17話:最初のイベントの結末
俺たちは夜のうちにサリア村に戻った。
当然村の門は締まっていたが、見張り番に事情を話して開けて貰った。
もし話が通じないなら、俺が防壁を飛び越えて勝手に開けたけどな。
ガレイとパメラは俺とグランの馬を使って、すぐにクルセアへ向かった。
馬車より速く走れるし、馬を潰す気で走ればクルセアまで一昼夜というところか。
もし2人が途中で襲われたら守ってやれと、配下の諜報部隊には伝えてある。
あいつがゲームの知識を使って妨害しようとしても、これで問題ないだろう。
突然帰って来た俺たちから事情を聞いて、村人たちは慌てている。
「本当に……魔族が襲って来るのですか?」
「ああ。敵を感知するスキルを使ったから間違いない」
『悪意探知』を全面的に信用する俺に、レイナは少し戸惑っているようだ。
普通はスキルで感知したと言っても疑うだろうからな。
「状況証拠もあるからな。俺はレイナのスキルを信じるよ」
「……何言ってんのよ? あんたが信じようが疑おうが、どうでも良いわ!」
何故かレイナの顔が少し赤い……いや、まさかな。
俺が適当なことを言っていると思って怒っているんだろ。
「え……もしかして、レイナも?」
ソフィアまで何を言ってるんだよ。
まあ、ソフィアのはいつも通りに天然だから、ある意味安心するけどな。
「とりあえず、今夜のうちに魔族が襲撃を掛けて来る可能性はない……レイナ、そうだろ?」
「……そうよ。まだ距離があるから、少なくともあと1日は掛かるわ」
「ということで。レイナが言ってるんだから、眠れるうちに寝ておくか」
「……勝手にすれば良いじゃない」
もしあいつが裏を掻いて何か仕掛けて来ても、村の周囲にも配下の諜報部隊が待機しているし。睡眠が不要な俺がいるから対処できる……あとで言い訳するのが面倒臭いけど。
警戒し過ぎということはない。レイナの『悪意探知』のことは向こうも知ってるからな。
俺があいつだったら、打てる手は幾らでもある。
だけど結局、その夜は何も仕掛けて来なかった。
俺たちは翌日もサリア村で待機。
そして、さらに翌日になって……
ゲームのときは、サリア村を襲撃したのは山岳地帯を超えた魔族軍の一部に過ぎなかった。
指揮官の命令ではなく、一部の部隊が勝手に襲撃したという設定だからだ。
だけどリアルエボファンの世界でサリア村を襲ったのは、山岳地帯を超えた魔族軍の全兵士3,000人と彼らが使役するモンスター1万超だ。
視界一杯に広がる大軍の先頭に、あいつがいた。
「なあ、おい……メインキャラの中にも俺様と同じ転生者がいるんだろう?」
防壁の上に立つ俺たちに語り掛けるのは、クルセアを強襲する魔族軍の総指令ガーランド・バッシュ。本人が言っているように転生者だ。
ガーランドは魔族の地方貴族であり、反魔王派の1人だ。
ゲームでは今回のイベントでメインキャラたちと直接対峙することはなく、ガーランドと戦うのは物語に直接絡む3つ目のイベントになる。
それでも所詮は序盤の敵キャラだから、メインキャラと戦う時点のガーランドのレベルは50。2つのイベントをクリアした後なら十分倒せる相手だった。
だけど『鑑定』によって表示されたガーランドのレベルは126だ。
いや、レベルを上げる場所ならリアルエボファンの世界にもダンジョンとか幾らでもあるし。
エボファン廃人の俺としては、むしろ頑張ってレベルを上げたことを称賛する……メインキャラたちをガチで殺しに来なければな。
「残念だったな、おまえたちにはここで死んで貰う。俺様はゲームのようにクルセアで敗北するつもりはないし、メインキャラを生かしておくと後で面倒だからな。
さあ、正面から掛かって来いよ……俺様の実力を見せてやるぜ!」
いや、大軍を率いておいて正面から掛かって来いとか……何、この馬鹿っぽい台詞。
それに転生者であることを隠せば、相手の油断を誘うこともできるのに。
まあ、俺がいるから何をしても無駄だけどさ。
とりあえず、五月蠅いから馬鹿を黙らせるか。
だけど俺が動く前に、空気を読まない奴が行動を起こした。
ソフィアは防壁から身を乗り出して、ガーランドに宣言する。
「貴方も転生したみたいだけど……考えが甘いよ。私たちにはアレクがいるんだから!」
おい、ちょっと待て……これじゃ、俺が仮面で顔を隠している意味がないだろ。
「ほう……おまえはソフィアに転生したのか。このタイミングでソフィアが聖王国にいる筈がないからな。
だが、アレクだと? いや、まさかな……」
俺が行方不明なことを知らないのか? 知ってたら転生者だって疑うよな。
それとも本当に唯の馬鹿なのか……まあ、馬鹿には違いないか。
これ以上余計なことを言う前に、片づけてしまおう。
皆がソフィアとガーランドに注目する中、俺は防壁から飛び降りてスキルを発動させる。
右手に握る剣が雷を纏い、ガーランドの前に降り立つと同時に奴の身体を両断。
スパークした電流が2つに分かれた身体を焼き尽くす――片手剣用最上位スキルの一つ『電光昇華』だ。
「嘘……」
いきなり俺がガーランドを殺すとは思ってなかったのだろう。ソフィアが呆然としている。
周りの魔族たちも何が起きたのか理解できないようだ。
「指揮官は討ち取ったけど。まだやるなら、次はおまえたちの番だ」
魔族たちはいきり立ってモンスターと共に群がって来るが、レベル差があり過ぎるからな。
俺は派手なスキルを連発して、モンスターを消滅させて、魔族の死体の山を作っていく。
無双することが楽しい訳じゃない。馬鹿に連れて来られた魔族たちを全滅させるつもりはないから、力の差を見せつけて戦意を喪失させるつもりだ。
今の俺は218レベルの設定だから、こいつらのスキルや魔法攻撃を無効化しても問題ない。
他のみんなも防壁の上から攻撃を始めている。
さすがに俺以外は討って出るのは自殺行為だからな。攻撃手段は魔法と飛び道具に斬撃を飛ばすスキルだ。
小一時間も戦っていると、俺を攻撃する奴がいなくなった。
大量に積み上がった魔族の死体の山を挟んで、恐怖に怯える顔が俺を見ている……
そろそろ仕上げだな。
俺は地面を蹴ると、一瞬で距離を詰めて魔族に襲い掛かった。
自分たちが俺の狩場の中にいることに気づいた魔族たちは、一気に陣形を崩壊させて逃走を始める。
もう追い打ちを掛ける必要はないだろう。
あとは後始末だな……俺は敗走する魔族軍に背を向けると、助走をつけて防壁に飛び乗る。
そしてゆっくりと、仲間たちの元へ近づいて行く。
サリア村を守るためとは言っても、俺は殺し過ぎた。
同じ転生者を不意打ちで殺し、魔族も1,000人以上殺した。
だから、みんなに恐れられても仕方ない。
特に転生者の2人からは……そう覚悟していたけど。
「いやあ……マジですげえな! アレク、今度俺にもスキルを教えてくれよ!」
「ホント、この前より無茶苦茶じゃない。あんた1人で十分だったんじゃないの?」
「おい、レイナ。良い加減に……まあ、アレクの前じゃ俺もレイナも形無しだがな」
みんなは俺を称えたり呆れたりと反応は様々だったけど、俺を避けたり、嫌悪感や恐怖心を見せる奴はいない。
俺が拍子抜けしていると、エリスが声を掛けて来た。
「アレク、ごめんなさい……結局、今回も貴方に責任を押し付けることになったわね」
予想外の言葉。エリスは本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
「私も魔族を2人殺したけれど、貴方が私たちのために背負ったモノに比べれば……」
「あのなあ、エリス……おまえは真面目過ぎるんだよ。そんなことより……いや、何でもない」
言葉を濁すと、エリスは怒ったような顔で俺を見つめる。
「私たちのために戦ってくれた貴方を、怖がる筈がないじゃない」
想いを言い当てられて、俺は唖然とする。
だけど……嫌な気分じゃない。
「ああ。そうだな……エリス、ありがとう」
「何を言ってるのよ。お礼を言うのは私たちの方……アレク、ありがとう」
「わ、私だって……」
背中から声がして振り向くと、ソフィアが思い詰めたような顔をしていた。
「おい、ソフィア。無理するなよ」
「む、無理なんかしてないよ……ご、ごめん。ちょっとだけ怖いって思っちゃった。で、でも、違うから……わ、私が怖いのはアレクじゃなくて……沢山人が死んだことだから」
ボロボロと泣き出すソフィアを、シーラとメアが慰める。
みんなの顔を眺めながら思った。
俺は何も解ってなかったんだな。
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