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14話:殺し合い


 ゲームのエボファンでは、この魔族との最初の遭遇イベントに、魔族が5人とアーマードッグ10体が登場する。

 魔族は全員15レベルでアーマードッグは10レベル。

 いきなり敵が強くなるけど、プレイヤー側も25レベルのレイナと32レベルのガルドが加わるから問題なかった。


 だけど今の状況はゲームとは違う。まず魔族の数が倍以上の12人。

 しかも『鑑定』で調べると全員20レベル以上で、30レベル台まで混じっていた。

 取り巻きのモンスターはアーマードッグの上位種フレイムドッグで、数は30を余裕で超えている。

 レイナとガルドがすでに何体も仕留めているのにこの数なのだ。


 こっちもゲームと違ってチョップスティックがいるから戦えないことはないが、それでも何人か死人が出るレベルの敵だな。

 これがメインキャラたちだけだったら……完全に殺しに来てるな。


 先に襲い掛かって来たのはフレイムドッグの群れ。

 レベルは12だが名前の通りに炎のブレスを吐く面倒なモンスターだ。

 動きも速くて数も多いから前衛で防ぎ切るのは難しいし、後衛を狙われたら回復が追いつかなくなる。

 だけど孤立しているレイナとガルドの方がヤバな。


「みんな、俺は一旦抜けるから5分だけ持たせてくれ。ノエル(エリス)たちのカバーも頼む」


 結構な無茶振りだけど、グランはニヤリと笑った。


「ああ、任せろ。俺はタンクだ……『雄叫び(ウォークライ)』!」


 グランはスキルを発動して、フレイムドッグの群れを自分に引き寄せる。


「アレク。良いわよ、こっちは任せて。『聖壁(ホーリーウォール)』!」


 神官のメアがグランの右に聖属性魔法の防護陣を展開。左にはソフィアが入って3人で壁を作った。


「アレク……レイナたちを助けてあげて」


 ソフィアも状況が解っているみたいだな。

 知らない筈のレイナの名前を言ったことは、空気を読んでスルーしておく。


「了解。ソフィアも無理はするなよ」


「うん、解ってるよ」

 

 俺はソフィアに笑みを返して地面を蹴った。

 フレイムドッグの群れを一気に飛び越えて、後方でレイナたちを取り囲んでいる魔族の前に着地する。

 (アレク)のステータスならこれくらいは余裕だ。『始祖竜の遺跡』で立ち回り方も色々試したし。


「とりあえず、俺は2人の味方だからな」


 唖然としている魔族たちを無視して、レイナとガルドに声を掛けてから攻撃を開始する。

 今日の俺の武器は2本の剣だ。

 魔族の相手をするのは解っていたからな。俺が鈍器で殴ると死体が酷いことになる。

 無造作に剣を振る度に、魔族の身体が真っ二つになる。


 俺は初めて魔族(ひと)を殺したけど、何も感じなかった。

 覚悟していたからとか、俺の感覚が鈍いからとか……そんなことは今はどうでも良い。

 メインキャラたちを殺しに掛かって来たこいつらは、俺の敵だからな。


「あんたは……いったい何者なの?」


 レイナが目を細めて俺を見据える。

 12人の魔族は2分で全滅した。レイナとガルドも1人ずつ仕留めたが、残りは全部俺が殺した。


「話は後だ。フレイムドッグも片づけるぞ」


 チョップスティックとエリスのパーティーも善戦していた。

 聖女セリカも防御魔法を展開して、正面をグラン、ソフィア、メアと一緒に支える。

 左右はエリス、ガレイと二人の盗賊がカバー。

 そして群がるフレイムドッグの後方にカイの『氷の嵐(アイスストーム)』が炸裂し、パメラも『風の刃(ウインドカッター)』で応戦していた。


 数を減らしたフレイムドッグの群れに、俺たちが戦線に加われば、壊滅させるのにそれほど時間は掛からなかった。


「助太刀に感謝する。俺はガルドで、こいつは弟子のレイナだ」


 無精髭のガルドが不敵に笑って右手を差し出す。


「俺はアレクだ。こっちも偶然通り掛かってヤバかったからな。共闘したんだからお互い様だろ」


 俺たち2つのパーティーはさすがに無傷とはいかなかったから、メアとセリカが順番に回復魔法を掛けに回っていた。

 ガルドの隣でレイナが何故か俺を睨んでいる。


「あんたの強さは何なの? 化物染みているわ……本当に何者なのよ?」


「おい、レイナ。命の恩人に幾ら何でもその言い方はないだろう」


「だって、ガルド師匠……こいつの戦い方、滅茶苦茶だったじゃない」


「レイナ、おまえは馬鹿か。アレクは俺たちよりよっぽど達人だぜ」


 さすがはガルド・バストレイってところか。俺のスキルの高さを見抜いている。

 スキルポイントが余っているから、俺は武器系スキルも一通りMAXなんだよ。


「ところで、呑気に話をしていて大丈夫か? こんなところに魔族がいたんだ。他にもいる可能性があるだろう」


 差し障りのない言葉で注意を促す。ゲームだと最後の魔族が死ぬ前にある台詞を吐くけど、その前に全滅させてしまったからな。


「ああ、そうだな。俺もそう思うぜ……レイナ、おまえのスキルに反応はないか?」


「ガルド師匠、ちょっと待って……」


 レイナが意識を集中する。

 レイナの固有(ユニーク)スキル『悪意探知(イビルサーチ)』はパッシブスキルだけど、集中することで効果範囲と精度が増すのだ。


「嘘……物凄い数が近づいて来るわ!」


 まあ、そうだよな。さっきの魔族は先遣隊だからな。

 山岳地帯を強引に超えた魔族軍が、聖王国東部の都市クルセアを強襲する――これがエボファンの物語(メインストーリー)最初のイベントだ。

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