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29話 迷いと答え


 倉庫の見張りは10人いた。

 そのうちの5人は人じゃなくてワービーストだ。

 筋肉が盛り上がるように巨大化して、2足歩行の熊と虎の姿に変わる。


「エリス、守りは任せるわよ」


「レイナ、右の2体は俺がやるぜ」


 レイナが足を止めずに飛び込んで、ガルドが後に続く。

 レベルは3体のワーベアが22で、2体のワータイガーが24だ。

 ゲームのときはそれなりに強敵だったげと、今回は全員30レベルを超えているから楽勝だった。


「はいはい。そっちの人たちはどうするニャ?」


 ワービーストはモンスターだから倒すと消滅するけど、人の方はそうはいかない。

 死体の処理が面倒だけど、最悪重りを付けて海に沈めることまでは考えていた。


 だけどアッサリ降伏したので戦闘終了。

 運び込まれた荷物を確認すると、当然ながら『楽園』だった。


「箱ごと収納庫(ストレージ)に入れて持って行くか」


 ロベルトのときは屋敷に『楽園』があることが重要だったけど、今回はモノだけ押さえても問題ないだろう。

 『楽園』が手元にあれば、倉庫の持ち主のバウアー・ロットとの交渉材料になる。

 高額な金になる『楽園』を失うことは経済的にも信用的にもバウアーには大きなダメージだからだ。


 そこで『楽園』の返却を条件に(もちろんブラフだけど)バウアーと交渉すれば、黒幕であるラウル・ブラッドリーを攻略するための情報が手に入る。

 ネタバレしてしまうと『楽園』の出所は魔族の領域であり、魔族の貴族ロドニア伯爵がラウルと結託して『楽園』の密売を始めたのだ。


 だけどロドニア伯爵はラウルを信用している訳じゃないから、変化の指輪で人間に化けた魔族を同行させて監視している。

 ワービーストもロドニア伯爵が貸し与えたもので、倉庫の持ち主であるバウアーも彼らがモンスターであることを知っていた。

 モンスターから連想して魔族の関与を疑ったバウアーは、魔族が化けているは誰なのか薄々気づいているのだ。


 ということで。今度はバウアーと交渉して、誰が魔族なのか解ったけど……いや、おかしいだろ。

 今回のイベントには転生者が関わっているから、向こうもバウアールートでラウルと魔族の関係がバレることは承知の筈だ。

 なのに、どうしてバウアールートを潰さないんだ? 


 バウアーを始末するとか、別の倉庫を使うとか、方法なんて幾らでもあるだろ。

 俺だったら絶対にそうするし、倉庫のモンスターだってもっと強化する筈だ。

 まるで好きに攻略しろという感じで、放置している理由はなんだ?


 いや、正確に言え放置している訳じゃない。

 あいつ(・・・)は別の手段を講じているけど、結局それも時間稼ぎにしかならないだろ。


「アレク……どうかしたの?」


 ラウルの屋敷に潜入するための作戦会議をした後、エリスが声を掛けて来た。

 水色に瞳が気遣わしげに俺を見つめる。

 感情が顔に出ていたんだろうな。


「もし、このイベントに他の転生者が関わっていたとしたら、何で妨害して来ないんだろうって思ってね」


 クルセアのイベントでは、ガーランドに転生した奴は最初から仕掛けて来た。

 それに対して今回はゲームと同じようにイベントが進行するだけで、何の妨害も受けていない。


「それって、今回は他の転生者が関わっていないってことじゃないの?」


「その可能性もあるけどさ、俺は最悪の状況を考えているんだよ」


 エリスは俺が諜報部隊を使っていることまでは知らない。

 そこまで話すと『始祖竜の遺跡』のことや本当の俺のレベルのことまで説明する破目になるかも知れないからな。


 いや、隠す必要なんかあるのか?

 本当のことを言えば引かれるのは解っているけど、自分でやったことだから仕方ない。

 それよりも、最近は隠し事をしていると思うと居心地が悪い。

 たとえ嫌われても全部話してしまった方が、レイナたちにも魔王だとバラしてしまおうかと思い始めている。


「理由は解らないけど、アレクは他の転生者が関わっているって確信してるみたいね」


 返事に迷っていた俺に、エリスが優しく微笑み掛ける。


「全部話してなんて言わないから安心して。これでも私はアレクに感謝してるんだから。

 エリスを演じなきゃいけないって思い込んでいた私に、私らしく生きて良いって教えてくれたのは貴方だから」


「いや、俺は……そんな偉そうなことを言える奴じゃないって」


「そうね、偉そうじゃないわよね。魔王なのに」


 クスリと笑うエリスに、俺は思わず見とれてしまった。

 ピンクの髪に水色の瞳の可愛らしい少女の姿なのに、今のエリスは大人っぽく見える。

 いや、俺は何を勘違いしてるんだよ。


「貴方が色々と考えてくれる理由が、私たちのためだってことは解っているわ。

 私じゃなくてエリスのためかも知れないけど、それでも嬉しいのよ。

 だから……私じゃ頼りないかも知れないけど、少しは相談してくれると嬉しいわ」


 そんなことを言われたら、隠し事なんてできないだろ。


「エリス、ごめん。さっきのは嘘で、俺は他の転生者が魔族側でイベントに関わっていることを知ってるんだ。なのに何も仕掛けて来ないから、何を企んでいるのかって疑ってるんだよ」


「だったら何を仕掛けて来るか私も考えてみるわ。あんまり自信はないけど、他の人の意見を聞いた方が良いこともあるでしょ」


「ああ、ありがとう……いや、そうじゃなくて。何で知ってるんだって訊かないのか?」


「アレクが話してくれるなら嬉しいけど、無理に訊こうとは思わないわ。理由なんて知らなくても、私は貴方を信頼しているから」


「なあ、エリス……その言葉はズルいだろ」


 俺はアレクに転生してからやったことの全てを、エリスに伝えた。


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