72話:招待
『ビステルタの霊廟』の攻略は順調に進んでいる。
魔族軍の大規模侵攻のときほどじゃないけど『魔力貸与』を適度に使ったからな。MPを気にしないで戦い続けることができた。
2週間で75階層まで攻略して、レベルも全員80台だ。セリカ、カイ、メアの3人は第9界層魔法まで使えるようになったからな。
このペースなら100レベル超えも余裕だな。勿論、油断なんかしないけど。
ゲームだと物語が始まってから約2年後、エリスたちメインキャラは魔都グレイダラスでラスボスのアレクと対決することになる。
アレクと戦うときの適正レベルが200台前半だから、半年で100レベルはかなり早いペースだ。
物語を楽しむにはレベルを上げ過ぎた気もするけど。他の転生者が干渉して来るから、みんなが身を守るために早く強くなる必要があるからな。
まあ、レベルが高くても楽しむ方法はある。だけど俺のやり方を勧めたら『俺みたいなエボファン廃人とは違うから』とか言われそうだからな。
俺たちはギガンテの王都ガシュベルに宿を取って、毎日『ビステルタの霊廟』に通っている。移動時間は『飛行魔法』を使うから問題ない。
俺的には不要だけどみんなには食事や風呂の問題、暖かいベッドで眠りたいってのもあるし。
アイテムが大量にドロップするから、小まめに売却しないと収納庫が直ぐに一杯になるからな。
さすがに『飛行魔法』で街中に降りると目立ち過ぎるからな。近くまで来たらグリフォンと風の馬で移動する。グリフォンも目立つけど、毎日見るから街の人も慣れたみたいだ。
あとは『飛行魔法』ばかり使うとグリフォンと風の馬が運動不足で可哀そうだから、毎日1時間は運動に付き合っている……なんか犬の散歩をしてるみたいだな。
「今夜はビーフシチューに鳥の丸焼きが良いわね」
「レイナは肉ばっかりだね。私は苺パフェの気分かな」
「あんたは甘いモノばかり食べ過ぎよ。そんなんじゃ太るからね」
「そ、そんなことは……バランス良く食べてるから大丈夫だよ。ねえ、アレク。私、太ってないよね?」
「うーん……俺には良く解らないな」
「グスッ……そこは嘘でも痩せてるって言ってよ」
みんなと喋りながら冒険者ギルドに向かう。もう2週間も通ってるからギルド職員も慣れたもので、大量のアイテムに驚くこともなく買取価格を査定している。
「じゃあ、金は後で取りに来るよ」
待ってる時間がもったいないので、アイテムを預けたままギルドを出る。
冒険者ギルドでも食事はできるけど、毎日同じところだと飽きるからな。
特にスイーツ好きのソフィアと、ライラとシーラが新しい店を開拓するのが好きなんだよ。
「すまないが待って貰えるか。貴殿がS級冒険者のアレク・スカーレットで間違いないな?」
冒険者ギルドを出るとドワーフたちに囲まれた。俺は『索敵』を常時発動してるから当然気づいていたけどね。
人数は20人。コートで隠してるけど全員鎧を着てるし武器も持ってる。
それにレベルが結構高いな。全員100レベルを超えてるし、俺に話し掛けた奴は284レベルだ。リアルエボファンの世界にもレベルが高い奴は結構いるんだよな。
みんなも感覚で相手の強さに気づいて、物理系アタッカーとタンクの5人が他のみんなを庇うように位置を変える。ソフィアも最近は天然ボケをかまさないよな。
「ああ、そうだけど。これから俺たちは食事に行くところなんだよ。依頼があるならギルドに指名依頼を出してくれ」
いや、そんな雰囲気じゃないことは解ってるけどさ。
「だったら丁度良い。我々はある方からアレク殿を夕食に招くように命じられた。勿論、連れの皆も一緒にな」
「あんたさ……完全武装で何言ってんだよ。ノコノコついて行くは馬鹿だけろ」
「これはすまない。職業柄武器は欠かせなくてな。アレク殿が警戒するのも解るが、他意ががある訳ではない」
確かに武器に手を掛けている奴はいないけど。面倒事に巻き込まれるのは確実よな。
「アレク……」
エリスが判断は任せるわと頷く。他のみんなも頷いてるな。
みんなも『始祖竜の遺跡』産の装備でレベルを底上げしてるし、勝つのは難しくないけど。今回は相手が悪いな。
「俺たちも装備をつけたままなら、付き合っても良いぞ。なあ……ブライアン騎士団長」
こいつはギガンテ王国軍最強の鋼鉄騎士団団長ブライアン・マクスタフだ。
ゲームではギガンテのイベントで一緒に戦うNPCだけど、ここまでレベルは高くなかった。
いや、レベルが高いから戦いを避けた訳じゃなくて。こいつらと戦うとギガンテを敵に回すことになるすらな。それにレベルが上がってるのは、他の転生者が干渉してるせいだ。
「なるほど……やはりアレク殿は只者ではないな。勿論、装備はそのままで構わない」
タークカラーのコートを着たドワーフの騎士たちに囲まれて夕暮れの街を歩く。
こいつらは目立たない格好をしてるつもりみたいだけど、完全に悪目立ちしてるよな。
向かってるのは、たぶん南地区にある高級店が並ぶ繁華街。ギガンテの貴族たちが馬車でお忍びで通う場所だ。
冒険者丸出しの格好で行くのは場違いな気もするけど、ドレスコードとか言われたら帰るからな。
『エリザベス、どうせ近くにいるんだろ。勝手に動くなよ』
『伝言』を送ると直ぐに返事が来た。
『アレク様、勿論ですよ。相手がアレク様に喧嘩を売らなければですけど』
『いや、それも駄目だからな』
『ちぇ……アレク様、解りましたよ。その代わり、あとでギューッて……』
おい、何でそんな話になるんだよ……うん? 『伝言』が途中で途切れたのか?
『まさかとは思うけど。サターニャも来てるのか?』
『はい。アレク様! たまたまガシュベルに買い出しに来ましたら、偶然アレク様をお見掛けしまして。エリザベスの戯言は無視してください。私が黙らせ……』
『アレク様、サターニャの言うことなんか……』
2人が喧嘩しているところがリアルに想像できるな。
『状況は解ったよ。2人とも騒ぎを起こすのも、勝手に動くのも絶対に禁止だからな』
何か……疲れる展開しか予想できないんだけど。
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