11話:エリスの決意
「魔王の貴方が味方になるなら、私がいなくてもイベントをクリアするのは簡単かもね。だけど……私は貴方に、人を殺す責任を全部押し付けることになるわ」
エリスは葛藤している。同じ転生者を殺すことは危惧していたみたいだけど。俺に魔族も人だと言われて、エリスを演じることの意味に気づいたのだろう。
「エリスは真面目だな。俺が好きでやるんだから別に構わないだろう。エリスのために代わってやろうとか思ってないからな」
自分で言いながら詭弁なのは解っている。
俺はエリスにもリアルエボファンの世界を楽しんで貰いたいから、殺すのが嫌なら代わってやろうと普通に思っている。
「解ったわ……明日まで考えさせて」
「了解。とりあえず、話は終わりだな。
明日の朝、俺は冒険者ギルドに来るから、そのときに話を聞かせてくれ」
俺はエリスの代わりに『防音』を解除する。
エリスはそれどころじゃないだろうし、魔法を解除しないで放置したら迷惑だからな。
「ソフィア、グランたちのところに戻るか」
「うん……」
それなりに長い時間話をしていたから、グランたちは別のテーブルですでに夕食を食べていた。
「それで……結局何の話だったんだよ? ソフィアがいきなり変なことを言い出すのはいつものことだけど……おい、ソフィア。何かあったのか?」
いつものように言い返さないソフィアに、グランが訝しそうな顔をする。
「うん。ちょっとね……ねえ、グランは魔族を殺すことをどう思う?」
「何だよ、いきなり? 魔族は敵だからな、何とも思わねえよ。
俺の親父も爺さんも聖王国の兵士で、魔族に殺されているしな」
「え……なんか意外っす。グランの家って代々聖王国軍の兵士だったの?」
盗賊のシーラが口を挟む。
「まあな。貴族の命令で死ぬなんて馬鹿らしいから、俺は冒険者になったんだぜ」
「ああ、その気持ち解るかも……うちも代々神官の家系だけど。聖王国軍のヒーラーをやるために神官になった訳じゃないのに、戦争がある度に駆り出されるから私も冒険者になったのよ」
神官のメアが相槌を打つ。
「僕は初めから聖王国なんて信用していない。魔術士になるために王立大学には入学したけど、初めから聖王国軍に所属するつもりなんてなかったからな」
魔術士のカイはいつもクールだ……いや、そういう問題じゃないか。
ソフィアが珍しく悩んでいるのは、間違いなく俺のせいだからな。
「ソフィア、さっきと真逆の話をするようだけど。とりあえず今回魔族と戦うときは俺がフォローをするから、そこまで心配する必要はないよ」
「おい、アレク。魔族と戦うってどういうことだよ?」
「クルセアの近くの森に、魔族が潜んでいるって噂があるんだよ」
そんな噂は存在しないが、状況としては間違っていない。
ソフィアがイベントに参加するかまだ解らないが、俺は参加するから布石を打っておく。
「さっきの彼女、ノエルは偶然だけど俺とソフィアの共通の知り合いだったんだよ。
それで一緒に森のモンスター討伐の依頼を受けないかって話になって。俺は一緒に行くつもりだけど、ソフィアはまだ決めかねてるってところだな。
ノエルから魔族の噂を聞いたから、魔族と戦うことを危惧しているんだよ」
知り合いなのにエリス王女と間違えたことを誰も突っ込まないのは、ソフィアが天然だって解っているからだ。
「アレクは参加するって、それってチョップスティックを抜けるってことか?」
「いや、俺はパーティーのメンバーじゃないし。
ソフィアも来るなら、チョップスティックとして依頼を受けることも考えてたけど。
俺1人なら、おまえたちに付き合って貰うつもりはないな」
あとでエリスと口裏を合わせる必要があるけど、無難な説明だな。
モンスターの討伐依頼についても、実際に出ていることは確認済みだ。
ゲームでもエリスたちがこの依頼を受けることが、イベントに参加するキーになるからな。
「そういうことか。ソフィア、だったら悩む必要なんかねえだろ。もし本当に魔族と遭遇したら、俺とアレクが相手をする。魔族の1人や2人、それで十分だろう」
いや、そんな数じゃないんだけど。
まあ、数の問題は俺がいれば関係ないか。
論点は、ソフィアが自分以外のメンバーが魔族を殺すことを容認するかってところだからな。
「グラン……そうだね、ありがとう。私も気にし過ぎていたみたい」
ソフィアは俺に向き直る。
「アレク。私には覚悟とか良く解らないけど……みんながフォローしてくれるなら、参加したいよ」
「解った。じゃあ、決まりだな」
ソフィアの考えか方は安易かも知れないけど、自分で決めたのなら否定するつもりはない。
他のメンバーにも視線で確認するが、異論はないようだ。
こうして俺たちは冒険者パーティー『チョップスティック』として、リアルエボファン最初のイベントに参加することになった。
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