20話:これから
2日後。俺はサリア村に到着した聖王国軍の司令官に魔族軍の襲撃について説明した。
最初にサリア村に到着した騎兵たちに大まかなことは伝えたが、指揮官に直接話をして欲しいと言われたので村で待つ羽目になったのだ。
チョップスティックやエリスたちはすでに出発しているから、説明できるのは俺だけだからな。
村で待っているのも時間がもったいないから、村へ向かう途中の聖王国軍にこっちから出向こうかと思った。
だけど襲撃直後の村に大量の魔族の死体を放置するのもどうかとも思ったので、騎兵たちに手伝って貰って死体を焼却しつつ待つことにした。
死体の処理くらい聖王国軍に押し付けようと思ったけど、人数に対して死体が多過ぎるから仕方ないか。
「この数……やはり、魔族軍の襲撃は事実だったようだな」
死体の焼却は終わったけど、人間とは違う形の白骨と装備は残っている。
唖然としている指揮官に、襲撃のときの様子を通り説明した。
1,000人以上の魔族をどうやって倒したのかと執拗に訊かれたけど、普通に倒しただけだと応えた。
余計なことまで言うつもりはない。俺は聖王国軍の兵士じゃなくて冒険者だからな。
ステータス画面を見せて欲しいと言われたけど、当然拒否した。
聖王国軍が到着したので、俺の役目も終わりだとサリア村を去ることにする。
俺を引き留めるためか司令官からも褒賞の話が出たけど、そんなモノは要らないとハッキリ断る。怪訝な顔をされたけどガン無視した。
だけど1つ気掛かりなのは、ガレイとパメラのことだった。
王女エリスと聖女セリカと一緒に王宮を抜け出した2人だけど、エリスたちが旅立ってしまったので、逃亡の手引きだけして残された形になった。
ガレイは宮廷騎士でパメラは宮廷魔術士だから、その責任を取らされて王宮に戻ることはできないだろう。
展開的にはゲームと同じだけど、正直に言えばゲームのときは彼らの処遇まで考えなかった。
エリスも彼らのことを気にしており、2人には申し訳ないと手紙と一緒に宝飾品を託された。
ゲームと同じように別れることは解っていたから、王宮を抜け出すときに彼らに渡すために持って来たそうだ。
豪華な宝飾品は売れば1,000万Gにはなる品であり、せめて当面の生活費にということだった。ちなみに1Gが日本円で1円相当と非常に解りやすい。
「エリス様のお気持ちは嬉しいですが、これは受け取れません。エリス様は旅に出られるのですから、有事に備えてご自身で持っているようにお伝えください。お預かりしました王家の紋章も、アレク殿よりエリス様にお渡しください」
「だけどさ、さすがに金がないと困るだろう?」
「そんなことはありません。私どもは王宮に戻れば良いだけの話ですから」
「アレク殿、ご心配して頂く必要はありませんわ。私たちがエリス様に同行したのは王妃様の願いでもありますから」
エリスは気づいていなかったようだが、彼女がいつか王宮から抜け出すことを母親である王妃は察していた。
だから、そのときはエリスに同行して欲しいとガレイとパメラに頼んでいたのだ。
「王妃様の願いを裏切る形になりましたからな、お叱りは受けるでしょうが。無論、私たちがエリス様に同行したのは王妃様に頼まれたからではありません」
「ええ、当然ですわ。私は今でも可愛いエリス様をお守りしたいと思っています。ですから……」
「ああ、解ってるよ。2人のことは心配いらないってエリスに伝えておくよ」
気掛かりもなくなったことだし、俺も出発するか。
※ ※ ※ ※
俺は真っ直ぐにクルセアに向かった。
冒険者ギルドに依頼達成報告をするために先に発ったソフィアたちと合流するためだ。
移動手段は徒歩。1人だとその方が速いからだ。
ステータスが高い俺が本気を出せば、それこそ一瞬でクルセアに到着する。
だけど、さすがに目立ち過ぎるのでセーブしたが、それでも夕方にはクルセアに着いた。
「よう、アレク。早かったな」
早速冒険者ギルドに行くと、ソフィアたちはいつものようにテーブルを囲んで食事をしていた。
彼らは半日ほど前に到着したらしく、すでに依頼達成報告と報酬の清算を済ませていた。
報酬はチョップスティックとエリスたちの11人で均等に分けることですでに話がついている。
ガレイとパメラにも、いつになるか解らないが渡すつもりだ。
「話を蒸し返す気はねえが、魔族軍のモンスターを倒した分は本当に貰っちまって良いのかよ?」
「ああ。おまえたちだって戦いに参加したんだから当然だろ」
ガーランドがサリア村を衝撃した際に、俺は魔族の他に3,000体以上のモンスターを倒していた。
モンスターは倒すと消滅して金とドロップアイテムが残る。
これについても参加した全員で分けようと言ったが、ほとんど俺1人で倒したのだからと全員に断られた。
そこで折衷案として1人当たり50万Gとアイテム10個を渡すことにしたのだ。
モンスターからドロップしたのは全部で約7,500万Gと約1,000個のアイテム。
アイテムは毎回ドロップする訳じゃないから、倒した数ほどではない。
俺は金もアイテムも余っているから、もっと渡したかったけど。無理矢理渡す訳にもいかないからな。
「それで、結局アレクはどうするんだ?」
一緒に食事をしながら今後の話をする。
「みんなには悪いけど、俺はエリスたちに合流するよ。ガレイとパメラにも頼まれているからな」
エリスたちメインキャラのパーティーはサリア村を出発した後、クルセアを迂回して西に向かっている。
クルセアに立ち寄らなかったのはエリスとセリカが聖王国軍に掴まらないためで、西に向かったのはレイナとガルドが次の目的地をすでに決めていたからだ。
俺は彼女たちとクルセアの西にある宿場町で合流することになっている。
街道を進んでいる筈だから、途中で追いつくと思うけど。
「まあ、何だ……アレクが決めたことだから、俺たちは構わねえけどよ……」
グランにしては珍しく歯切れが悪い。
みんなが視線を集める先にいるのはソフィアだ。
「え? みんな何? 私もアレクと別れるのは寂しいけど、大丈夫だよ」
ソフィアがキョトンとした顔をしているのは、サリア村を発つ前に俺と3つの約束しているからだ。
1つ目はソフィアに『伝言の指輪』を渡していつでも連絡できるようにすること。
2つ目は転移魔法で定期的に戻って来てソフィアと会うこと。
3つ目は物語に絡む次のイベントに一緒に参加すること。
俺にとっては大したことじゃないし、ソフィアにもリアルエボファンの世界を楽しんで貰いたいから約束は守るつもりだ。
俺の正体を知らないグランたちは、ソフィアの様子を訝しげに見ていたけど。
「アレク、ちょっと良いかな……」
食事が終わり宿に帰るタイミングで、ソフィアに呼び止められる。
「じゃあ、私は先に帰るっす。ソフィアとアレクは、ごゆっくりー!」
「シーラ! もう、そんなんじゃ……」
余計な気を利かせて、他のみんなは先に帰って行く。
「……アレク。歩きながら話をしない?」
宿屋までの道を2人で歩く。
ソフィアは黙ったまま、なかなか話を始めなかった。
「なあ、そろそろ宿に……」
そう言い掛けたとき、突然ソフィアが俺の手を掴む。
「あ、あのね。アレク……約束してくれたことは嬉しいけど。私には心配なことがあるの」
振り向くと、ソフィアは少し潤んだ瞳で俺を見上げる。
「これからアレクはエリスとレイナに毎日会うけど、私は一緒にいられないから……」
「『伝言』くらいなら毎日送って来ても構わないけどな」
「本当! 絶対毎日送るね! ああ、そうじゃなくて……」
ソフィアは顔を真っ赤にして下を向くと。
「わ、私のいないところで……ほ、他の女の子とあんまり仲良くならないで!」
ソフィアの言いたいことが解らないほど、俺は鈍感じゃない。
「いや、一緒に行動するんだからさ。それなりに仲良くする必要はあるだろ」
だけどソフィアの気持ちには気づかないフリをする。
「もう! そういう意味じゃないのに……」
エリスたちにはそれぞれ目的があり、俺もリアルエボファンの世界を楽しむことが目的だ。そのために一緒に行動するだけで、他に意図などない。
ソフィアだって、ゲームにはなかった魔王アレクと一緒に行動するというイベントを楽しんでいるだけだ。俺は勘違いなんてしない。
「ほら、さっさと宿に戻るぞ」
次の日の朝。俺は西に向かった。
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