?」
相手が良いと言ったとはいえ、切り替えが早すぎないだろうか。そう思ったが、隊長さんは気にせず空に向かって何か合図をしたかと思うと、三つの影が此方に向かってきた。どうやら、仲間の騎士を呼んだらしい。
「子供なら騎士の他に二人、大人は一人だな。もう少し乗れないことは無いが、スピードが落ちすぎて危険になる。後、ルートは魔法じゃなくて剣を使うなら、同じ剣を扱う騎士と一緒に乗ったら邪魔だ。悪いが、全員別の竜に乗ってくれ」
「えっと、誰がどの竜に?」
降りてきた竜騎士は三人で、武器はそれぞれ剣、槍、弓。隊長さんの武器は槍。僕は剣の人以外に乗せてもらうにしても、誰と一緒に乗ればいいのかわからない。僕が尋ねると、隊長さんは一瞬硬直し、ゆっくりとクローさんの方を向いた。
「……えっと、リーダーの」
「クローだ」
「クロー。簡単に普段の戦闘スタイルを教えてもらえるか?」
「シャムロックが得意なのはエンチャント、武器への属性付与だ。防具への付与もできるから、盾を持っている騎士と一緒に乗せればいい」
つまり、剣を持っている騎士である。シャムロック君の実力なら、同時に複数個の盾に魔法をかけることもできるらしい。普通の盾ではラクタ鳥が吐く炎を防ぐことは難しいが、シャムロック君の魔法で強化して貰えばある程度耐えられるだろう。
「サシャが得意なのは弱体化魔法。余裕があれば状態異常系の魔法も使えるだろうから、極力、ラクタ鳥に近い場所がいい。そう考えると槍だな」
「なら、隊長さんの竜に……」
サシャさんが背に乗ろうと近付いた瞬間、ルーイ君が小さく唸った。驚いたサシャさんが一歩下がると、唸り声がピタリと止まる。しかし、また一歩近付くと控えめに唸る。どうやら、あまり乗せたくないらしい。
「ルーイ? どうした? さっきまで平気そうだったのに」
「何かしたつもりはないけど……」
「特に何もしてないとは思う、が、ラクタ鳥のせいで普段より気が立っているのかもしれない。アイダの方はどうだ?」
その言葉に、もう一人の槍を持った騎士が手を挙げた。兜で分からなかったが、女性騎士だったらしい。彼女と相棒の竜にサシャさんがゆっくりと近付くと、竜は嬉しそうに頭を擦り付けた。どうやら、今度は問題ないらしい。
「…………問題ないようです」
「そうか。なら、ルートはそっちの弓使いと、クローは俺と一緒に乗ってくれ」
僕は小さく頷き、指定された騎士のもとに向かう。僕を乗せてくれるのは、優しそうな雰囲気の騎士だ。相棒の竜は綺麗な緑色の鱗をしている。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
全員が竜に乗ったところで、ばさり、と一斉に空へと飛び立つ。竜が羽ばたく力は強く、予想よりも体が大きく揺れたため、僕は、慌てて目の前の騎士にしがみついた。
「クロエは相手より上に移動してくれ。この中で高く飛べるのはお前しかいない。ルートは振り落とされないように掴まって、周囲の警戒をしてくれ」
「は、はい!!」
「心配しなくても、クロエは風を読むのが上手い。無茶をしなければ落ちたりしない」
そう言うと、隊長さんは手綱を引き、方向を変えた。向かう先はラクタ鳥の正面だ。クローさんの魔法で相手が吐き出す炎を防ぎながら、囮になるつもりなのだろう。誰かがやらなければならないとはいえ、心配である。
「さて、私たちも行こう。私の相棒は風を操ることができるから、多少は揺れを抑えることができるけれど、上空は風が強い。しっかりと掴まって、手を離さないように」
「わかりました!!」
クロエさんの体にしがみつき、足でしっかりと竜の体を挟むと、行くよ、と短く告げられた。そして、ぐわりと浮遊感を感じたかと思うと、瞬く間にラクタ鳥の頭上に到着した。
「これ以上は……、近付けそうもないな」
「竜が嫌がっているからですか?」
「それもあるが、温度が凄い。この距離でこれだけ熱いのなら、近付けば燃えてしまう」
僕は首を傾げた。同じ場所にいるはずなのに、僕はその熱を感じていないからだ。クロエさんが前にいるから、という訳ではないだろう。旋回している間に、僕の方がラクタ鳥に近付いているタイミングもある。そう考えると、別の原因で僕は熱を感じていないことになるが。
「…………あ」
もしかして、リィさんに作って貰った火炎耐性グローブのお陰だろうか。ある程度までの火炎を無効化し、無効化できない威力の炎は軽減する。それはグローブを付けている場所だけの効果だと思っていたが、ペンダントと同じで体に触れていたら全身に効果が出るのだろう。
「隊長がラクタ鳥を引き付けてくれているが、近付けないのでは攻撃手段がない。弓を射かけても、届くまでに燃えてしまう」
「シャムロック君のエンチャントで何とかできないんですか?」
「接近するのは無理だ。エンチャントは無機物にしか効果がない」
防具に魔法付与して炎を弾けるようにしても、騎士や竜が完全に守れるわけではない。盾や鎧の陰になっている部分には熱が届かないようにするのが精一杯だという。ならば、武器を強化して、遠距離から当てるしかないだろう。
「矢を強化して、それを射かけるのではダメですか?」
「一定以上の品質の武器なら効果があるかもしれないが、弓矢一本一本にエンチャントするのは難しい上に、複数の属性を重ね掛けすることはできない。熱耐性を与えても、威力が無ければ意味がない」
「当たった時点で十分な威力を発揮するようなものか、熱で駄目にならないもの……」
距離がある状態では矢を放ったところで威力が低下してしまう。その上、これだけの熱気を発しているのなら、温度差による風で軌道がそれて、当たるかどうかも怪しいと言う。矢より軌道がずれにくい、熱に強く、威力が出そうなもの。何かないか、僕は必死に考えた。
「あ!!」
「何か案があるのか?」
「威力があるかはわかりませんが、熱に強くて、それなりに重たいもの、あります!!」
僕がそう言うと、クロエさんは無言で方向転換し、隊長さんに向かって真っすぐに飛ぶように指示を出したのだった。
僕が提案した、投擲武器。それは、来る途中に倒した、溶岩アリの外殻である。溶岩の中で生活できる魔物なのだから、当然、素材は熱に強い。そして、硬い外殻はそれなりに重たいので、上から落とせばある程度の威力が期待できるだろう。
「そういえば回収していたな」
「はい。帰ってから加工してもらうつもりで集めたんですけど、意外なところで役に立ってくれそうです」
「氷属性を付与したら、結構な威力になるかな?」
「温度によっては、氷よりも土属性の方が良いかも。重さを増やすとか、表面に棘を作ったりしたら威力が上がると思うよ」
だが、問題は、外殻の重さが追加された状態で、竜が飛べるのか、ということである。僕が運んでいる間は、素材回収箱のお陰で重さを感じることは無い。が、一度箱から取り出してしまえば効果は消え、素材そのままの重さが掛かる。ただでさえ普段以上の人数を乗せて飛んでいる竜にとっては、大きな負担になるかもしれない。
「……実際に、一つ出してもらってもいいか?」
「はい」
隊長さんに言われたので、素材回収箱から手頃の大きさの塊を一つ取り出す。塊を両手で持って差し出すと、隊長さんは片手で受け取った。何度か手の中で転がして重さを確認すると、隊長さんは小さく頷いた。
「重さは問題ない。ちょっと軽い気もするが、魔法付与すれば十分な威力が出るだろう」
「なら……」
「三人はこれを持って、相手の上まで移動してくれ。クロエ以外は高く飛ぶのは難しいだろうから、弱体化魔法でラクタ鳥の高度を下げてくれると有難い。俺達が囮になって、動きを止めるから合図をしたら羽根に向けて投げてくれ」
地面に落としてからの事を考えると、シャムロック君の魔力は温存しておかないといけない。そのため、ラクタ鳥の動きを完全に止め、一度で落とせる確率を極力高くする、と隊長さんは言う。
「でも、それだと、囮の二人が危険じゃ……」
「これでも、三番隊の隊長だ。腕には自信がある。ただ、クローには少々怖い思いをさせるかもしれないが……」
「これでもAランク魔導士だ。甘く見るな」
「頼もしいな。じゃあ、行くか」
そう言って、二人は再び、ラクタ鳥に向かって飛んでいく。僕は慌てて手頃な塊を何個か取り出し、サシャさん、シャムロック君に渡す。
「どうぞ」
「ありがとう。私たちも行こうか」
「うん」
サシャさんが魔法を使うと、紫色の光が舞う。放たれた光がラクタ鳥を囲い込んだかと思うと、徐々に相手の高度が下がり始めた。全体的な動きも鈍くなっているような気がする。
「凄い!!」
「ただ、そんなに長時間は掛けられないかも」
かなり強力な魔法に見えるので、長時間使用するのは負担が大きいのだろう。この機会を逃してはいけない。僕はしっかりと塊を握ったまま、眼下にいるラクタ鳥を見据える。
「クロー!! 準備できたよ!!」
サシャさんが手を振りながら大きな声で合図をすると、クローさんがすぐに反応した。クローさんはちらりと後ろを見て、自分たちを追ってきているラクタ鳥との距離を確認すると、リュノさんの肩を叩いた。
「リュノ、止まれ!!」
「今か!? どう見ても火を吐こうとしているが!?」
「問題ない」
「信じるからな!?」
そう言うと、リュノさんは相棒であるルーイ君に指示を出し、ピタリと空中で制止させた。そこに、大きく口を開いたままのラクタ鳥が迫っていく。その口の端から赤い炎がちらりと覗いたところで、クローさんは僕達の方を向き、声を張り上げた。
「今だ!!」
その言葉を合図に、僕とサシャさん、シャムロック君は手の中にある塊を、眼下のラクタ鳥に向かって投げつけた。手を離した直後、シャムロック君が早口で呪文を唱えると、茶色い光が塊を包む。
「もう一段階、弱体させて……」
サシャさんも弱体化魔法を重ね掛けした直後、形状が変化した塊が、ラクタ鳥の背中に命中する。ラクタ鳥は悲鳴のような声を上げながら、重さに従うように地面に向かって落ちていったのだが、突然上空を向いたかと思うと、何かを勢いよく吐き出した。
「あれって…………、岩!?」
「溶岩に近い……。噴火と思っていたのは、ラクタ鳥が吐き出した溶けた岩か」
高温で溶けた岩は、先程まで見据えていた方向、つまり、クローさんと隊長さんの方に向かって真っすぐに飛んでいく。まずい。そう思っても、声すら出ない。クローさんは炎を操ることができても、岩までは操れない。シャムロック君が魔法をかけても、今からでは間に合わない。絶体絶命か。思わず、目をきつく閉じかけた時だった。
「…………っくそ!! リュノ、無事か!?」
青い光が放たれたかと思うと、じゅう、という音がして、今度は視界が真っ白になった。これは、水蒸気、だろうか。
「…………何とか無事だ。水属性魔法を使えるなら先に言ってくれ」
「偶然成功しただけで、普段は使い物にならない魔法だ。他に手段がないから使ったが、運よく成功してよかったな」
「そんな魔法に頼るな!!」
「助かったから良いだろう」
どうやら、溶岩に対して水魔法を放ったらしい。水によって温度が急激に下がった岩は、温度差に耐えられる空中で破裂。直撃を免れたようだ。
「…………ラクタ鳥も、予定通り地面に落とすことができたようだな」
背中に魔法で強化された塊を喰らった挙句、高温の水蒸気に視界を奪われたラクタ鳥は地面に落ち、もがいている。サシャさんとシャムロック君に魔法をかけて貰えば、総攻撃を仕掛けることができるだろう。
「ああ。倒れている間に、決着をつけて……」
言いながら、一気に下に向かって飛んでいく。相手が弱っているからか、発される熱気は弱まり、竜たちが怯える様子もない。これで終わり。誰もが、そう思った時だった。
「嘘だろ……」
ラクタ鳥が、体を起こし始めたのである。慌てて近くの竜騎士たちが、武器を持って走り寄るが、間に合わない。再び空を飛ばれたら、今度こそ倒す手段がない。今、絶対に仕留めなくては。真下で羽を広げようとするラクタ鳥を、真っすぐに見た。
「シャムロック君、僕の剣にエンチャントして!!」
「え、ぞ、属性は!?」
「土!! 思いっきり重たくして!!」
走っても、誰も、間に合わない。だが、落ちるなら、間に合うかもしれない。僕は掴まっていた手を放し、竜の背から飛び降りながら剣を抜く。構える頃には重さに負けて、剣を下にして、ラクタ鳥に向かって、真っすぐ落ちていく。相手は羽に覆われていて柔らかそうだから、きっと、クッションになってくれる。そう信じて力強く柄を握り直す。
「くらえっ!!」
暑さで意識が朦朧とする中、ラクタ鳥の断末魔を聞いた、気がした。
次回更新は11月25日17時予定です。




