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1話:魔王に転生なんて最悪だ


 俺、鳴海春斗(なるみはると)は王道系RPG『エボリューション・ファンタジー』、通称『エボファン』の世界に転生した――

 ラスボスである魔王アレク・クロネンワースとしてだ。


 魔都グレイダラスに聳える魔王城の大広間。この世界最強の種族である異形の魔族たちが畏怖の表情を浮かべて片膝を突く。

 彼らが視線を集める先にいるのは、羊のような二本の角と背中に生えた黒い翼、金色の瞳の美丈夫。俺、魔王アレクだ。

 竜の骨で作られた玉座に片肘を突いて、絶対服従を誓う臣下たちを眺めながら思う……マジで最悪だ。


 ラスボスに転生したら、いずれは殺されるってことだよな。

 なんで魔王を倒すプレイヤーキャラに転生しなかったんだよ?

 せっかく転生したのに、また殺される運命なんて……


 前世の記憶が覚醒してから、俺は魔王の立場を利用して情報を集めた。

 今はエボファンの物語(メインストーリー)が始まる2年前だ。

 諸種族連合と魔族の戦争はまだ始まっていない。

 だけど過去の歴史や世界情勢はエボファンの設定通りで、まんまエボファンの世界だ。


 ゲームと同じように事態が進行するなら、戦争が始まってからさらに2年後――

 つまり今から4年後に諸種族連合軍が魔都グレイダラスに侵攻して、魔王アレクはプレイヤーキャラたちによって殺される。


 まだ未来の話だから上手く立ち回れば(アレク)の死亡フラグは回避できるかも知れない。

 勿論、俺もそうするつもりだけど……この世界にはゲームとは違う2つの不安要素があるんだよ。


 1つは俺を転生させた奴の存在だ。

 誰が、或いは何が俺を転生させたのか?

 そいつの正体も目的も理由も解らない。


 だけどゲームの世界に転生するなんて、偶然にしては出来過ぎてる。

 だから誰かが何かの意図を持って転生させたんだと俺は思ってる。

 そいつがいつ何を仕掛けて来るか……いや、すでに仕掛けているのかも知れないだろ。


 もう1つの不安要素は、俺以外の転生者の存在だ。

 俺は自分だけが特別だなんて思わない。

 俺が転生したんだから、他にも転生者がいたっておかしくないだろ。


 他の転生者が存在するなら、ゲーム知識でエボファンの物語(メインストーリー)に干渉して、不測の事態を引き起こす可能性がある。

 もし俺がプレイヤーキャラに転生していたら、ガンガンレベルを上げて自分の都合の良いように物語を変えるだろう。


 どのキャラが転生者なのか解れば対策も打てる。

 だけどエボファンにはプレイヤーキャラだけでも100人以上いる上に、俺が魔王に転生したくらいだから敵キャラやモブキャラに転生した可能性だってある。

 有象無象のキャラの中から転生者を探し出すなんて不可能だ。

 だから、そいつが派手な行動を起こすまで待つしかない。


 2つの不安要素はどちらも可能性に過ぎず、別に確証がある訳じゃない。

 だけど可能性があるんだから、打てる手は全て打っておく。


 俺はどんな姿にも変身できるモンスター、ドッペルゲンガーを召喚してアレクの影武者を用意した。

 そして魔都グレイダラスを抜け出して向かった先は――エクストラダンジョン『始祖竜の遺跡』だ。


 エボファンの物語(メインストーリー)は魔王アレクを倒すことでエンディングを迎える。

 だけど大抵のRPGと同じように、その後もゲームを続けることができる。

 エボファン廃人の俺としては、むしろエンディングの後の方がやり込み要素が多くてハマったんだよ。


 魔王アレクを倒すと『遺跡の鍵』というドロップアイテムが出現する。

 これが世界中に点在する8つの遺跡の扉を開ける鍵になる。

 8つの遺跡には古代の石板が隠されいて、全ての石板の文字を組み合わせるとエクストラダンジョン『始祖竜の遺跡』を解放するキーワードになるんだよ。


 勿論、エボファン廃人の俺はキーワードを暗記しているから、わざわざ8つの遺跡を巡る必要はない。

 『始祖竜の遺跡』へと真っ直ぐに向かって、キーワードで扉を解放した。

 エクストラダンジョンで待ち構えていたのは――魔王アレクすら凌ぐ最強最悪のモンスターたちだった。


 太古の竜(エンシェントドラゴン)魔界の貴族(アークデーモン)始祖吸血鬼(トゥルーバンパイア)偉大なる死の王(グレーターデスロード)……『始祖竜の遺跡』に出現するモンスターの全てが、魔王アレクを超えるレベルとステータスを持ち、それが複数同時に出現する。


 『始祖竜の遺跡』に関するプレイヤーの評価は賛否両論……いや正直に言えば、大半がマゾゲーだとコントローラーを投げる廃人仕様だ。

 何しろ魔王アレクを倒したプレイヤーキャラたちが、最初に出現するモンスターに瞬殺されるからな。


 『始祖竜の遺跡』に来た目的は、そんな最強最悪のモンスターを倒し捲って(アレク)のレベルを上げることだ。

 誰が相手だろうが、何を仕掛けて来ようが、絶対に殺されないように強くなる。

 安易な考え方だと思うだろうけど、強さは策略に勝るのがエボファンの世界だからな。


 俺を転生させた奴……長いから『黒幕』で良いか。

 もし黒幕が神なら、いくら強くなろうが勝てないかも知れない。

 だけどそいつが直接手を下すとは限らないし、絶対に勝てない相手なら対策の打ちようがない。

 だったら、打てる対策を先に打つべきだろ。


 ところで、そもそも敵キャラの魔王アレクがレベルアップなんてするのか?

 疑問に思うのは当然だけど、エボファンの製作責任者は設定マニアだって有名なんだよ。

 その証拠にエボファンは全てのモンスターとモブキャラにまでレベルと獲得した経験値が設定されてる。


 単に数値を設定しただけという可能性もあったけど、(アレク)にも経験値が入ることはフィールドモンスターを倒して確認済みだ。

 だからレベルだって上がる筈……それを今から証明してやる。

 

 いきなり『始祖竜の遺跡』じゃなくて、もっと安全に経験値を稼ぐことも考えた。

 だけどアレクはレベルが高過ぎるから、他の場所で普通のモンスターを倒しても経験値が全然足りないんだよ。

 それに俺には格上のモンスターにも勝てる自信があるからな。


 『始祖竜の遺跡』のモンスターは確かにアレクより強いけど、それはレベルとステータスだけの話だ。

 エボファン廃人の俺ならプレイヤースキルで十分対抗できるし、しかも魔王アレクにはラスボス特有の能力がある。

 ラスボスが呆気なく倒されないように、アレクは全特殊効果耐性と全属性攻撃耐性を持ってる。

 しかもHPとMPが毎ターン(毎分)MAXの25%自動回復するんだよ。


 『始祖竜の遺跡』のモンスターが最強最悪と言われるのは、攻撃力(STR)防御力(VIT) が圧倒的に高い上に、即死クリティカル・石化・武器破壊・エナジードレインと特殊効果のオンパレードだからだ。

 だけどアレクなら特殊効果は効かないし、属性攻撃耐性でダメージが軽減できる。自動回復もあるから持久戦に持ち込めば勝てる。


 それでもモンスターに囲まれたら終わりだけど、俺はエボファンの全てを知り尽くしているからな。

 行動パターン(アルゴリズム)を先読みして常に1対1の状況を作って、相手の弱点属性で攻撃してHPを削っていく。


 最初の1体である偉大なる死の王(グレーターデスロード)を仕留めると、膨大な経験値が入って(アレク)はレベルアップした。

 ステータス画面を見てニヤリと笑う……俺の予想は間違っていなかったな。


 だけど、まだ始まったばかりだ。アレクはHPとMPが自動回復する上に、食事も睡眠も不要だからな。あとはHP残量にさえ気をつければ……


 俺は『始祖竜の遺跡』の最強最悪のモンスターたちと延々と戦い続けた。


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