【掌編】そんなにその女が好きなのか、青年
ちょっと独特な恋人同士を描きました。
愛、ちゃんと有りますよ。笑
「お前に向けられてる愛は有限。私の好きな言葉です」
「……おー。何、俺はお前をど突いたら良いの?」
夕方四時の、そこそこ気怠さ漂う部屋の中。何のことは無い、二十代カップルの会話だ。
「あーっ。面倒な話になると、そーやってすぐ無理矢理終わらせようとするー。そこがいけないんですー、私が欲しいのはもっとユーモアのある返しですー」
マリカはオーバーリアクション気味に文句を垂れる。
最初の言葉は芝居掛かっていた。このギャップに塗れた立ち振る舞いは、彼女がバイタリティ溢れる女という証だ。
「いやお前さ、今ので話膨らますのはムリがあるよ。だって顔が完全にツッコミ待ちだったもん」
タカヤは絶えず、クールに切り返している。決して暴力に物を言わせるタイプでは無いが、しかしやるべき時にはやる胆力を彼は持つ。
「私の何処が欲しがり顔だってのよっ!」
タカヤは答えるより早く、マリカのおでこにグーの拳を押し当てていた。
「痛いぃー」
「百%ウケ狙いの痛がり方じゃんか。そんなに痛くしてないし、何なら俺の手の方が軽く痛いかんな」
タカヤの拳は硬かったが、マリカのおでこもまた硬かった。彼が狙って特に硬い部分を狙ったのは、マリカに対するささやかな隠し事だが。
「……んっとにもうっ! 八年も連れ添った相手にしていい扱いじゃないわっ」
「そうかな。俺はこの上無く妥当だと思ってるけどな」
高校一年の時からの関係としては、寧ろ上々だろう……タカヤは言外にそう付け足す。
「だったらちゃんと言葉に出して示してよー。じゃないと私、遥か遠い星雲まで飛び去っちゃうぞー」
「分かった。俺は世界で誰よりお前のおでこを信頼してる」
「そっかー。そんなに信じて貰ってたなら悪い気しないなー」
マリカはタカヤが認めた自分のおでこを摩りながら、大層ご満悦であった。
最近ツイッターで流行ってる例の文言。
私こと神代が、どうせならこれ位の言葉を合わせたいなと思ったのが冒頭のマリカのセリフです。笑
けど私がツイッターでアレをそのまま言うと、インパクトだけが一人歩きしてしまいそうだったんですよね。
無駄にフォロワーさんを怖がらせてしまうというか。たはは……。
ならば自作短編で、オマージュの形で出すのがスマートなんじゃね? と思い今回このお話を書いた訳でした。
お話自体はおバカなギャグっぽく、されどちょっとオトナな倦怠感も織り交ぜて、
しかし最後には、どんなヘタクソな言葉でも互いに愛の気持ちを出し続ける二人、という落とし所にしております。
タカヤとマリカのやり取りについては、今回意識して『良い悪い・正解不正解』を地の文で説明せずにいました。
良かったらあれこれ想像して楽しんで下さいませ。