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ループする悪役令嬢っ

作者: バッド

 麗らかな小春日和。ぽかぽかと暖かい陽気で、いつもよりも薄手の服を着込み、エリザベート・シューム侯爵令嬢は金糸のような美しく滑らかな自身の髪の毛を落ち着きなく触っていた。


 腰まで流れるような金髪に、冷たさすら感じる切れ長の目をした、人々が思わず見惚れてしまう顔立ち。着ているドレスも宝石をセンスよく散りばめられて最新の流行の物だ。自らを飾り立ているアクセサリーの数々も侯爵令嬢に相応しい指輪1つとっても、ひと財産になる高価であり、希少な宝石を使った物だ。


 普段は侯爵令嬢に相応しく余裕のある笑みを浮かべて、たおやかな美少女であるが、今日は様子が違った。


 美しく剪定された庭園でのパーティー。デトーザ大陸にある国々の中でも豊かな鉱物資源、肥沃な耕作地をもつ大国であるテスラカ王国。その王国でも王族が開催する高位貴族しか出席を許されないパーティーにエリザベートは参加していたのだが、余裕の笑みはなく、硬い表情を浮かべていた。


 周りの人々は、固唾をのんで、お酒を飲んで、ジュースを子供は飲みながら、エリザベートたちを見ている。


 エリザベートの視線の先には、テスラカ王国の王太子と、ピンク髪の可愛らしい少女が立っている。ピンク髪の少女は不敵な笑みで腕を組んで堂々とした態度だ。その顔立ちは美しい顔立ちのエリザベートとは違い、柔らかなイメージを見る者に与える可愛らしい顔立ちだ。


 王太子が一歩前に出て、エリザベートを指差す。


「エリザベート・シューム侯爵令嬢! そなたはここにいるショコラ・ポンジ公爵令嬢に精霊使いとしての勝負に負けた! よって婚約破棄をする!」


「オーホッホッ。エリザベート様、正義は勝ちますの! これでわたくしが一歩リード! 悪役令嬢の名をお渡ししますわ!」


 ピンク髪の女の子はショコラ・ポンジ公爵令嬢。ショコラは可愛らしい顔立ちに似合わず、高笑いをして豊満な胸を揺らして得意げだ。ぬぐぐとエリザベートは淑女にあるまじき歯噛みをして悔しがる。


 王国の精霊使いの一門。ポンジ公爵家、シューム侯爵家、ラクト侯爵家は毎年秋の19日に精霊をどれだけ扱うことができるか勝負をする。


 その戦いにたった今シューム侯爵令嬢のエリザベートは負けてしまった。負けてしまったからには、相手はこちらを蔑むようなあだ名で呼ぶこともできる。そして、王太子の婚約も奪うことができるのだ。


 同じく勝負に負けたラクト侯爵令嬢も青褪めて、肩を落としている。勝負には王太子との婚約ともう一つ賞品があったのだ。


 私の代で精霊の勝負で負けるなんてと、パシンと頭が殴られたように音をたてて揺れると、悔しさのあまり気絶して、ドサリと地面に倒れ込んでしまう。


 最後に見たのは、高笑いをするショコラ令嬢の顔であった。悔しい、悔しい。やり直せればと思いながら、エリザベートは意識を失うのであった。







 エリザベートは眠っていた意識が覚醒し、ゆっくりと目を覚ました。見慣れたベッドの天蓋が目に入り、手触りの良い羽毛布団の温かさを感じる。


 ハッとエリザベートはなにが起きたのか思い出し、勢いよく起き上がると周りを見渡す。窓から陽が差しており、温かさを感じる。


「あれからどうなりました?」


 エリザベートは声高く叫び、部屋の隅で漫画を読んでいた侍女に尋ねる。いきなり声をかけられた侍女は驚いて漫画を落とすが、すぐにエリザベートに駆け寄り心配げな表情で声をかけてくる。


「今は千秋の18日です。お嬢様!」


「そのセリフは早いですわ! あれからどうなりました?」


 なぜか早くも今日が何日か教えてくれる侍女の頭を叩く。アタタと頭を押さえて侍女は再び口を開く。


「えっと、なんのことでしょうお嬢様? ………えっと、今は千秋の18日です。お嬢様!」


 えっと、えっとと困り顔になる侍女。それを見て、諦め顔になり、深呼吸をするとエリザベートは気を取り直した。


「なんですって! 18日ですの! まさかパーティーの始まる前? 精霊使いの勝負が始まる前ですの?」


「えっと……今は千秋の18日です。お嬢様!」


 侍女のセリフはガン無視して自分のいうべきことを言う。


「なんてこと………きっと、精霊のお力で1日前に戻ったんですわ! と、すればこうしてはいられません。勝負のための準備をしなければ!」


「えっと……今は千秋の19日です、アダッ」


 同じセリフしか言わない侍女の頭をポカリともう一度叩き、ベッドから起きると足早に着替えを始めるエリザベートであった。1日前に戻ったなら、今度は上手くできるだろうと、口角を釣り上げながら準備をするのであった。


 美しく剪定された庭園でのパーティー。デトーザ大陸にある国々の中でも豊かな鉱物資源、肥沃な耕作地をもつ大国であるテスラカ王国。その王国でも王族が開催する高位貴族しか出席を許されないパーティーにエリザベートは参加していた。


 再びの19日である。周りの人々は、固唾をのんで、お酒を飲んで、ジュースを子供は飲みながら、エリザベートたちを見ている。明日は違う料理を並べてくれないともコックに注文をつけていたりもした。


「オーホッホッ。今回もわたくしが勝利しますわよ! 」


 高笑いをしながらショコラ・ポンジ公爵令嬢が既に舞台上に立ち、腕を組んで胸を張り、自信満々の態度でエリザベートを待ち構えていた。精霊使いの勝負に今回も勝つ自信ありありの様子だ。


「負けませんわ。このエリザベート・シューム侯爵令嬢は不死鳥のように蘇ったのですわ」


「あの……スイア・ラクト侯爵令嬢もいますぅ……勝てる気がしませんけど」


 気弱そうにスイア・ラクト侯爵令嬢がポソリと口を挟んでくる。白銀の髪の毛を持つ気弱そうな顔立ちの妖精のような娘だが、ふたりは眼中にない。ラクト侯爵家が精霊使いの勝負で勝ったことなどないのだから。


「では、今年初の精霊使いの勝負を始めたいと思う。正々堂々と戦うように!」


 なんとかという名前の王太子が腕を挙げて、皆へと告げる。御三家と呼ばれる精霊使いの家門の方が力は圧倒的に上なので、王家はあまり力はない。悲しいことに。まぁ、王家は外交や貴族を名目上支配しているので、ナンバー4というところだ。なので、エリザベートは名前を覚えていなかった。


 そんなどうでも良い王太子は放置して、まずはわたくしですわと、ショコラ公爵令嬢がふんすふんすと鼻息荒く、手を振り上げて合図を出す。


「わたくしがどれほど精霊を扱う能力に長けているか、見せてあげますわ。あれを持ってきなさい!」


「ははっ!」


 公爵家の家臣がその合図に従い、2メートル程の大きさの分厚い金属製の金庫を台車に乗せて持ってくる。ガラガラとタイヤの音がして、地面に食い込んでいるので、かなりの重量があるとわかる。


 金属製の金庫であった。金庫は太い金属の鎖で何重にも巻かれており、その上に御札が何枚も貼られている。見た目は物凄い呪われていそうな金庫だ。


「この金庫は厳重に封印されて、何者も開けることはできない魔法鍵にオリハルコンの鎖による封印。魔法の干渉を受けないための魔法の御札が使われておりますわ」


 その厳重極まりない様子に人々は顔を見合わせて、まさかと戸惑い話し合う。


「まさか……禁忌を封印しているのか?」

「そんな……成功した者はいないのよ」

「でもあの方なら……」


 戸惑いながらも成功するのかもと期待を胸に人々はショコラ公爵令嬢を見つめる。注目されていることに気を良くして、ショコラ公爵令嬢は手を振り下ろす。


「開けなさい! この中に皆が期待している物があるならば、私の精霊使いの力をお見せできるでしょう!」


 家臣が御札を剥がし、封印の鎖を取り払う。そうして魔法錠を解除して数人掛かりで重たい金庫の扉を開ける。


 ギギィと音をたてて、金庫が開かれ始めて、皆は注目する。


「キャァ。あたちのコレクションを見に来たんでつか?」


 金庫の中には幼女がいた。可愛らしい幼女だ。びっくりさせてしまったようで、紅葉のようにちっこいおててを口元にあてて驚いていた。


 金庫の中にはたくさんの2輪しかないへんてこな馬車の玩具が並んでいた。幼女の宝物らしい。


「えっと、これが最近パパしゃんから貰ったサラブレットスターでつ。このフォルムがサイコーなんでつよ」


 見て見てと、得意げに頬を赤くして、玩具を手にしながら説明を始めちゃう幼女。くねくねと身体を揺らして、テヘヘと微笑む幼女はとっても可愛らしくて、撫でて良いかしらと、早くも夫人方がフラフラと近寄っていた。


 目が点になっていたショコラ公爵令嬢は頭を振って気を取り直して、早口で幼女へと焦った声音で尋ねる。


「ここに仕舞われていたガトーショコラのホールケーキはどこにあります?」


 見る限り、玩具しかない。完全に幼女の宝箱になっていた。


「皆が味見したらなくなっちゃいまちた。あたちは止めたんでつけど」


 口元にチョコの欠片をつけながら幼女はお皿をショコラ公爵令嬢に手渡す。ピカピカのお皿である。令嬢はそれがガトーショコラが乗っていたお皿だと気づいた。ケーキと一緒に削ったチョコが山のようにお皿に乗っていたはずなのにピカピカである。幼女たちがお行儀悪く、お皿をペロペロ舐めちゃったのだろう。


 ガクリと肩を落として、ショコラ公爵令嬢は計画の失敗を悟った。ポンジ公爵家のケーキ精霊を制御できる証明は、ケーキが残っていることだ。ケーキがなければ、精霊使いとして力を見せることはできない。


 ちなみにケーキ精霊は幼女の姿をしています。


「ふふ、勝ちを焦りましたわね! 前回と同じくプチケーキを大量に作れば良かったものを! 1つぐらいは残っていましたのに!」


 前回、ショコラ公爵令嬢はたくさんのプチケーキを作った。ケーキ精霊と名乗る幼女たちはプチケーキに群がって食べたが、ショコラ公爵令嬢が少し可哀想だと、1個だけ残してくれたのだ。そのため、精霊を制御できていると認められて勝利した。


 ホールケーキの場合は、幼女たちは味見味見と人差し指でちまちま掬って食べちゃうので、ホールケーキを精霊使いの力を示す場で作成するのは禁忌とされていたのだ。


「貴女だって、前回はプチシューではなく、普通のシュークリームを作って失敗したじゃありませんか!」


「ループ前の私のやったことは、もうなかったことになりましたわ。今回は失敗しませんことよ」


 エリザベートはループ前に用意したシュークリームを思い出す。シューム侯爵家はシュークリーム精霊を操ることができるのだ。


 ちなみにシュークリーム精霊は幼女の姿をしています。


 用意したシュークリームは皮だけだった。自信満々に皆の前で見せたら、シュー皮だけで、中身は空だったのだ。幼女がこっそりと中身を吸い取っちゃったのだ。バレないよねと、可愛らしい幼女の悪戯である。


「わたくしはプチシューなどと、安全策は求めませんわ! これですわ!」


 ていっと、お皿を取り出してテーブルに乗せる。そこにはドデンと大きなシュークリームが置いてあった。


 おぉ、とその暴挙に人々はどよめく。前回とまったく同じ展開なのだ。幼女がなぜ興味を持たないのかと不思議に思っていたら、中身は空だったのだ。


「ふふっ。今回は違いますわ! これを見てくださる?」


 パカリとシュークリームを割ると、なんとカスタードクリームがたっぷりと入っていた。


 おぉ、と皆は驚嘆してしまう。精霊使いの力を証明する時のお菓子は遠慮なく精霊たちは食べちゃうことが多い。というか、普通のシュークリームは必ず食べられちゃうのに残っている。


「な、なぜ? どうして禁忌のお菓子がここに!」


「ふふ。我に秘策あり! これを見てくださる?」


 エリザベートは得意げに紙切れを取り出して振って見せる。どんな力を持っている魔法の札なのかと皆が注視して納得した。


『パーティー用シュークリーム。マスタードクリーム入り』


「な、なるほど! これならば幼女たちは食べないですわね!」

「凄い! もしや、転生した今孔明」

「素晴らしい策略だ」


 人々は拍手喝采して、エリザベートを褒め称えてくる。パチパチと拍手が庭園に響き渡り、今回の勝者は確定した。


「ショコラ・ポンジ公爵令嬢! そなたはここにいるエリザベート・シューム侯爵令嬢に精霊使いとしての勝負に負けた! よって婚約破棄をする!」


 なんちゃら王太子が勝利者へとお決まりのセリフを告げる。おぉ、と人々は勝利者エリザベートへと祝福の声をかける。


「3本勝負、最後の試合はどちらが勝つのでしょうか?」

「勝利者は精霊に願いを叶えることができますからね」

「やはり砂漠の緑地化ですかな?」


 人々は次の勝利者が精霊に願いを叶えてもらえるので、なにを願うか話し合う。1年に1回だけ、精霊に御三家の勝利者が願いを叶えてもらえるのが本来の賞品なのだ。王太子との婚約はどうでも良い。王太子も特に気にせずに、誰が勝つのかと楽しげに話しているし。

 

 そうして人々が話し合う中で、一人ポツンと取り残されている少女がいた。


 スイア・ラクト侯爵令嬢である。アイス精霊を操ることのできる名門だ。


 因みにアイス精霊は幼女の姿をしています。


 そして、精霊使いの力を示す勝負では一度も勝ったことのない家門でもある。


 なぜならば、アイスをどれだけ作っても、もうできまちたか? と、幼女たちが入れ代わり立ち代わり、パカパカ冷凍庫を開けて確認するので、ちっとも冷えないでアイスができないのである。


 そのため、不戦敗となっちゃう気の毒な家門なのである。


 悔しいと、仲間外れにされているスイア侯爵令嬢は拳を握りしめて歯を食いしばる。わたくしも精霊使いの勝負に加わっているのに誰も見てくれないと。


 と、パシンと頭が殴られたように音をたてて揺れると、悔しさのあまり気絶して、ドサリと地面に倒れ込んでしまう。と


 薄れゆく意識の中で、天啓が閃く。……この方法があれば……と思いながらスイア侯爵令嬢は意識を失うのであった。


 天啓は眠そうな目の可愛らしい少女の姿をしていた。ハリセンを片手に持ち、「てんけい」と書かれているタスキを肩から担いでいたので間違いないだろう。






 スイアは眠っていた意識が覚醒し、ゆっくりと目を覚ました。見慣れたベッドの天蓋が目に入り、手触りの良い羽毛布団の温かさを感じる。


 ハッとスイアはなにが起きたのか思い出し、勢いよく起き上がると周りを見渡す。窓から陽が差しており、温かさを感じる。


「良いことを思いつきました!」


「今は千秋の18日です。お嬢様!」


 起床してすぐに声をあげると、小説を読んでいた侍女がわびゃあと本を取り落として駆け寄って声をかけてくる。


「そのセリフはわたくしにはいりません。えっと、それより良い考えを思いつきました」


「え? どうしたんですか、お嬢様?」


 いつもなら、精霊使いの勝負なんて馬鹿らしいわと、家族総出で気にしていないふりをするのに、今日のお嬢様は一味違うと侍女は戸惑う。


「ふふ、秘策があるのです……。それはですね………」


 こっそりと小声でスイア侯爵令嬢は侍女へと自分の考えを伝える。


 そうして……。


 ループ3回勝負の最後はスイア・ラクト侯爵令嬢が勝つのであった。


「氷の筒の中にもう一つ筒を入れてその中でぐるぐるかき混ぜてアイスを作れば良いと思ったのです」


 初の引き分けに終わったスイア侯爵令嬢のインタビューの言葉でした。


 ちなみに18日と19日が3回繰り返されるので、勝負が終わると、次の日は24日となるのがこの国の習わしである。


 最後に、勝負に使われたケーキ、シュークリーム、アイスは責任を持って幼女たちが全て食べたことをお知らせします。

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[良い点] キノたんではないか何故こんなところに(笑)
[一言] 食べちゃう幼女しか居ない問題!
[良い点] 週末4連投の中 抉り込むような投稿!快作「幼女シリーズ」を上梓されました事、誠にありがとうございますヽ(´▽`)/バッド先生♪ [気になる点] ループ物と見せかけた1週間に渡る幼女精霊への…
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