昼飯くらい好きに食わせてくれ!(2)
翌日。
木曜なので今週の勤務日があと1日あるはずなのだが、朝礼にて急遽明日と次の月曜の休業が発表された。今週の出荷分をもう作り終えてしまったのだ。
入職当時はあんなにあった残業や休日出勤も今月に入って少なくなり、徐々に薄まりつつある仕事量を何となく感じていたがとうとうこの時が来てしまった。突然の4連休はそれなりに嬉しいが、次の給料に影響が出るのは困ったことである。
仕方ない。今日から昼は緊縮体制を敷こうと思った。要するに180円のかけうどん生活である。
昼になった。
かけうどんのコーナーに並び、180円を払い丼を受け取ってトレーに乗せる。ガラスケースに並んだ半熟卵などのオプションの具材を無視し、今日こそは理想の空席を探そうと…
「木倉下さんこっちこっち!」
ええええ…
昨日のグループのリーダー格の女、A田が私を見つけて手招きしていた。
「ここ席取っときましたよ」
くすみピンクの女が椅子の上の小さい手提げをテーブルの上にあげて言った。
私の真向かいに直接雇用の女、その両隣にモスグリーンと濃紺。そして
こちら側はやはり濃紺とくすみピンク。
またしても圧力しか感じないような席だ。
「へへ…あざす。」
ひきつった笑みを浮かべて、トレーを席に置いた。
「うちらは違うけど、明日と次の月曜休みになっちゃったラインあるみたいだねえ」
派遣元の制服の女が言った。
「あーそうみたいですね」
「うちも違う」
「うちは休みになったわ。明日と月曜は他のラインの応援になった」
「休みちょっと羨ましいですよねえ」
どうもこの中でラインが休みなのは私だけのようだった。
話題を振られないよう、わざと大きめの音を立ててうどんを啜る。
「羨ましがるのやめよう?うちらは少数精鋭の選抜メンバーなんだから」
昨日聞いたのにもう名前を思い出せない直接雇用の女が言った。
…ずずずず。ずるずるずるずる…
唇がうどんを吸い込む音が口内を通して鼓膜に届き、会話をかき消す。長時間煮込んだらしく、出汁と麺の境界線が曖昧になっている。
「でもさあこんな感じで休みのラインとか発生したりすると、ちょっと不安にならない?この仕事これから大丈夫なのかなとか」
「あー」
「そうですよねえ」
「まあねえ…しばらくは旦那の稼ぎだけで暮らすしかないかな」
「えー余裕…既婚者はいいよねー。私も早く結婚したいなあ」
…ずずずず。ずるずるずるずる…
「そういえば江鈴木、今日来てないみたいだけどなんか知ってる?」
うどん出汁を飲もうとして一瞬止まった。
「あーそういや見ないねえ」
「なんか昨日の昼、E75ラインのリーダーさんにすごい怒鳴られて…もう来るなって言われてたみたいですよ」
「昨日ほんと不良品しか作ってないからね…それで今日も来てなかったんだ」
そうか、と昨日目にした顛末について納得した。江鈴木さんはもうこの魔窟には来ない。
ほっ、とため息をつき、江鈴木さんの前途に幸多かれと祈った。次はもっと彼女の適性に合うような職場で、親切な人たちに恵まれて過ごせるように。こんな民度低い職場には二度と捕まるなよ。
ちょっと電話しなきゃなんないとこあるんで…と言い訳して社食を後にする。部品倉庫近くのあまり人が来ない休憩室で、残りの時間を過ごした。
まだ続きます。
…これ断片集に入れない方がよかったんじゃないかな?